9.真実


「うがが・・・く、苦しい。またすし詰めだよ・・・」

 鷹貴がうめき声をあげた。

 僕達は現実世界に無事戻る事ができた。

 だけど、僕達の現状は無事ではなかったりする。

 “GAME―パラレル―”に転送された時、とうさんに無理やり押し込まれた円筒状の物体。
 その物体に僕達4人はぎゅうぎゅうに詰め込まれていた。

 この状況をどうにかするために、僕は壁をペタペタとたたいて開閉スイッチを探した。
 しばらく、その動作を続けているとポコッと突き出ている丸いボタンを見つけた。
 僕はためらわず、そのボタンを思いっきり押した。

 すると「シュン」という音と共にドアが開いた。

 そのドアになった部分の壁に全体重をかけていた僕は、いきなり寄りかかる物がなくなってそのまま外に倒れた。
 しかもかなり強く体を打ち付けた。
 痛い。

 床をゴロゴロと転がって、ひとしきり痛さを表現した後に僕は立ち上がった。

 近くに鏡は無かったけれど、ツルツルの鉄の壁を鏡代わりにして僕は自分の姿を見つめた。

 短髪の黒髪に濃い茶の瞳、チェックのシャツとズボン。
 僕の元々の服装だ。

 自分の姿を確認する事で、現実世界に戻ってこれたのだという喜びがジワジワと湧き上がってきた。

 それは他の3人も一緒のようだった。

「やった、戻れたぞー!」
「ココ現実世界よね、間違いないよね!」

 手をつなぎ、ピョンピョンと飛び跳ねながら喜び合う僕達。

 神楽達の外見も“GAME―パラレル―”の世界とは異なっていた。

 神楽は髪の色は一緒だけれど、瞳の色は茶色になっている。
 真っ白のシャツにジーパン生地の半ズボンという、実にラフな格好だ。

 鷹貴は黒の中にポツポツと茶が混ざる髪色をしていた。
 瞳の色は神楽と同じく茶。
 僕と似たチェックのシャツと皮のズボンを身に着けていた。

 由宇香さんは明るい茶の髪と水色の瞳(おそらくカラーコンタクト)で黄色のキャミソールの上に桃色の上着、桃色のミニスカートという装いだった。

 喜び合う声が無機質な部屋の中にこだまする。

 この空間には僕達以外の人間は誰もいなかった。

 僕はその事に少し違和感を感じた。
 僕がココに来た時は中年男性ととうさんがココにいた。

 とうさんは多忙な身のため、ココにいないのは仕方ない。
 だけどあの中年男性がいないのは何故だろう。

 いや、あの中年男性がいないとしても、誰か他の人がココで“GAME―パラレル―”の世界の様子を見張るべきではないかと思う。

 空っぽというのはあまりにも無防備だ。

 ふと、すし詰めになっていた円筒状の物体の中を覗くと何か物が落ちていた。

「何だこれ?」

 そこにあったのは、赤いハチマキとウエストポーチとサングラス、そしてブレスレット。

特典?

 僕はそれらを拾いあげて3人の元に戻った。

「ねえ、これがあそこに落ちてた」
と言いながら、僕は円筒状の物体を指差した。

 僕が差し出した物の中から、神楽がウエストポーチ、鷹貴がサングラス、由宇香さんがブレスレットをつかんだ。

「・・・これってわたし達があっちの世界で身につけてたやつ?」

 神楽が問うと全員がやっぱりという顔をした。

 僕が今手にしている赤いハチマキ、“GAME―パラレル―”の世界で僕はこのハチマキを頭にまいていた。
 他の3人の小物も“GAME―パラレル―”の世界で彼らが常に身につけていた。

「もしかしてコレがブンの言っていた特典か?」
「おそらくそうじゃないかしら」

 鷹貴の問いに答えながら、由宇香さんは自分の腕にブレスレットをつけた。

「いい記念になるじゃない。各自持ち帰っちゃおうよ」

 由宇香さんの提案に反対する理由もない。

 みんな、それぞれの小物を手にした。

「それじゃあもうこんなところに用はないね。とっとと帰ろうか」

 ウエストポーチを身につけた後、神楽が言った。

「そうだな。株価がどうなっているかも知りたいしな」
「私も早くパパにおねだりをしたいわ」

 他の2人も賛成した。
 もちろん僕も帰りたい。

 だけどどうしてだろう。

 彼らの意見に賛成する一言が僕の口からは出てこなかった。

 僕の頭の中で今もあの声が聞こえていた。



 アンタ達ガ知ッテイル現実世界デハナクナッテイル。




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