外から中に入るにはカードを通し、数字を入力しなければならなかったこの部屋。
中から外に出る時はそんな手間はいらないらしい。
鷹貴がドアに近づくと自動的に扉は開いた。
ドアは次々と開き、徐々に窓のひとつもない重々しい雰囲気の建物から光の差し込む普通の建物へと変化していった。
光の差し込む方向から考えると、今はどうやら昼みたいだ。
「おぉ、なつかしい。この四角の建物よ。
どれ、ひさしぶりに外の景色でも見てやろうではないか」
ひとしきりビルという建物に感動した後、鷹貴は外の景色を見るべく窓に近寄り・・・そして固まった。
「これは・・・一体・・・」
「ん?鷹貴、どうかした?」
鷹貴のその態度に不審の念を抱き、僕も外をのぞくために窓に近づこうとした。
すると鷹貴が大声をはりあげた。
「来るな!」

鷹貴の厳しい声に、僕の足が止まる。
振り返った鷹貴の顔は蒼白だ。
「いいか、外の景色は見るな。絶対に見るな!」
今までの鷹貴にない強い命令口調だ。
窓からの光景をもう見たくないとばかりに、早足で鷹貴は窓の側を離れた。
この少し離れた場所からも、鷹貴がダラダラと汗を流しているのが見えた。
「早くココを出るぞ!いや、出た方が危険なのか?
さっきの部屋まで戻ったほうがいいのか?」
ブツブツと独り言をつぶやく鷹貴。
明らかに何かに動転している。
「一体どうしたの。どうして外を見ちゃいけないのさ?」
神楽が鷹貴に近寄り、そして問う。
鷹貴が何か答えようとした瞬間、別方向から声がした。
「誰だ!」
その声は鷹貴とその横にいた神楽の姿を確認すると彼らに向かって発砲した。
そう、その声の主は銃を持っていたのだ。
発砲された弾が、鷹貴たちのいる場所まで到達するのに必要な時間はごくわずかだ。
どう見ても神楽と鷹貴によける余裕は無い・・・はずだった。
しかし、その短い時間に神楽は鷹貴を思い切り突き飛ばし、自分もその場から瞬時に離れた。
しかもそれだけではない。
次の瞬間、神楽は発砲した誰かに思い切り突進した。
それはもはや人間の動きではない。
あっけにとられている誰かの目の前にスッと近寄り、蹴りを一撃くらわせた。
反撃を全く予想していなかった発砲主は後ろに吹っ飛んだ。
何だ?
これは何なんだ?
今の人は誰なんだ?
どうして銃を持っているんだ?
どうして鷹貴達に発砲したんだ?
僕は混乱した。
ココは現実世界のはずだ。
現実世界では銃なんて物騒なもの、簡単には持てない。
しかも、それをこんな街中で使う事なんて絶対にできやしない。
できるはずがない!
神楽から蹴りという予想外の反撃を受けた誰かは「クソッ」と叫びながら、再び銃を構えようとした。
しかし、その時すでに彼の手の中に銃はなかった。
銃は、神楽が持っていた。
神楽自身もその事に驚いている。
先程の人間にはありえない動きと、攻撃した時に相手の物を盗る力。
これではまるで“GAME―パラレル―”の『盗賊』じゃないか!
「!?」
更に僕は彼女の顔をよく見て驚いた。
先程まで茶だったはずの彼女の瞳が灰色に変化していたのだ。
まるで先程までいた“GAME―パラレル―”の世界のように。
どういうことなんだ。
ココは現実世界ではないのか?
ようやく現実世界に戻ってこれたと思っていたけれど、まだ“GAME―パラレル―”の中だった。
そういう事なのだろうか?
「何をしているんだ。この馬鹿者が!」
突然僕達でも、発砲した人でもない声がした。
だけど、僕はこの声を聞いた事があった。
「と、とうさん?」
僕のその声に応えるかのように、僕のとうさん「郡藤王我」が大勢の兵士を連れて現れた。
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