「やあ、ジルザ」
「おう、エイミー。 何か用か?」

 これを見ればわかるだろうと言わんばかりに、エイミーは手にした紙袋を掲げた。
 その紙袋の中には赤色の果物、これはアッペルの実だろうか、その実が大量に入っていた。

「これ、前回の依頼で報酬とは別にもらったアッペルの実だよ。
 量が多すぎて、食べきる前に腐っちゃいそうなんだ。
 だから、おすそ分け」

 確かに目の前にある果物は少し熟しすぎている。

「どうも。ありがたく食べさせてもらうよ」

 感謝の言葉を述べつつ、おれは手を伸ばしたが、エイミーは中まで運ぶと言った。

 どうやら、渡す時に手を滑らせて紙袋ごと落下させる危険を避けたいらしい。

 まあ、中に入るぐらいで"あれ"がばれる事はないだろう。
 しかも、拒否した方が逆に怪しい。



 おれは仕方なしに、ドアを大開きにして室内に入る事をエイミーに促した。

 入室許可が出たことを察した奴が1歩足を踏み出す。
 その時、アッペルの実がひとつ紙袋からこぼれ落ちた。

 最初にゴンという音をたてた後、若干の汁をこぼしつつアッペルの実はおれの部屋内をゴロゴロと転がった。

 そして、その果物が行き着いた先は……ベッドの下。

「!」

 おれは戦慄した。

 やべぇ!

 エイミーが果物を拾おうとベッドの下を覗けば、アレが見つかる!
 奴よりも早く、ベッドの下のブツを拾いあげるんだ、おれ!

「あ、ごめん。 落としちゃった」

 そんな思考に囚われている間にエイミーが紙袋を床に置き、すばやくベッドの下に潜り込んだ。

 しまった!
 脳内会議が開催された分、奴よりスタートが遅れてしまった。



 エイミーは見た目相応の子供っぽさを振りまくようにアッペル、アッペルと呟きながら、ガサガサと動き回る。

 おれは気が気でない。
 頼む、アッペルの実よ。
 早く出てきてくれ!

「あ、あった」

 助かったっ!!



 エイミーはアッペルの実を右手でつかんだ状態で、ベッドの下から出てきた。

 そして、自分とアッペルの実についたベッドの下のほこりを手で軽くポンポンと払った。
 それから、おれからは死角の位置に置かれた紙袋の中に発見した実をポンと入れたようだ。

 紙袋を手にして再度立ち上がったエイミーは、部屋に設置されている机の上にそれをドスと乗せた。

「それじゃ」
と言いながら、用件を終えたエイミーは即座に出て行こうとする。



 そこでおれは奴が左手に何かを抱えているのに気がついた。

 何だ、あれは…?

 ココに入った時、奴は紙袋しか手にしていなかったはずだが。

「なあ、エイミー」
「ん、何?」

 何故呼び止められたのか、わからないという表情を浮かべ、エイミーが振り返った。

「さっき、あんたそんなもん抱えてたか?」

「え? ああ、これ? これの事?」
と言いながら、奴は自分の左手にある物をジッと見つめた。

 そして、おれの方にゆっくりと向き直った。

 最初はキョトンとした無垢な子供のような表情だった。
 しかし、こらえきれなかったのだろう。
 奴はゆっくりと表情を歪めた。

 おれはその表情を見て言葉を失った。

笑顔

 悪魔だ。
 悪魔の笑みだ。

 奴は悪魔の笑みを浮かべたまま、左手に抱えていた物をおれに見せ付けた。

 "女をおとす100の方法"

「!!!」

 おれに衝撃が走った。

 この野郎、さっきベッドに潜った時点で既にそれを見つけてやがったな。
 見つけた事を感づかれると、おれに没収されると思って死角で簡単に中身を検分したな。

 じゃないと、あの笑みは出ない!

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