「ココに書いてある事が可能な状態で、まだおちていない状況なんて普通あるか?」

寝転がり、本をパラパラとめくりながら、マルティが呟く。

 即座に、エイミーが鋭い返しをした。

「自分の事は棚上げ?
 1番その"可能でおちていない"良い例なくせに」

 マルティは表情を変える事はなかったが、本をめくるのを止め、静止した。

 しかし、またすぐに本をめくり始め、
「そう言われれば、そうだな」
と軽くエイミーの発言を認めた。

 否定しないんかい。



 ただいま、おれはマルティの部屋にいる。

 あの後、おれの忠告も意に介せず、マルティは解説を続けた。
 エイミーもエイミーでメモを取り続ける。

 通りがかる人にジロジロと見られる事に耐えられず、おれは無理やり2人をマルティの部屋に押し込んだ。



 マルティは部屋に入った直後に解説を止めたが、ベッドに転がって本を読み続けている。
 エイミーはマルティの部屋にあったアッペルの実を食べている。
 おれはやる事がないので棒立ちだ。



「…読み終わってからで良いから、返せよ」
と、おれは控えめに返却を促した。

 しかし、視線は本に向けたままのマルティから、
「そんなにコレを読みたいのか?」
という質問をされてしまった。

 すかさず、
「そ、そんなに読みたいとは思ってない!」
と返すと、
「そうか。俺は読みたい」
と、おれとは異なる非常に正直な答えが返ってきた。

正直者


 これ…しばらく返す気ないだろ、こいつ。

 大体がエロ目的で買ったものではない。
 だから、そこまで読みたいとは思っていない。
 これは本当だ。

 しかし、しかしだ。

 おれが買った本なのに、最初に他の奴が読破しようとしているのは何故だ?
 (しかも別に本を読まなくても、素で女をおとせそうな奴)

 さっきは控えめに、返却は読んだ後で構わないとは言ったものの納得いかない。



「まーまー、そんな意地悪言っちゃ駄目だって」
と可愛らしくエイミーがマルティを叱る。

 マルティの部屋というほぼ密室空間内でも、エイミーは猫を被っている。
 本当に用心深い奴だ。

「本は持ち主に返すべきだよ」

 そこまで言って、一旦エイミーは言葉を切った。

 本を持ち出した当人が何を言うか、と思いつつエイミーを見ると、奴の顔に先ほど見た表情が浮かんでいた。

 悪魔だ。
 悪魔の笑みだ。

 どうやら奴はまた、愉快な事を思いついたらしい。

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