エピソード126(もう一人の俺)
刑務所生活の中で乱闘事件が在監中に2度ほどあった。
1度は関東某有力団体VS関西某有力団体だったので、俺は傍観しているだけで参加はしなかった。
2度目は同じ舎房内で少々頭のおかしい関東某有力団体を名乗る人間がテレビのチャンネル権の事で7人部屋で6人が見たいといってる番組を勝手にチャンネルを変えて喧嘩になった。
そいつを含め7人部屋だったのだが、そいつが名乗る団体と同じ団体の人は他に3人いたのだが、日頃から頭に来ていた事もあって全員一致でその場でそのアホを袋叩きにしてやった。
そのアホはすぐに「先生!助けてください〜!」と大声で叫び看守が駆けつけ全員取り調べを受ける事になるはずだった。
しかし、そのアホも誰にやられたかもわからなかったのだろう…俺を含め3人は名前が挙がらなかったため、取調べを受ける事も無かった。結局、そいつと同じ団体に所属する者達3人だけが取り調べを受けるために、1週間程独居に入れられた。
1週間後、やられたアホは余計に頭がおかしくなったとかで独居のままになり、他1名が懲罰対象になり残る2名は無事に帰ってこれた。帰ってきた2名のうち1名は同じヤクザといっても組長クラスの方だったのだが、俺の顔を見るなり「哀川君〜、君が1番暴れてたじゃない!何で君の名前は挙がらないの?(笑)」と言って大笑いをされた。そこで、すかさず俺はこう答えた「俺、何もしてないっすよ、組長が目撃したのはもう一人の自分っすよ。」と…。
場に居合わせた全員は大笑いをし、以後俺達の舎房では自分にとって都合が悪くなると「もう一人の自分がやったんで俺じゃありません」という言葉が流行った(笑)。
でも実際に塀の中の生活は極度のストレスが溜まる為、言った覚えも無いのに自分でない自分が何かを口走っていたりした事もあって会話をしている時にトンチンカンな会話になったりして、話し相手に「哀川さん、今自分でこう言ったじゃない?」
な〜んて事が2度ほどあって大笑いされた事もある。
大暴れした件も、目撃していた組長の話しでは俺は相手の背中にエルボを連打し膝蹴りを数回入れていたというのだが…全く俺には覚えがない(笑)

エピソード127(小川英二と)
ある日、英二の兄弟と酒でも飲みに行くかと兄弟の車で移動中、小さな交差点で明らかにこっちの直進信号が青だったので前進すると、赤信号を無視して無理矢理曲がってきた車とハチ合わせになった。身動きが取れないので相手の車にバックするように合図すると、相手は女連れなのにというか女連れだからなのかイキがって文句をつけてきたので兄弟の怒り半分爆発クラクションを鳴らし続けながら交差点から相手の車を追い出した。
当然、相手も車から降りてきて兄弟VSアホな奴が始まり俺は車内から観戦していた。
しかし、お互い文句の言い合いが始まってからしばらくしても殴り合いにならない…俺は、娑婆に出てから日が浅かった為おとなしく見物していようかと思ったのだが、早く酒を飲みに行きたかったので、仕方なく車を降りていって言い合いを聞いてみると、さすがは兄弟!相手の車には助手席に女の子が乗っていて、しかも相手は堅気さんだと分かっているので、一生懸命アホにも理解ができるように慣れない丁寧な言葉で、あなたが悪いのだよという事を説明していたのだった(笑)。しかし、その丁寧な説明が逆効果だったらしく、相手は調子に乗って女の前で格好つけたかったのか一歩も譲る気配すら無かったのだ。
いい加減聞いてて頭に来た俺は相手に「兄さん、どうしたんだい?赤信号でつっこんできて何かまだ言いたい事でもあるの?。」と優しく問いかけると俺もナメられたらしく訳のわからない事を言い出したので最後まで聞いてると時間がかかりそうで早く酒が飲みたかったので張り手1発で5メートルくらい吹っ飛ばしてやった(笑)。
ついでに、トドメをさしてやろうと相手に歩み寄ると何故か兄弟に羽交い絞めされ止められてしまった。
吹っ飛んだ相手の彼女らしき人物は助手席で「もうヤメテ〜!」とバカみたいに泣き叫んでおり、俺も兄弟に「兄弟(哀川)は出てきたばっかりなんだからマズイって!。」と説得され酒を飲む前のウォーミングアップもほどほどにバカップルを放っておいて飲みに行った(笑)。
しかし、俺が女連れだったら絶対に自分がどんなに腕に自信があっても女を人質にされたら喧嘩に不利なんだから、わざわざ車から降りてまで喧嘩を売るようなマネだけはしないけどなぁ…と思った。
エピソード128(唖然)
ある日の事、兄貴分から大至急本部事務所に行ってくれと電話があった。
車を吹っ飛ばして本部に着き、あぁ今日は水曜日だからBさんの当番の日だったなと思いながら事務所の玄関のドアを開けた。何故か?キャッキャとはしゃぎ声が聞こえ騒々しい…。中を覗いてみると上座に中学生くらいのガキが3人でトランプをやっていて俺を見ても知らんぷりなのだ!何なんだコイツ等はっ!頭に来て下座を見ると…ぎょえ〜っ!
なんと親分が座ってらっしゃったのだ。
親分は入ってきた俺を見るなり「よう哀川よぉ、お前これ見てどう思う?時代が変わったんかなぁ?信じられんよ俺には…。」と
おっしゃられた。そう、親分が目の前でおっしゃっているのにも関わらずガキ等は悠長にトランプを続けていた。
世の中を知らないという事は実に恐ろしい事だと思いながらも、ガキ等が誰の舎弟なのか?誰がこんなお粗末な奴等に当番なんかやらせてるのか?
俺には対処のしようが無かった為、黙ってその光景を見つめながら親分と会話を続けた。
親分が「そろそろ俺出かけるから後は哀川!頼んだぞ!ところで今日の当番は誰だ?」と言い残し事務所を出て行かれた。
後日、事務所当番だったBさんの頭はハゲ頭になっていた(笑)。時代が変わるとホント信じられないようなアホみたいな若衆が増え、こんなんでこの先、極道の世界は続いていくのか?と不安になった。
エピソード129(あるクラブ)
俺が良く金融の仕事が終わった後、夕飯まで食べていた行きつけのクラブがあった。
夕方から夜中の3時までそこで飲んで食べて歌っていたのだが、何故か?俺の勘定は激安でボトルを入れて、高くても2万円どまりだった。
まぁ、毎日通っていたので当然かもしれないが、俺の姉貴分や妹分達が大勢働いていた店なので伝票にチェックする時にミネラルやビールを頼んでも頼んでない事にしてくれていたのだった。
店が終わった後も女の子達と飲みに行くのに誘われるのだが何故か俺はおごって貰っていた(笑)。
そんなこんなで店のアフターも同伴出勤にも女の子達に付き合わされていた俺は単に、マスコットボーイというか女の子達みんなに共有されているような存在で誰かの彼氏という訳では無かったのだが、ある日の店の閉店間近に突然わめき声がし、ガチャーンという何かが割れる音がしたのだった。俺はその日は妹分と同伴してきていたので、妹分と「何があったんだろうね?。」と話していると原因は俺だったのだ。要は取った取られたのレベルの言い合いで、一人の女の子が深酒が過ぎて悪酔いしたらしかった。その修羅場はあまりにも凄いもので原因が俺じゃ止めに入っても逆効果
かトバッチリを受けると思い、妹分とおとなしく目立たないように酒を飲んでいた。
それから俺も自然とその店には通わなくなった(笑)。
エピソード130(失礼な奴)
某会社社長に服をプレゼントされ、その後に酒の席をもうけられた。
当然高級な店で酒の席には、社長の愛人も同席していたのだが、まぁ愛人といってもその辺の安いクラブのホステスの姉ちゃんだったのだが俺の席と向かい合わせになった。
料理が運ばれてきて色んな珍味な料理も出てきた。乾杯をし、遠慮なさらずに食べて下さいとのお言葉に甘え食事をしだすと、向かいに座っていたアホそうな姉ちゃんが一言…「あの、失礼ですが箸の使い方できないんですねっ。」何を突然俺の顔を見て言い出したかと思いきや…。正直むかついたのだが、「えぇ。」とだけ答えた。
すると愛人の隣りに座っていた社長は突然顔色が青くなり、自分の愛人に演技かもしれないが「バカ野郎!箸なんか持てなくたっていいんだ!食べ物は食べられりゃいいんだ!。」と大声で怒鳴りつけたのだった。しかし、愛人は俺にしか聞こえない程度の声で言ったのに、その社長の怒鳴り声は席の端から端まで全員に聞こえるような声量だった為、余計に恥ずかしい思いをした。
箸…一応はちゃんとした持ち方で食べられるんですけどね〜、もともと左利きだったのを右利きになおして…食べやすい自己流の持ち方の方が食べた気がするから、どうしても楽な持ち方で食べてしまうんですよねっ。
あと箸じゃないけど蟹を食べる時も上手に食べられなくて隣りに座っていた兄貴分に身を全部とってもらったという立場が逆な経験をしてしまった事もあります(笑)