エピソード141(優しかった兄貴分)
極道の世界から足を洗ってから、しばらくは何年間もバカンス休暇を取ってのんびりしていた時期があった。しかし、のんびりするといっても遊園地に行ったり映画を見たりごく普通の事をしていただけでそれ以外は酒ばっかり飲み酒と女に溺れる毎日を送っていた。
ある時、一人で大田区の行きつけだった某居酒屋で酒を飲んでいて無性に人恋しくなり事もあろうか足を洗ったはずの組の兄貴分に電話をかけた。
すると、兄貴分はすぐに俺が酔っ払って電話をしてきたとわかったらしく…。
「なんだ、哀川お前酒飲んでんのか?(笑)今なぁ組に戻っても良い事なんてねえぞっ。良い思いをしているのはごく僅かな人間だけで、戻ってもお前の嫌いなBの運転手くらいしかやる事ねえしな…。あんまり酒飲み過ぎて体壊すなよ。」とおっしゃられて俺も「そうですか…。」と意気消沈し電話を切った。
俺が組を辞めた後、俺の事を嫌いだった人間達が俺のあらを探して俺への責任追及を幹部会で発表した事に対しても辞めていった俺をかばってくれた兄貴分…優しい人でした。
エピソード142(護送車)
逮捕され検察庁から起訴され警察の留置場から拘置所に移送され、検察庁での取り調べを受ける際に何回も拘置所から検察庁までの道のりを護送車で移動させられる事になる。
護送車には全員ロープと手錠で逃げられないように全員数珠繋ぎのように繋がれているのだが、ある日の事だった隣りに座ったイラン人だと思われる男が俺の顔を見て笑いながら手首を見せた。すると、その手首には手錠がかけられていなかったのだ。
???どうゆう事だ?コイツまさか!?逃げようとしてるのか?と思ったらイラン人の彼は笑いながら「手錠外すの簡単、でも逃げはしないですよ。」と言って自分で手錠をはめ直したのだ。何かのイリュージョンを見ているようだった(笑)。
確かに手錠を外せてもロープで数珠繋ぎにされていたのでは逃げ様もなかったのかもしれないが…
エピソード143(護送車2)
ある事件で検察庁に護送車で移送された時、刑務官の手違いでなんと俺の事件の共犯が俺の席の左右と正面に2人座ったのだ(笑)。
こんなチャンスは絶対無いというか、あったらおかしい訳で…急いで小声で共犯達とどんな供述をしたかとか互いの弁護士は何と言ってるかとか口裏合わせをした。そしてお互い顔を見合わせると思わずニヤニヤしてしまって…結局は点呼みたいなのをとられる際に全員共犯だという事が刑務官にバレて急いで席を離されてしまった。
それにしても裁判前の共犯同士が全員同じバスで隣同士になるなんて笑えた。
エピソード144(自称右翼)
東京拘置所での雑居房での出来事。部屋に自称右翼と名乗る若い男が入ってきた。
俺のいた部屋は房長が大卒で残るは俺を含めてヤクザが2人と普通の不良が2人と変質者1人ってメンバーだった。新入りはまず罪名は何か?とか不良なら組織に属しているか?とかみんな暇なので色々と聞かれる。
問題の自称右翼の若い男も一応罪名は何だったか聞いたけど忘れてしまったが組織の名前は一応どこかの右翼(政治結社)の名前だった。
あまり俺は興味が無かったので適当に聞き流していたのだが、大卒の房長が「へぇ〜右翼ですかぁ・・・ところで北方四島って全部名前言えますか?。」と右翼なら当然答えられるであろう質問をした。
俺は内心そんな質問右翼じゃなくても一般人でも知ってるし、くだらねぇ…と思った。
ところがである、その若い男…「えっと…国後、は、はぼ、はぼ…あとはわかりません。」大卒の房長が笑いながら「哀川さんは知ってる?。」と言ってきたので俺はぶっきらぼうに「歯舞・色丹・国後・択捉」と答えた。さすがだねぇ〜と言われたが、嬉しくねーし、てか入ってきた新人はホントに右翼なのかよっ!と思った。でもこれが時代の流れなんだろうなぁ…とも思った(笑)。
エピソード145(新入り歓迎)
東京拘置所に収監されると雑居房でとりあえず団体生活をする為の訓練を新入房で受ける。まず、そこで基本的なルールを覚え一日の生活リズムを覚え飯の入ったバッカンと呼ばれる大きな入れ物を市販されていない泡のほとんどたたない粉石鹸のようなもので力一杯油汚れまで落とす訓練や便所掃除などを学ぶのだ。
そうして1人前になった者もそうでない者も数日経てばそれぞれ雑居房に移される。
当然、そこの部屋で新入りになる訳で皆に挨拶を簡単に済ませ罪状は何か?など部屋の皆に興味本位で聞かれる。俺の場合、罪状を口で説明するより起訴状を見せた方が早かったのでそれをその部屋の房長に見せた。
俺の起訴状に目を通した房長は一言…「こりゃあ、すごい兄ぃが入ってきた。」起訴状はじゅんぐりと皆の手に渡り全員が読み終えた頃には俺は皆に兄ぃと呼ばれる存在になっており便所掃除だとか皆が嫌がる事は一切させられなかった(笑)。
な〜んだこんなものか拘置所って…もっと悪人がいて新人イジメがすごい所かと思ってたのに…。
ところがである、それは俺がVIP待遇されただけであって後から入ってきた新人には恐ろしい待遇が待っていた。東京拘置所の名物、ヨウカンまるごと1本を歓迎の意味を込めて一気に食べろとか…(笑)。
新人は涙を浮かべながら「僕、糖尿なんですよ、勘弁して下さい。」と言いながら皆に「これは東拘(東京拘置所)の新人歓迎のしきたりなんだから文句を言わないで食べろ!。」と怒鳴られ泣きながら食べていた(笑)。
俺は内心「俺の罪状すごく凶悪で良かったo(^-^)o」と胸をなでおろした笑!