エピソード146(別件逮捕)
ある事件で東京拘置所在監中の出来事。雑居房で夕飯を食べ終わり、つかの間の時間にみんな手紙を書いたり各自めいめいが自分のやりたい事をやっていた。すると、刑務官が俺達の房の前に来て「哀川、お前明日検察庁から呼び出しだ。用意しておけよ!。」と言うので、「は?何でですか?。」
と聞くと「別件逮捕だっ。詳しい事は話せない。」と言われた。
房のみんなからは「やっぱり哀川さんは別格だよっ別件逮捕だもんな。」なんてひやかされたが、俺の頭の中はパニクった。何がバレたのだろう?いっぱい心当たりがありすぎて悩んでその日の夜は眠れなかった。
そして睡眠不足のまま朝を迎え、急いで飯を食べ護送車で検察庁にむかった。自分が呼び出されるまでドキドキして別件逮捕じゃ今回は間違いなく刑務所行きだなぁ…なんて思ったりして…結果、な〜んちゅう事はなく交通違反の罰金が未納になっていただけだった(笑)オイオイ!そりゃあ逮捕されてれば罰金の通知もこないし払えねぇだろ普通…。
それで逮捕?罰金なら拘置所に戻ってからすぐに払いますと言って事は済んだ。
拘置所に戻って自分の房のみんなに話すと、「な〜んだ交通違反かよっ。」と笑いの渦になり見回りの刑務官に「お前等声が大きい静かにしろっ!。」と怒鳴られてしまった(笑)
エピソード147(不良な車屋)
車販売のブローカーをやっていた頃、渋谷の某社長令嬢に良い外車を探してくれと頼まれた。
俺自身は古物商の免許を持っていないのでオークション会場には俺の息がかかっている業者が出入りして客からの注文どおりの車を探してきて売っていた。
ところが、渋谷の令嬢の時に限って新規参入の古物商から仕事をまわしてくれと俺の知り合いを通じて頼んできたので俺も新しい事業にチャレンジする意欲のある会社にチャンスを与えてあげるのも良い事だと思いOKの返事をし、その新規参入の会社に任せてみる事にした。その会社は元々はバイク専門の会社だったのだが四輪も始めたいという事だった。店舗も持っていて、まぁ安心できるだろうと思ったのだが…ところがである、期日を過ぎても連絡すらこなかったので催促の電話をかけたりして少々急がせたのだが結局、まぁ見た目の良い注文通りの外車を仕入れてきたのだが、オークション会場ではなく何処かの国産車の中古ディーラーから仕入れてきたあげく令嬢に俺が納車した翌日には故障し、修理に出させたが1週間もしないうちに廃車同然のポンコツ車になってしまったのだ。
当然俺は怒り電話をすると、その会社の社長は「哀川さん勘弁して下さいよ。中古なんだから保証はできませんよ…。」な〜んてふざけた事を言いやがったので、さすがの俺もキレて「〇▽□×…!!!」と怒鳴った。
怒鳴った日の午後、俺に電話が入ったのでやっと新しい車を探したか弁償する気になったのかと思いきや電話の相手は警察だった。
「〇〇警察の生活安全課ですが、哀川さんかな?うちの管内のバイク屋さんを脅してるらしいねぇ…ヤクザに脅されてるって相談があったんだがどういう事かな?。」俺は「俺がヤクザでも関係ねえだろっ!あんただったら注文した車が買った翌日に壊れたり廃車になるような車に大金払って中古だからしょうがないって言われて、はいそうですかって納得すんのか?。」と言ってやった。
警察もさすがに民事だし内容が内容なだけに、とりあえずは無茶な事はしないという事を約束し電話を切った。ブチ切れた俺は警察に相談したアホな会社に電話をかけてこう言った。「あんた警察に相談したらしいなぁ…別に俺は構わねえよ…
でもよぉ、塀の中に一時行った所で入った者は必ず出てくるっちゅう事も頭に入れて良〜くその脳味噌のねぇ頭で損得勘定をしてから良い返事を心待ちにしてるぜっ!。」と…(笑)。
翌日…その会社社長はポンコツ車をレッカーで引き取りに来て代金を返済して行った。自分が悪いのを棚に上げて何でもかんでも警察に相談すれば何とかなるなんて…ヤクザ者より性質の悪い不良な車屋だなぁと思った(笑)。
エピソード148(賄賂)
先日の話になるが、賄賂を渡してくるという初めての経験をした。
賄賂と言ってもこちら側は正規に相手の会社宛に毎月大金を支払っているだけなのだが、先方の受け取る人間が要は業務上横領しているだけなのだが…。いつもは俺が挨拶してもぶっきらぼうなその中年の中間管理職のオヤジがその日だけはコソコソと自分から俺に歩み寄ってきて「ある?ある?」と言ってきたのだ。
分厚い封筒を渡すとそのオヤジは急いで封筒の厚さだけ確認してポケットにねじこんだ。
そのコソコソしていた中年のオヤジを冷やかな目で見下して、こんな人間にだけはなりたくないと思った。もっと、悪党なら悪党らしく堂々と受け取って欲しいものである(笑)
エピソード149(図書係)
塀の中の作業で図書係というのをある一家の組長さんの刑務官への推薦も有り、俺のような学歴の無い者がやらせて頂いた事がある。仕事内容は全収容者の注文した雑誌や本の振り分けと振り分けた本を各工場に配ったり収容者から寄せられてきた作文の構成と清書をワープロを使って刑務所新聞にする仕事などだった。
本を各工場に配る時に他の収容者と目で合図したり私語は厳禁なのだが、ある日の配本の時に俺はどうしても確かめたい事があった。図書係というのは全収容者のフルネームと何処の工場でその人が作業しているか解かる名簿があり、その名簿に同じ一家だった兄ぃと全く同じ名前があったからだ。
その工場に入り俺は挙動不審の人みたいにキョロキョロして各作業机に貼ってある収容者の名前を確認しながら本が載っている台車をわざと重そうにゆっくりと押しながら歩いた。
おっ!同じ名前があった!こっそり相手の顔を見ると相手も上目遣いでこっそり俺を見ていた(笑)
そう、勘は的中!同じ一家の兄ぃだったのだ(笑)。お互いニヤリと笑って小声で「久し振り。」と言って俺は前を通り過ぎた。
東京の場合、日本全国何処の刑務所に飛ばされてもおかしくないのに同じ刑務所に同じ一家の人間が服役していたというのは何だか心強い気がした。
エピソード150(国〇舘)
塀の中で一緒の房になった国〇館卒業のOBに学生時代のエピソードを聞いた事がある。
国〇舘といえば俺の地元の有名だった伝説の暴走族「極〇」の昔のメンバーに多いのだが、学生時代の生活も昔は物凄かったらしい。
塀の中で一緒になったK氏が通学途中の電車に彼女と二人で乗っていた時に先輩達に見つかり呼び出され「おいK!お前今からセミやれっ!。」と言われ、座席の棒にしがみつき大きな声で「ミ〜ンミンミンミ〜ン」と叫んだそうだ(笑)。するとそれを見ていた先輩達は一言…「誰がミンミンゼミやれって言った!ツクツクボウシやれ!」(笑)。
彼女の見ている目の前で半べそかきながらやって…当然彼女にふられたそうです(笑)。
その他にも満員電車の中で「零戦やれ!」なんて言われた日には電車の端から端までを零戦の真似をして飛んだそうだ(笑)。
そんな時代の不良は楽しかったんだろうなぁと爆笑しながらK氏の話を聞いていた。