エピソード181(困った御馳走)
計画性ゼロの俺は時として無一文状態に陥ることが良くあって、メシが食えん!腹減った!
な〜んて事があったのだが、そんな時に某任侠団体所属の九州出身の方からよく電話があり「哀川さん、腹が減ったんならウチにきなよっ!今から俺が料理するからさぁ…酒もあるし…」お言葉に甘えて車を吹っ飛ばして御自宅にお邪魔すると、じゃ〜ん!出てきた料理はなんとっ
ゴーヤチャンプル、そして酒は薩摩焼酎のお湯割りだったのだ。まず、ゴーヤチャンプルをおそるおそるひとかじり…ゲッ不味い!慌てて焼酎を飲むが…ウッこりゃあ俺には飲めん!
せっかく用意してくれたのにと思い再度チャレンジしたが無理なものは無理だった(笑)
なんとか食べられないのを誤魔化そうとしたが、やはり見抜かれてしまった。
「な〜に哀川さんゴーヤ駄目だった?こんなに美味しいのに。」と言ってその人は美味しそうに食べていた。腹はメチャクチャ減っていたのに何だか拷問を受けてるような気がした(笑)
さすがに翌日訪問した時は俺にも食べられる豚だったか鳥だったかの普通の肉を用意して待っていてくれたので餓死しなくて済んだ(笑)ゴーヤチャンプルが食べられなかった時は九州男児が怒り出すんじゃないかとヒヤヒヤした本当に困った御馳走だった。
エピソード182(誤算)
忘れもしない平成五年四月四日深夜、兄ぃ達が乗っていた車が暴走族と揉めて車を潰されて泣き寝入り状態で本部事務所に戻ったらしく、それを聞いた兄貴分が烈火の如く怒り出し「やくざが暴走族にやられて帰ってきやがって!車潰した野郎捕まえるまで事務所に戻ってくるなっ!」そう怒鳴られた兄ぃ達は渋々俺のところに電話をかけてきて兄ぃ達より4学年下だった俺は近所の暴走族の事にも詳しいだろうという事で応援に駆り出されたのだった。仕方なく俺は知り合いの車屋からの借り物の車を出して兄ぃ達3人ととりあえず暴走族が走っていそうな大通りに出た。すると、10分もしないうちに暴走族と遭遇したのだった。環状七号線を暴走族の後を追うような形で俺は車を走らせていたのだがそこに普通のアベックが二人乗りしているバイクが暴走族を抜かそうとして暴走族に囲まれて嫌がらせを受け出したのを見た瞬間、俺の頭のネジは何処かに飛んでった。猛然とスピードをあげ暴走族の兄ちゃんのバイクめがけて突っ込んだのだった。兄ぃの1人がスコップで相手の後頭部を殴りつけてバイクごと吹っ飛ばしたまでは良かったのだが…よ〜く周りを見回すと反対車線は暴走族の集団が車やバイクを合わせて100台は余裕で超えている台数で走っているではないか…。そして後方を見渡すと蛇行運転しながらこれまた凄い数の暴走族が俺達の車に近づいてきたのだった。そんな馬鹿なっ!今時地元にこんな大きい暴走族あったのかよ?なんて思い一瞬頭の中はパニック状態に陥ったが、大丈夫俺は極道だナイフ1本あれば何百人来ようが全員皆殺しにしてやると腹をくくった。しかし、そうは上手くいく筈も無く一緒にいた兄ぃ3人のうち2人が俺に「哀川!ナイフ貸してくれ!」とだけ言い残し歩道橋を駆け上がって逃げ出したのだった。
まぁ、2人とも所帯持ちだったから仕方が無いが…、環状七号線のド真ん中で武器一つ無い俺は1人たたずんだのだった。はて、どうしよう?極道が暴走族にビビって逃げたんじゃカッコが悪すぎるし…しかしあまりにも相手の数が多すぎてまさに映画「ラストサムライ」のラストシーン状態だった(笑)
俺は結局この場は様子を見ようと歩道橋の上に駆け上がると、まだ逃げていなかった兄ぃの1人がしゃがんで事の成り行きを見守っていたのだった。間もなくして俺が乗ってきた車は暴走族に囲まれその場でグチャグチャにされてしまったのだが、兄ぃ1人は諦めなかったのだ。「哀川!行くぞ!もう一度!」そう、俺達2人はフロントガラスを叩き割られてシートがガラスだらけの車に乗り込み再度暴走族に奇襲をかけたのだった。もう2人ともヤケクソだったので兄ぃは上半身裸になって刺青を出して「このクソガキどもヤクザをなめんなよ!」と発狂し俺は暴走族のガキ1人を捕まえてグチャグチャの車に引きずりこんで事務所にさらったのだった。結局この大騒動で俺達は後日逮捕され収監されたのだが当時有名だったらしい暴走族「憂○會」はこれを機に解散声明を警察署に出し解散した。暴走族のガキ相手に、てこずってしまった情けない俺のエピソードでした(笑)
エピソード183(事務局長代理)
極道になって間もない頃、他団体の方々が大勢いらっしゃる席で字がうまいというただそれだけの理由で事務局長不在だった為に俺みたいなチンピラが代理を務める事になってしまった事がある。不安でたまらなく若頭だった兄貴分に隣りの席に座ってもらい来客の方々の団体名及び個人名と祝儀の計算をノートに書き記す作業を必至でやった事があった。顔を見ても誰だかさっぱりわからない俺は一応挨拶しながら祝儀を受け取り、相手の方々は自分が誰だかわかるだろう?知っていて当然だという顔をして来られるし、まさか事務局長代理が極道なりたての小僧だとは相手の方々も思っていない訳で…こちらももちろんお客様が誰かなんて知ってますよといった素振りで対応するわけだから小声で兄貴分に名前を聞きながら書き記し、周りは酒を飲んだり招待歌手の歌を聴いて盛り上がっている最中俺は胃が痛かった(笑)
こんな大役、事あるたびに俺にまわってくるのかと思っていたら翌年には某刑務所帰りの兄ぃが代理を務めてくださる事になりホッとした。俺よりも字が達筆なその方は現在は正式に某有力団体直参のとある一家で事務局長として御活躍中である。
エピソード184(ニコイチ)
車の販売ブローカーが意外と儲かるだなんて話を持ちかけられて、じゃあやってみようなんて事になったのだが俺自身は仕入れも専門用語も全く知らない訳で単にこんな車が欲しいという客だけ見つけて後は専門の奴に任せきりだった。
しかし業務に携わっている以上俺も販売事務所に顔を出す訳で、その事務所には当然車の販売や車の査定に詳しい者がいるので初めて耳にする専門用語もあった。
その専門用語の一つ「ニコイチ」という言葉を初めて耳にした時、会話の内容が・・・「この車メチャクチャ安いねぇ。」「あぁ、その車ニコイチだからさぁ。」
俺はその会話を聞いて、ふ〜んニコニコ市場で仕入れる車ってそんなに安いんだぁ・・・と大きな勘違いをしばらくの間していた(笑)この大きな勘違いに気付いたのは「サンコイチ」という言葉を耳にした時だった。思わず俺は「サンコイチって?」と従業員に尋ねたら、車のボディーが前半分後ろ半分が同じ車種の事故車の壊れていない部分を溶接して繋ぎ合わせた代物で更にエンジンも別の同じ車種のを乗っけた1台の車を3台の事故車で組み立てた物だから「サンコイチ」と言うのだという事が分かった。それを知った瞬間…俺の頭の中で、て事は…「ニコイチ」は決して安くて客がニコニコ満足するニコニコ市場で仕入れた車ではないんだっ!大きな勘違いに気付いてメチャクチャ恥ずかしかったが俺がずうっと勘違いしていた事に気付いた従業員は1人もいなかった(笑)現在巷で騒がれている「ニコイチ」の車とは盗難車に別の同じ車種の車のナンバーをつけて1台分のナンバーで同じ車種の車が2台存在する事を言うのだが、決して盗難車はニコニコ市場で仕入れている物ではないのは言うまでもありませんねっ(笑)
エピソード185(武闘派)
他所のヤクザ組織のように組全体で1万人を超える構成員を抱える極道の組織があるという御時世の中、俺が在籍していた組織は東京23区内にありながらトップの親分を含め構成員たった30名足らずの信じられないような本当に小さな一家だった。
もちろん一家として構えている以上縄張りも結構広い範囲あり常に様々な組織に狙われていて周りは全て敵、敵のド真ん中に事務所を構えていたのだった。普通に考えれば簡単に潰せそうな一家だと誰しもが思うし、塀の中でも自分がいた一家の話をすると関西方面の関東をあまり良く知らない極道の方なんかは俺を嘘つき呼ばわりしてきた事もあった。
しかし関西の某有力指定暴力団のある一家の若頭の方は、そんな30名足らずの一本独鈷の俺がいた一家の事を知っていて「知ってますよ!喧嘩になると何故か沸いて出てきたように急に人数が物凄い数になる一家で簡単には潰せない一家ですよねぇ。」と褒めて下さった。
そう、若衆一人一人が学生時代相当な喧嘩の達人で有名すぎるほど有名で2ちゃんねるなんかでも話題にされるような伝説の不良達が在籍していた一家でまさに一騎当千という言葉がふさわしすぎるようなツワモノだらけの愚連隊のような所だった。そう、だからそんな有名人が一声かけると構成員ではない不良少年達が沸いて出てくるように集まった「泣く子も黙る〇〇興業」と近隣に恐れられていたのであった。はい?俺ですか?そんなツワモノ達の足を引張る小心者でした(笑)現在、在籍していた一家は一本独鈷ではなくなり某指定暴力団の直参一家となり一本独鈷だった頃のツワモノ達はもうほとんど在籍していないと噂で聞く。俺にとっての青春そして伝説の一家に俺のような半端者が一時は在籍していたのだという事を、そして緊迫感ある毎日を送っていた事を今でも誇りに思っている。