エピソード186(マグロ漁船)
ごくたまに借金の追い込みをかけた相手に泣きつかれて「哀川さん!もうこんな借金生活続けていくの限界です!なんとかスパッと一括で借金返す方法ないですか?」なんて事を聞かれる事があった。きっちり相手から手段を選ばず全額回収した後でのそんな相談に、いちいち答えてやるほど暇人でなかった俺は「じゃあ、マグロ漁船にでも乗れば?」とか「内臓売れば?」なんて事を適当に答えていたのだが、本気にして「マグロ漁船に乗るにはどうすればいいんですか?」なんて聞いてくる奴もいた。大体の給料を教えてやり、後は漁業組合にでも電話して聞け!と教えてやると喜んで電話を切るのだが…。肝心な事を俺はやつらに教えてはいなかった。肝心な事…そう、それは遠洋漁業でマグロ漁船に乗っていった後の話なのだが、海の男達は大酒飲みで気性の荒い者も多いと聞く。船の上で喧嘩になったり気にいらねえ野郎だ!なんて思われた日には大海原のド真ん中で海に突き落とされたり殺されて海に放り出されようともシケにあって行方不明になったとか甲板で足を滑らせて転落してしまったとか…まさに死人に口無し状態!目撃者ゼロ!てなわけで、事故死扱いでニュースにも取り上げられないんだとか…。俺も聞いた話で本当か嘘かは知らないが、俺からマグロ漁船を勧められて果たして何人の借金まみれの野郎どもが無事日本に帰ってきたかは知る由もない(笑)
エピソード187(言いづらい事)
バブル崩壊直後の極道の世界も、そりゃあ大打撃を受けた。もともと極道なんざ堅気さんのいる表社会の景気が良ければその甘い汁を吸って生きているようなもんで…。質屋に貴金属などを全て入れてしまう者、カードを作りまくって借りまくったりショッピング枠も利用して購入した物も質屋に入れて換金したりと…当然借りた金は全て踏み倒し(笑)まぁ見苦しい者が続出したのだが、ある日の事、車の修理を何処に入れようかと兄貴分が悩んで
おられた。聞けば今までの修理屋は全て代金踏み倒しで修理の依頼などできる修理屋が無いとの事だった。兄貴分が「哀川、お前どっか知ってる安くやってくれる所ないか?」と俺に尋ねてこられたのだが…俺の知り合いの修理屋に頼んで代金踏み倒された日には当然俺の信用も無くなる訳で
少し考えた末、結局その修理屋に頼む事にした。修理に入れる前、俺は兄貴分にこう聞いた・・・「兄貴、金あるんすか?」そばで俺と兄貴分の会話を聞いていた他の兄ぃが、「お前も言いにくい事よく平気で聞くなぁ。」と大笑いした。そりゃ俺だってそんな事わざわざ自分の兄貴分ともあろうお方に聞くのは失礼だとは思ったが、当時の極道はバブルに便乗金儲け大失敗みたいな者が多かったからそんな大失敗の巻き添えをくらったんじゃ俺がたまらん!と内心思っていた事が思わず口に出てしまったのだった(笑)。結局、修理代はきちんと兄貴分は支払ってくれたみたいで約束を守ってくださる良い兄貴分を持って良かったと胸をなでおろしたわけだが、当時は上の者が下の者の乗っている高級車を貸せと言って返してくれないとか高級腕時計を貸せと言って勝手に質屋に入れる者とか仁義もへったくれもないような極道が結構いた。不景気は人の心まで貧しくするのだと実感した。
エピソード188(投資してくれ)
エピソードというよりこれは昨日きた電話の話になるが、俺が吹雪の中を必死に運転していると朝早くだというのに携帯が鳴った。電話の主は新宿歌舞伎町でソープランドの運営を任されたり生命保険金融だとかいう怪しげな金融業をやっている、かつて俺が極道現役時代からの知り合いだった。「哀川さん、俺に投資しない?」は?と思ったが一応内容を聞いてみた。ソープの女の子達に払うバンス(前払い金)が足りないとか…ソープも金融も毎月15日決済でとか…話は意味不明で結局28万円投資してくれれば15日には30万円にして返すからなんていうくだらない話だった。
俺は全部聞き終えてから一言「無いっ!」と言って電話を切った(笑)てか、そりゃあ投資じゃなくて単なる金が無いから金貸してくださいって話で投資しない?なんて次元の話じゃね〜だろっ!アホかっ!久々に頭に来るっちゅうか呆れ果てる話だった。なんて書いてみたが、その前に28万円なんてポンと貸せるほど今は羽振りの良い極道ではなく、かつての栄華は何処へやらってな感じの元極道哀川力の情けない現実であった(笑)
エピソード189(バーン)
一時期俺の家で兄ぃや俺の舎弟が五人くらい集まってはポーカーや花札をやって暇を潰していた事があった。ある日、いつものように金をかけてワイワイやっていると、ピ〜ンポ〜ンとインターホンが鳴ったので、俺が「はいっ」と大きな声で返事をしたのだが外は静まり返っており…再びピ〜ンポ〜ン!今度は「どちらさん?」と聞いたのだが応答無し。なんだか嫌な予感がしつつ部屋にいた面々はおもむろに立ち上がり俺が玄関へと向かった。覗き穴を覗いても誰も居る気配がないので仕方なく鍵を開けたのだが…鍵を開けた途端ドアは凄い勢いで開けられ、そこにはうちの一家内では知らない者はいないというくらい覚醒剤中毒者の兄ぃが仁王立ちで「うわ〜っ」と大声をあげながらチャカ(拳銃)をこちらに向けて何発も発砲したのだった。
銃声が鳴り止み…しかしシャブ中の兄ぃの目の前に立っていた俺は無事生きていた。
俺の後ろじゃ普段から腰抜けの兄ぃが本当に腰を抜かしてヘナヘナしていた。途端にシャブ中の兄ぃが大笑いしだし「ようっ!みんなこんなとこにいたのかぁっ」「外に車が何台も止まってたからさぁ、そうそう!これモデルガン!驚いたぁ?」と言い出したのだった(笑)。腰を抜かした兄ぃは、さも悔しそうにしていたが、醜態をさらけだした姿は惨めそのものだった。俺なんか何が起きたのか?って感じだった。俺はそれ以来、道を歩いていて車のタイヤがバーストする音とかとにかく「バン!」「パン!」という大きな音がすると異常に身体が反応するようになった(笑)
これも職業病の一種だろうか?(・m・ )プププッ
エピソード190(哀川力の素顔)
誰も俺の顔なんか拝みたい人はいないとは思うが、よくHP上で顔を平気で公開している人のサイトを見ると、なんとなく羨ましく思える。要は俺の場合、任侠の道を歩んできた訳だが強きをくじき弱きを助ける立派な極道を目指して歩んでるつもりが、いつの間にか生活を維持していく為にありとあらゆる犯罪に手を染めてしまい良〜く考えると強きを助け弱きをくじいてるなんて事もあり、とにかく人に恨みを買うような真似もしている為に素顔を公表できないのだ(笑)。モザイク入りなら何年か前の警視庁24時間で全国に素顔と自宅の中と車の中を公表したんですがねぇ(・m・
)プププッ