エピソード231(密輸)
密輸には様々な手口があり、成功もあるが失敗して摘発されるケースも多々ある。
俺の部屋にもチャカだの麻薬だのいつも無造作に置かれていたが、やはり密輸されてきた物だった。
ある日の事、車やバイクのパーツ屋Jから相談を受けたのだが・・・その相談と言うのが密輸に関するものだった。なんと覚醒剤をハーレーダビットソンのエンジンのピストンの中に詰め込んで密輸入するというものだった。Jはいわゆるポン中(覚醒剤中毒者)だったのでそんな発想を得意げにこれならバレないだろう?と自信満々に俺に話した(笑)
オイオイ・・・誰がエンジンばらしてそんな事して・・・アカン・・・こいつに関わってるとこっちまでおかしくなる!そのうちコイツ逮捕されて俺の事まで話しかねない・・・そう思った俺は自然に音信不通にならせてもらいました(笑)
しかし、輸入車や輸入バイクのエンジンのピストンの中に隠して密輸なんてしてるところがあるんだろうか?車やバイクに限って麻薬犬の捜査は無いのだろうか?Jはオイルの臭いでバレないかもなんて言っていたが・・・。

エピソード232(犯行計画)
CMでおなじみ「犯行は計画的に」ん?ありゃ返済かっ(笑)
塀の中では娑婆に出たら次はどんな犯罪をしようと企む者、あの野郎にどんな仕返しをしてやろうと考えている者、様々だ。
偽造500円玉を北○鮮に作らせて密輸して、今回は絶対に成功する手筈が整っていると豪語していた者もいた。まさか!?本当に事件が起きるとは思っていなかったのでビックリさせられたが・・・。
その他にも「娑婆に出たら俺、絶対外国のギャングみたいに派手にワンボックスカーかなにかで宝石店にバックでショーウィンドウごと突き破って白昼堂々強盗してやる!」と真剣な顔をして語っていた刺青を入れた組織を破門になっている者などがいた。
この者も、そろそろ娑婆に出る頃ではないだろうか?(笑)男も30代にもなれば、もうやり直しの人生なんてまっぴら御免だぜっ!と思う者が多いようだが初犯刑務所ならともかく再犯刑務所なんて所は次は絶対パクられないぞっ!と新たな犯罪を計画的に考える場所なのである。
そして・・・何年もかけて計画した犯罪も娑婆に出てビックリ!世の中の早すぎる変化についていけず浦島太郎的な犯罪はすぐに摘発されて御用となり再び刑務所へと送られてしまうのである(笑)

エピソード233(年賀状)
刑務所でも年賀状は、お年玉つき年賀葉書で両親や夫婦ならば相方には発送が許される。
そして当選番号が発表されると確認もできるのだ。
まぁ身寄りのある者は大抵は看守に年賀状くらい出せと言われるので、20歳の時から音信不通の母親にも俺も一応出した。
どうせ、刑務所から出した年賀葉書なんて読んだところで返事がくるわけもないだろうと思いながら書いたのだが・・・なんと意外にも返事の年賀葉書がきたのだった。確か22歳で初めてパクられた時にも東京拘置所から出した手紙にも内容は縁を切ってくれみたいなものだったが返事はきた。
で、ここ数年なんとか娑婆にいる俺だが毎年のように年賀状を出しているのにもかかわらず返事は来ない(笑)
きっと、あぁバカ息子は娑婆で暮らせてるんなら良いと安心して送ってこない親心なのだろうと俺は思う事にしているo(^-^)o

エピソード234(図書係の仕事)
刑務所で図書係という2人1組の2名のみがなれる仕事をやらさせてもらっていたのだが、大抵この仕事はある程度の学力と高学歴でないと抜擢されないのだが俺が服役していた刑務所では何故か俺とK会に所属するMさんの極道コンビがやっていた。
仕事内容は図書館で働く人と同じで刑務所内の図書館(とはいっても狭い室内にある3段程度のスチール製の棚6つ分程度)にある、例えば(あ152)というラベルが貼られた官本を全収容者リストと希望する借りたい本の題名・番号を照らし合わせて各舎房に配布する業務。
月1回の各工場に配布する官本をなるべく同じ本が回らないようにチェックしながらプラスチックのケースに並べて台車に乗せて全工場に配布する業務。
全収容者からリクエストされる新刊を担当官に購入していただけるかどうかを報告する業務。
毎週、毎月発行される全収容者が購入した雑誌(漫画、小説、写真集etc)を間違いなく各舎房に届ける業務。
刑務所内の皆から寄せられる作文や感想文の校正とチェックをし、新聞にする原稿をワープロを使って作成する業務。
以上が図書係の仕事だ。本は重いしワープロは肩がこるので月初めと週初めは結構疲れるが他の機械工場に比べればストーブがすぐそばにあるし夏も冷房の空気が流れてきて暑さ寒さはさほど苦にならない。そして自分が読みたい本は役得と言うのだろうが当然いつでも読めるのが利点だった。
1ヶ月のうち3分の1が暇でやる事がなく、他の経理担当3名も同じ部屋で仕事をしていたのでバカ話をして盛り上がって楽しく過ごせた。あまりにも暇な時はワープロでお絵かきをしたり、本棚の間に隠れて腹筋運動をしたり時にはそのまま寝てしまったり(笑)、看守もこちらを見張ってはいるがこちらも看守を誰かしらが見張っているので何をしていてもバレる事はまず無い(笑)。
この話は、俺が体験しただけで今はこんなに楽ではないかもしれないし、他の刑務所では無いかもしれないが、こんな漫画みたいな話だけど事実です。

エピソード235(積雪)
青森刑務所の冬は大雪で覆われる。まぁ雪国の刑務所は何処も同じだとは思うが、東京出身の俺にはビックリするほどの積雪量だった。
見たこともないような長さのツララがにょきにょきとぶらさがり、寒い部屋が余計に寒く感じられた。週に1度は舎房に居る皆で掃除をするのだが水は当然氷水の冷たさで掃除や食器洗いなんかあまりの冷たさに頭までガンガンするような痛みが走る。
1年のうちの3分の1が雪で覆われてるような気がし、その間は運動の時間があっても屋外には1歩も出られず太陽を身体全身に浴びる事も出来ずにいた。それだけで閉鎖的な空間の刑務所が余計に窮屈に感じられ、皆早く雪が溶けないかなぁなどと口々に言い合っていた。
出所日が冬だったらどうしようかと思ったが、幸い俺は夏の終わりに出所だったので助かった。本当に雪はスキー場にだけ降って欲しいもんである。