エピソード251(スカウト)
俺が初めて極道にスカウトされたのは忘れもしない浅草の映画館前で上映待ちを友人としていた時だった。映画のタイトルは「BE-BOP HIGHSCHOOL」と南野陽子さん主演「はいからさんが通る」の2本立てだったと記憶している。(笑)
マリンルックのような格好のパンチパーマの兄さんがススッと近寄ってきて「うちの組入らねえか?」
とっさに俺の友人は「あっ!俺まだ高校生ですから。」俺も便乗して高校なんて退学して行ってなかったのに「俺も高校生ですから。」と答えると、パンチパーマの兄さんは「ちっ!生学かよっ!」と言ってその場から立ち去った。
それから数年後、まさか俺が10代の子を相手にスカウトする事になるとは夢にも思わなかった(笑)
「今、若いうちだけだぜっ!ヤクザになってやりたい事やって嫌になったら辞めりゃいいじゃねぇかっ!人生1度きりだぜっ!」なんて本当に無責任な事を言って若者を説得した事もあった。
嫌になったら辞めりゃいいなんて言いながらスカウトしていた俺は嫌になったから本当に辞めてしまったが・・・(笑)

エピソード252(どこから金が?)
俺が20代の頃、同級生に俺とは別の某指定暴力団に入っていたMという男がいた。
たまにふら〜っと現れては財布に万札をぎっちりと詰め込み「哀川ちゃん、久しぶりに飲みに行こうよ。」なんて言って高級クラブをハシゴして、勘定の一切を全てMが払った。これといってごっついシノギがあるわけでもない筈なのに何故か俺の前に現れる時はリッチマンだったので俺はいつも不思議だった。
でも、俺が在籍していた組に比べれば雲泥の差でMが在籍していた組の方が大きかったので同じヤクザといえどもこんなにも差が開くんだなぁと思っていたし、悔しいから何のシノギで儲けたのかすら聞かなかった。
ある日、そのMが俺の家に泊りに来たのだが・・・翌日の早朝、ピ〜ンポ〜ン!ドンドンドン!
???誰だよこんな朝早くに?と思いながら爆睡しているMを横目に俺は玄関に歩いていき「誰?」と言うと・・・「○○警察だ!そこにMがいるだろっ!開けろ!」ドアを開けるなりドカドカと大勢の刑事がなだれこんできた。容疑は「空き巣」だった。
はぁ?容疑が空き巣?にわかには信じられなかったが、どうやらMは常習の窃盗犯で空き巣を専門に犯行を繰り返していて警察にマークされていたのだった。
おいおい、極道になって空き巣かよ・・・その後、Mが組を破門されたのはいうまでもない。

エピソード253(金庫泥棒)
ある日、縄張りが隣同士だった某一家から伝達がきた。
内容は組事務所から金庫が盗まれ犯人は身内の組員数名で、その組員を見かけたら御一報くださいというものだった。
それを聞いた俺は、ずいぶん命知らずな大胆不敵な野郎がいるもんだ・・・、よっぽどそこの組長に嫌気がさしたのか?それとも不景気で目の前にある金庫に目が眩んだのか?なんて思いつつ犯人の名前を見た。
唖然・・・はぁ?こいつ近所の余所の中学で番はってた俺と同学年の奴じゃねえかっ!その組の若衆に確認を取ると間違いなく俺の知ってる奴だった。
その後、金庫泥棒事件がどうなったかは知らないが、俺もそいつを見かける事はなかった。果たして金庫には数千万円が入っていたという話だったが犯人数人で山分けしたとして家族や友人知人、地元を捨てる程の魅力ある犯罪だったのだろうか?見つかっていたら今頃はこの世にはいないと思うが・・・。

エピソード254(変な警察官)
少年時代、いつも溜り場にしていた近所の公園に俺達はジープを停めて話をしていた。
すると一人、派出所の新人警察官らしき男が近づいてきて「君達!そこに車を停めちゃいけないんだぞっ!」と突然喚きだした。なんだこいつ?アニメ漫画に出てきそうなチンチクリンな感じの男で目を見たら尋常ではない目つきで俺達を睨んでいた。ヤバイなぁ変な奴だコイツと思って関わりたくないから無視すると・・・
「僕の話を聞け!僕の背が小さいからって馬鹿にしてるのかっ!」と半べそになりながら怒鳴りだした。
完全にヤバイぞコイツ!頭のおかしい奴だ!警察呼ぶしかない!でも目の前にいるおかしな男が制服を着た警察官なんだからどうにもならない(笑)
そしてよせばいいのに俺の友人はジープの持ち主だった事もあって、その警察官に文句を言い返した・・・とその直後、その警察官は「僕をなめるなっ!僕にはコレがあるんだぞっ!」まさかっ!?そう、腰につけてたピストルで俺達を威嚇しやがったのだ!
その後、騒ぎを聞き付けた他の警察官(正常な人)に取り押さえられた変な警察官は「僕が悪いんじゃない!」と喚き続けながら俺達の前から姿を消し、二度と会う事はなかった。
作り話のようだが本当の話で実際に人相や背格好が同じ同一人物と思われる警察官に俺達と同じようにピストルで威嚇されたという荒川区の当時暴走族の頭だった知り合いのYも言っていた。
まさかそんな変な警察官は社会問題にならないうちに解雇されているとは思うが、まぁ当時の被害にあった俺達が不良だったからこそ訴えなかったものの警察官を採用する前にきちんと適性検査してんのかよっ!親の七光りで採用しちまったんじゃねえのか?と正直思った(笑)。
エピソード255(業界用語)
業界用語なのかどうかはわからないが、初めて東京拘置所にお世話になった時、同じ房になった方々に「哀川さんは今回レツいるの?」と唐突に聞かれて「レツ???なんだそれ?」って思い、「は?」と聞きなおすと「単独犯ですか?それとも共犯がいるんですか?」と言われた。
そう、「レツ」=「共犯者」だったのだ。その他にも色々な一般の人は使わない言葉があるのだが、俺も今では一般人だが極道の事を人から質問されて「菱が・・・」とか「稲穂が・・・」なんてつい言ってしまうと全然相手に通じなかったりする(笑)菱=山口組、稲穂=稲川会という意味なのだが普段自分では知っていて当たり前だと思って使ってる言葉が通じなかったりすると、いつも「レツ?」を思い出す(笑)