エピソード256(面会所)
東京拘置所に収容されると、まぁ全国各地から来る有名犯罪未決囚に逢える。
とはいっても、有名な人(テレビや雑誌を賑わせた人物)は一般の房に入ったら騒ぎになるので独居房にて保釈されない限り刑が確定するまで生活する事になり他の者達とは交流する事は殆どないのだ。
では、どうやったら逢えるか?それは毎日のように頻繁に誰かしらに面会に来てもらうのだ。すると有名人にもやはり面会がたくさん来るので面会待ちの木で出来た電話ボックス(ビックリ箱)の付近で遭遇する確率が高くなるのだ。
実際に毎日のように面会に来てもらっていた不動産屋の社長はロス疑惑の彼や、先日死刑が確定したMなんかと待合所で遭遇したらしい。ロス疑惑の彼は意外と紳士的だったけどテレビで見たより太ってたとか、死刑確定のMは面会の際は通常は刑務官1人が付き添いなのに両脇を2人の刑務官にガッチリ挟まれていて気持の悪いニヤニヤした顔で歩いてたとか色々な話を聞いた。
俺は、そう毎日は面会に誰かが来てくれてたわけではなかったので有名人と言えば偽パイロット結婚詐欺師にしか遭遇しなかったが、さすがに死刑確定のMにだけは目撃談を聞いただけで気持悪かったので遭遇しなくて良かった(笑)

エピソード257(爆弾)
爆弾の話といっても火薬入りのあの爆弾の事ではなく、ここでは執行猶予中の事を書く。
まず、執行猶予中の犯罪者を爆弾持ちというのだ。
「俺、実は爆弾持ちだからさぁ・・・今度パクラレると懲役が長いんだよなぁ」などといった使い方をする。
執行猶予判決と言うのは例えば刑が「懲役1年執行猶予4年」の場合、本来なら1年間を刑務所で過ごさなければならないが特別に釈放してあげるけど最低でも4年間は真面目に生活してください。万が一、4年以内にまた逮捕されるような事があればその犯罪の刑にプラスして前回の刑1年も刑務所で過ごさなければならないという事になる。
まさに4年間という期間中に導火線に火が点けばいつでも刑がWパンチで爆発するという仕組みなのだ。執行猶予期間が長ければ長いほどこの爆弾に火が点く確率は高くなるので執行猶予を貰って娑婆に出られたからといって大喜びするというわけにはいかないのである。
え?俺ですか?爆弾に火が点いて刑務所に送られましたっ(笑)

エピソード258(初めての出所)
初めての出所は刑務所からではなく、懲役1年6ヵ月執行猶予3年の判決を受けて東京都葛飾区小菅にある東京拘置所からの出所となった。
正面玄関からではなく裏口を「あーぁ夏も終わりだし家に帰ったら掃除したり滞っている家賃を払わなきゃなぁ」などと思いながら釈放されたとはいえ浮かない顔で歩いて出た。
「御苦労さんです!」の大きな声でフッと我に返り顔を上げると目の前には黒塗りのセンチュリーなどの高級車が並び、一家の総長代行までもが出迎えに来て下さっていて感動した。
その後、兄貴分とガソリンスタンドに寄った時に忙しくて来られなかった総長から兄貴分の携帯に電話が入り「総長がオマエと話したいそうだ。」と言われ、緊張しながら電話にでた。
「おぉ哀川かっ御苦労さんだったな、どうだった初めての塀の中は?」と笑いながらおっしゃられた総長に「本当に良い勉強になりました」と答えた俺・・・、良い勉強になったのなら二度とパクラレないようにすれば良いのにその後も懲りずに何度も逮捕された(笑)

エピソード259(部屋探し)
青森刑務所出所後、高円寺駅が最寄りのマンションを借りて住んでいた事がある。もちろん保証人などいないので舎弟を親戚の人という事にして賃貸契約を交わしたわけなのだが、この時の部屋探しがおもしろかった。
不動産屋のネエちゃんに「この辺の街は自転車が一番便利なんですよ」なんて言われて、まさか!?と思いきや俺と舎弟の分の自転車を用意されてネエちゃんの後を金魚の糞みたいにくっついて部屋探しをする羽目になった。
自転車なんて10年くらい乗ってなかったのでビュンビュン飛ばすネエちゃんの後を必死で追いかけるのが大変だった(笑)
新しいオートロック式のフローリングのマンションを紹介してくれと頼んだ筈なのに全然関係ないボロっちい部屋ばかり紹介されて内心このネエちゃんアホか?それとも俺で暇つぶししてんのか?とも思いつつもボロ部屋巡りが続いた。
4軒目の物件、「ここなんかお薦めですよぉ!」とニコニコしながら言うネエちゃんのお薦め物件・・・オートロックなんて無い普通の平屋みたいな一軒家で、そこが2つに仕切られているような所だった。
はぁ?俺は思わず「これのどこがお薦めなの?」と聞いてしまった。するとネエちゃんニコニコしながら「隣の住人はたぶんお笑いタレントのハウス加賀谷さんですよ」・・・
オイオイ!誰がいつ住む所に笑いを求めたよっ!頼むから普通の部屋紹介してよと頼み込み、まぁ最終的には新築のオートロック式マンションに住む事ができて良かったのだが・・・あれが客を焦らしておいて最後に希望の部屋を一発で決めさせるプロの技なんだろうなぁと思った。その時は慣れない自転車乗ってイライラしたが今考えると案外楽しい部屋探しだった(笑)

エピソード260(初ボケ)
青森刑務所を出所後、一番最初にボケをかましたのがJR青森駅での事だった。
まず、自由な気分を満喫しようと240円のピースライトを買おうとタバコの自販機に歩み寄り普通に250円入れたのだが・・・ボタンが点灯しないので釣りのレバーを動かしてもう一度250円を入れたのだが結果は同じ・・・。
そう、俺が塀の中に居る間にタバコは値上がり最低でも270円になっていたのだった。しばらくしてその事に気付き無事買えたのだが、今度はライターを買おうとして売店に寄り、目の前にある100円ライターを買おうと思い「すいません、これください。」店員のおばちゃんに100円渡すと「お好きな色をどうぞ。」と言われたので普通なら黙って好きな色のライターを選んで持ってけばいいものを俺はタバコの値上がりで動揺してしまったのか「青」と答えそのまま立っていた(笑)
店員のおばちゃん笑いながら「どうぞ持って行って下さい。」俺は照れ笑いをしながら青いライターをポケットにしまい少し離れた所でようやく念願のタバコを吸う事ができた。
ヤバイぞ!俺、まさに懲役ボケじゃねぇかっ!無事に社会に馴染めるんだろうか?なんて思ったりもした。