エピソード271(初めての本部事務所)
初めて極道の組事務所に顔を出した日の事は「哀川力の体験記」のコーナーに書いてあるのだが、監視カメラの前を通り事務所の中に入った俺は同じ中学校の4学年上の先輩(兄ぃ)にこう尋ねた。
俺>「あのぅ・・・ここの○○一家って松葉会なんですか?」
兄ぃ>「違うよ」
俺>「あっ!すみません、住吉会でしたか?」
兄ぃ>「違う」
俺>「じゃあ稲川会っすか?」
兄ぃ>「違う。うちはどこでもない!ただの○○一家だ」
俺>「え?あぁそうなんですか・・・あの・・・この組の縄張りとかってあるんですか?」
この短い会話の後、俺は縄張りがどこかを北がどこまで南がどこまで東がどこまで西がどこまでと簡単に説明された。もちろんその縄張りの境界線の向こう側がどこの組織なのかも教えられたわけだが・・・俺はわかったようなわからないような頭の中がゴチャゴチャになった。
東西南北のうち3団体の広域指定暴力団に囲まれてるじゃねぇかっ!
思わず口にした次の言葉は「あの、この組って全員で何人いるんですか?」だった(笑)
兄ぃはおもむろに「そこの電話の後ろに電話帳みたいな名簿があるだろう。そこに書いてあるので全員だ。」
その名簿を見て数えた「1、2、3、・・・」
オイオイ!上から下まで全部で30人足らずじゃね〜かっ!内心俺はこんな少ない人数で数千人から1万人規模の構成員を抱える他団体相手にやっていけるもんなのか?と不思議でたまらなかった。
今でこそ某広域指定暴力団の直参扱いの○○会○○一家にはなっているが、当時は他団体の方々が事務所に遊びに来て花札なんかをやっている時、「この事務所ってさぁ抗争になって突然乗り込まれたら逃げ場はねぇし全員皆殺しにされちゃうよな」なんて笑い話で盛り上がったりした(笑)
そんな一家に入ってしまった俺は「ヤバイ組に入っちまったなぁ」と正直思ったが、少人数なだけに仲間同士そんなにライバル心を剥き出しにしない家族的で温かい一家だった。
エピソード272(監視カメラ)
コンビニの角を曲がって細い路地を歩いて本部事務所に辿り着くまで数十メートルはあるのだが、その間全てが監視カメラによって2台のモニターに映しだされていた。
昼夜問わず煌々と明るいサーチライトで道は照らされ、深夜でも鮮明に見え誰が歩いて来るのかがわかって便利だった。もちろんソファにふんぞりかえって机の上に足を乗せて雑誌を読みながら偉そうに煙草をプカプカしていても、ん?誰だ?ゲッ!親分だっ!モニターを見ていれば、そんな現場にいきなり入られて怒られる事もないのであった(笑)。
そんな監視カメラ俺達にとって便利なだけなのかと思っていたら、ある日の事、近所に住むOLに声をかけられた。「このカメラとライトって御宅の事務所のですよねぇ?すごく助かりますぅ」
あ?何言ってんだこのネェちゃん?と思って少し話を聞いてみれば、会社が終わって自宅に帰る途中に通るらしいのだけど暗くて細い道じゃ変質者とかが出没しそうだけど、こんなに深夜でも明るくて堂々と組事務所の看板掲げてる所だから安心して通れると言うのだった(笑)。
「あのカメラに向かってピースしたら事務所の人は見てるんですか?」
なんてふざけた事を言うOLだったので、「じゃあ今度の土曜日は俺一人で事務所当番してるからピースでもしてくれれば事務所のドア開けてやるよ」と俺が言ったら本当にピースして行きやがった(笑)。
意外なところで役に立っていた監視カメラでした。
エピソード273(塀の中のテレビ番組)
全国共通刑務所の中のテレビ番組といえば日曜日の夜8時からやるNHK大河ドラマと年末の紅白歌合戦だろう。
この2番組は若者から年配の方までとりあえず楽しんで!?見させられる強制番組なのだ(笑)
普段はというと祝祭日の昼間に決められた時間のみ自由にチャンネルを変えて好きな番組を見られるのだが雑居房では7人部屋なら7人全員が納得して1つの番組を見なければならないのでチャンネル争いで喧嘩が起きる事もしばしばある。
夜の番組は夕方辺りから、まずNHKの教育番組のビデオで録画したものが放映され、その後7時くらいから刑務所指定の民放番組(いきなり!黄金伝説。伊東家の食卓)などを見る事ができる。
もちろんチャンネルを変えれば野球なんかが見られるが、もちろんそんな勝手な事をすれば懲罰の対象となる。しかし、大の野球ファンにとっては試合経過が気になって看守の目を盗んで少しなら・・・なーんて思ってチャンネルこっそり変えて・・・ハイッ!アウト!看守に見つかって懲罰コースなんて者が結構いた(笑)
夜は9時でテレビの電源は自動で切れ、部屋の電気も薄暗くなり就寝時間となるので夜9時までに放映される番組なんてエロいのがあるわけじゃないんだから好きな番組見させてくれてもいいと思うんですがねぇ・・・(笑)
エピソード274(新聞社襲撃)
M兄ぃが車内にどうぞ盗って下さいと言わんばかりの紙袋に中身丸見え状態の数千万円を盗み、豪遊していた。
飲み屋のネェちゃんにブルガリの腕時計を買ってやったりと、すりゃあ毎日ウハウハな生活を送っていたのだが、部屋住みで親分の運転手だった彼は当然そんな大金を持ち帰る事もできず仲間内にもたかられるのが目に見えていたので盗んだ金は全て駅のコインロッカーに入れて使う分だけを毎回出しては飲み歩いていたのが裏目に出て結局逮捕されてしまった。
某新聞には「マヌケな暴力団員コインロッカーで御用!」なんて見出しで記事にされたわけだが、大金を手にした事がない20代前半の若者が数千万円も盗んでしまい持ち帰る所もなければコインロッカーに入れても仕方がないだろう。
しかも盗むという行為は悪い事だが誰だってスーパーやパチンコ屋の駐車場に車を停めて降りようとした瞬間に隣の車に鍵もかけずに無用心にむき出しの札束が置いてあれば盗む可能性は大きいだろう。それを真実を伝えれば良いだけの新聞が、わざわざマヌケな暴力団員呼ばわりする必要はないわけでそんな記事を載せた某新聞社にはすぐに襲撃命令が下り、機動隊に囲まれて厳重に警備された新聞社を首都高速の上からチャカで弾くという出来事があった。
幸い、高速道路上から撃ったトカレフの弾は新聞社までの距離が少し遠く届く事はなかったが・・・。
ペンは剣よりも強しとはいえ芸能週刊誌じゃあるまいし新聞が余計な脚色をつけて記事を書くのは迷惑である。弾いてこい!と命令された若衆の身にもなってみろっつうんだ!(笑)
エピソード275(事務局長)
極道にも組長・組長代行・本部長などその他にもたくさんの役職名があり事務局長という役職もあるのだが、事務とつくだけあってこの役職に就く者は大抵、字が達筆だと思う。
もちろん字が達筆なだけで誰でもなれるわけではなく礼儀正しくそれなりの極道としてのキャリアがなければなれない。
前にエピソード183で書いたが、字が上手いだけのキャリアの浅い俺みたいなチンピラには到底務まる役職ではないのである。事務局長が長期不在(服役中)で代わりを務めさせていただいた事があるわけだが、本来の事務局長が娑婆に戻って来られた時に御本人が書いた字を拝見させていただいたのだが俺とは比べ物にならないくらいの達筆だった。
事務局長だから達筆なのは当然だろうし、今の時代ではパソコンくらい流暢に扱える者が就いたりするのだろうが、ここで勘違いをしてはいけない!事務だから「事務系=頭だけ良くて喧嘩が弱い」なんて事は無く、某雑誌取材にも応じた名門一家の当時事務局長のS兄ぃなんかはパチンコ屋で店員に車を移動してくれと丁重に頼んだにもかかわらず横柄な態度をとられた事に腹を立てその場で黒塗りの日産プレジデントに乗り込みシフトをバックギアに入れ猛然と正面入り口のガラスの自動ドアに突っ込んで店内を一瞬で恐怖の渦に巻き込んだという逸話もあるくらい事務局長とはいえやはり極道であり一般市民ではないのである(笑)。