エピソード56(さらば日本)
ある事件で共犯が何人もいた為、それぞれ別の警察署に身柄を拘束された。
共犯同士面会者を通じて供述の口裏を合わさせないために、弁護士以外誰とも面会が出来ない接見禁止という扱いを受けた。
留置場でシャンプーやリンスが使える事を知らずに石鹸しか持参していなかった為、オーバーステイかなにかで逮捕されていたイラン人の親子に風呂の時に貸していただいた。イラン人親子とは特に子供の方と仲良くなり良く会話した。
ある日の事、検察庁に呼び出され俺達は同じ護送車で隣同士になった。検察庁に向かう道中、いつもは、明るくふるまっていたイラン人が涙ぐみながら窓から見える東京タワーを見て、「この景色を見るのも今日が最後…日本ともお別れ…。」と俺につぶやいた。日本に来るのも一苦労の思いで来たんだろうに、でも仕方が無いんだよなぁ国境があるから…と複雑な思いだった。

エピソード57(祭りの夜店)
俺にもまだ両親が居た幼い頃、良く年末になるとお酉様に連れて行かれた記憶がある酉の市は、たくさんの夜店が出ていて本当に楽しかった。
夜店(露天商)の方達も今とは違い本物のテキヤの方々がやっている所がほとんどで活気があって良かったと思うのですが…。
たこ焼き、お好み焼き、どちらも今現在美味しいと噂されている店に行ってもマズイとしか思えないのは俺だけでしょうか?
暴対法が施行されてから、夜店は商店街のオッサン、オバサンが嫌々やってるような訳のわかんない冗談一つ言えない人ばかりの店ばかり…ついこの間行ってきたお祭りなんて、たこ焼きに大きめのキャベツがたくさん入っていた(泣)。
おい!俺は、キャベツ太郎(駄菓子の商品名)買ったんじゃねえぞっつうんだ(笑)
エピソード58(最後の定例会)
俺がいた組織では、月に1度定例会(食事会)が寿司屋などの座敷を借りて行われたのだが、ある年の12月俺にとっては最後の定例会…その定例会が終わった後には俺の自宅前には、組織から抜ける為に既に運送屋がトラックで待機していた。
定例会の内容は、うちの組織も近々有力組織(指定暴力団)の直参扱いで傘下につくのでこの考えについて行けない者は去っていけば良いというものだった。
今日で仲間達とおさらばだ明日から俺は一匹狼なんだ…そんな悲壮感が俺には漂っていたのだろうか、隣りに座っていた俺を良く可愛がって下さった
兄貴分にビールをついだりしながら既に心ここにあらずだった俺に向かいの席に座っていた川崎竜希(現在ボクサーとして活躍中)の兄貴分(元ボクサー)が、「おい哀川、今晩これから俺と酒付き合えっ!絶対だぞ!。」と言ってきた。俺の心の中は見透かされていると思ったが、「わかりました。」と答え、
結局、酒に付き合うことなく定例会終了後に待機させてあった運送屋に荷物を郊外に運ばせ翌日には一匹狼(堅気)になっていた。俺にとって親分、先輩や後輩、兄貴分と決別するつらい決断だったが、後日、組織とはきちんと話しをし、正式に堅気となった。
今も、これで良かったんだと思っている。俺は極道という組織にむいてないから…
エピソード59(孤独)
ある日の夜、俺の学生時代の友人(関東某組織所属)が自分の縄内の店で飲まないかと誘ってきた。俺だけかもしれないが、極道というのは何だか孤独であり誰を信用していいのか分からないので、あまり身内の組織の人間とは酒を飲まず、プライベートは他所の組織や極道の世界とは無縁の人間と酒を飲むので、その友人とも度々飲みに行った。
がしかし、ある日の事、本部に俺は呼び出されその友人が所属する組織から電話があり友人は破門になったので今後客人として迎えたり交遊は御遠慮ください。という通達が出ているのに何で一緒につるんでいるんだと注意された。
知らなかった俺は、謝りそしてその友人と最後に俺の行きつけのクラブで酒を朝まで飲み、お互い今度会う時は極道辞めてマジメに暮らせるようになったら、また一緒に飲みに行こうと約束し別れた。
隅田川花火大会なんかも一緒に行き来年こそは屋形舟を借りて見ようなどと言い合っていたその友人とあれからもう何年にもなるが連絡は途絶えたままだ。
エピソード60(タバコ)
まず、警察に連行され留置場に入れられると取調室に呼ばれない限りタバコは1日に場所によって違うとは思うが1〜2本程度しか、(しかも朝1回のみ)吸えない。拘置所や刑務所になるともう出るまで完全に吸えない。
東京拘置所在監中に雑居房(7〜8人部屋)に居た時の事、どうしてもタバコが吸いたくなったF氏は、バナナの皮の裏についてる白い細い皮を集め各部屋に支給されるやかんに入ったお茶にそれを漬け糖分を抜き、その後、窓際で天日干しにし茶色くクチャクチャになったそれをタバコの葉代わりにしタバコを作り、火は眼鏡のレンズで太陽光線を集めてつけるという事を試みようとした。
一斉点検が抜き打ちである為、もしそんな事がバレたら連帯責任になるとみんなに反対されF氏もあきらめたのだが…、バナナの皮のタバコ、タールニコチン当然含まれているわけは無く、タバコを吸う雰囲気しか味わえないのですが試しに1度吸ってみたいと思いつつ未だにやってません(笑)