253話 白バイに乗った暗殺者たち
<監督:山口和彦、脚本:高久 進>
1.作品について
この2部作は、Gメン75史上の傑作であり、現場での製作時において
かなりの変更が行なわれた上に、それが成功している。
脚本の高久進氏と山口和彦監督が充分に、力量を発揮された作品である。
この作品が、目的としたのは次の点だと思う。
1)吹雪刑事の登場編として活躍シーンを描く
2)ハードアクション編を2部作でじっくり描き、質の高いものにする
3)強力な悪役を登場させ、Gメンと死闘を展開する
4)黒木警視正の活躍編としても描き、さらに南雲警視も登場させ、
Gメン全員が躍動感に満ちたものにする。
出来ばえは、吹雪刑事の活躍をはじめ全項目で成功していると思う。
2.この作品は別ページでも
102 吹雪刑事の登場、Gメンとの出会い
120 吹雪刑事と拳銃 (22口径への疑問、その他)
401 テロリスト影山の軍用ライフル(253話)
にも分散して書いているので、それらのページも参照して頂きたいと思う。
3.アクションシーン
「迫力ある射撃シーン」と「カーアクション」が、いわゆるド派手ではなく、
じっくりと撮られている。
1)射撃といえば、テロリスト影山の軍用ライフル射撃シーン。
(1) 捕えた警察官への射撃。
(2) かつての同志「火野」への射撃。これは実に凄まじかった。
2)吹雪刑事の疾走 この作品で強烈なインパクトを与えるのが疾走シーン。
それまで彼女は "静" だったが、一瞬にして "動" に激変する。
吹雪杏子の走りは速い。 そのスピードを生かして、暗殺者に一気に
肉薄する場面は、躍動感あふれる素晴らしいシーンになっている。
3)吹雪刑事の射撃シーンは、じつに衝撃的で見ごたえがある。
吹雪刑事の疾走に連続して描かれる劇的なシーン。
4)立花警部や中屋・島谷・田口らの射撃シーン
彼らも必殺の弾丸を、テロリストに撃っている。(右上の画像:中屋警部補)
この射殺シーンもかなりの迫力である。 (右の画像 :田口刑事)
また、さすがGメンと言えるのは、全体の発砲数が多いにも拘わらず、1発毎に重みがあり良く考えられて演出されている。 無駄な発砲シーンがない。
カーアクションもそれほどのカーチェイスというわけではないが、臨場感のある迫力映像であり、白バイの警察官の転倒シーンも素晴らしい。
4.強力な悪役の登場、Gメンとの死闘
1)悪者のリーダー”テロリスト影山”
テロリスト集団のボス”影山”は単なるテロリストではなく、世界を股にかけて活動し、訓練をつんだ殺しのプロである。
その影山を演じた「平泉征」は、そのキャラクターとしても、はまり役である。
リーダーに相応しい風貌と、雰囲気で視聴者を魅了した。
貫禄充分なボスを演じ、Gメン75での彼の代表作ではないかと思う。
2)強力な武器、軍用ライフル
軍用ライフル「アーマライトM16」を構える影山には凄みがある。
絵になっていて、本当に恐ろしく感じる。
3)豪華な悪役陣
平泉征だけでなく、悪役陣も素晴らしい
辻萬長、力石孝、根岸一正、等々、単独の作品で悪の主役も張れる人も多い。
これほど揃った作品も珍しいと思う。
三浦真弓も脇を固めている。
(画像以外に、233話金髪女性連続・・・の男も)
テロリスト火野を演じた「力石孝」は、登場早々に車ではねられ、思い出シーン以外には見せ場がない。
あれほどの悪役が、こうあっさり倒れることは他の作品では考えられない。
力石孝氏も、単独の作品では悪の主役を張れる俳優である。この作品の悪役がいかに豪華な陣容かが判る。
5.脚本の変更について
注)シナリオと本編の検証は、KAJITA巡査さんがHPにて詳細に記載されているので、参照して下さい。
1)メリットとデメリット
大筋での変更はない。 しかし「前編のラストと後編の最初」に、かなりの変更が行なわれている事と、その他も幾つかの箇所で変更が行なわれている。
ストーリーがつながりにくくなっているのは、デメリットであるが、
(1)”吹雪杏子とGメンとの出会い”を重視し、印象的な場面に仕上げた事と
(2)ハードボイルドの雰囲気を高めて、品質がアップした。
というプラス効果が生まれた。
結果論として、撮影現場での変更は大きな成果をあげたと思う。
2)脚本では
高久進氏は脚本において、
前編 影山に吹雪刑事が連射、また連射という衝撃シーンで終わる
後編 射殺したはずの男が生きていた。なんと防弾チョッキを着ていた。
という意外性を感じさせる展開にしていたが、
本編では、それよりも、
”吹雪杏子とGメンの出会いの場面”を重視している。
この変更は、ストーリーの流れと意外性を重視する脚本に対し、ドラマの盛り上げを重視する現場(山口和彦監督だと思うが不明)が変更したのだと思う。
ストーリーはつながりにくくなるが、映画等では正確な現実性から離れて作られる事も多いので、あえて変更に踏み切ったのだろう。
<出会いの場面と、捜査の??>
Gメンたちが屋上に飛び出したとき、後ろ向きに女が立っている。
その女は”ゆっくり”と振り返る。
→決して、素早くは振り向かない
女は目の前に拳銃を突きつけられるが、何事もないかのように平然と説明を始める。
通常なら、「いま逃走した男を、すぐに捕まえようとする」 はずの場面である。
ところが立花・中屋、田口、吹雪らは、誰1人そんな行動はとろうともしない。
吹雪杏子との出会いを印象づけ、そのうえハードボイルド面を強調した演出が行なわれ、デメリットを凌ぐ成果を上げている。
脚本での出会いシーンは、後編冒頭に「SP所属の吹雪です」の後は、普通の捜査活動と同じような描写だけである。
3)テレビドラマ製作上の制約
毎週作品を作らなければならないテレビドラマにとって、時間的・予算的な制約は極めて大きい。
現場で大きく変更すると、ストーリーがつながりが難しくなる。映画と違い脚本の練り直しは出来ない。
当然リスクを伴うが、その制約の中で、このような大胆な変更を行なったのは英断だと思う。
限られた僅かの時間を利用して、良い脚本をさらに良いドラマに仕上げようとするスタッフの熱意が感じられる。
6.吹雪刑事 活躍シーンの制約
登場シーンは102 吹雪刑事の登場、Gメンとの出会いを参照して頂きたい。
登場シーンには、2部作ゆえの制約があった。
1)前編ラストで、吹雪刑事が衝撃的に登場する。しかし、
2)影山はこの時点で射殺されてはならない
その為に脚本で高久進氏は、「拳銃の性能」を「防弾チョッキの性能」が上回った事により、影山が生き延びた。というアイデアを考え出した。
(セリフでは22口径の拳銃だが、実際は38口径と思われる。
→ 「120.吹雪刑事と拳銃」のページ記載)
但し、現場の状況から少し無理が生じている。
脚本でも、「吹雪刑事の連射、また連射」で、影山を銃撃するわけであるが。
現場の状況は、吹雪刑事が下から見えるのは、影山の上半身のみで、当然"頭"も見えている。
杏子の射撃能力なら"頭”を撃つことは簡単な距離である。ところが影山が死んではドラマが終わる。
常識的には無理があるが、吹雪刑事は"頭”も"腕”も撃たず、彼女から少ししか見えない防弾チョッキで守られた箇所だけに、多くの弾丸を命中させている。
これでなければ、影山は生き延びることが出来ない。
7.テロリスト影山の恋人
影山の恋人”雅代”を演ずる、結城しのぶさんが登場する場面は、彼女の美しさもあいまって、激しい闘いの中で清涼感がただよう。
影山の外からは見えない一面ではあるが、彼女は決して隠れ蓑だけではないだろう。
しかし影山は彼女をも冷たくあしらう行動をとる。
非情なテロリストには、本当に人間らしさは残っていないのか?
8.手ブレの撮影
吹雪刑事が駆けて出していくシーンは、手ブレで撮られている。
深作欣二さんは、アクション場面を手ブレで取ると緊迫感が出ると言われているので、ひょっとするとこの撮り方は深作さんの依頼かもしれない。
9.吹雪刑事の発砲現場
先輩HP管理人の「山田八兵衛さん」が、2004年11月に吹雪刑事が発砲した現場を発見されている。 実にありがたい。
そのHP(Gメン75の風景:253話)には、地図等の記載もあるのでぜひ参照して頂きたいと思う。
管理人は2006年3月に現地を訪問した。その時に撮影したのが右の画像である。
撮影現場はJR福生駅の近くにあり、ビルも (改装されたようだが)
吹雪刑事が駆け上がった階段も、当時のまま残っている。
最上階まで階段を登ったが、屋上には鍵が掛かっていて出られなかった。
作品に登場する 「大聖病院」 は、このビルの目と鼻の先にある。
発砲したビルの隣に、別のビルが建っているのが、当時とは違うくらいか。
階段の上から見ると、あのあたりを吹雪刑事が走ってきたのだなと良くわかる。
ここは、是非行って見て欲しいと思う現場である。
(高久進氏は脚本を書くとき、このビルと病院の位置関係を知っていて書いたのだろう。なぜならもし脚本が書いたあと、相応しい現場がなければ書き直す必要があるから。)