

忘れられがちな高血圧の運動療法![]()
お薬の飲み忘れはなく、減塩などの食事療法が上手くいっている人でも忘れられがちなのが、運動療法です。
1960年代までの高血圧は、主に塩分の摂りすぎが問題でした。しかし、最近の高血圧は、太り過ぎや運動不足の影響が大きくなっています。では、高血圧には、どのような運動が有効なのでしょうか。通常、早歩き程度の運動が、最も血圧を下げるのに有効とされています。自覚症状としては、軽く息が弾む程度、軽く汗ばむ程度の運動で、息切れはしていても会話が出来る程度の運動がお勧めです。これを心拍数で表しますと、{ ( 220 − 年齢 − 60 )X 0.50 } + 60 となります。したがって、年齢が、40歳ですと120、50歳ですと115、60歳ですと110の脈拍となる運動が、最も降圧効果があります。では、運動中の心拍数は、どのようにして知ることが出来るのでしょうか。
運動直後に、手首の内側、親指の根元に、反対側の手の人差し指、中指、薬指の三本の指をあてて15秒間の脈拍を測定します。これを4倍し、1分間の脈拍に換算します。運動直後は、急激に心拍数が低下することから、この数値に10を足すことで、およそ運動中の心拍数となります。高血圧の治療としておこなう場合には、1回10分以上の運動を合計1日に30分以上おこなって下さい。但し、家庭血圧で、上が160以上、もしくは、下が100以上のいわゆるV度の高血圧では、運動中更に血圧が上昇するため、まず、お薬で血圧を下げてからの運動をお勧めします。
わざわざ運動の時間がとれない場合でも、日常の身体活動が、健康によい影響を及ぼします。65歳以上では、運動の強度を問わず一日に40分以上の身体活動をおこなうことが、18歳から64歳では、3メッツ以上の強度運動を一日に60分以上おこなうことが推奨されています。メッツとは、安静時を1として何倍のエネルギ−を消費するかの指標です。アイロンがけや皿洗いは、2.3メッツで、運動強度としては、弱い印象ですが、掃除機は、3.5メッツ、風呂掃除は、3.8メッツ、庭の草むしりは、4.5メッツであり、降圧効果が期待出来ます。
若年期の高血圧は、中年期の認知機能の低下を招き、中年期の高血圧は、高齢期の認知機能の低下の原因となりこのため、中年期までは、血圧をできるだけ低く保つことが、高齢になってからの認知症を予防すると考えられています。また、中年期の血圧が正常であった人は、高齢期になっても血圧を下げておくことは、認知機能の低下を防ぐのに有用とされています。しかし、若い頃から高血圧を放置し、すでに認知症を発症している患者様に対する降圧剤の処方が、認知症の進行を防ぐかどうかについては、一定の見解は、得られていません。その原因として、立ち上がった時に血圧が下がる起立性低血圧のある人や、一日の血圧の変動の大きい人は、認知症が進行することが知られており、下がりすぎにも注意する必要があるからかも知れません。また、中年期に認知症に影響を与える因子としては、主に、難聴、高血圧、肥満の3つですが、高齢期の認知症の進行に影響する因子として、喫煙、鬱状態、身体非活動、社会的孤立、糖尿病など幾つもの因子が関与してくるため、血圧の影響が少なくなるのかもしれません。
現在、認知症を根本的に直すお薬はありません。今後の認知症患者様の増加を防ぐには、中年期の血圧を下げておくことが大切と考えています。また、高齢者の認知症に対する降圧の効果に関しては、議論があるものの、一般には、米国、欧州、日本の高血圧に関するガイドラインのすべてが、高齢者でも血圧をしっかり下げることが推奨されています。これは、最近、高齢者の心不全が増加しており、血圧を下げることが、例え高齢であっても心不全の悪化を防ぐ効果のあることが分かったからです。
特定用保健食品(トクホ)は、高血圧に有用か?
特定用保健食品(トクホ)とは、保健の効果を医学的、栄養学的に証明し厚生労働大臣が許可した食品で、保健の効果や栄養成分の機能などを表示できる食品を指します。高血圧においても、トクホに指定された製品がいくつかあります。今回は、高血圧におけるトクホの意義について記載してみました。トクホとして認可されるためには、動物実験だけでなく、人を対象とした試験で効果を証明する必要があり、トクホを使用した人とそうでない人を比較して、12週間以上にわたってその効果を検証しなくてはなりません。
製品によって含まれる成分は異なりますが、高血圧に用いられるトクホには、主に次のような成分が含まれます。ペプチドには、降圧剤として使われるアンジオテンシン変換酵素阻害剤と同じような働きがあります。杜仲様配合体には、副交感神経を刺激して血管を広げ、血圧を下げる働きがあります。γ−アミノ酪酸には、血管を収縮させる働きのあるノルアドレナリンの分泌を抑制して血圧を下げる働きがあり、燕龍茶エキス(フラボノイド)には、一酸化窒素を介し血管を拡張させる働きがあります。
このように、トクホは、ある程度血圧を下げる効果が期待できます。しかし、血圧を下るための基本は、適度な運動、肥満の予防、減塩食、カリウムの摂取、飲酒の制限、十分な睡眠などであり、トクホは、決して生活習慣の改善に代わりうるものではありません。また、トクホの製品には、「
血圧が高めな方に適した食品である 」と記載されていますが、血圧の高めな方とは、収縮期血圧が130台程度であり、高血圧には至っていないが高めであるという人を指します。収縮期血圧が140以上の場合は、高血圧症であり、脳卒中や心筋梗塞を防ぐ為、トクホを摂って様子をみるのではなく、医療機関を受診していただく必要があります。
高血圧治療ガイドライン2019に基づいた高血圧の定義
今回は、高血圧治療ガイドライン2019に基づいた血圧の正常値や高血圧の基準を記載しました。診察室で測定した上の血圧が、120以上になった場合や、下の血圧が、80以上になると、高くなればなるほど脳卒中や心筋梗塞を発症する確率が、増加することが分かっています。このため、上の血圧が、120未満で、なお且つ、下の血圧が、80未満を正常血圧と定義しています。家庭で測定した血圧は、診察室で測定した血圧に比べて低くなるため、家庭血圧の正常値は、上が115未満で、なお且つ、下が、75未満と定義されており、かなり厳しい数値となっています。診察室で測定した上の血圧が、140以上、もしくは、下の血圧が、90以上で、高血圧と診断されます。家庭血圧での高血圧の基準は、上の血圧が、135以上、もしくは、下の血圧が、85以上となります。夜間睡眠中は、通常血圧が低下するため、上が、120以上、もしくは、下が、70以上で高血圧と定義されます。
わが国には、計約四千万台の家庭血圧計があると言われています。また、病院で測定される血圧よりも家庭血圧の方が、脳卒中や心不全を予防するためにはより重要であるとされています。今回は、今年改訂された高血圧治療ガイドラインに示された家庭血圧の測定方法について解説します。
家庭血圧は、静かで適当な室温の環境で測定しましょう。冬も寒い部屋での測定は血圧を上昇させるので御注意下さい。背もたれ付きの椅子に足を組まずに座り、1〜2分安静にした後、測定することとなっています。会話をしていない状況で、タバコ、飲酒、コーヒーなどを摂取する前に測定するのが原則です。血圧計のカフは、心臓の高さに維持して測定しましょう。
朝の測定は、起床後1時間以内に行ない、排尿後、朝の服薬前、朝食前に測定してください。これは、お薬を飲む前でも血圧が上がっていないかをみるためです。また、人の血圧は早朝に上昇する傾向があります。病院での血圧が正常であっても、早朝の血圧が上昇していないかを見ることは大切です。夜間は、就寝前座位1〜2分安静ののちに測定してください。夜間の血圧を測定するのは、降圧剤を内服されている場合は、下がりすぎていないかを知る目的もあります。夕方になると血圧が上昇する方がおられますので、夕食前に時々測定しておくのも意義があります。入浴や飲酒は、血圧を変動させます。従って、入浴前に高すぎないか、また、入浴後に下がりすぎてないかも時々測定してみましょう。飲酒をされる方は、飲酒後の血圧の低下や飲酒翌朝の血圧上昇もチェクしてみて下さい。
(令和1年5月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)
世の中には、数え切れない程の種類の疾患があります。しかし、その中で最も人々の健康寿命に影響を及ぼし、尚かつ、治療可能な疾患が、高血圧症です。人は、病院で測定した血圧が120/80mmHgを超えて高くなる程、脳卒中・心筋梗塞・腎臓病・認知症などを発症する頻度が増加し、その結果、寿命が短くなるだけではなく、要介護状態になる危険性も増加します。日本では、高血圧に起因する脳心血管疾患で亡くなられる方が、年間10万人と推定されています。健康日本21では、食生活・身体活動・飲酒などの対策推進により国民の上の血圧の平均を
4 mmHg低下させることを目標としており、わずか 4 mmHg低下させるだけで、脳卒中による死亡が年間1万人、心筋梗塞などの虚血性心疾患による死亡者が5千人減少すると推測されています。血圧を4
mmHg低下させるための具体策として、食塩摂取量を1日 10 g程度摂取している食塩摂取量を 8 g程度へ減少させる、野菜や果物の摂取量を1日
350 gへ増加させる、肥満者を減少させる等の食生活の改善により 2.3 mmHg、1日の歩数を 1500 歩増加させるという運動量の増加で
1.5 mmHg、多量飲酒者を減少させることにより0.12 mmHg、高血圧にもかかわらず降圧剤を内服していない人の服薬率を 10 % 増加させることにより0.17
mmHg低下させることで、全体として 4 mmHgの低下を目標としています。血圧の管理には、お薬だけでなく生活習慣の改善も大切です。
血圧は、低い方がよい
仮面高血圧
(28年8月のコミュニティー紙「おかあさんチョット」に掲載されたものです。)
診察室の血圧と家庭血圧が異なることは、珍しくありません。自宅での血圧が高いにも関わらず診察室での血圧が正常となる人は、診察室での血圧が仮面を被ったように正常な数値であることから、仮面高血圧と言われています。
仮面高血圧には、早朝、活動しやすくなるように交感神経やレニン・アンジオテンシン系の神経内分泌系が亢進することによっておこる早朝高血圧、心不全や腎不全のため下肢に貯留していた血液が横になった時に戻ってくることによっておこる夜間高血圧、睡眠中に息が止まった状態になるため苦しくなり血圧が上昇する睡眠時無呼吸症候群による夜間高血圧、職場や家庭でのストレスのため、昼間の時間帯が医療機関で測定する血圧よりも高いストレス下高血圧、交代勤務のある人が昼間の睡眠中に夜間の睡眠中に比べ交感神経の活動が低下しないためにおこる高血圧など、様々な状態があります。仮面高血圧は、診察室の血圧が正常であっても脳卒中や心筋梗塞を増加させることが知られており、その診断は、大切です。
家庭血圧は、1、2分の安静の後に、会話をせず測定します。入浴の影響は60分、飲酒の影響は4から8時間持続するため、入浴後60分以内の血圧や、飲酒後4〜8時間以内の血圧は、普段の血圧を反映しません。
また、測定の姿勢は、原則として背もたれ付きの椅子に足を組まずに座っておこないます。畳の上に正座をして血圧を測定すると、下肢動脈が圧迫され、血圧が本来の値より高く測定されますので気を付けて下さい。
(27年2月の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。
血圧を下げる運動とはどのような運動かを今回考えてみたいと思います。いきむ運動は、血圧を上げます。高血圧の人が重量挙げや相撲のようないきむ運動をした場合、2つの問題点があります。
1つは、その時に血圧が極端に上がり危険を伴う可能性があるということです。そして、もう1つは、そのような運動を繰り返しても降圧効果があまりないということです。
では、どのような運動が、血圧を下げるのでしょうか。一般的には、好気性運動と言われている運動が血圧を下げます。好気性運動とは、筋肉が酸素を取り入れながら動く運動ですので、終わった後も筋肉に乳酸が蓄積しません。従って、運動した翌日も筋肉が痛むことはありません。簡単には、軽く息がはずむ程度の運動で、運動中に会話が出来るというのがポイントです。会話が出来ない状況というのは、血圧を下げる運動としては、過剰です。即ち、会話が出来ないような激しい運動をおこなっても、血中にカテコ−ルアミンなどの血圧を上げるホルモンが増加するため、軽い運動に比べて降圧効果がかえって低下します。具体的には、心拍数 138− ( 年齢 ÷ 2 ) となる運動が、血圧を下げるには、最適です。60歳の患者様でしたら、138− ( 60 ÷ 2 ) =108 であることから、1分間の心拍数が108になるような運動が、最も血圧を下げるということです。108を6で割りますと18になりますので、60歳の患者様ですと10秒間に18回脈が打っていれば、血圧を下げるために最も適した運動ということになります。
それでは、筋肉トレ−ニングは、有用ではないのでしょうか。高血圧の治療という面では、筋肉トレ−ニングは、不要です。但し、高齢者の健康寿命には、歩行能力がどれくらいあるかということが大きく影響します。
健康寿命を延ばすためには、筋力を維持することは、もちろん大切です。また、糖尿病の患者様の場合は、筋肉が増加すると安静時に消費するカロリ-が増え、血糖が低下します。したがって、糖尿病の患者様の場合は、このような好気性運動に加え、筋肉を付ける嫌気性運動も合わせておこなうことが、大切です。
果物は、血圧に良いの?
(23年11月のコミュニティー紙「おかあさんチョット」に掲載されたものです。)
果物には、カリウムが豊富に含まれています。カリウムは、塩の成分であるナトリウムと一緒に腎臓から排泄されます。カリウムを大量に摂取しその排泄量が増加すると、血中のナトリウムも排泄され、塩分を控えたのと同じ効果が生まれ、血圧の低下が期待できます。また、果物には、ビタミンや食物繊維が豊富に含まれており、食物繊維には、コレステロ−ルの吸収を抑制する働きもあります。
しかしながら、果物には、緑黄色野菜とは違い、果糖、砂糖、ブドウ糖等の糖類も豊富に含まれています。このため、糖尿病の患者様の中には、冬、寒いので外出が減り運動不足になって悪化する人がいる一方、夏から秋にかけて果物を食べ過ぎて血糖が上昇する人も少なからずみられます。果物は、血糖を上げるだけではありません。使われずに余った糖類は、体の中で、中性脂肪に変わります。増加した中性脂肪は、お腹の脂肪に変わり、お腹の脂肪がたまってくるとメタボリック症候群になり、血圧や血糖が上昇します。スイカ、梨、びわ、リンゴに多く含まれる果糖は、ブドウ糖に比べて脂肪になりやすい糖と言われています。
肥満や糖尿病がなく中性脂肪も高くない高血圧の患者様には、果物がお勧めです。しかし、肥満や糖尿病がある場合、果物を摂る時は、食事を減らす、果物の代わりに生野菜でビタミン、食物繊維、カリウムを摂取するなどの工夫が必要です。最後に、腎臓の悪い人も、カリウムが上昇しやすいので、果物には注意が必要です。ブラジルの奥地には、塩を全く食事に使わず、メタボも存在しない原住民が居ます。そこでは、ほとんどの人達の血圧が、120以下です。また、人間と遺伝子がほぼ同じである野生のチンパンジ−の血圧は、120以下ですが、人間と同じ塩分の多い食事を与えると血圧が上昇してきます。塩分を一日に1〜2g以下にすれば、過半数の人の高血圧は、是正されると考えられています。
現在、日本人の一日の塩分摂取量は、11gです。梅干し1個には、2.2gの塩分が入っています。朝食を梅干しとみそ汁からパンとコ−ヒ−に変えると確かに減塩効果はあります。しかし、6枚切りの食パン1枚にも0.8gの食塩が、バタ−には、0.2gの食塩が入っており、一日に1〜2g以下は、不可能な数値です。このため、栄養バランスを考え、可能な範囲の塩分制限として、日本高血圧学会は、一日6g以下にすることを推奨しています。
高血圧のない社会を造るには、個人の努力では、困難な部分があります。これは、パンやバタ−に限らず、売られているほとんどの食品にはじめから塩が添加されているからです。人類は、塩中毒になっています。人間の塩に対する味覚は、制限していると敏感になり、塩の多いものを摂っていると鈍感になることが分かっています。
高血圧のない社会を造るには、社会全体で塩中毒を是正する必要があります。
上の血圧と下の血圧、どちらが高い方が危険でしょうか?
(23年5月のコミュニティー紙「おかあさんチョット」に掲載されたものです。)
心臓が収縮すると血液が拍出され、血管内の圧が上昇します。
一番高くなった時の圧が、収縮期血圧「上の血圧」です。一方、心臓が拡張を始めると、血圧が低下します。心臓が収縮する直前に血圧が最も低下しますが、この時の血圧を、拡張期血圧「下の血圧」と言います。
では、「上の血圧」と「下の血圧」のどちらが問題なのでしょうか。
塩分を摂りすぎ血管内の血液量が増加し血圧が上昇した場合、「上の血圧」も「下の血圧」も上昇するはずですが、若くて血管が軟らかいと、心臓が収縮した時に大動脈が拡張し大動脈内に血液が貯留されるため、末梢で測定した「上の血圧」はあまり上昇しません。この場合、大動脈に貯留した血液は、心臓が血液を送り出すのをやめた拡張期に流れるため、「下の血圧」が、逆に上昇します。
一方、高血圧の病歴が長くなり血管が硬くなってくると、心臓が収縮した時に大動脈に貯留できる血液量が減少するため、「上の血圧」が上昇します。この場合、大動脈に貯留される血液量の減少に伴い、拡張期に末梢に流れる血液量も減少するため、「下の血圧」は、むしろ、低下します。
高齢者では、「下の血圧」が低くても、「上の血圧」が高ければ、血管が硬くなった結果と考えられ好ましいことではありません。したがって、「上の血圧」を下げておくことが大切です。ただし、大動脈が軟らかいため「下の血圧」だけが上昇している比較的若い患者様では、将来、大動脈が硬くなり「上の血圧」が上昇するのを防ぐため、「下の血圧」をしっかり下げる必要があります。
日本高血圧学会のガイドラインでは、血圧の高い人の塩分摂取量として、1日6g以下が推奨されています。ところが、外食には、多くの塩分が含まれており、昼に外食をして一日の塩分を6g以下にするのは、かなり困難です。今回は、どうしても外食をしなくてはならない人のための外食の選び方をお話しします。
丼には、塩分が多く入っています。できれば定食を選び、ソ−スや醤油はかけないようにし、味噌汁と漬け物は残しましょう。炊き込みご飯、混ぜご飯、チャ−ハンなどの味付きご飯は避けましょう。そばやうどんには、多くの塩分が含まれており、汁まで全部飲むと5〜6gになってしまいます。汁は必ず残すようにしましょう。そばよりもうどんの方がより多くの塩分を含んでいますので参考にして下さい。また、ざるそばのようにつけ麺にすると塩分が控えられます。つけ麺の汁を水で薄めると更に効果的です。
どうしてもラ−メンが食べたい時は、味噌味→豚骨味→醤油味→塩味の順に塩分が高くなることを覚えておき、味噌ラ−メンを選びましょう。汁だけでなく、しなちく、なると、チャ−シュウには塩分が多いので残すようにしましょう。何か一つ選ぶなら、野菜ラ−メンがお勧めです。また、ぎょ−ざやチャ−ハンは付けないようにしましょう。最後に、わさび、とうがらし、七味、胡椒などは、血圧を上げません。自分で造る場合には、これらの香辛料を旨く使って下さい。
高血圧の歴史
(21年6月の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)
1733年英国人ハレスは、馬の頚動脈にガラス管を挿入し、世界で始めて血圧を認識しました。
その後、血管に管を直接挿入して血圧が測定できるようになったものの、痛みと出血を伴うため実用的ではありませんでした。1905年、日露戦争に従軍していたロシアの軍医コルコトフは、動脈と静脈の間に穴が開き血液が流れると聴診器で血管雑音が聴取されることにヒントを得て、現在の聴診器を用いた血圧測定法を発明、容易に血圧が測定できるようになりました。
米国の生命保険会社が加入時の血圧と死亡との関係を調査、戦前、すでに高血圧が脳卒中や心筋梗塞の原因となる危険な疾患であることは分かっていました。第二次世界大戦中の米国の大統領ルーズベルトは、高血圧でした。昭和20年1月、4回目の就任式の時、血圧は、上が260 mmHg、下 150 mmHgであったと言われています。昭和20年2月、ヤルタ会談に臨んだ時は、高血圧のため判断力が低下しており、北方領土を含む戦後処理の話し合いがスタ−リンに有利に働いたとも言われています。当時、有効な降圧剤がなかったため、塩分制限などを行うも効果なく、昭和20年4月、脳出血のため永眠しました。
1960年、現在でも広く使われているフルイトランが発売され、高血圧の治療は飛躍的に進歩します。その後の高血圧の治療の進歩に伴い脳出血は著明に減少、脳出血と結核の多発国であった日本人の平均寿命は、先進国中最下位から一躍トップへ躍り出ます。
ところで、現在進行中の大河ドラマ「天地人」では、柴田勝家率いる織田軍に勝利した上杉謙信は、春日山城に帰り琵琶を奏でながら49歳の若さで絶命します。謙信が、脳卒中で死亡したことは間違いないようです。しかし、倒れた場所について「続本朝通鑑」「北越軍記」では、厠で倒れたと記載されていますが、上杉家の文書にはその記載がないそうです。脳出血、特にクモ膜下出血は、血圧の高い人が、朝、大便でいきんだ時に動脈瘤が破裂し発症することが多く、私は、厠で倒れたのだろうと想像します。上杉家の文書は、そのカリスマ性を維持するため、厠で倒れたことを伏せたのではないでしょうか。謙信は、敵将武田信玄に塩を送ったことでも有名ですが、健康のために塩分の摂取を制限していれば脳出血で死亡することなく、天下を取れたかも知れません。なんせ、当時最強といわれた織田軍の鉄砲隊を撃破したのですから。高血圧や糖尿病は、脳卒中や心筋梗塞の最大の原因です。これまでは、診察室で血圧を測定して、その値をどこまで下げるか、朝、空腹時の血糖を測定してどこまで血糖を下げるかに治療の目標がおかれてきました。
しかし、最近その様な考え方に変化が生じています。
たとえば、一般に診察室での収縮期血圧が140以上の場合、高血圧と考えられますが、家ではリラックスしているので、家庭血圧が
135 以上あれば高血圧と推定されます。
睡眠中は、更に血圧が低下するのが普通であり、睡眠中の収縮期血圧が120 以上あれば高血圧と言えます。
当院では、1996年から24時間血圧計を用いた夜間睡眠中の血圧の測定を行ってきましたが、昼間の血圧よりも夜間睡眠中の血圧の高い人が時々みられます。最近、昼間の血圧が下がっていても、夜間睡眠中の血圧が高いと脳卒中や心筋梗塞の発症率が高いことが明らかになっています。夜間睡眠中の血圧を測定しない場合には、少なくとも、夜間睡眠中の血圧に近い値を示す早朝の血圧を測定しておくことをお勧めします。
一方、糖尿病のコントロ−ルでは、朝、空腹時の血糖が重視されてきました。しかし、最近では、食後血糖の重要性が注目されています。糖尿病のない人は、いくら沢山食べても、血糖は、せいぜい150〜160らいまでにしか上昇しません。したがって、150〜160までは上昇していても血管は傷まないと言われており、200以上に上昇してくることが動脈硬化を促進すると考えられています。言い換えれば、空腹時血糖が120であっても、食後血糖がそれ程上昇しなければ血管は傷みません。しかし、食前の血糖が90であっても、食後血糖が200を超えてくるようであれば、動脈硬化は進行します。
動脈硬化を防ぎ、心筋梗塞や脳梗塞を予防するためには、食前血糖よりも、食後血糖を管理することが大切です。
このため、糖尿病のコントロ−ルの指標として、血糖のみでなく食後血糖をある程度反映するHbA1cや食後血糖の影響を強く受ける1,5-AGが用いられます。
血圧も血糖も、刻々と変化しています。24時間きっちり下げておくことが大切です。
高血圧症 きめ細かな治療を目指して
(20年12月の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)
日本人の上の血圧をわずか 2 mmHg 下げるだけで、年間の脳卒中による死亡を9000人減らすことが出来ます。
心筋梗塞や脳卒中を予防することが、高血圧を治療する最大の目的です。高血圧の患者様にまず行うのは、本態性高血圧か二次性高血圧かの鑑別診断です。
二次性高血圧とは、腎臓病や原発性アルドステロン症等の疾患があるために血圧が上昇している状態を言い、高血圧全体の約1割を占めます。二次性高血圧は、通常の高血圧とは治療が異なります。
たとえば、原発性アルドステロン症とは、副腎の腫瘍等が原因となり、血圧を上げる働きのあるアルドステロンと言うホルモンが過剰に分泌され、血圧が上昇する疾患です。原発性アルドステロン症は、副腎の腫瘍を摘出することにより外科的に完治し得る高血圧です。
一方、本態性高血圧症とは、高血圧の素因に塩分の過剰摂取、肥満、運動不足などが加わっておこる、いわゆる生活習慣病で、高血圧全体の9割を占めます。
本態性高血圧症では、生活習慣の改善が大切ですが、詳細は一人ひとり異なります。たとえば、カリウムは、血圧を下げる働きがあり、血圧が高いとカリウムを多く含む果物の摂取が勧められます。
しかしながら、肥満が原因で血圧が高い場合には、果物の摂取が体重を増加させ血圧を上げる可能性があり、また、糖尿病の悪化や中性脂肪の上昇を招く可能性もあります。
高血圧の人には、血圧を下げるための運動がお勧めですが、健康のためにはじめたマラソン中の死亡事故も後を絶ちません。
高血圧の治療として運動を行う場合は、どの程度の運動が有効で且つ安全かを診察時に御相談頂くことをお勧めします。
一般に、高血圧の治療を受けている人の半分は、処方したお薬が弱かったり、時々飲み忘れたりして、診察時の血圧が十分に下がっていないと言われています。また、診察時の血圧が正常に下がっている人でも、その半分は、早朝高血圧などがあり、家庭での降圧が不十分であるとも言われます。通常、夜間睡眠中、血圧は低下しますが、逆に、上昇する人がいます。このため、24時間携帯血圧計を装着していただき、血圧の日内変動を見ながら治療する場合もあります。
血圧は、夏に比べ、冬は上がります。体重の増減や季節の変化などにも気を付けながら、きめ細かくお薬を調節することが心筋梗塞や脳卒中を予防する上で大切です。
塩分を控えても血圧が下がらない?
漬物を食べないようにし、醤油やソ-スはかけず、味噌汁の汁も飲まないのに血圧が下がらないとの御質問をよく受けます。石器時代の人は、一日に1g程度の塩分しか摂っていませんでした。現在、私たちは、一日に11g程度の塩分を摂取しています。その約75%は、ハムやかまぼこなどの加工食品から摂取しているので、料理に塩を加えなくても塩分が過剰になっています。朝、梅干をやめて、パンとバタ−を食べても、無塩パンや無塩バタ―を使わない限り、塩分を十分に制限できないことが多いのです。このため、調理の段階から、加工食品を使わない工夫をする必要がありますが、容易ではありません。
米国では、脂肪、肉、スナックを減らし、低脂肪乳製品、野菜、果物、豆類、魚を中心としたDASH食と言われる食事が、減塩食以上に血圧を下げるとの研究があります。乳製品のカルシウムや野菜、果物、豆類に含まれるカリウム、マグネシウムに血圧を下げる働きがあるからです。メタボリック症候群のお腹の脂肪は、血圧を上げる原因となります。5.1
kgの減量が、上の血圧を4.4 mmHg下げると言われおり、たとえ数Kgでも減量することは、有効です。
毎日30分以上の運動を続けると、上の血圧が11 mmHg下がると言われています。
一日2合以上の飲酒は、血圧を上げます。
加工食品を使わない減塩食でバランスの良い食事を続けることは、困難ですが、野菜や果物の摂取、カロリ―制限、運動、飲酒の制限等を旨く組み合わせれば、減塩が不十分であっても血圧の低下が期待できます。
早朝高血圧と仮面高血圧
(17年2月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)
最近、早朝高血圧や仮面高血圧(逆白衣高血圧)という言葉が一般にも知られるようになりました。
病院で測った血圧が正常であっても、起床直後の血圧が極端に上昇している場合があり、このような場合を、早朝高血圧と言います。病院で測定した血圧の値が同じであれば、早朝高血圧の人の方が、そうでない人に比べて脳卒中や心筋梗塞の発生頻度が高いことが知られています。
人は、朝、交感神経系の機能が亢進することにより、血圧や心拍数が上昇し、活動しやすい状態となります。従って、朝、血圧が全く上昇しなければ、活動に支障をきたすこともあり、低血圧の人の寝起きが悪いのもそのためと考えられています。
しかしながら、これらの急激な血圧や心拍数の上昇は、心筋の酸素消費量を増し、血管を収縮させて、心臓突然死、心筋梗塞、脳卒中等の発生頻度を増加させますので、注意する必要があります。
仮面高血圧とは、外来受診時の血圧が正常であるにもかかわらず、家庭や職場で測定した血圧が高い場合を言います。その頻度は、健診で、正常血圧と判定された人の10%近いと報告されています。
外来受診時に、仮面をかぶっているように、本来の姿が見えず、高血圧患者さんを正常血圧と判断してしまうというところから名付けられました。別名、白衣の前では血圧が正常であることから、逆白衣高血圧とも言われています。この機序として、普段、仕事のストレスなどで高血圧があるにもかかわらず、受診時は会社の休みの日であったり、仕事から離れているため、血圧が正常になるからではないかと推定されています。
仮面高血圧の人も、一般の高血圧の人と同程度に脳卒中や心筋梗塞を引き起こすと言われており、注意が必要です。早朝の血圧や仮面高血圧を評価するために、もし、自宅で血圧を測定されているようであれば、何かに記入して、受診時にお見せ頂ければ、より適切な血圧の管理ができるのではないかと考えます。
もっと薄味に慣れよう (コンビニ弁当の見方、Naと塩)
(17年2月のコミュニティー紙「おかあさんチョット」に掲載されたものです。)
塩分を控えることによりどの程度血圧が低下するかは、その人の体質により異なりますが、一日の塩分摂取量が3g低下すると、収縮期血圧が1〜4mmHg低下すると試算されています。
一方、日本人の収縮期血圧が、わずか2mmHg低下するだけで、一年間の脳卒中による死者が、約9千人減少すると考えられています。また、血圧の低下が心筋梗塞も予防し、さらには、塩分の摂取を控えること自体が、胃癌の予防にもつながります。最近は、健康に対する意識が高かまり、コンビニのお弁当にも食塩の含有量が表示されるようになりました。しかし、その表示には、まだまだ、不自由分と言わざるを得ない部分があります。たとえば、Na1gとの表示を塩分1gと誤解している人も多いように思います。しかし、塩は、NaClですから、Na1gには、必ずCl1.54gがくっ付いています。従って、Na1g含有とは、食塩2.54g入っていることを意味します。100g中Na2g含有と表示された、200g入りのお菓子の袋には、4gのNaが含まれており、4X2.54=10.16gもの食塩が入っていることになります。
日本高血圧学会では、高血圧の患者さんに対し、一日6g未満の塩分制限を推奨しています。Na1gは、食塩2.54gに相当することを理解し、正し食事療法をおこなっていただきたいと考えます。
新しい高血圧ガイドライン
(17年1月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)
今年10月の日本高血圧学会で、高血圧治療のガイドラインの一部が改正されましたので、その要約を記載致します。
上の血圧が140以上、下の血圧が90以上を高血圧とし、治療を要するという見解はこれまでと変化はありません。以前から、家庭血圧は、病院で測定する血圧よりもリラックスした状態で測るため、低い人が多いことは知られていましたが、今回、新たに、家庭血圧では、上が135以上、または、下が85以上を高血圧とする基準が設けられました。また、治療する場合の降圧目標は、以前から、上が130未満、かつ、下が85未満と設定されていましたが、今回、糖尿病を合併している場合は、高血圧による動脈硬化が進行しやすいため、下の血圧を80未満まで下げるよう目標値が引き下げられました。
腎臓病の患者さんにおいても、腎機能を維持するために、より強力な治療が必要と考えられ、下の目標値が80未満に設定されました。高齢者は、これまで、少し高めでも良いと考えられてきましたが、今回、ふらつきなどの症状がなければ、可能な限り、上を140未満、下を90未満にするのが望ましいと設定されました。ただし、高齢者においては、ゆっくりと慎重に降圧する必要性が述べられています。
塩分制限の必要性も強調され、これまで1日7g未満が勧められていましたが、更に、一日6g未満と、平均的な日本人の塩分摂取量の半分以下と定められました。これを達成するためには、お醤油やソースをかけないだけでなくて、調理の段階から塩分制限を工夫する必要があると考えます。
また、カリウムが血圧を下げることから、野菜や果物の積極的な摂取が勧められていますが、果糖は肥満を誘発する可能性もあり、注意する必要があります。
高血圧は生活習慣病か(原発性アルドステロン症について)
(15年8月のコミュニティー紙「おかあさんチョット」に掲載されたものです。)
高血圧、高脂血症、糖尿病等は、 肥満や運動不足などの生活習慣がその発症に関与しているため、生活習慣病と言われています。しかし、必ずしも生活習慣だけに問題があるとは限りません。
今回、原発性アルドステロン症について述べさせていただきます。これは、腎臓の上にある副腎と言う臓器から、血圧を上げる作用のあるアルドステロンというホルモンが過剰に分泌されるため、血圧が高くなる疾患です。この疾患の7割の方の副腎に、アルドステロンを過剰に分泌する腫瘍がみられます。したがって、この疾患では、治療の基本は、生活習慣の改善ではなく、内視鏡手術による腫瘍の摘出となります。
原発性アルドステロン症では、約4割の方に、血中のカリウムの低下が見られますが、残り6割の方では、異常はみられません。また、通常の健診では、カリウムも測定していないことが多く、本症が見逃さる一因となっています。
原発性アルドステロン症を診断するためには、血液検査でレニンとアルドステロンという二つのホルモンの測定が必須です。原発性アルドステロン症は、以前は高血圧方の1%以下の稀な疾患と考えられていました。しかし、最近の検査の進歩に伴い、高血圧の原因の5%程度ではないかと言われています。
健診で、高血圧が見つかった時は、生活習慣を改善するだけでなく、このような疾患が隠れていないかを検査をしておく必要があると考えます。健診とは、どこが悪かを調べる為のもので、なぜ悪いかを調べるためのものではないからです。
糖尿病と高血圧
(15年2月のコミュニティー紙「おかあさんチョット」に掲載されたものです。)
糖尿病の方が、高血圧になる確率は、そうでない方に比べて高いことが知られており、糖尿病の方の約半数が、一生のうちに高血圧になると言われています。
この理由として、血糖が高くなると、体内に、食塩の成分であるナトリウムが蓄積してくることや、肥満が、糖尿病を悪化させるだけでなく、血圧も上げることなどが考えられています。
糖尿病も高血圧も、動脈硬化を進行させ、脳卒中や心筋梗塞の発生頻度を増加させます。このため、日本高血圧学会のガイドラインでは、糖尿病の方の降圧目標を、通常より低く設定しています。これは、糖尿病と高血圧がある場合、脳卒中や心筋梗塞を予防するためには、高血圧のみの方に比べて、血圧を、より下げておく必要があるからです。
この他、糖尿病と高血圧以外の動脈硬化を進行させる要因を一つでも減らすと言うことも大切です。
禁煙も、一つの大切な治療と言えるでしょう。また、コレステロ-ルを下げることも大切で、2002年の動脈硬化学会のガイドラインでは、45歳以上の男性の管理目標値が220 mg/dl未満であるのに対し、糖尿病の方の管理目標値は、200 mg/dl未満に設定されています。
今回は、肥満を伴う糖尿病患者さんにとって、あまりよいお話ではなかったので、一つだけよいお話をさせていただきます。それは、誰でも知っていることで恐縮ですが、肥満の改善が、血糖を下げるだけでなく、高血圧や高コレステロ-ル血症も同時に改善するということです。
高血圧治療のガイドライン
(14年11月のコミュニティー紙「おかあさんチョット」に掲載されたものです。)
今回、2000年に日本高血圧学会が作成した「高血圧治療のガイドライン」の一部を、簡単に紹介して見ましょう。
上の血圧(収縮期血圧)が、120 mmHg未満で、なおかつ、下の血圧(拡張期血圧)が、80 mmHg未満を、最も脳卒中や心筋梗塞になりにくい血圧であるため、至適血圧としています。上の血圧が、140 〜 159 mmHg、または、下の血圧が90 〜 99 mmHgになると、至適血圧に比べ、脳卒中や心筋梗塞の発生頻度が二倍になるため、上の血圧が、140 mmHg以上、または、下の血圧が90 mmHg以上を高血圧と定めています。
ガイドラインでは、上の血圧が、130 mmHgを超えるか、下の血圧が85 mmHgを越えた時点で、塩分摂取を一日7g以下にする。肥満があれば標準体重に近づける。飲酒量を一日一合以下にする。脂肪の摂取量を減らす。一日30分の早歩き、禁煙等の生活習慣の修正が勧められています。
上の血圧が、140 mmHg以上、もしくは、下の血圧が90 mmHg以上が持続する場合は、降圧剤の内服が勧められます。ガイドラインが推奨する脳卒中や心筋梗塞を予防するための血圧を下げる目標値は、若年・中年者や糖尿病のある方では、上の血圧が130
mmHg未満で、なおかつ下の血圧が85 mmHg未満です。ただし、70歳以上の方では、脳動脈硬化や心肥大、腎機能障害等をすでに起こしている方も多く、下げすぎが問題になる場合もあり、個人個人に合わせたきめ細かな治療が必要と考えられています。
高齢者の血圧
(14年8月のコミュニティー紙「おかあさんチョット」に掲載されたものです。)
高齢者は、若い人に比べて、血圧の変動が大きいことが知られています。この為、早朝に血圧が上昇し易いのも特徴です。この明け方の血圧の過剰な上昇が、早朝の心筋梗塞や脳卒中の発症と深くかかわっていると言われています。
逆に、食後は、血液が腹部臓器に集まるため、血圧は低下します。糖尿病による自律神経障害があると、食後に過度の低血圧をきたすことがあり、このことが、時には、高齢者の失神の原因となることさえあります。
日本では、高齢者の入浴中の突然死が、年間1万人を超えると推定されており、特に冬場に多いようです。寒い時期では、高血圧があると脱衣に伴い血圧が急激に上昇し、その後、お湯につかると血管が拡張するため、急激に血圧が下降します。高い血圧から、急激に血圧が下降した時に、高齢者では、しばしば、体が対応できず、脳血流の低下を起こし、失神し、風呂場での溺死の原因になると考えられています。高齢者では、ぬるめのお湯にはいる、長湯をしない等の注意が必要です。また、お酒には、お風呂と同様血管を拡張する作用がありますので、お酒を飲んだ後に入浴することは、避けるべきでしょう。
また、暑い日が、続きますと、発汗により、体内の水分と塩分が失われます。普段、高血圧がうまくコントロ−ルされている方でも、大量の発汗の後は、一時的に下がりすぎ、ふらつきなどを感じるることがあります。高齢者では、汗をかいた後は、まめに、水分を補給することも大切です。
家庭血圧の意義
(14年2月のコミュニティー紙「おかあさんチョット」に掲載されたものです。)
最近、家庭血圧計を使って、簡単に血圧を測れるようになりました。今回、家庭血圧の意味についてお話します。
収縮期血圧(上の血圧)140mmHg以上、拡張期血圧(下の血圧)90mmHg以上を高血圧症と言います。しかし、家庭ではリラックスできるので、病院で測るより低いのが普通です。このため家庭血圧では、上の血圧135mmHg以上、下の血圧80mmHg以上を高血圧と考えるのが一般的です。
血圧は、時間帯により常に変動します。高血圧の方の中には、朝、著明に血圧が上昇する方がいます。心筋梗塞や脳卒中の発症は、朝に多いことが知られており、このこととも関係があると考えられています。この様な場合、薬の内服を、通常の朝食後ではなく、寝る前や起床時に変えていただく場合があります。また、食後や入浴後、飲酒後などは、逆に血圧が低下することが知られています。
以前から、病院に来ると血圧が上昇し、家庭では正常の方がいることが知られており、白衣高血圧と言われていました。最近、その逆の、白衣低血圧と言う言葉も使われています。これは、病院を午前中に受診される方では、朝飲んだ薬が最も効いている時間帯に血圧を測ることになり、夕方血圧が上昇していても、見逃されてしまう現象を言います。
このように、定期的に病院で血圧を測定している方でも、家庭血圧を測定し、主治医と相談されることは意味があるものと考えられます。
生活習慣病(高血圧・糖尿病・高脂血症)
(14年5月のコミュニティー紙「おかあさんチョット」に掲載されたものです。)
生活習慣病とは、高血圧、糖尿病、高脂血症などを言います。以前は、成人病と言われていました。
しかし、最近では、運動不足や肥満の子供が増え、中学生や高校生でも発病するようになったため、生活習慣病と言う言葉が使われています。
一方、生活習慣病は、生活習慣のみによって発病するのではありません。太っているのに糖尿病でない方、運動しても糖尿病の良くならない方、塩分を大量に摂っても血圧の上がらない方、野菜ばかり食べているのにコレステロ−ルの高い方はたくさんいます。これは、生活習慣病が、両親から受け継いだ体質、すなわち、遺伝子も関与した疾患であるからです。
この、二つのことを踏まえれば、生活習慣病にとって何が大切か、自ずと答えは見えてきます。
最も大切なことは、生活習慣の改善です。しかし、生活習慣の改善を数ヶ月行っても、十分な効果が得られない方は、遺伝的素因が強いと考えられますので、お薬により、血圧、血糖、コレステロ−ル値等をコントロ−ルした方が良いでしょう。生活習慣病は、脳卒中や心筋梗塞を引き起こすからです。
この他、忙しくて運動する時間がない方や、仕事上、車に乗る必要があり、ほとんど座って生活をしなければならい方もたくさんいます。この様な、生活習慣の改善が困難な方の場合も、お薬によるコントロ−ルが必要と考えられます。
高血圧のお薬と副作
(13年11月のコミュニティー紙「おかあさんチョット」に掲載されたものです。)
過去二回、この欄で、高血圧の食事療法と運動療法の重要性について述べさせていただきました。しかし、食事療法や運動療法を十分行っても、血圧が低下しない場合、薬物の内服が必要となります。
降圧剤の内服により、脳卒中や心筋梗塞の発生率が低下し、寿命を延長することが明らかになっています。しかし、時に、降圧剤で、ふらつきがみられたり、元気がなくなる場合があります。これは、急に血圧を下げた時にみられることが多く、ゆっくりと下げることにより、ある程度解決されます。
この他、ノルバスク、アムロジン、コニ−ルなどのカルシウム拮抗剤では、動悸や顔のほてりを感じる場合があります。
また、メインテ−ト、テノ−ミンなどベ−タ−遮断剤では、脈が遅くなります。しかし、極端に遅くならない限りは、効いている証拠とも言え、心配はありません。
レニベ−ス、タナトリルなどACE阻害剤では、時に空咳がみられます。お薬を内服してから、長期続く咳が出現した場合は、医師に御相談下さい。
これらの副作用は、ほとんどが、お薬の変更により消失します。
脳卒中や心筋梗塞は、しばしば致命的となりますが、降圧剤に、重篤な副作用はまずありません。高血圧の治療の基本は、あくまでも食事療法と運動療法です。しかし、減塩食やウオ−キングを行っても、血圧が下がらない場合や、忙しくて行えない場合などは、放置せず、薬物療法を行って下さい。食事療法や運動療法を併せて行うことにより、薬物を中止できる場合もあります。
高血圧の非薬物療法
(13年8月のコミュニティー紙「おかあさんチョット」に掲載されたものです。)
その昔、人は海の中で生活していました。人間の血液中の塩分の濃度は、太古の海水の塩分の濃度と同じと言われています。腎臓から塩分を排泄して、塩分の濃度を一定に保つことができるようになったとき、陸での生活をはじめました。しかし、腎臓からの塩分の排泄能力には、個人差があます。塩を摂取しても、すぐに排泄できない人は、塩分を摂取しすぎると、それを薄めるために尿量を減らし、血管の中の水分の量を増加させます。その結果、血管の中の圧が高くなり、高血圧になります。
これを、食塩感受性のある高血圧といい、高血圧の方の約半分を占めます。この様な方には、減塩食が有効です。
次に、減塩をしても血圧の低下しない方(食塩感受性のない高血圧の方)は、運動療法も併せて行って下さい。
血圧を下げる運動は、早足歩行や水中歩行など、長時間行える比較的軽い運動です。心拍数が110〜120拍/分程度、運動中に軽く息は弾むが、話のできる程度の運動がお勧めです。しかし、重症の高血圧では、運動中さらに血圧が上昇し危険です。また、高血圧による動脈瘤や心肥大がある場合には、ジョギングなどで突然死する場合もあります。
腎臓病による高血圧では、運動により悪化する場合があり、勧められません。運動療法は、医師に相談してから行って下さい。
最後に、高血圧は、脳卒中や心筋梗塞の最大の原因です。食事療法や運動療法を行っても血圧の低下しない方や十分に行えない場合は、降圧薬の内服を考慮して下さい。
高血圧と食事
(13年5月のにコミュニティー紙「おかあさんチョット」に掲載されたものです。)
ブラジルのインデイアンやパプアニュ−ギニアの人たちは、食塩の摂取量が極端に少なく、年をとっても血圧が上昇しないことが知られています。
家族に高血圧の方がいらしゃるおかあさんは、まず、食事の塩、味噌、醤油を控えめにして下さい。また、先進諸国では塩分の75%は加工食品から摂取されており、これらをできるだけ少なくすることも大切です。からしやコショウは、血圧を上げませんので、上手に使用し下さい。
以前は、食塩摂取量の多い東北地方では、高血圧の方が多く、それによる脳卒中も高頻度にみられました。しかし、青森県はそうではありませんでした。これは、リンゴをたくさん摂取するためといわれています。新鮮な野菜や果物に多く含まれるカリウムには、降圧作用がみられます。ただし、果物の摂りすぎでカロリ−オ−バ−になると逆効果かも知れません。
アルコ−ルも大量に摂取すると血圧が上昇します。血圧を上げないアルコ−ルの量とは、ビ−ル大瓶一本、日本酒一合、ワインでグラス二杯、ウィスキ−ダブル一杯分と考えて下さい。女性や小柄な方は、さらにその半分を目安にして下さい。
肥満のある場合は、カロリ−制限も有効です。昔から、二十歳の時のズボンのはける人は、高血圧や糖尿病の様な生活習慣病にならないと言われています。理想体重にはほど遠くても、5kg減らせば、ある程度の降圧効果はみられるはずです。
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