糖尿病について

歯周病は、糖尿病を悪化させます
(29年6月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)

歯周病は、炎症が歯肉に限局した歯肉炎と歯槽骨や歯根膜などの支持組織の喪失に至る歯周炎に大別されます。歯周病は、日本の中高年の80%にみられ、抜歯の第一の原因です。歯肉の炎症の原因は細菌性プラークで、口腔清掃不良により歯頸部に蓄積したプラーク(歯垢)が、歯肉と歯の界面である歯肉溝にバイオフィルムを形成することで発症、悪化します。プラークに対する炎症反応の結果、歯周組織でIL-6やTNF-αが産生されて歯槽骨吸収が生じます。支持組織の喪失に伴って歯肉溝が4mm以上になると、歯周ポケットと呼ばれ、炎症が進行すると炎症性サイトカインやCRPの上昇をもたらし、全身に影響を及ぼします。歯周病が、口腔内に広がるとその慢性炎症のためインスリンが効きにくくなり、糖尿病を発症し悪化させます。米国の研究では、歯周病のない人に比べて重度の歯周病のある人は、糖尿病の発症率が、2.1倍でした。米国の原住民であるピマ族の研究では、軽度の歯周病の人に比べ重度の歯周病のある人は、HbA1cが9.0%以上になる確率が、6倍でした。これまでの研究では、全身の炎症反応の指標であるCRPの上昇を来すような重度の歯周病では、歯周病の治療により糖尿病もよくなると考えられています。

歯周病が、糖尿病を悪化させるだけでなく、糖尿病が、歯周病を悪化させます。高血糖状態では、免疫機能が低下することが知られており、糖尿病を発症することが、炎症性疾患である歯周病の発症率や進行リスクを高めると考えられています。ピマ族の研究では、糖尿病の人の歯周病発症率は、そうでない人の2.6倍と報告されています。日本人の研究でも、HbA1c 6.5% 以上で歯周病を発症するリスクが高まるとされています。

歯周病の進行予防には、毎日の歯磨きや歯科での定期的なプラークや歯石の除去が、大切です。糖尿病の治療により歯周病のある程度の改善は期待出来るものの、治癒させるには、歯科での治療が不可欠です。糖尿病のコントロ−ルの悪い人は、一度、歯科を受診して下さい。また、喫煙も歯周病を悪化させることを知っておいて下さい。

運運動の苦手な人のための糖尿病教室
(29年5月のコミュニティー紙「おかあさんチョット」に掲載されたものです。)

 糖尿病の治療として運動することは、食事に注意することと並んで大切です。しかし、運動習慣のない人にとって、毎日運動を続けることは、容易ではありません。今回は、運動習慣のない人が、運動を続けるためのコツを記載してみました。

 運動の出来ない大きな理由は、時間がないことです。しかし、まとまった時間をとれない場合、こまぎれの運動であっても合計時間が同じであれば、糖尿病の治療効果に差はありません。買い物や通勤で車やエレベ−タ−をできるだけ利用しないことを心がけ、短時間でも運動するようにしてみて下さい。歩数計を付けると運動量が客観的に評価できます。スマホのアプリにも歩数計の組み込まれているものがありますので、一日の歩数を千歩増やすことを目標に使ってみて下さい。

 膝の痛みで運動の出来ない糖尿病患者さんは、めずらしくありません。このような場合、膝への負担を軽減するため、自転車や水中歩行を御検討下さい。階段昇降、早歩き、歩幅を広げるなどは、膝に痛みのある方は、避けて下さい。過去に膝の痛みを経験した人や体重の重い人は、ウオ−キングを行う場合でも、通常の歩幅での運動を心がけましょう。また、痛みがある時は、必ず主治医と相談してから運動をして下さい。ダンベルやチュ−ブを用いた上半身の筋力トレ−ニングは、膝に負担をかけず行うことが出来ます。筋力トレ−ニングは、単独でも効果があり、ウオ−キングと組み合わせると、一層の効果が期待できます。

 
糖尿病治療で大切なことは、一人一人異なります。
(29年4月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)

最近太ってきて、血糖が高めですよと初めて指摘された人にとって、最も大切なことは、運動をしたり、食事に気をつけたりして、体重を減らすことです。初期段階であれば、食べ過ぎ、運動不足によって疲れインスリンを出せなくなった膵臓が、再び元気になることが期待できます。食べ過ぎ飲み過ぎに注意し、通勤時はできるだけ歩くよう心がけましょう。閉経後、太ってきた女性の糖尿病患者さんであれば、カロリー制限と同時に、できるだけ日常生活に運動を組み入れるようにしましょう。掃除機や車を使わず、買い物も歩いて行きましょう。但し、体重だけで判断するのは、危険です。生活習慣の改善により、糖尿病が良くなって体重が減ってきた糖尿病患者さんは、良い方向に向いていますが、血糖値が上昇しているのに痩せてきた場合は、かなり病気が進行してきている兆候です。インスリン不足のため糖が利用できなくなり、尿に栄養が漏れている場合が多くみられます。投薬だけでなく、場合によっては、インスリンの注射が必要になります。

高齢者の糖尿病患者さんにとって、大切なことは、低血糖をきたさないことです。高齢者の糖尿病患者さんは、心筋梗塞や脳梗塞をおこしてやすい状態になっています。高血糖は、動脈硬化を促進し将来、脳梗塞や心筋梗塞を引き起こしますが、高齢者の血糖の下がり過ぎは、脳梗塞や心筋梗塞を誘発してしまいます。また、低血糖は、認知機能も低下させます。5年先、10年先を考えた治療ではなく、明日を乗り切るための治療をしましょう。

全ての年代において大切なことは、HbA1cを定期的に調べて糖尿病の状態を把握しておくことです。また、インスリンやお薬を使っていても、食事療法や運動療法は、必要です。最後に、糖尿病の治療目的は、血糖を下げることではありません。脳梗塞、心筋梗塞、失明、腎不全による透析等を防ぐことです。そのためには、禁煙、血圧の管理、コレステロールの管理を同時におこなうことも、大切です。


高齢者の糖尿病は、血糖の下がりすぎにも注意
 
(28年11月のコミュニティー紙「おかあさんチョット」に掲載されたものです。)

 高齢になると、
@ 血糖を下げるホルモンであるインスリンの分泌能力が低下する
A筋肉が減少するため安静時の糖の消費が低下する
B 内臓の脂肪が増加してインスリンの効きが悪くなる
C 身体活動が低下し糖を消費しなくなる

などの理由で、血糖値が上昇しやすくなります。糖尿病が、脳梗塞、網膜症による失明、腎症による透析などを引き起こすことは、高齢者も同じであり、高齢者の糖尿病も若い人と同様治療が必要です。

 食事療法や運動療法だけでは、問題となる程の低血糖は起こりません。しかし、お薬やインスリンが過量になると、極端な低血糖を引き起こすことがあります。
低血糖になると、血糖を上げようと交感神経が緊張し、発汗、動悸、手の震え等の症状が出現します。ところが、高齢者では、このような症状が発現しにくいため、低血糖に気づかずにいきなり意識を失うことがあります。高齢の人の糖尿病では、筋肉の量、筋肉の質、身体能力が低下しやすいため、転倒の危険が1.4倍から4倍になります。低血糖が起こるとは、ふらつきによる転倒のリスクがさらに増加します。

糖尿病では、アルツハイマ−型の認知症が1.5倍、脳梗塞など血管病変による認知症が2.5倍発症します。しかし、糖尿病の治療をしても、認知症が治癒することはなく、逆に、糖尿病患者さんが低血糖をおこすと、認知症が、1.6〜2.4倍に増加します。このため、今年の糖尿病診療ガイドラインでは、高齢者の糖尿病を薬物で治療する場合の血糖の下げすぎに対する注意が強調されました

 
歯周病は、糖尿病を悪化させ、口腔ケアは高齢者の肺炎を予防します 
(28年6月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)

内科疾患と歯周病の関係が、最近注目されています。高血糖は、免疫機能を低下させ感染を起こし易くします。一方、なんらかの感染が起こると、インスリンの効きが悪くなり血糖値が上昇します。この関係は、糖尿病と歯周病に於いても成り立ちます。すなわち、糖尿病の人は、歯周病になりやすく、歯周病になると糖尿病が悪化します。歯周病の治療により糖尿病がよくなることがありますので、糖尿病と診断されたら、早めに歯科を受診されることをお勧めします。

ある研究では、65歳以上の人の平均残存歯数が、9.1本であったのに対し、要介護状態の人の平均残存歯数は、3.1本であったと報告されています。虫歯や歯周病になると、硬いものが噛めないため、摂取する食品や栄養素に偏りが生じ炭水化物の占める割合が増加すると伴に摂取カロリーが少なくなります。このことが、高齢者の栄養状態を悪化させ、筋力や活動度を低下させます。要介護状態の人は、自分で歯磨きができないため、さらに残存歯が減少、そのために栄養状態がさらに悪化するという悪循環に陥ります。この悪循環を断ち切るためには、高齢者に対する介護者による口腔ケアが必要です。

要介護状態の人は、しばしば口腔内の細菌を誤嚥し、肺炎を発症します。肺炎は、癌、心臓病に次いで日本人の死亡原因の第3位です。要介護状態の人の口腔ケアは、肺炎による死亡を減らすためにも大切です。口腔内の細菌の誤嚥は、食事中よりもむしろ、夜間睡眠中におこります。このため、寝る前には、必ず入れ歯を外し、口腔ケアをおこなってください。全身麻酔での手術を受ける場合にも、時に、誤嚥による肺炎を発症します。手術前に歯周病の治療をおこなっておくと、術中術後の肺炎の発症に対する予防効果があると言われています。また、抗癌剤など免疫抑制作用の強い薬を投与すると、歯周病が悪化します。従って、抗癌剤治療を受ける前にも歯周病の治療は、必要です。


糖尿病患者さんが、世界中で増えています

(28年3月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)

2006年12月20日、国連総会で糖尿病の撲滅が決議されました。当時、世界の2億4600万人が糖尿病でした。その後、世界中で糖尿病に関する啓発活動が行われてきましたが、7年後の2013年の糖尿病患者さんの数は、3億8000万人に増加しています。

糖尿尿は、血液中の糖が増加し、そのことが蛋白質を変性させ、全身をむしばんでいく疾患です。人類の長い歴史は、飢餓との戦いでした。ほん百年前は、食べ過ぎて病気になり死んでしまう人がいるとは、想像もつきませんでした。人間には、飢餓に打ち勝つため、血糖を上げるためのホルモンは、グルカゴン、カテコーラーミン、副腎皮質ステロイド、成長ホルモンなど何種類も存在しますが、血糖を下げるホルモンは、インスリンしかありません。従ってインスリンが枯渇すると、たちまち糖尿病に陥ってしまいます。

糖尿病の第一の原因は、摂取カロリーの過剰です。戦後、食糧事情の改善に伴い、糖尿病患者さんの数はうなぎのぼりに増加してきました。糖尿病の原因は、甘いものの食べ過ぎと考えられている患者さんがたくさんおられます。甘い物が、血糖を上昇させることは間違いありません。従って糖質を控えることで、糖尿病は、改善します。しかし、お酒の飲み過ぎでカロリーを摂り過ぎても、脂肪分を摂り過ぎて太っても糖尿病が悪化することも覚えておいてください。糖尿病の食事療法で大切なことは、ただ制限するのではなく、糖質、蛋白質、脂質、ビタミンなどが不足しないように注意しながら摂取カロリーを制限することです。当院では管理栄養士による栄養指導もおこなっていますので、食事療法で分からないことがありましたら、診察時にご質問ください。

約30年前から日本人の摂取カロリーは減少傾向にあります。にもかかわらず、その後も、糖尿病患者さんは、増え続けています。その原因として、運動不足による消費カロリーの減少が考えられています。日本の車の台数の増加と糖尿病の患者さんの数が比例しているとのデ-タ-もあります。食事療法を頑張っているに糖尿病がよくならない患者さんに案外多いのは、運動不足です。膝が痛くて運動が出来ないなどの声をよく聞きます。膝に負担のかからない運動もありますので、運動して頂く上でお困りのことがありましたら、診察時にお聞き下さい。


糖尿病のお薬
(28年2月のコミュニティー紙「おかあさんチョット」に掲載されたものです。)

  糖尿病は、膵臓からインスリンが十分に分泌できなくなった時や肥満などが原因でインスリンが効かなくなった為に発症します。糖尿病には、インスリンを分泌する働きのあるSU剤以外にも、様々な種類のお薬があります。炭水化物は、α−グルコシダ−ゼの働きにより、ブドウ糖や果糖に分解され腸管から吸収されます。α−グルコシダ−ゼ阻害薬は、α−グルコシダ−ゼの働きを抑えることにより糖質の吸収を遅延させます。糖尿病患者様では、インスリンの分泌の遅延している人が多いため、食事の吸収も遅延させることで、食後血糖の上昇がある程度抑えられます。ちなみに、糖尿病の患者様に緑黄色野菜を食事の最初に食べることをお勧めしているのも、食事の吸収をゆっくりさせ食後血糖の上昇を抑えるためです。 ビグアナイド薬は、肝臓での糖新生を抑えるとともに、筋肉への糖の取り込みを促進します。筋力トレ−ニングによる脂肪筋の改善でも、同様の効果が、期待出来ます。血液は、腎臓の糸球体で濾過され、原尿となります。原尿に含まれる糖は、尿細管で再吸収され、不要な老廃物が尿として排泄されます。尿細管での糖の再吸収を助ける蛋白質SGLT2を阻害する薬を内服すると、糖の再吸収が抑えられ血糖値が、低下します。しかし、頻尿になり脱水に陥りやすいのが、欠点です。このため、SGLT2阻害薬内服中は、しっかりと水分を補給する必要があります。この他にも色々な種類のお薬がありますが、U型糖尿病の患者様にとって、食事と運動が大切であることに変わりはありません。

 
糖尿病では、食事を3回摂りましょ
(26年11月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)
(27年2月のコミュニティー紙「おかあさんチョット」に掲載されたものです。)

糖尿病の患者様の多くは、インスリンの分泌速度が遅いため、急速な血糖の上昇に対応出来ず、血糖の上昇を招きます。お菓子、ジュ−ス、麺類、白米は、糖質が多い為、吸収が速く、インスリンの分泌が追いつきません。従って、お菓子やジュ−スを避け、ご飯を食べる時には必ず野菜と一緒に食べるようにしましょう。野菜に含まれる食物繊維は、胃の中で膨張し、胃からの排泄時間を遅延させ、血糖の急な上昇を抑えます。また、食物繊維を摂ると、小腸での糖類分解酵素の処理速度も遅延し、糖の吸収速度が低下します。血糖の上昇が遅いと、インスリンの分泌が遅くても血糖がそれ程上昇しません。

糖尿病では、3食きっちりと摂りましょうと指導されます。その理由の一つは、同じカロリ−であれば、2回に分けるより3回に分けた方が、1回に摂るカロリ−の摂取量が減るため、少量のインスリンしか出ない糖尿病患者さんでもインスリン不足になりにくく、血糖があまり上昇しないからです。もう一つの理由として、Second meal phenomenon (2回目の食事現象)があります。自己血糖測定をおこなっている患者様から、朝食は少ししか食べていないのに血糖が上昇し、昼食は沢山食べても血糖があまり上昇しないのは何故かと質問されることがあります。夜間睡眠中に空腹になると糖が使えないため脂肪が分解されて、脂肪の分解産物であるFFAという物質の血中濃度が上昇しています。FFAは、インスリンの働きを妨げるため、朝食後は、昼食後や夕食後に比べて血糖が上昇し易くなります。2回目の食事である昼食時には、朝食で糖分が補給され脂肪を分解する必要がなくなったため、FFAが、上昇しません。このため、インスリンの働きが妨害されず、昼食の血糖が少なくてすみます。もしも、昼食が、1回目の食事になるとFFAが高値の状態で食事をすることになり、インスリンの効きが悪くなるため、食後の血糖が上昇し易くなります。
糖尿病の患者様でなくても、食物繊維を多く摂取し、一日3食食べることは、糖尿病の予防につながります。


藤原道長と糖尿病

(26年8月のコミュニティー紙「おかあさんチョット」に掲載されたものです。) 

 藤原道長は、娘3人を中宮(皇后)とし、「この世おば わが世とぞ思ふ 望月の 欠けたることも なしと思へば」 と歌を詠みました。藤原道長は、紫式部や清少納言の時代に活躍した平安時代の貴族であるとともに、記録に残る日本人最古の糖尿病患者さんでもあります。当時から、貴族は、粟や稗でなくお米を食べていました。魚介類、お肉、乳製品も食されていたようです。移動は、牛車や馬車を利用し、あまり歩きませんでした。政務は、夜中に及ぶこともあり、宴席も度々であったようです。

 1016年51歳の時、口が渇いてしきりに水を飲む、力が入らない、食事は減らないと「小右記」に記載されており、高血糖の症状と考えられます。1019年には、人の顔が見えないとの記録が残っており、糖尿病性網膜症もしくは白内障と推定されます。1027年、背中に大きな腫れ物ができ、2日後に61歳で死亡します。糖尿病のため、免疫力が低下し、全身に細菌が回る敗血症という状態になり死亡したと考えられます。
 
 道長は、四男でしたが、兄道隆が42歳で、兄道兼が34歳で早世したこともあり出世をしたと言われています。最近、糖尿病が問題になっているのは、平安時代の貴族のような飲み過ぎ、食べ過ぎ、運動不足の生活をしている人が増えたからだけではありません。二型糖尿病による自覚症状が出現するのは、かなりの期間高血糖が放置された50歳を超えてからのことが多く、平均寿命が延びたことも影響しています。老後を元気に過ごすには、若い頃からの生活習慣が大切と言えます。


 小さく産んで大きく育てるのは、良くない?
(25年11月のコミュニティー紙「おかあさんチョット」に掲載されたものです。) 

 第二次世界大戦の末期、オランダは、ナチスドイツに占領され極度の飢餓状態に陥りました。この頃に乳児期を過ごしたオランダ人は、50歳を過ぎた頃から他の世代に比べて糖尿病や心筋梗塞を発症する頻度が高くなりました。動物実験では、母親の栄養状態が悪くなると、血糖を下げる働きのあるホルモン(インスリン)を分泌する膵臓のβ細胞の数が減少します。胎児は、世の中の栄養状態が悪いと判断すれば、インスリンの効き難い体質になると同時に、血糖を下げるのに必要なβ細胞の数を減らすことにより、少ない栄養でも生きていけるよう適合しようとします。このため、その子が、将来、過栄養になるとインスリン不足に陥り、糖尿病を発症し易くなると考えられます。このことが、日本でも団塊の世代が高齢になり、糖尿病が増えている一因と言えます。また、胎児期の低栄養は、同時に腎臓のネフロンの数も減少させるため、後の高血圧の原因ともなります。

 ところで、1980年頃の平均出生時体重は、3200 g でしたが、最近は、3000 g程度に減少しています。最近の日本人女性は、中高年では過栄養になり糖尿病、高血圧、乳癌等の増加を招いている一方、20歳代、30歳代で痩せすぎの人が増え、その結果、毎年10〜12万人の2500g以下の低体重児が生まれています。最近の若い女性では、炭水化物、タンパク質等、脂肪以外の栄養素の摂取量が減少しています。子供の遠い未来のために、若い女性は、栄養不足に気を付けて下さい。

糖尿病では、認知症、骨粗鬆症、癌の発症率増加します。
(25年8月のコミュニティー紙「おかあさんチョット」に掲載されたものです。)

  糖尿病が、網膜症、腎不全、両下肢の壊疽、脳梗塞、心筋梗塞等の原因になることは、以前からよく知られていました。最近、糖尿病で、認知症、骨粗鬆症、癌の発症率が高いことが注目されています。肥満のためインスリンの効きにくい状態になり、それを補うため血中インスリンの高い状態が続くとアルツハイマ−型認知症を発症し易くなります。また、重症の低血糖発作が認知症を進行させることも分かってきました。高齢の糖尿病患者さんでは、認知症を進行させないため、高血糖だけでなく薬の効き過ぎによる低血糖にも注意する必要があります。成人になってから発症するU型糖尿病では、骨密度が維持されていても、骨質が低下するため骨折し易くなります。糖尿病では、健診で測定する骨密度に異常がなくても転倒による骨折に気をつける必要があります。

 糖尿病では、心筋梗塞や脳卒中の罹患率が増えますが、癌も増加します。日本人では糖尿病があると癌の発症率が、1.7倍に増加、特に肝臓癌は、3.6倍、子宮体癌は、3.4倍に増加するとの報告があります。肥満を合併した糖尿病では、脂肪肝をしばしば伴いますが、脂肪肝は、肝臓癌の原因の一つです。このため、米国糖尿病学会と米国癌学会のステ−トメントには、「糖尿病患者さんに対し適切な癌検診受診を勧めるべきである。」と記載されています。高血糖になると免疫力が低下するため、肺炎などの感染症も重症化し易くなります。以上の理由から、糖尿病は、健康年齢を十歳近く短するとも言われています。 

HbA1cを超えた糖尿病治療を目指して
(24年5月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)

HbA1cとは、赤血球にくっついた糖の割合を反映します。一度くっついた糖は二度と離れないことや、赤血球の寿命が120日あることから、HBA1cは、最近1、2ヶ月の血糖値の平均を示します。従って、低い程、普段の血糖値が低いということであり、HbA1cを6.9%未満に維持しておけば、糖尿病による失明や透析がほぼ避けられることが分かっています。このため、糖尿病の治療では、とにかくHbA1cを下げることに主眼が置かれてきました。しかし、HbA1cを5%台に下げても必ずしも心筋梗塞が予防できないことや突然死するケ−スのあることも分かってきています。その理由の一つは、高血糖があっても別の時間帯に低血糖になっていれば、血糖の平均値を反映するHbA1cは正常になるからと考えられます。この場合は、高血糖により動脈硬化が進行し、低血糖で血管が収縮すると、さらに血管が痛むと考えられます。
また、食事制限せずインスリンの投与量を増やし血糖値を下げ続けると、それまでインスリン不足のため利用できず尿に捨てられていた糖が栄養になって体に残り体重が増加、その結果、血圧や中性脂肪までもが上昇、心筋梗塞のリスクがかえって増加してしまうことがあります。
このほか、軽症の糖尿病では、食後の短期間だけ血糖値の上昇する人も多く、この様な場合、HbA1cはそれほど上昇しません。しかし、短期間の高血糖であっても、繰り返されることにより血管は痛み、心筋梗塞のリスクが増加すると言われています。
HbA1cを下げるだけでなく、如何に太らないように治療するか、如何に高血糖と共に低血糖を予防し、血糖の日内変動を少なくするかが、本当に求められている治療です。このためには、インスリンを分泌するお薬だけでなく、インスリンの効きを良くするお薬、食後の短時間だけ血糖上昇を抑えるお薬、食事の吸収を遅らせるお薬、血糖を上げる働きのあるグルカゴンを減らすお薬等を使い分けていく必要があります。
食事療法や運動療法も大切な治療であることは、言うまでもありません。


糖尿病には、T型とU型があります

(24年1月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)

人の細胞は、糖をエネルギ-として利用し生きています。細胞が、糖を利用するためには、膵臓のβ細胞から分泌されるインスリンが必要不可欠です。糖尿病とは、膵臓からインスリンが分泌できなくなったため、糖を利用することができず、血糖値が上昇してくる疾患です。血糖値の高い状態が続くと、体中の血管が障害され目が見えなくなったり、腎臓が悪くなって透析をしなければいけなくなったり、足の血行が悪くなって足壊疽に陥ったりします。また、脳卒中や心筋梗塞の頻度も増加します。

糖尿病は、その原因により、T型糖尿病とU型糖尿病に分類されます。T型糖尿病の人の多くは、ウイルス感染などを契機にインスリンを分泌するβ細胞に対する抗体が出来、自分で自分のβ細胞を破壊し、インスリンが分泌できなくなり血糖値が上昇、糖尿病を発症すると考えられています。一方、U型糖尿病は、いわゆる生活習慣病と言われるもので、栄養過剰の状態や運動不足の状態が続き発症します。体脂肪率が増加すると、インスリンの効きが悪くなり、血糖値を下げるために、多くのインスリンが、必要になります。そして、最後には膵臓が疲れ果て十分なインスリンを分泌出来なくなり、血糖値が上昇、糖尿病を発症します。

T型糖尿病の発症には、遺伝子やウイルス感染などの生活環境が関与します。したがって、生活習慣にいくら気をつけていても予防することは、困難です。これに対し、U型糖尿病は、インスリンをたくさん分泌出来ない体質の人に食べ過ぎや運動不足が加わり発病します。したがって、インスリンを少ししか分泌できない体質であっても、若い時から食事と運動に気をつけていれば、かなりの人が、糖尿病の発症を予防出来ます。日本人の糖尿病の大部分は、U型であり、最近、ますます増加傾向にあります。

T型、U型を問わず、糖尿病の治療は、食事、運動、薬、インスリンです。T型糖尿病では、まず、不足したインスリンを注射で補うことが大切です。U型糖尿病では、食事や運動に注意し、それでもインスリンが不足した場合に投薬やインスリンの注射をおこないます

日本人は、糖尿病になり易い
(23年2月のコミュニティー紙「おかあさんチョット」に掲載されたものです。)

 ピマ族は、約3万八千年前に中央アジアからメキシコや米国アリゾナ州へ移り住んだ部族で、日本人と体質がよく似ています。米国のピマ族は、長年、伝統的な生活習慣を守ってきましたが、戦後、補償政策の一環として、小麦、砂糖、あぶら等が支給され、食生活がアメリカ風に一変しました。その結果、大人の9割が肥満で、5割が糖尿病になっています。ちなみに、生活様式の変わっていないメキシコのピマ族は、平均体重が26Kgも少なく、糖尿病の人はほとんどいません。

アジア人は、平均すると、白人に比べて血糖を下げる働きのあるインシュリンを素早く分泌することができず、又、たくさん分泌することができないと言われています。このため、少し太っただけで糖尿病になる人が多く、同じ食生活をしていたのでは、糖尿病の発生率が高くなってしまいます。以前、糖尿病の少ない民族と言われた日本人が、今や、糖尿病になりやすい民族とまで言われるようになりました。

缶コ−ヒ−等の飲料缶の年間の消費量をみますと、米国385缶、日本205缶、英国121缶、ドイツ62缶、イタリア50缶、フランス13缶で、日本は、欧州以上にアメリカ化されています。ちなみに、缶コ−ヒ−のロング缶には角砂糖6個分の、微糖と書いてあっても2個弱の砂糖が入っているそうです。食生活の欧米化は、防げないとしても、缶コ−ヒ−は無糖を選ぶなど、日本人に合った工夫が必要と考えます。

 

日本人は糖尿病になりやすい
(22年10月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)

戦後しばらくの間、日本人は欧米人に比べて糖尿病の患者数が少なく、糖尿病になりにくい民族と言われていました。しかし、その後、糖尿病患者さんの数は約50倍になり、世界的にみても糖尿病になりやすい民族であることが分かってきました。日本人は、元々、糖尿病になりにくい食生活をしてきたために、糖尿病の人は少なかったのですが、血糖を下げる働きのあるインシュリンの分泌能の良くない人が多く、食生活の欧米化に伴い急激に糖尿病患者さんが増加したと考えられています。今回、その理由を考えることにより、糖尿病の発症を如何に予防するかを検討したいと思います。

糖尿病患者さんが増加した最大の原因は、栄養過多です。このため、ご飯やビ-ルを減らすだけで糖尿病が良くなる人は、たくさんおられます。しかしながら、30年程前から、日本人のカロリ-摂取量は減少してきており、最近の糖尿病患者さんの増加を、栄養過多のみでは、説明できません。その理由の一つとして考えられるのは、お米の摂取量の減少と砂糖の入った甘いお菓子やパン食の増加です。砂糖やパンは、お米に比べて吸収が速いため、日本人に多いインシュリンの分泌が遅い人では、同じカロリ-摂取してもインシュリンの分泌が間に合わず、一過性に血糖が上昇する可能性があります。また、ここ数十年増加しているのは、脂肪摂取量です。脂肪摂取の増加は、肥満や脂肪肝を引き起こし、たとえインシュリンが分泌されていてもその効きを悪くし、血糖を上昇させる可能性があります。

この他、自動車の台数と糖尿病患者さんの数は比例しているというデ-タ-があります。このことから、自動車が普及し人が歩かなくなったことが糖尿病の大きな原因の一つと考えられます。運動不足になる理由は、自動車だけではありません。農業などの体を動かす仕事をする人が減少したこと、家庭の主婦が洗濯機や掃除機等の普及により、体を動かす機会が減ったことも大きな原因です。テレビも体を動かさなくなった原因と考えられています。リモコンの普及で益々体を動かさなくなり、このことも糖尿病の患者さんの増加に影響を及ぼしていると考えられます。

糖尿病 心筋梗塞や脳梗塞を予防するには、何が必要か
(21年1月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)


の身体には、グルカゴン、カテコ-ルアミン、成長ホルモン、副腎皮質ステロイドなど血糖を上げるための多くのホルモンが存在しますが、血糖を下げる働きのあるのは、インシュリンただ一つです。人類の歴史は、飢餓との戦いであったため、進化の途中で、血糖を上げるための手段に比べ下げるための手段は極めて手薄になったと考えられます。その結果、飽食の時代となり、カロリ―に見合うだけのインシュリンを分泌できなくなった時、容易に糖尿病を発症してしまうようになりました。

尿に蟻が集まり、喉が渇き、やせ衰え、やがて死亡する疾患のあることは、古代ギリシャの時代から知られていました。1922年にインシュリン製剤が発売され、糖尿病は、克服されたかに見えました。血糖が、1000 mg/dl 近くまで上昇し、意識を失い死亡することはなくなったからです。しかし、それが幻想であることを、戦後知るところとなります。空腹時血糖200 mg/dl、食後血糖 300 mg/dl、HbA1c 9 % 程度の生活を続けていると、高率に眼の網膜や腎臓の糸球体の細い血管が傷害され、失明や腎不全に至るからです。現在、透析の最大の原因は、腎臓病でなく糖尿病です。このため、1980年代頃から、空腹時血糖110 mg/dl未満、HbA1c 6.5 % 未満を目標に治療することが多くなっています。これらの目標を病初期から達成しておけば、眼病変や腎不全は予防できるようです。

しかしながら、この程度の治療では、心筋梗塞や脳梗塞は、十分には予防できません。心筋梗塞や脳梗塞は、比較的大きな血管の障害でおこります。軽度の糖尿病では、インシュリンは十分に分泌されるものの、素早く分泌することが出来ません。このため、食後一時的に血糖が上がり、その後、遅れて分泌されたインシュリンにより血糖は正常に戻ります。この食後の一時的な高血糖が、血管を傷め、心筋梗塞や脳梗塞の原因となります。したがって、心筋梗塞や脳梗塞を予防するには、食後の短時間だけ効くお薬を毎食前に内服したり、短時間だけ効くインシュリンを食前に打つなどの工夫が必要です。また、最近の糖尿病の特徴として、肥満が原因で起こるため、高血圧や高脂血症も同時に合併していることが多々みられます。動脈硬化を進行させるこれらの疾患も同時に治療しておく必要があります。勿論、食事制限と運動が治療の基本であることは、論を待ちません。


スローライフで糖尿病の予防を

(19年8月のコミュニティー紙「おかあさんチョット」に掲載されたものです。)

糖尿病は、心筋梗塞、動脈硬化による下肢の切断、腎不全による透析等の最大の原因です。
日本人の糖尿病患者数は、1955年から1998年の間に約70倍に増加、その後も増加が続いています。しかし、これは、単純にカロリ−摂取量の増加が原因ではありません。日本人の平均エネルギー摂取量は、1955年2100 Kカロリ−に比べ、2002年1930 Kカロリ−と糖尿病とは逆に、この30年間減少を続けています。

糖尿病は、血糖を下げる働きのあるインシュリンというホルモンをゆっくりとしか分泌できない体質と、運動不足や肥満のためインシュリンの効きが悪くなることが重なって発症します。糖尿病の初期では、インシュリンをゆっくりとしか分泌できないものの、分泌量は保たれています。
@ゆっくりと食事をする、
A 豆、野菜、海草などの食物繊維を多く摂り、食事の吸収を遅らせる、
B 吸収の速い脂肪を制限する
など、昔の日本人の食生活に戻せば、食事はゆっくり吸収され、血糖の上昇も緩やかとなり、体質的にインシュリンの分泌が遅くても糖尿病を発症しません。

また、最近の日本人は、歩かなくなりました。運動は、単にカロリ−を消費するだけではありません。歩くことは、下肢の筋肉の血行を良くし、インシュリンが筋肉の隅々まで作用するようになり、インシュリンの働きを改善します。

ゆっくり食べて、歩いて出かける。そんなスローライフで、糖尿病を予防しましょう。



糖尿病知ってるつもり(その1.食事療法偏)

(18年1月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)

 最近テレビや新聞での、医療情報が多くなり,糖尿病に関する知識も普及してきました。健診で血糖が高いと言われた時に、しんどくないから大丈夫と放っておくような強者は、さすがに少なくなっています。しかしながら、中途半端な知識が多い様に思います。
例えば、日本糖尿病学会では、食事療法をするにあたり、食品交換表というのを用いて、カロリ−計算をすることを勧めています。しかしながら、交換表を使用している人は少なく、「食べ過ぎているからもう少し減らしてみます。」と言って診察を終わるケ−スが多いようです。カロリ−計算の目的は、実は、食べる量を減らすためではありません。減らすだけなら、食べなければ糖尿病は良くなるはずです。極端な話、断食すれば血糖は下がるでしょう。しかし、それが健康に良くないのは明らかです。では、カロリ−計算は何のためにするのでしょうか。糖質を何カロリ−、脂質を何カロリ−、蛋白質を何カロリ−、ビタミンやカルシウムをどれだけ取るかを計算して、必要な栄養素をきっちりと摂りながら、過栄養にならないためにカロリ−計算を行うのです。
現在は、栄養過多の日本人が増えており、それに伴い糖尿病も増えています。しかし、それでも1960年代は世界で40番位以下だった日本人の平均寿命が第1位になり、若くてお元気な高齢者が増えたのは、医学の進歩のみではなく、十分な栄養がいきわたったことも一因です。
低蛋白の人は寝たきりになりやすいとも言われておりて、必要最低限の栄養をきっちりと摂りながら、必要以上の栄養を摂らないというのが食事療法です。時に、食事療法をすると元気がなくなるのでやめた、との声を耳にします。糖尿病は、インシュリンが不足する疾患ですから、たくさん食べても栄養が利用出来ず、糖として尿に排泄されるだけです。食事療法で元気がなくなったのは、カロリ−を制限したからではなく、必要な栄養素も制限してしまったからと言うケ−スが多いのです。

糖尿病食は、糖尿病でない人が食べても、バランスのとれた、肥満を防ぐ、最高の健康食です。

当院では、管理栄養士による日本糖尿病学会発行の食品交換表に基づいた栄養指導をおこなっておりますので、診察時にご相談下さい。



糖尿病は、先手必勝で
(16年10月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)


 糖尿病は、境界型糖尿病の時期を経て、発症します。境界型であっても、心筋梗塞や脳卒中の発生率は高く、病的な状態な状態と考えられます。しかし、境界型という言葉のためか、放置されることも多いようです。糖尿病とは、インシュリンと呼ばれる血糖を下げるホルモンの分泌が悪くなったため、血糖が上昇する病気です。しかし、多くの境界型糖尿病では、肥満や運動不足で、インシュリンの効きが悪くなったために血糖が上昇しており、インシュリンは、効きの悪さを補うため、むしろたくさん分泌されています。この段階で、放置されますと、やがて、膵臓が疲れ、インシュリンを分泌できなくなり、糖尿病へと移行します。
糖尿病の治療の基本は食事療法と運動療法ですが、運動食事や運動に気を付けても改善しない場合は、早めにお薬を使うことをお勧めします。糖尿病による網膜症で目が見えにくくなった、糖尿病による腎症で足がむくんできたといった合併症が一度起こると、血糖をいくら下げても、改善しないばかりか、進行して行くことが多々あります。

腎臓には、一個につき百万個の糸球体と呼ばれる血液の濾過装置がありますが、糖尿病で30万個に減ってしまうと、後は、いくら血糖を下げても、30万個の糸球体は、働き過ぎとなりどんどんつぶれていくためと考えられています。また、強いカロリ−制限は、腎臓には悪影響を及ぼすため、糖尿病性腎症になりますと、腎臓を守るため、ある程度糖尿病を犠牲にして脂肪を摂取しなければならず、糖尿病悪化の要因となります。

お薬を飲んでも血糖が高いときは、早めにインシュリンを使う方が良いというのが、最近の考え方です。とことんインシュリンが出なくなってから、インシュリンの注射をはじめますと、たくさんのインシュリンが必要となります。早めにインシュリンを使って膵臓を休ませてあげる方が、結局は、少ない量のインシュリンで、長期にわたって良好なコントロ−ルが得られるというのがその理由です。


糖尿病と高血圧
(15年2月のコミュニティー紙「おかあさんチョット」に掲載されたものです。)

 糖尿病の方が、高血圧になる確率は、そうでない方に比べて高いことが知られており、糖尿病の方の約半数が、一生のうちに高血圧になると言われています。この理由として、血糖が高くなると、体内に、食塩の成分であるナトリウムが蓄積してくることや、肥満が、糖尿病を悪化させるだけでなく、血圧も上げることなどが考えられています。
糖尿病も高血圧も、動脈硬化を進行させ、脳卒中や心筋梗塞の発生頻度を増加させます。このため、日本高血圧学会のガイドラインでは、糖尿病の方の降圧目標を、通常より低く設定しています。これは、糖尿病と高血圧がある場合、脳卒中や心筋梗塞を予防するためには、高血圧のみの方に比べて、血圧を、より下げておく必要があるからです。
この他、糖尿病と高血圧以外の動脈硬化を進行させる要因を一つでも減らすと言うことも大切です。
禁煙も、一つの大切な治療と言えるでしょう。
また、コレステロ-ルを下げることも大切で、2002年の動脈硬化学会のガイドラインでは、45歳以上の男性の管理目標値が220 mg/dl未満であるのに対し、糖尿病の方の管理目標値は、200 mg/dl未満に設定されています。
 
今回は、肥満を伴う糖尿病患者さんにとって、あまりよいお話ではなかったので、一つだけよいお話をさせていただきます。それは、誰でも知っていることで恐縮ですが、肥満の改善が、血糖を下げるだけでなく、高血圧や高コレステロ-ル血症も同時に改善するということです。