HDLコレステロ−ルは、本当に高い程良いの?
(31年1月のコミュニティー紙「おかあさんチョット」に掲載されたものです。)

 健診でのコレステロ−ル値は、LDLコレステロ−ル(LDL)とHDLコレステロ−ル(HDL)に分けて表示されます。LDLは、過剰になると酸化され血管の壁に蓄積し動脈硬化が促進されることから、悪玉コレステロ−ルと言われています。一方、HDLは、コレステロ−ルを血管壁から引き抜いて肝臓に戻すことから、動脈硬化を予防する働きがあり、善玉コレステロ−ルと言われてきました。これまでの研究でも、LDLが高値になる程、心筋梗塞の発症が増加することが分かっていました。また、HDLは、大部分の人は90以下であり、その範囲に於いては、高値である程心筋梗塞の発症が減少することも分かっていました。しかし、最近、デンマ−クから死亡リスクの最も低いHDLの値は、男性で73、女性で94であり、それより低くても高くても死亡率が増加するかと報告されました。日本の研究でもHDLが、90以上になると心臓病による死亡が増加し、特に飲酒者でその傾向があることが分かっています。また、これまで開発されたHDLを増加させる効果のあるお薬も、残念ながら、心筋梗塞の発症を減らすことは、できませんでした。

HDLには、血管壁からコレステロ−ルを引き抜く以外にも、血管壁を酸化ストレスや炎症から守る作用、血管の内皮細胞を保護する作用のあることが分かっています。最近では、働き者のHDLと怠け者のHDLがあり、HDLは、量だけでなく、質も大切と考えられています。肥満、糖尿病、喫煙などが原因で低下したHDLは、動脈硬化を促進する、しかし、大量のお酒を飲んで増加させたHDLは、怠け者で、かえって動脈硬化を促進してしまうと言うのが、現実のようです。

 

家族性高コレステロール血症 
(29年11月のコミュニティー紙「おかあさんチョット」に掲載されたものです。)

 悪玉コレステロール(LDLコレステロール)が、心臓の血管に蓄積することにより、心筋梗塞を発症します。LDLコレステロールは、肝臓にあるLDL受容体に接合して代謝されます。肝臓のLDL受容体が遺伝子の異常により減少している疾患が、家族性高コレステロール血症です。家族性高コレステロール血症では、コレステロールの代謝が阻害されるため、食事制限をおこなってもコレステロ−ル値が十分に低下しません。その結果、40代、50代でしばしば心筋梗塞を発症します。男性で55歳未満、女性で65歳未満で狭心症や心筋梗塞を発症した場合、早発性冠動脈疾患と言われます。二等親以内の親族に早発性冠動脈疾患がある場合には、家族性高コレステロール血症を疑う必要があります。生活習慣を改めても悪玉コレステロールが180以上ある人、コレステロール値が高くてアキレス腱が肥厚している人、手や肘に黄色種と呼ばれる皮下結節のみられる人も、家族性高コレステロール血症が疑われます。

 家族性高コレステロール血症を厳密に診断するには、遺伝子診断が必要です。心筋梗塞の発症率が高いこともあり遺伝子診断に力を入れているオランダでは、71%、ノルウェーでは、43%の人が、正確に診断されているのに対し、遺伝子診断が普及していない米国や日本では、家族性高コレステロール血症の患者様のうち正確に診断されている人は、1%未満に過ぎません。コレステロールの高い原因は、食事とは限りません。健診でコレステロールの高値が続く場合は、医師に御相談下さい

 

脂肪肝は、万病の元
(28年5月のコミュニティー紙「おかあさんチョット」に掲載されたものです。)

 肝臓は、栄養を蓄えるための臓器ですが、過栄養になると脂肪が沈着した状態、いわゆる脂肪肝になります。大量の飲酒をしないのに脂肪肝になった状態を、非アルコ−ル性脂肪性肝疾患(NAFLD)と呼びます。以前は、肝臓癌の殆どが、B型やC型の肝炎ウイルスが原因で発症しましたが、脂肪肝の増加に伴い、最近では、肝臓癌の約2割は、NAFLDが原因と考えられています。また、NAFLDの3〜5割に中性脂肪やコレステロ−ルが高くなる脂質異常症が、3割に高血圧が、3割に高血糖がみられます。このため、NAFLDがあると、心筋梗塞などの心血管疾患の発症が2倍になります。また、NAFLDと診断された時点で糖尿病と診断されていなくても、脂肪肝が長く続いた人の16 % が、その後に糖尿病を発症したとの報告があります。一方、脂肪肝が改善した人では、3%しか糖尿病を発症しませんでした。

  人間ドック受診者の30歳から60歳までの男性の40%が、閉経後の女性では、30%が、NAFLDと診断されます。15〜19歳の有病率が、17.3%との報告もあり、若年者でも増加しています。NAFLDを発病してから、肝臓癌を引き起こすまでには、30年以上の年月が必要です。このため、脂肪肝は、軽視されがちです。しかし、今後、NAFLDを原因とした肝臓癌や心筋梗塞の増加が危惧されます。脂肪肝は、メタボリック症候群と同様、栄養過多が、原因です。健診で脂肪肝と診断されたら、たかが脂肪肝と考えず、運動とカロリ−制限による減量を実践して下さい。


コレステロ−ルの質を良くする

(25年2月のコミュニティー紙「おかあさんチョット」に掲載されたものです。) 

 LDL(悪玉)コレステロ−ルが血管の壁に蓄積し血管が閉塞すると、心筋梗塞や脳梗塞を発症します。薬剤でコレステロ−ル値を正常にすると心筋梗塞の3〜4割を予防することが出来ます。しかし、逆に、6〜7割の心筋梗塞は、コレステロ−ル値を正常にしても予防出来ません。また、コレステロ−ル値が正常で、タバコを吸わず、血圧が正常の人でも心筋梗塞を発症する場合があり、その理由の一つにコレステロ−ルの大きさが関与しています。

コレステロ−ルには、血管壁に蓄積するLDLコレステロ−ルとコレステロ−ルを血管壁から引き抜くHDL(善玉)コレステロ−ルがあります。さらに、LDLコレステロ−ルにも、大きさの異なる幾つかの種類があり、小さなLDLコレステロ−ルは、大きなLDLコレステロ−ルに比べ、@肝臓へ取り込まれ難いため血中に長く滞在し血管壁に蓄積しやすい、A 小型なので血管内皮下へ進入し易い、B ビタミンEやユビキノ−ル10に乏しいため酸化されやすい等の理由で、動脈硬化をより進展させることが分かっています。LDLコレステロ−ルの値が同じでも、小さなLDLコレステロ−ルの多い人は、そうでない人に比べて心筋梗塞の発症率が3倍になるとの報告もあります。

食べ過ぎや運動不足により中性脂肪の値が上昇すると、LDLコレステロ−ルが小型化することが分かっています。健康寿命を延ばすには、食生活に気をつけ、コレステロ−ルの量だけでなく質を改善することも大切です。

  

脂質異常症のワンポイントアドバイス
(22年3月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)

脂質異常症は、動脈硬化を促進する悪玉コレステロ-ル(LDLコレステロ-ル)が高い状態、動脈硬化を予防する善玉コレステロ-ル(HDLコレステロ-ル)が低い状態、中性脂肪(トリグリセライド)が高い状態のいずれかを言います。いずれも、肥満、食べ過ぎ、運動不足が増悪因子となりますが、各々に違いがあります。悪玉コレステロ-ルは、血管の壁を作るのに必要な物質ですが、過剰になると血管に溜まり、動脈硬化が促進されます。悪玉コレステロ-ルは、お肉や卵に沢山含まれていますので、これらの摂取を控えることが有効です。但し、コレステロ-ルは、お肉の脂身には入っていますが、赤身には入っていませんので、焼いたり、炊いたりして油を落とすということも有効です。また、卵の白身にはコレステロ-ルは入っていません。美味しいかどうかは別にして、黄身を食べなければコレステロ-ルは上昇しません。ただし、コレステロ-ルは、摂取しなくても自分の肝臓で造ることが出来ますので、野菜しか食べない菜食主義者(ベジタリアン)であってもコレステロ-ルが高い人がいます。したがって、必要に応じ、内服治療を行う必要があります。また、動脈硬化を起こす原因はコレステロ-ルだけではありません。糖尿病、高血圧、喫煙も大きな原因となります。コレステロ-ルを下げるのが目的ではなく、動脈硬化を予防し、心筋梗塞や脳卒中を防ぐことが目的ですので、糖尿病や高血圧のある人は、それらの治療をおこなうと同時に、コレステロ-ルをより低めに管理し動脈硬化を防ぐ必要があります。反対に、寝たきりで栄養状態の悪い人は、あまりコレステロ-ルを意識せず、しっかりと栄養を摂ることが必要です。

善玉コレステロ-ルを上げるには、ジョギングなどの好気性運動をおこない、体重を減少させることが有効です。中性脂肪は、コレステロ-ルと似て否なるものです。摂取カロリ-が消費カロリ-を上回ると、余ったカロリ-が中性脂肪として体に蓄えられます。中性脂肪の高い原因として、運動不足、お酒の飲み過ぎ、果物の食べ過ぎ、ご飯の食べ過ぎなどが考えられます。中性脂肪は、さらに、腹腔内脂肪となり、お腹の周りに蓄積されます。従って、腹囲が減ってくれば、中性脂肪も低下していることが多いようです。


動脈硬化性疾患予防ガイドライン2007年版
19年8月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)

日本動脈硬化学会の動脈硬化性疾患予防ガイドラインが、5年ぶりに改定されました。
2002年に発表されたものと比較してみましょう。


まず、「高脂血症の診断基準」が、「脂質異常の診断基準」に改められました。これまでは、コレステロ−ルや中性脂肪が高いことにだけに目が向けられてきました。しかし、コレステロ−ルには、動脈硬化を促進するLDLコレステロ−ル(悪玉コレステロ−ル)と動脈硬化を予防するHDLコレステロ−ル(善玉コレステロ−ル)があり、コレステロ−ル値が正常であっても、HDLコレステロ−ルが低いと心筋梗塞を発症しやすいことが、以前から知られています。
今回、善玉コレステロ−ルの低い病態にも注意する必要があるということを十分に認識していただく目的で、「高脂血症」が、「脂質異常」と名称が改められました。


この5年間に、いくつかの日本人を対象とした研究が、発表されました。そのひとつが、MEGAスタディ−と呼ばれるものです。これは、コレステロ−ル値が、220 〜 270 mg/dl の狭心症や心筋梗塞の既往の無い平均年齢58 歳の日本人 7832 人に対し、半分は食事療法だけで、残り半分は、食事療法に加えコレステロ−ルを下げるメバロチンというお薬を投与し約5年間経過をみたものです。投薬を受けた方のグル−プでは、心筋梗塞や脳梗塞の発症が約3割減少、その結果、死亡率が、28%減少しました。この研究に参加された人の68%は、女性でした。
これまで、このような研究が、主に欧米人や男性を対象としたものであったため、日本人の女性は、コレステロ−ルが高くても治療の必要が無いのではないかとの考えが、一部にありました。今回、この結果を踏まえ、生理の無い年齢の女性の高コレステロール血症も、男性と同様に対処する必要のあることが改めて確認されました。


糖尿病のある人は、ない人よりもコレステロ−ルをより下げておくべきとの考えは、前回のガイドラインと同様です。糖尿病の人は、コレステロ−ルが変性し動脈硬化を起こしやすいため、強力にコレステロ−ルを下げないと動脈硬化が進行します。禁煙や血圧を正常に保つことの重要性は、今回も強調されています。動物性脂肪を減らし食物繊維を多く摂る食事療法や一日30分以上の運動の有用性に関する記載も、前回と同様です。しかし、近年、ビタミンCやビタミンEをサプリメントとして摂取しても、心筋梗塞の予防効果は無いとの研究結果が相次ぎました。このため、今回のガイドラインでは、動脈硬化の進展予防目的に、食事に上乗せしてビタミンCやビタミンEを摂取する根拠は乏しいと記載されています。
タバコをやめられない人は、喫煙の後にビタミンCを摂って動脈硬化を予防しましょうとのテレビ番組を見たことがありますが、どうやら、間違いだったようです。


動脈硬化は、なぜ起こるのか
(19年3月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)
及び(19年5月のコミュニティー紙「おかあさんチョット」に掲載されたものです。)

 

動脈硬化は、脳卒中、心筋梗塞、下肢壊疽等の原因となり、これらによる死亡者数は、癌をも上回り、死因の第一位です。
しかし、動脈硬化は、癌と違い、日常生活に注意すれば、予防可能です。今回は、動脈硬化の機序を知ることにより、その予防を考えてみたいと思います。


血管の内壁は、内皮細胞と呼ばれる一層の細胞層で覆われています。内皮細胞は、一酸化窒素(NO)を産生し、血管壁への血液の凝固、白血球や血小板の接着を防いでいます。高コレステロ−ル血症、高血圧、高血糖、喫煙、加齢等により、一酸化窒素(NO)の産生や活性が低下すると、白血球の一種である単球が、血管壁に接着し易くなります。血管壁に接着した単球は、内皮細胞間隙から血管壁内に遊走、侵入し、細菌などを食べる働きのある白血球(マクロファージ)へと成熟していきます。

一方、人体には、コレステロ−ルを備蓄する臓器がないため、血中のLDLコレステロ−ル(悪玉コレステロ−ル)が高くなると、血管壁内に蓄積されます。LDLコレステロ−ルは、血管壁内で、酸化変性を受け、酸化LDLとなり、血管壁内に侵入してきたマクロファージに食べられてしまいます。脂質を食べたマクロファージは、泡沫細胞となり、この泡沫細胞が集まって、動脈硬化病変(プラ−ク)が形成されます。高血糖や高中性脂肪血症は、マクロファージの泡沫化を促進することによっても動脈硬化を進めます。

動脈硬化病変(プラ−ク)が出来ただけでは、血管の表面が内皮細胞に覆われているため大きな問題はありません。しかし、このプラ−クが、破綻して血管内に破れると、内皮細胞が傷害され、そこに血小板が付着、血液が固まり、血栓が形成されます。これにより、血管が、閉塞されると、心筋梗塞や、脳梗塞を発症します。脂質成分の多いプラ−クほど、破綻しやすいと言われています。
コレステロ−ルを下げ、プラ−ク内の脂質成分を減少させることが、心筋梗塞を予防します。
逆に、血圧の上昇や交感神経の緊張による血管の攣縮は、プラ−クを破れやすくします。ストレスが、血圧の上昇や交感神経の緊張を招くことは、よく知られています。

以上のことから、高コレステロ−ル血症、高血圧、高血糖、喫煙、ストレス等が動脈硬化を悪化させることが、御理解いただけたと思います。運動は、血圧や血糖を下げるだけでなく、一酸化窒素(NO)の産生を増加させ、血管内皮機能を改善します。
お腹に脂肪がたまると、血圧、血糖、中性脂肪等が上昇しますが、問題はそれだけではありませ。腹腔内脂肪の増加は、血管内皮への単球の接着を防ぐ働きのあるアディポネクチンを低下させ動脈硬化を促進、血液を固まりやすくするPI-1を増加させ、血栓を出来やすくします。 小児の約半数に、血管に脂肪線条と呼ばれる脂肪細胞を食べたマクロファ−ジの集積がみられることが知られており、これらがプラ−クに成長していくと推定されます。

若いうちから、食べ過ぎ、運動不足、肥満に注意しておくことが大切です。一方、心筋梗塞を起こした人や糖尿病のある場合などは、症状の有無にかかわらず、すでにプラ−クが存在する可能性が高いと考えられます。この場合は、プラ−クが破れないよう、プラ−ク内の脂質成分を減少させるためコレステロ−ルを十分下げる必要があり、場合によっては、プラ−クが破れても、血管がつまらないよう、抗血小板剤を投与します。また、コレステロ−ルを下げるお薬や降圧剤の中には、血管の内皮機能を改善する作用のあるものがあり、病状により使用します