心臓弁膜症の診断は、聴診から
 (30年12月号に院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)

 心臓には、右房、右室、左房、左室の4つの部屋があります。それぞれの部屋の出口には、駆出された血液が逆流しないよう弁が付いています。この弁が旨く機能しなくなった状態を弁膜症と言います。弁膜症には、弁が固くなって十分に開かなくなる狭窄症と、しっかり閉まらなくなって血液が逆流する閉鎖不全症が、あります。弁膜症が進行すると、労作時に息切れがするようになります。最初は、長い駅の階段などを歩いた時にだけ息切れをするなどの症状が出現、病気の進行に伴い平地でも息切れが起こるようになり、重症になると安静にしていても息苦しくなります。

弁膜症は、軽度であれば、内服薬による治療をおこないますが、重症になると手術が必要になります。以前は、子供の頃にかかったリウマチ熱が原因で成人してから弁膜症を発症するリウマチ性弁膜症(関節リウマチとは無関係)が、弁膜症の多数を占めていました。しかし、抗生物質の発達に伴い小児のリウマチ熱は、ほとんどみられなくなり、リウマチ性弁膜症も少なくなっています。一方、最近増加しているのは、動脈硬化性の大動脈弁狭窄症です。動脈硬化性の大動脈弁狭窄症は、主に80歳以上の高齢者にみられ、90歳では更に頻度が増加します。以前は90歳を超えた高齢者に心臓の手術をすることはほとんどありませんでしたが、医学の進歩に伴い、90歳代での心臓の手術が珍しくなくなりました。当院の外来でも、90歳を超えてから心臓弁膜症の手術を受けた後、元気に通院されている患者様が何人もおられます。最近は、弁膜症に対するカテ−テル治療も進歩してきたことから、90歳以上の高齢者の心臓弁膜症に対する手術は、今後さらに増加するものと予想されます。

治療技術の進歩は、著しいものがありますが、聴診器の有用性は今も変わりません。若い人は長い距離を歩くので、弁膜症による息切れを早期に訴えますが、高齢者は、あまり動かないため、重症化するまで症状が出現しません。弁膜症の早期発見に極めて有用で手軽な手段が、聴診による心雑音です。超高齢であっても、弁膜症の手術が出来るまで医学が進歩したことが、昔ながらの聴診の重要性を益々高めていると言えます。


お薬と生活習慣の改善で、心筋梗塞の再発を防ぐ

 (28年9月号に院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)

 心筋梗塞を発症して軽快退院した後、殆どの医療機関で処方されるお薬が、抗血小板剤とβ遮断剤です。心筋梗塞は、血管の中で血小板が固まることにより血管が閉塞する疾患であるため、抗血小板剤で血液をサラサラにすることが、有用だからです。β遮断剤は、心臓の過剰な動きを抑制することにより、不整脈を抑え、左室心筋の収縮を改善して心不全を防ぐ働きがあります。コレステロールを下げるお薬は、血管の壁にコレステロールが溜まるのを抑え、再発を防ぎます。高血糖が続くと動脈硬化が進行し、再発の原因になります。一方、低血糖も交感神経を緊張させ、心筋梗塞を再発させる原因になるため、心筋梗塞を合併した糖尿病の治療では、低血糖をおこしにくいお薬が選ばれます。心筋梗塞の再発予防には、血圧の管理も大切であり、来院時血圧だけでなく、早朝の血圧、仕事中の血圧、夜間睡眠中の血圧の全てが高くならないよう気を付ける必要があります。大きな心筋梗塞を起こすと、ポンプとしての働きが低下し、肺に水が溜まりやすくなります。利尿剤で体の水分を尿に排泄すると、肺うっ血が改善しますが、効き過ぎると脱水になり腎臓に負担がかかります。腎機能が悪化しないよう、血液検査や超音波検査の結果をみながら投与量を調節していきます。このような細かな治療には、大きな病院よりもクリニックが得意とするところです。

心筋梗塞の再発の予防には、禁煙、食事、運動が大切です。食事は、減塩、カロリ−や脂質の制限が基本ですが、適切な食事内容は人により異なるため、当院では、管理栄養士による食事指導をおこなっています。運動は、心筋梗塞の予防に有効ですが、激しすぎる運動は心不全や心筋梗塞の再発を誘発してしまいます。このため、当院では、必要に応じ、運動負荷心電図や24時間心電図をおこない、その人にとっての適度な運動を決めるのに役立てています


高血圧、高コレステロ−ル血症、糖尿病、喫煙 は、心筋梗塞の4大危険因子です
(28年1月号に院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)

心筋梗塞は、日本人の死亡原因の第2位です。心筋梗塞は、冠動脈と言われる心臓を栄養している血管の壁にコレステロールが蓄積し、血管が閉塞することによって発症します。血管が閉塞すると、心筋が壊死に陥るため、これまでに経験したことのない激しい胸痛に見舞われます。心筋梗塞では、できるだけ早期に閉塞した血管を再開通させることが、大切です。胸の痛みが続き心筋梗塞が疑われたら、躊躇せず救急車を呼んで下さい。また、糖尿病があると、心筋梗塞を発症しても胸の痛みを感じないことがありますので、御注意下さい。

心筋梗塞を発症すると心室細動という不整脈が、発生し、心停止に至ることがあります。この不整脈は、電気ショックにより回復させることが出来ます。心室細動は、心筋梗塞発症直後に発生しやすいことが分かっています。最近、AEDと呼ばれる簡単な電気ショックの機械があちこちに設置されています。AEDは、無資格でも簡単に使えますので、一度、講習を受けておかれることをお勧めします。

高血圧、高コレステロ−ル血症、糖尿病、喫煙 は、心筋梗塞の4大危険因子と呼ばれています。血圧は、診察室で測定する血圧だけでなく、早朝や睡眠中も含め一日中正常に保つことが、大切です。コレステロ−ルは、アルブミンなどの栄養状態を示す指標が悪くならない範囲で、きっちりと下げておきましょう。血糖は、その平均値を示す指標であるHbA1cを下げるだけでなく、一日の変動幅を小さくすることも大切です。食後、急激に血糖が上昇すると、血管が傷むことが知られています。その予防には、吸収をゆっくりさせる働きのある緑黄色野菜などの食物繊維を食事の最初に摂取しておくことがお勧めです。喫煙をすると、心筋梗塞だけでなく癌も増加し、寿命が十年近く短くなります。動物性脂肪は、心筋梗塞を増加させます。日本食は、塩分の多いのが欠点ですが、もし塩分の少ない日本食ができれば、心筋梗塞を予防するためには、理想的な食事と言えるでしょう。最後に、運動は、心筋梗塞を予防します。但し、激しすぎる運動は、カテコ−ルアミンと呼ばれるホルモンが増加し心筋梗塞の原因となりますので、御注意下さい。


年一回、心電図検査を受けましょう 

(26年12月号に院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)

現在、国の特定健診、いわゆるメタボ健診に心電図は含まれていません。したがってメタボ健診をいくら受けても心電図検査を受ける機会はありません。
しかし、河内長野市では、健診を受けられる時に同時に無料で心電図検査もおこなっています。年一回、心電図を受けるということは、実は大きな意味があります。最近、高齢化に伴い増加してきた心臓病に心房細動という不整脈があります。心房細動は、頻度の高い不整脈であり、80歳以上の人の1割近くが、心房細動と言われています。そして、心房細動は、脳梗塞の原因となることが知られており、脳梗塞の4人に一人は心房細動という不整脈が原因であり、心房細動のため心臓の中で固まった血液が脳に流れていくことにより発症します。心房細動によって引き起こされる脳梗塞は、他の原因で発症する脳梗塞に比べて重症であるため、突然死や寝たきりなど要介護状態になる確率が高いことが分かっています。これまで、心房細動から脳梗塞を起こした有名人として、小渕元総理、野球の長島監督、サッカーのオシム監督などがおられます。

心房細動では、心臓の中で血液が固まって脳梗塞を起こすのを防ぐため、血液をサラサラにする抗凝固薬を処方します。最近、ワーファリンだけではなく幾つかの新しい抗凝固薬が発売されています。抗凝固薬は、心房細動による脳梗塞の7割を防ぐと言われています。近年、カテーテルアブレーションという心臓の中に管を入れて病変部位を焼くことにより心房細動を治癒させる技術が進歩してきています。しかし、カテーテルアブレーションも、心房細動になったり治ったりしている早期でないと、成功率は、高くありません。
心房細動の中には、動悸を訴え来院される患者様もおられますが、動悸を自覚しないため受診しておらず、脳梗塞を発症してから初めて心房細動が原因と分かる患者様もおられます。


年一回心電図を記録しておくことは、狭心症や心筋梗塞など心臓病の早期発見だけでなく、脳梗塞の予防にもつながります。



高齢化社会のため大動脈弁狭窄症が増加しています

(26年11月のコミュニティー紙「おかあさんチョット」に掲載されたものです。) 

 

 近年、著明に増加した疾患の一つに動脈硬化性の大動脈弁狭窄症が、あります。大動脈弁は、心臓から大動脈に送り出された血液が逆流しないように心臓の出口にある弁です。動脈硬化性の大動脈弁狭窄症とは、高血圧、高コレステロ-ル血症、糖尿病などの生活習慣病や加齢のために大動脈弁にカルシウムが沈着し、大動脈弁が開かなくなった状態を言います。先進国では、65歳以上の高齢者の2〜7%にみられます。
大動脈弁狭窄は、高齢者で心雑音を聴取した場合の最も多い原因です。心エコ-により、診断は、容易です。しかし、大切なことは、診断をつけることではなく、その重症度を正確に判断し、手術適応を決めることです。胸痛が出現すれば5年以内に、めまいが出現すれば3年以内に、息切れなどの心不全症状が出現すれば2年以内に約半数が死亡すると言われており、有効な治療は、手術しかありません。

 大動脈弁狭窄症の手術は、人工心肺を使って心停止下でおこないます。日本での80歳代の大動脈弁狭窄症の手術死亡は、4 % 程度ですが、手術が成功すれば、術後の生存曲線は、健常者とほぼ同様と報告されています。このため、最近では、80歳を超えた高齢であっても症状があれば、手術をすることが多いようです。呼吸器疾患などのために開胸手術の出来ない場合は、カテ-テルという管を血管に入れて行うTAVI(経カテ-テル大動脈弁植え込み術)も普及してきています。しかし、実際の医療現場では、高齢のため認知症があり手術が出来ないこともまれではありません。



はぶ医院は、心臓病のジェネラリストでありたい。

(26年2月号に院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)


心臓病にも色々な病気があります。心筋梗塞は、心臓に栄養を送っている血管が詰まる疾患です。心筋梗塞の3割は、救急車が病院へ到着するまでに死亡します。心筋梗塞は、癌に次いで日本人の死因の第2位です。詰まった血管を広げるには、管を入れて血管を広げるカテーテル治療と、胸を開いておこなうバイパス手術の2つがあります。

不整脈で多いのは、心房細動という心房が収縮できなくなる疾患です。心房細動は、心房内で血液が固まり、それが脳血管に流れて血管がつまることにより、脳梗塞を引き起こします。このため、心房細動は、しばしば、寝たきりや突然死の原因となります。最近、血液をサラサラにして脳梗塞を予防する新しいお薬がたくさん開発されました。また、血管に入れた管(カテーテル)で原因の部位を灼いて心房細動を起こらなくする治療も進歩してきています。脈が遅くなる場合は、ペ-スメ-カ-を、心室細動による突然死のリスクが高い場合は、除細動器を植え込むことがあります。

心臓の筋肉が弱る病気を心筋症と言います。心筋症を根本的に治すには心臓移植しかありませんが、最近は内服薬による治療が進歩し、以前であれば、5年経つと半分の方が亡くなると言われた拡張型心筋症の患者さんの多くが、元気に外来通院されています。このように、心臓の筋肉が収縮しなくなる心不全に対するお薬は、非常に進歩しましたが、高齢で心臓の筋肉が固くなる心不全にはあまり良いお薬がないのが、現在の難点です。こちらは利尿剤を微妙に調節しながら、何とか過ごして頂くというのが私達の仕事です。

年をとると、心臓の大動脈弁が固くなって十分に開かなくなります。大動脈弁狭窄と呼ばれるこの疾患は、高齢化社会になり増加しています。これまで、開胸手術が唯一の治療でしたが、ここ数年、血管に入れたカテーテルという管を使って弁を置き換える治療が、普及してきました。

ところで、天皇陛下は、バイパス手術を受けられましたが、東大ではなく、順天堂大学の医師が執刀しました。心臓病と一口に言っても、様々な病気があるので、病院によって、得意分野や不得意分野があります。ブランドや名前にこだわることなく、一番いい病院を患者様にお勧めするのが、私達の仕事でもあります。

拡張不全による心不全

 (26年2月のコミュニティー紙「おかあさんチョット」に掲載されたものです。) 

 人間の体は、加齢と伴に硬くなりますが、心臓も例外ではありません。
半世紀以上前から、レントゲンで大きく映る心臓は悪いということが分かっていました。心臓が、病気になり収縮できなくなると、心臓の中に血液が溜まってきます。その結果、心臓が大きくなり、レントゲンで心不全と診断できます。
このようにして心不全の診断は、なされてきました。ところが、ここ20年ぐらいで急激に増加しているのが、拡張不全による心不全です。以前は稀と考えられていた拡張不全による心不全が、今では心不全の40%を占めると言われています。

 拡張不全による心不全とは、心臓が硬くなったため、大きくなれず、心臓の中の圧が上昇し、その結果、心臓の手前にある肺の中に血液が鬱滞し、歩行時などに息切れを来す状態です。
拡張不全による心不全は、加齢、高血圧、糖尿病、心房細動などにより引き起こされ、主に心臓超音波検査で、心臓の中の圧を推定することによって診断がなされます。これまで、心不全といえば、収縮不全による大きな心臓を指してきたこともあり、収縮不全の治療はここ数十年で著しく改善しました。
しかしながら、拡張不全による心不全は、20年余り前までは、そのような疾患の概念すらなかったこともあり、利尿剤を調節するなど、治療も手探りの状態です。

拡張不全による心不全を予防するには、若い頃から血圧や糖尿病に対する治療をしっかりとおこなっておく必要があります



白血病は、しばしば内科治療で治癒する数少ない悪性腫瘍です
(25年11月号に院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)

血中を流れる赤血球、白血球、血小板は、骨の内の骨髄で造られます。骨髄にある造血幹細胞が、分化し、赤血球、白血球、血小板となります。赤血球には酸素を運ぶ働きが、白血球には細菌やウイルスから体を守る働きが、血小板には血液を固まらせる働きがあります。白血病は、遺伝子に異常が生じたために正常に機能しない白血球が増殖する疾患で、急性白血病、慢性骨髄性白血病、慢性リンパ性白血病に分類されます。白血病は、通常の血液検査や骨髄を穿刺し骨髄の状態を顕微鏡で観察することにより診断します。

急性白血病とは、上手く成熟出来ない幼弱な白血球が増殖する疾患で、それに伴い正常の血球は減少します。急性白血病では、正常に働くことのできる白血球が減少するため免疫力が低下、感染を引き起こし高熱が何日も続いたり、赤血球の減少により酸素が運べなくなるため息切れが出現したり、血小板が減少するため出血が止まらなくなるなどの症状がみられます。一方、慢性骨髄性白血病は、免疫に役立たない幼弱な白血球を含む多くの白血球が出現します。慢性骨髄性白血病は、自覚症状に乏しく、健診などの血液検査で偶然見つかることの多い疾患です。しかし、慢性骨髄性白血病も放置すると数年で白血球が成熟出来ない急性転化と言われる状態となり、死亡します。

急性白血病の治療の基本は、抗癌剤などの化学療法による白血病細胞の完全な除去です。強力に化学療法をおこなうと白血病細胞が死滅すると同時に自分の造血幹細胞も死滅し生きていけなくなります。化学療法をおこなった後に骨髄移植を併用すると、自分の造血幹細胞が死滅しても移植された造血幹細胞が血液を造るため強力な化学療法が可能となります。最近は、遺伝子診断により化学療法の効果をある程度予測できます。遺伝子診断で予後不良と考えられる場合や再発、難治性の場合は、骨髄移植も検討します。急性白血病の一種である急性前骨髄性白血病は、脳出血などで早期に死亡する疾患でしたが、分子標的治療により白血病細胞を正常の白血病細胞に分化させることが可能となりました。また、ABLチロシンキナ−ゼを阻害する薬剤は、慢性骨髄性白血病の白血病化のシグナルを阻害し病状を改善します。白血病は、内科治療でも治癒し得る数少ない悪性腫瘍と言えます。


心房細動の治療の進歩
(24年8月のコミュニティー紙「おかあさんチョット」に掲載されたものです。) 

 心臓には四つの部屋があり、帰ってきた血液を貯める心房と肺や体へ血液を送り出す心室があります。このうち、心房が収縮せずふるえた状態になっているのが、心房細動です。通常、心房細動が原因で心停止を起こすことは、ありませんが、心房の中で血液が固まることにより脳梗塞の原因になります。心房細動は、高血圧症、甲状腺機能亢症、心筋梗塞、心筋症などが原因でおこることも多く、まず、その治療を行うことが大切です。その上で、脈を整える抗不整脈剤、心拍数を下げるお薬、血液が心臓の中で固まらないようサラサラにする抗凝固剤などを適宜使用します。最近、心房細動の治療で大きな二つの進歩がありました。一つは、ワルファリンしかなかった抗凝固剤に、新たな2剤が加わったことです。ワルファリンでは、血液の凝固能を定期的に測定する必要がありますが、新薬では、不要です。但し、新薬には、高齢者や腎機能の低下した人では出血の副作用が多いなどの問題点もあります。もう一つは、心房細動の原因となっている部位を血管から入れたカテ-テルで焼いてしまうアブレ−ションと言われる治療の普及です。100%安全な治療と言えない面もありますが、成功すれば薬剤の内服が不要になる可能性の高い治療法であり、内服薬と違い心房細動の根治が期待できる治療法です。但し、アブレ-ション治療が、有効であるのは、心房細動の一部であり、心房細動の状態が長年持続している人や心房が拡大した人には、有効ではありません。

 


冠動脈バイパス手術とカテ-テル治療
(24年5月のコミュニティー紙「おかあさんチョット」に掲載されたものです。) 


天皇陛下が受けられたことで、冠動脈バイパス手術が有名になりました。今回は、冠動脈のバイパス手術とカテ−テルインタ−ベンションについて考えてみたいと思います。心臓に血液を送る冠動脈が動脈硬化のために狭くなると、坂道を歩いた時など心臓が多くの酸素を必要とする時に、心臓が酸素不足になり胸痛を生じます。そのまま放っておくと閉塞し、突然死する危険があります。このため、詰まっても大丈夫なように、細くなった先にもう一本血管をつないでおくのが、冠動脈バイパス手術です。これに対し、腕や大腿の太い血管からカテ−テルという管を入れ、血管の狭いところを広げるのが、カテ−テルインタ−ベンションです。

バイパス手術は、全身麻酔となり、また、肋骨を切って開胸する必要があるため、カテ−テル治療に比べ患者様の負担が大きくなります。しかしながら、かつては、全例、人工心肺を使って心拍動を停止させておこなっていましたが、最近では、約6割が、心臓を動かしたままおこなわれており、手術による死亡率も低下しています。一方、カテ−テル治療は、局所麻酔でおこなえ、胸を開く必要はないものの、折角広げたところが、再度、狭くなる再狭窄がまれではありませんでした。しかし、最近、広げたところに薬剤を塗ったステントと言われる筒を入れるようになり、再狭窄が著明に減少しています。通常、年齢、狭窄している部位、狭窄の数や性状、糖尿病や腎不全があるか等を考慮して、治療法が選択されます。

 

恐い不整脈と恐くない不整脈

(23年8月のコミュニティー紙「おかあさんチョット」に掲載されたものです。)


不整脈とは、脈が飛んだり、速くなったり、極端に遅くなる状態を言います。不整脈には、単に脈が乱れているだけの場合と、弁膜症、心筋症、心筋梗塞等の疾患が原因で発生する場合があります。前者は、放置して良いことが多いのに対し、後者は命に関わることも多いため、不整脈がある場合には、大きな病気が隠れていないかをまず調べる必要があります。

大きな病気が隠れていない場合でも、不整脈は、失神や脳梗塞などを引き起こすことがあります。脈が乱れて脳に十分な血液を送れなくなると、脳細胞の酸素が不足し意識を失います。心臓病が原因の失神は、低血圧などによる失神と違い、突然意識を失うため、頭部外傷などを伴いやすいのが特徴的です。また、最近、高齢化により増加してきた不整脈に心房細動があります。心房細動は、80歳を超えると約10人に1人が罹患していると言われます。心房細動では、心臓が規則正しく動かないため、心臓の内で血液が固まり、それが脳の血管に流れ、血管を塞ぎ脳梗塞を発症ずることがあります。心房細動から発症した脳梗塞は、他の原因で起こった脳梗塞に比べて重症化しやすく、寝たきりになる頻度も高いと言われています。

症状がなくても突然死の危険のある不整脈もあれば、強い動悸を訴えるにもかかわらず危険性のない不整脈もあり、自覚症状の強さと危険性とは、必ずしも一致しません。

不整脈がある場合には、たとえ症状が軽くても、自己判断しないことが大切です。


恐い不整脈と恐くない不整脈があります

(23年5月号に院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)


不整脈とは、脈が、速くなったり、極端に遅くなったり、不規則になることを言います。不整脈の症状は、動悸だけではありません。脳内の酸素が不足することにより眩暈や失神を起こすこともあり、転倒や交通事故につながることもめずらしくありません。時には、突然死の原因にもなります。

不整脈は、弁膜症、心筋症、心筋梗塞など様々な心疾患が原因となり発生しますが、中には、このような疾患がないのに不整脈が見られる場合もあります。

不整脈の治療で最も大切なことは、不整脈の原因となっている疾患を診断し治療することです。例えば、心筋梗塞であれば、動脈硬化を起こし狭くなった血管をカテ−テルで広げることにより不整脈が減少する場合があります。心臓の筋肉の収縮が悪くなる拡張型心筋症では、薬剤の内服で心臓の筋肉の収縮が改善すると、それに伴い不整脈もしばしば改善します。

原因が治せない場合には、不規則な脈を規則正しくするお薬や脈を遅くするお薬を投与します。不整脈の原因となっている場所を、血管を通して心臓に入れたカテ−テルで直接焼いてしまうカテ−テルアブレ−ションという治療もあります。しかしながら、内服薬やアブレ−ションは、脈が速くなる不整脈に対しては有効ですが、脈が遅くなる不整脈には、あまり有効ではありません。脈が遅くなることにより、眩暈、息切れ等の症状が出現した場合は、基本的に永久ペ−スメ−カ−植え込みの適応となります。永久ペ−スメ−カ−を植え込んでしまうとMRIの検査を受けられないなどの不利益はありますが、眩暈等の症状は消失し、除脈性不整脈による突然死も防ぐことが出来ます。

最近、高齢化により増加してきた不整脈が心房細動です。心房細動は、80歳を超えると約10人に1人が罹患していると言われます。心房細動では、心臓が規則正しく動かないことにより、心臓の内で血液が固まってしまう恐れがあり、固まった血液が脳の血管に流れて血管を塞ぐと脳梗塞を発症します。心房細動による脳梗塞を予防するには、血液をサラサラにするお薬を内服しておくことが有効です。


数分で消失する胸痛は、狭心症が疑われます

(21年9月号に院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)


心臓の筋肉は、冠動脈という血管によって血液が供給されています。運動をした時などに心拍数が増加すると、心臓の筋肉は安静時よりもより多くの酸素を必要とする状態になります。

動脈硬化のため冠動脈が狭くなると、運動時でも心臓の筋肉に送られる血液量が増加しないため、心臓の筋肉は酸素不足になります。また、冠動脈内で、一時的に血液が固まった場合や冠動脈が痙攣を起こし閉塞した場合も、心臓の筋肉は一時的に酸素不足に陥ります。

心臓の筋肉が酸素不足になって、胸が痛くなるのが狭心症です。

狭心症を放置しておくと、冠動脈内で血液が固まり、閉塞したままになって、心臓の筋肉が死んでしまい、突然死を来す場合があります。これが、心筋梗塞です。

狭心症を治療する目的は、狭心症を治すことではなく、心筋梗塞を予防することにあります。そのため、様々な治療が行われています。最近は、カテーテル治療やバイパス手術が進歩し、狭くなった血管を比較的容易に広げることが出来る時代になりました。しかしながら、カテーテルで狭いところを拡張することが出来ても安心は出来ません。なぜなら、狭心症になった原因が残っていれば、また、冠動脈の別の部位が狭くなる可能性があるからです。

狭心症の発症を予防するために、また、狭心症から心筋梗塞に移行していくのを防ぐために、血圧、血糖値、コレステロール値を日頃からできるだけ正常に近づけ、禁煙し、運動する習慣を持つことが大切です。また、血液が血管の中で固まらない様に、血をさらさらにするお薬を内服することも心筋梗塞を予防する有用な手段です。

糖尿病があると狭心症や心筋梗塞を発症しやすいだけでなく、痛みを感じにくくなっているため、狭心症を起こしても胸が痛まないことがあります。このため、たとえ弱い痛みであっても、狭心症否定することは出来ません。狭心症は、心筋梗塞の予兆とも言えます。狭心症の痛みは、数分でうそのように軽快することが多く、胸痛や胸部圧迫感があれば、たとえ痛みが数分で消失しても早めに医療機関を受診するようにしましょう。



心筋梗塞(突然死)を防ぐ
(18年8月号に院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)
 

 心筋梗塞は、日本人の3大死因の1つで、発症すれば、その約3割は、死に到る疾患です。心筋梗塞は、冠動脈と言われる心臓を栄養している血管壁にコレステロールが蓄積すしプラークができる事により起こる疾患です。プラークが、ある日突然破れ、そこに血液が付着して固まり、血管を閉塞することによって発症します。したがって、心筋梗塞を予防する為には、血中のコレステロールを下げておくことが大切です。
また、高血圧、糖尿病、喫煙も動脈硬化を促進し、プラークの原因とのなります。


心筋梗塞を発症すると、激しい胸の痛みを訴えます。しかし、上腹部の痛みを訴える場合もあり、胃潰瘍や胆石発作と紛らわしい場合もあります。また、糖尿病があると、知覚神経が傷害され、強い痛みの出現しない場合もあり注意が必要です。
心筋梗塞の治療は、閉塞した冠動脈を一刻も早く再開通させることです。再開通させる方法には、t−PAと言われる血栓溶解剤を点滴する方法、心臓にカテーテルを入れ冠動脈内にt−PAを直接注入する方法、冠動脈に入れたカテーテルで閉塞部を通す冠動脈形成術(インターベンション)といわれる方法などがあります。冠動脈が閉塞すると、その先の心筋は、どんどん壊死を起こします。発症12時間〜24時間で、詰まった冠動脈の支配する領域が、完全に壊死となります。したがって、再開通させる治療も、12時間以内におこなう必要があります。発症2、3時間で再開通した場合には、後日、心電図やエコーでも分からない位に回復することが、多々あります。

心筋梗塞の発症直後は、心室細動と呼ばれる不整脈が生じやすく、直ちに処置をしないと心停止に到ります。このため、数日間は、CCUと言われる集中治療室に入院し、24時間モニターで不整脈を監視して、心室細動になると直ちに電気ショックによる治療をおこなうとともに、血圧や尿量の厳重な管理をおこないます。一度壊死した筋肉が戻ることはありませんが、やがて、繊維化し硬くなることにより、破裂しなくなります。ここまでくれば、一安心です。

 以前、心筋梗塞は、病院内で約30%死亡すると言われていました。1970年代にCCUが出来、病院内での死亡率が約15%に低下、さらに、1980年代には閉塞した冠動脈の再灌流療法が普及、1990年代以降、薬剤溶出ステントなどの登場でその手技が著しく進歩し、現在は、病院内での死亡が約10%以下にまで低下しています。にもかかわらず、心筋梗塞による死亡が思ったほど減少しないのは、入院するまでに15%死亡し、この死亡率は、1960年代と大差がないからです。
米国では、心室細動に対して一般市民が直ちに電気ショックを行えるよう、駅や劇場など人の集まる所にAEDと呼ばれる簡単な電気ショックの機械が設置されています。日本でも、旅客機などには、すでに搭載されています。AEDがなくても、心停止の人をみたら、とにかく救急隊が到着するまで、心臓マッサージを続けてください。人工呼吸をしなくても、マッサージのみでも効果があります。

遺伝子治療により、血管や心筋を再生させる治療も実用化しつつあります。しかし、これほどの医学の進歩にもかかわらず、心筋梗塞による死亡は、減少傾向がみられません。1960年代から、高血圧の治療の進歩と普及で脳出血による死亡が激減しているのとは、対照的です。これは、心筋梗塞の原因として、血圧だけでなく、糖尿病や高脂血症があり、これらの患者数が、治療の進歩を凌駕するほど増加しているのが最大の原因です。
今後、心筋梗塞の死亡を減らす為には、糖尿病や高脂血症に対する食事療法や運動療法の普及、早めの投薬が必要と考えます。


エコノミークラス症候群
(18年5月のコミュニティー紙「おかあさんチョット」に掲載されたものです。)

 長時間の旅客機搭乗後に、空港で突然死することが注目され、エコノミークラス症候群と呼ばれるようになりました。これは、長時間足を動かさず、座ったままでいたため、下肢の深部静脈に血の固まり(血栓)ができ、空港に着いて立ち上がった時に剥がれ、肺の動脈に詰まり、肺に血液が流れなくなり、突然死をきたす疾患です。肺血栓塞栓症とも言われ、エコノミークラスでは、客席が狭いため、足を動かしにくく、発生頻度が高いと言われています。しかし、座ったままでも、時々、足を動かしていれば発生が予防できます。
また、地震などで車中泊が続く場合の肺血栓塞栓症による突然死が報告されて
おり、車中に宿泊する場合も同様の注意が必要です。手術による臥床の後にも発症することがありますが、最近はこの疾患が、循環器専門医以外にも知られるようになり、術前から予防処置が行われるようになりました。
 
症状は、突然の呼吸困難、胸痛などであり、しばしば心筋梗塞などの疾患と間違われるケースがあります。動脈の血液は、ポンプである心臓から送り出されることにより流れますが、心臓に帰っていく血管である静脈には、ポンプが付いていません。静脈の血液は、まわりの筋肉が収縮することにより、静脈が圧迫され、それに伴い血液が流れます。
したがって静脈血栓の予防には、静脈のまわりの筋肉を動かすことが、何より大切であり、長期の旅行や車中で泊まる場合には、時々、足を動かされる事をお勧めします。