ウイルスと肥満から肝臓を守る 
 
(30年7月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)

 

 肝炎には、ウイルス性肝炎と肥満が主な原因である非アルコ−ル性脂肪肝炎があります。ウイルス性肝炎は、感染後直ぐに発症する急性肝炎と持続的に感染することにより肝硬変や肝臓癌の原因となる慢性肝炎に分けることが出来ます。慢性ウイルス性肝炎を引き起こすウイルスには、主にB型肝炎ウイルスとC型肝炎ウイルスの2つがあります。

 B型肝炎ウイルスは、免疫力が十分に備わっていない小児期に感染すると慢性化することが知られています。慢性B型肝炎は、出生児に母親から感染する母子感染が大部分であったことから、出生児にグロブリン製剤とワクチンを併用することより、ほぼ予防出来るようになりました。また、保育園などで感染することもまれにあることから、2016年以降、1歳未満の小児にワクチンを接種するようになっています。一方、すでに持続感染している成人では、ウイルスを排除することは困難です。しかしながら、核酸アナログ製剤等で肝炎を鎮静化させることにより、将来の肝臓癌のリスクを、減少させることはできます。

 C型肝炎ウイルスは、ウイルスが発見される以前に受けた輸血や注射針などでの感染が、殆どです。慢性C型肝炎も肝臓癌の大きなリスクとなります。以前、インタ−フェロンで治療していた頃は、副作用のため高齢者や肝硬変の患者様の治療が、困難でした。しかし、2014年以降、直接作用型抗ウイルス薬(DAA)と言われる治療薬の登場により、慢性C型肝炎は、95%以上の確率で治癒する時代になっています。

 慢性ウイルス性肝炎の患者様には、症状がなくても、定期的に医療機関を受診して頂きたいと考えています。その理由は、現在、肝炎が鎮静化していて治療の必要がなくても、肝臓癌を発症するリスクは、一般の人よりも高く、定期的に検査をする必要があるからです。また、一度、治療する必要がないと言われた人でも、薬剤の進歩により、治療することが望ましい可能性があるからです。最後に、ウイルス肝炎による肝臓癌は、医学の進歩と伴に今後減少すると予想されるのに対し、最近、肥満が原因で発症する非アルコ−ル性脂肪肝炎による肝臓癌が、増加してきています。肝臓癌の予防には、今後、肥満対策が重要になってくると考えられます。


慢性膵炎の予防には、禁煙と禁酒が大切です

 (30年2月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)
 

膵臓は、食物を消化するための消化酵素を分泌し腸管に送っています。消化酵素が、上手く消化管に流れなくなったために、膵臓自体が消化されてしまい炎症を起こす疾患が膵炎です。膵炎には、急性膵炎と慢性膵炎があります。どちらもお酒や胆石が二大原因と言われていますが、原因が分からない特発性のものもみられます。
突然の腹痛で受診されるのが、急性膵炎です。多くは、激しい腹痛を訴えますが、中には痛みの軽い人います。急性膵炎は、重症になると生命に関わる疾患であり、死亡率は2%と言われています。このため急性膵炎と診断された場合は、入院して治療を受ける必要があります。一方、膵臓に軽い炎症を繰り返すのが、慢性膵炎です。慢性膵炎では、炎症が起こるたびに腹痛があり、炎症を繰り返しているうちに膵臓が破壊され消化酵素の分泌が低下します。このため、慢性膵炎が進行すると、脂肪の吸収が悪くなり、体重減少や下痢がみられます。


膵炎では、アミラーゼやリパーゼなどの本来膵臓から消化管に流れるべき膵酵素が、血中で上昇していることにより診断されます。また、腹部超音波検査や腹部CTなどの画像診断が有用です。慢性膵炎では、膵臓に炎症を繰り返すことによって膵臓に石灰化が起こってきます。最近では、膵臓に石灰化が起こる典型的な慢性膵炎に陥る前に、内視鏡を使って胃壁から膵臓を超音波で観察することで、早期に慢性膵炎を診断しようとする試みがあります。

慢性膵炎では、膵臓癌の合併率が高いことが知られています。また、アルコールによる慢性膵炎の患者様は、糖尿病の合併率や喫煙率が高く、喫煙は慢性膵炎の発症を高める要因とされています。その結果、アルコールによる慢性膵炎の患者様の平均寿命は、65.1歳と短命です。慢性膵炎の予防には、禁煙と禁酒のいずれもが大切と言えます。


お酒の適量は、一日アルコ−ル20g以下
(29年2月のコミュニティー紙「おかあさんチョット」に掲載されたものです。)

 
 昔から、酒は百薬の長と言われ、全く飲まない人に比べて一日0.5合程度の少量のお酒を飲む人の方が、善玉コレステロ−ルが増加し長生きするとの報告もあります。
しかし、大量の飲酒は、肝硬変、慢性膵炎、食道癌等の原因となるだけでなく、脳卒中などの循環器疾患も増加させることが分かっています。
大量の飲酒は、血管を拡張し血圧が低下、それに伴うふらつきや転倒の原因となる一方、翌朝の血圧を上げ、脳卒中を引き起こします。お酒の適量は、一日アルコ−ル20g以下と考えられており、休肝日をもうけるのが、健康的な飲酒と言われています。


 ところで、20gのアルコ−ルとは、どの程度の量になるのでしょうか。たとえば、日本酒は、アルコ−ル度数15%ですので、一合180ccの日本酒には、180X0.15=27ccのアルコ−ルが含まれています。1ccのアルコ−ルの重さは、0.8gなので、日本酒1合には、27X0.8=21.6gのアルコ−ルが、含まれています。

日本酒180cc(一合)、ウイスキ−やブランデ−60cc(ダブル一杯)、ワイン200cc(グラス1.5〜2杯)、ビ−ル500cc(中ビン1本)、焼酎100cc(ぐい飲み一杯)が、アルコ−ル20gに相当しますので、アルコ−ル度数の高いお酒ほど、少ししか飲めない計算になります。

女性は、男性に比べてアルコ−ルの分解速度が遅いため、一日10g〜14g以下が望ましいと考えられています。また、高齢者やお酒を飲むと赤くなる人もアルコ−ルの分解速度が遅いため、飲酒量を控えめにすべきと言われています。 

      

脂肪肝は、万病の元

 (28年5月のコミュニティー紙「おかあさんチョット」に掲載されたものです。)

 
肝臓は、栄養を蓄えるための臓器ですが、過栄養になると脂肪が沈着した状態、いわゆる脂肪肝になります。大量の飲酒をしないのに脂肪肝になった状態を、非アルコ−ル性脂肪性肝疾患(NAFLD)と呼びます。以前は、肝臓癌の殆どが、B型やC型の肝炎ウイルスが原因で発症しましたが、脂肪肝の増加に伴い、最近では、肝臓癌の約2割は、NAFLDが原因と考えられています。また、NAFLDの3〜5割に中性脂肪やコレステロ−ルが高くなる脂質異常症が、3割に高血圧が、3割に高血糖がみられます。このため、NAFLDがあると、心筋梗塞などの心血管疾患の発症が2倍になります。また、NAFLDと診断された時点で糖尿病と診断されていなくても、脂肪肝が長く続いた人の16 % が、その後に糖尿病を発症したとの報告があります。一方、脂肪肝が改善した人では、3%しか糖尿病を発症しませんでした。

  人間ドック受診者の30歳から60歳までの男性の40%が、閉経後の女性では、30%が、NAFLDと診断されます。15〜19歳の有病率が、17.3%との報告もあり、若年者でも増加しています。NAFLDを発病してから、肝臓癌を引き起こすまでには、30年以上の年月が必要です。このため、脂肪肝は、軽視されがちです。しかし、今後、NAFLDを原因とした肝臓癌や心筋梗塞の増加が危惧されます。脂肪肝は、メタボリック症候群と同様、栄養過多が、原因です。健診で脂肪肝と診断されたら、たかが脂肪肝と考えず、運動とカロリ−制限による減量を実践して下さい。

 


食べ過ぎ、飲み過ぎ、運動不足による肝臓癌が、増加しています 
(27年9月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)
 
1992年、C型肝炎ウイルスの抗体が測定出来るようになり、肝臓癌の約95%が、B型肝炎やC型肝炎のウイルスに持続感染することにより発症することが判明しました。その後、インタ−フェロンの出現により慢性C型肝炎を治癒させることが可能となりました。当初の治癒率は、2割程度でしたが、薬剤の進歩により、今年(2015年)年末に発売予定のお薬を使うとほぼ100%治癒する時代になったと言われています。また、B型肝炎は、性交や麻薬の注射による感染を除けば、ほとんどが母子感染ですので、ワクチンを打つことにより予防出来る時代になっています。ウイルス性肝炎による肝臓癌が克服される時代は、そう遠くありません。ところが、最近、アルコ−ル性肝障害や脂肪肝を原因とした肝臓癌が増加、肝臓癌の約3割を占めるようになっています。

1970年頃、肝臓癌は、診断がつけば3ヶ月で死亡すると言われていました。現在は、肝臓癌が見つかっても、約半数の方は、5年後に生存されています。これは、超音波検査などの機械の進歩で早期発見が可能になったことや治療法の進歩によるものです。肝臓癌は、手術で切除するだけでなく、小さい癌であれば、腫瘍に穿刺針を刺してラジオ波で焼灼する治療も可能です(焼灼療法)。また、正常の肝細胞は、門脈から70%、動脈から30%の血流を受けているのに対し、肝臓癌は、ほぼ100%動脈からの血流で栄養されているため、癌細胞に栄養を送っている肝動脈の枝にカテ−テルを用いて抗癌剤と塞栓物質を流し込む治療法もあります
(肝動脈化学塞栓療法)。肝臓癌では、癌が発生した時に癌以外の肝細胞もウイルスによる障害が進んでいて、肝機能が低下している場合がしばしばあります。そのような場合には、肝移植も保険適応となっています。
肝臓癌による死亡を防ぐには、
@ B型やC型の肝炎ウイルスに感染していないかを調べる。
A 食べ過ぎ、飲み過ぎ、運動不足に注意する。
B 定期的に腹部超音波検査を受ける。
の3点が重要かと考えます。



脂肪肝は、万病の元 
(26年5月のコミュニティー紙「おかあさんチョット」に掲載されたものです。)

 
最近、脂肪肝が増加しており、日本人の約一千万人が脂肪肝とも言われています。
脂肪肝とは、肝臓の3分の1以上が脂肪に置き換わった状態を言います。脂肪肝の人の一部は、将来、肝硬変や肝細胞癌を発症することがあり要注意です。また、肝臓は、栄養を貯蔵する大切な臓器です。食事で摂取された栄養は、インスリンの働きにより肝臓に貯蔵されます。脂肪肝になると肝臓でのインスリンの効きが、悪くなります。このため、脂肪肝の人は、血糖を下げるためにより多くのインスリンが必要な状態になります。そこで多くのインスリンが分泌されると、インスリンには血圧を上げる作用があるため、高血圧の原因になります。また、多量のインスリン分泌のため、膵臓が疲れ果てインスリンを分泌出来なくなると、栄養を肝臓に貯めることができなくなり、血液の中の糖が上昇し、糖尿病を発症します。さらに、高血圧や糖尿病は、脳梗塞、心筋梗塞、腎不全による透析、認知症の原因になります。

 健診で、肝機能障害を指摘され医療機関を受診しても、B型肝炎やC型肝炎などのウイルス性肝炎でないことが分かると、安心してそのままになってしまう人を多く見かけます。脂肪肝では、お酒を控えたり、運動をしたり、脂肪や炭水化物の過剰な摂取を控える等の生活習慣の改善が第一であるため、投薬をしないことが多く、このため、病気との意識を持たず、結局生活習慣も改善されないことが多いようです。
脂肪肝は、様々な疾患の黄信号です。脂肪肝と診断された時点で、しっかりと生活習慣を改善して下さい。

 


下痢のない腹痛は、結石かも知れません 
(26年5月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)

結石には、胆石と尿路結石があります。肝臓では、脂肪の吸収を助けるために胆汁が造られます。胆汁は、胆嚢という袋に貯蔵されており、食事をすると胆嚢が収縮して、便中に排泄されます。この胆汁が、胆嚢の中で固まって石のように硬くなったのが、胆石です。
胆石が、胆嚢の出口や胆汁を排泄するための管である胆管につまると痛みが生じます。痛みの程度は、軽い上腹部の不快感から救急車を呼ぶような激しい痛みまで、様々です。
胆石が原因で感染を起こすと、胆嚢炎を発症、さらには、腹膜炎へと進展することがあります。状態にもよりますが、最近の胆石の手術は、腹腔鏡を使って小さな傷口でおこなえることが多くなっています。したがって、一度、激しい痛みや胆嚢炎を経験した患者様は、手術を考えて下さい。但し、一生痛まない胆石も多いので、症状がないようであれば、定期的に腹部エコ−の検査を受け、経過をみていくのが宜しいかと思います。

一方、尿は、腎臓で造られ、尿管を通って膀胱に排泄されます。尿が固まって石になり尿管につまったのが、尿管結石です。腎臓は、左右2個あるので、尿管に結石がつまると左右どちらかの背部に痛みを生じます。胆石同様、救急車を呼ぶような激しい痛みであることも稀ではありません。尿路結石は、血尿で気づかれることもあります。腎臓内にある症状のない小結石は、放置可能ですが、1 cm以上の結石、症状のある結石、尿管につまった結石は、腎機能の低下を招く危険があり、治療が必要です。また、症状のない小結石であっても、胆石同様、腹部エコ−で経過をみていくことお勧めします。

上腹部が、時々痛み、胃痛と思っていた人が、検査をすると胆石であったと言うことは、めずらしくありません。実際にあった話ですが、腹痛のためある病院の消化器内科を受診、大腸内視鏡検査を受け、異常がないと言われたにもかかわらず痛みが続くため、当院を受診されました。検査の結果、尿管結石でした。
下痢を伴わない原因不明の腹痛が、結石であることは、しばしば経験することです。



膵臓の予防も、まず、禁煙から

(24年8月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)

平成21年の膵癌による日本人の死亡者数は、26,791人であり、肺癌、胃癌、大腸癌、肝癌に続いて第5位になっています。
ところが、胃癌や大腸癌の手術を受けたという人には、時々お目にかかりますが、膵癌の手術を受けた人にお会いする機会は多くありません。その理由は、膵癌は、胃癌や大腸癌など他の消化器系の癌に比べ、予後が著しく不良であり、診断されてから3年後の生存率が、わずか16.1%であるためです。
最近、延命効果のある抗癌剤がいくつか使用出来るようになっていますが、予後は、まだまだ不良です。膵癌が予後不良である原因として、他の癌に比べ発育が速いことや、胃癌や大腸癌と違い内視鏡検査による早期発見ができないことなどが挙げられます。

膵癌の発生率は、慢性膵炎があると4〜8倍になり、家族に膵癌を発症した人がいると13倍も高くなります。最近、大阪府立成人病センタ−から腹部超音波検査で主膵管径が2.5 mm以上に拡張している人は6.4倍、5 mm以上の膵嚢胞がある人は6.2倍、両方ある場合は27.5倍の膵癌の発生率があり、このような人に半年に一回、腹部超音波検査を行うことにより膵癌の早期発見に役立つ可能性があると報告されました。
また、以前から、IPMN(膵管内乳頭粘液性腫瘍)と言われる良性の腫瘍が膵臓にある人は、その後、IPMNが癌化したり、別の場所に膵癌が発症したりする確率が高いことがわかっており、そのような人達も定期的な経過観察が必要と考えられています。
このほか、糖尿病があると膵癌の発生率が1.8〜2.1倍に増加します。糖尿病に膵癌が合併する場合は、糖尿病発症後2年以内に多いことが分かっており、糖尿病と診断された場合、一度、腹部超音波検査などで膵臓を見ておくことをお勧めします。

最後に、膵癌は、喫煙により2〜3倍に増加することが分かっています。膵癌も他の癌と同様、まず禁煙し、腹部エコーなどで定期的に検診を受けることが、現時点での最良の対策と考えられます。



慢性肝炎の治療は、肝臓癌を予防します
(24年4月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)


 肝炎のほとんどは、肝臓にウイルスが進入して起こるウイルス性肝炎です。ウイルス性肝炎は、発見された順に、A型、B型、C型、D型、E型・・・と名前が付けられています。このうち、体内で持続的に感染するのは、B型とC型です。B型肝炎やC型肝炎に持続的に感染していても、何の自覚症状もないため、その感染に気付いていない人も多数みられます。
B型肝炎やC型肝炎の持続感染は、将来の肝硬変や肝臓癌の原因となりますので、まず、これまでに肝炎に関する健診を受けたことがない人は、一度、受けておかれることをお勧めします。これまで肝炎健診を受けたことがない人は、検査代が公費で負担されるため無料で受けることができますので、受付で御相談下さい。
次に、肝炎ウイルスに持続感染している人は、症状がなくても定期的に医療機関を受診されることをお勧めします。肝炎が沈静化しておりウイルスが暴れていなければ、何の治療もしないで経過をみることがあります。しかしその場合でも、時々、ウイルスに肝臓が破壊され、血液検査でGOTやGPTが上昇していないかを定期的にチェックする必要があります。また、肝炎ウイルスに持続感染していると肝臓癌の発症率が高いので、定期的に腹部超音波検査をおこなう必要があります。
慢性ウイルス性肝炎の治療には、インターフェロンなど、高価な薬剤が使われることが多いのですが、治療費に関しましても公費の補助がありますので、このことに関しても、御相談頂ければと考えます。

現在、肝臓癌は、胃癌、大腸癌と並んで頻度の高い消化器癌です。胃癌や大腸癌と違い、その8割〜9割は慢性ウイルス性肝炎の人に発症することがわかっています。ウイルス性の慢性肝炎を治療することにより肝臓癌の発症を予防することと、慢性肝炎があれば定期的に検査を受け、肝臓癌の早期発見に努めることが、肝臓癌での死亡を防ぐ最も大切な方法と考えます。

C型肝炎の検査をうけたことがありますか?

(23年10月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)

C型肝炎ウイルスは、血液を介して感染します。1980年代末までその存在が知られていなかったため、予防注射の針の使い回しや輸血が、多数の感染者を生み出す結果となりました。C型肝炎ウイルスに感染した人の70%は、自然に治癒することなく持続的に感染し、20年後に肝硬変を、30年後に肝癌を高率に発症します。

肝癌を発症しないための最も有効な治療は、ウイルスを駆除することであり、インターフェロンによってのみ可能です。しかしながら、インターフェロンは、注射をすれば必ず発熱し、間質性肺炎や鬱症状等の重篤な副作用もみられるため、高齢者では使用しにくい薬剤です。また、インターフェロンは、ウイルスのタイプや量によって、効きにくい場合があります。ただし、最近は、薬剤の進歩やリバビリン等他の薬剤を併用することにより、インターフェロンによる治癒率は高くなっています。このため、以前、インターフェロンでウイルスを排除できなかった人でも、再度行う場合があります。また、インターフェロンでウイルスを排除できなかった場合や副作用などのためインターフェロンを使用できない場合は、ウルソの内服や強ミノCの注射を行い肝臓の炎症を抑えることにより、肝癌の発症をある程度抑えることが可能です。

慢性C型肝炎の大きな問題は、予防注射などで知らないうちに感染し、癌を発症するまで気付かない人が多いことです。慢性肝炎の無料健診は、当院でも行っていますので、診察時に御相談して下さい。慢性C型肝炎に感染していることが分かれば、定期的に超音波検査をおこない、肝癌を早期に発見し、開腹せず、ラジオ波で治癒することも可能です。インターフェロンの治療費は、高額ですが、公的な助成があります。但し、助成金制度は、期間限定ですので、早めの治療をお勧めします。インターフェロン治療は、ウイルスが増殖してからでは効きにくくなるので、できるだけ早期に行うことが、医学的にも望ましいと言えます。



B型肝炎やC型肝炎は、肝臓癌の最大の原因です
(20年10月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)

28年前の全国調査では、肝臓癌の手術死亡率は、27.5%、5年生存率は11.8%でした。このことは、手術をしても、4人に一人は手術をしたために死亡し、5年後には10人に一人しか生きていないことを意味します。
2001年の調査では、手術死亡率は、0.9%、5年生存率54%にまで改善しています。また、この間、手術以外の治療方法も格段に進歩しました。
経皮的エタノ−ル注入法は、エコ―で見ながら細い穿刺針で腫瘍内にエタノ-ルを注入し腫瘍を壊死させる治療です。その後、穿刺針から、マイクロ波やラジオ波を発生させ腫瘍を熱凝固させる治療法も開発され、小さい腫瘍に効果を発揮しています(経皮的マイクロ波凝固療法、経皮的ラジオ波凝固療法)。
肝臓癌の細胞は、正常の肝細胞に比べて動脈から多くの血液が供給されているため、カテ―テルで腫瘍を栄養している肝動脈の枝に対し選択的に抗癌剤を注入した後、その血管を閉塞させ腫瘍を阻血壊死に陥らせようとの治療もあり、手術の出来ない多発性の肝臓癌に有効です(肝動脈塞栓療法)。
末期癌に対しても、皮下に動注ポ−トを植え込むことにより腫瘍を栄養している肝動脈に持続的に抗癌剤を注入する肝動注化学療法がおこなわれ腫瘍の縮小効果がみられます。
放射線照射も機械の進歩に伴い非腫瘍部位へのダメ―ジが、以前より小さくなっています。肝硬変を合併し、従来の方法では治療できないような肝臓癌でも、肝移植により根治できる場合があります。


これほどの進歩にもかかわらず、日本では年間3万5千人が肝臓癌のため亡くなられています。肝臓癌を克服するためには、治療の進歩だけでは困難であり、予防と早期発見が大切です。肝臓癌の発症率は、B型肝炎ウイルスに感染すると約300倍、C型肝炎ウイルスに感染すると約1000倍も増加します。その結果、肝臓癌の95%は、B型とC型の肝炎ウイルスにより発症します。特にC型肝硬変があると、年7.5%と高率に肝臓癌を発症します。C型肝炎は、インタ−フェロンによりその半数が治癒可能ですが、たとえ治癒できなくても肝硬変にならないように治療続けることが癌の予防になります。
最近は、超音波検査により直径1cm程の小さな癌の発見が可能です。いわゆるメタボ健診では、肝臓癌の検査はありませんので、肝炎ウイルスに感染している人は、定期的に腹部エコーや肝臓癌の腫瘍マーカーを調べておくことが大切です。
また、肝臓が悪くない人も、一度は、肝炎ウイルスに感染していないか血液検査を受けておくことをお勧めします



脂肪肝は、国民病?

(20年2月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)


肝臓の3分の1以上が脂肪に置き換わった状態を脂肪肝と言います。最近、健診の血液検査で、肝機能障害の見られる頻度が増加、4人に一人に見られるようになりました。
肝機能障害の原因として、アルコール性肝障害やB型、C型などのウイルス性肝炎が有名ですが、患者数としては、脂肪肝が圧倒的に多く見られます。ウイルス性肝炎は、日本人に多く、国民病と言われていましたが、今や、脂肪肝が国民病と言えます。


脂肪肝は、飲酒の有無によりアルコ―ル性脂肪肝と非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)に分類されます。
非アルコール性脂肪性肝疾患は、
70%に肥満を、50%に脂質代謝異常を、30%に高血圧を、30%に高血糖を、30%にメタボリック症候群を伴います。
肝臓に脂肪が付くぐらい、お腹に脂肪が付いていることは、動脈硬化の進行する原因となり、将来、心筋梗塞や脳梗塞を発症する危険性が高いと言えます。
しかし、脂肪肝の問題は、それだけではありません。アルコール性脂肪肝が、肝硬変や肝癌の原因になることはよく知られていますが、非アルコール性の場合でも、約
10 %が、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)と言われる炎症を起こした状態にあり、さらにその中の 5 20 % が、5 10 年後に肝硬変へ移行することが分かってきました。
しかし、なぜ、非アルコール性脂肪性肝疾患の
10 %だけが、脂肪性肝炎の状態になるのかは、よく分かっていません。

また、超音波検査をすれば、脂肪肝かどうかの診断は、容易ですが、肝硬変へ移行する危険のある脂肪性肝炎の状態であるのかどうかの判定は、容易ではありません。従いまして、現在のところ、脂肪肝による肝硬変を予防するには、脂肪肝自体を予防するしかありません。


脂肪肝の予防は、メタボリック症候群の予防と同様、カロリーを控えめにし、脂肪摂取を控え、有酸素運動をすることです。脂質代謝異常、高血圧、高血糖、メタボリック症候群を合併している場合は、それに対する治療も大切です。



胆石や尿路結石も生活習慣病?

(19年5月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)

一般に、体にできる石には、胆石と尿路結石の二つがあります。
   

コレステロ−ルの代謝や脂肪の吸収を助ける胆汁は、肝臓で合成され、胆管を通り、十二指腸に流れていきます。その途中に胆汁を蓄える胆嚢と言われる袋があり、食事をした時に収縮し、貯めていた胆汁を消化管に大量に流すことにより、脂肪の吸収を助けています。胆石は、胆汁が、主に胆嚢内で固まってできる結石です。
胆石の約70%は、コレステロ−ルを多く含む結石です。胆汁中のコレステロ−ルが過飽和状態になり、胆嚢内に析出することが、結石の原因となります。数十年も前から、胆石は、太った都会の中年女性に多いと言われていましたが、食生活の欧米化に伴い、最近益々増加しています。

一方、尿路結石は、尿の成分が腎臓内で固まって出来る結石です。

尿路結石は、その成分により、蓚酸カルシウム結石、リン酸カルシウム結石、尿酸結石などに分類されます。お肉のような動物性蛋白質は、蓚酸、尿酸、カルシウムなど結石の原因となる物質の尿中への排泄を増加させると共に、結石を予防する働きのあるクエン酸の尿中への排泄を低下させ、尿路結石の形性を促進します。
カルシウムは、腸管内で蓚酸と結合し、結石の原因物質である蓚酸の吸収を抑えるため、適度に摂取することが結石の予防につながります。尿中への塩分の排泄が増加するとカルシウムの排泄も増加するため、塩分の過剰摂取もカルシウム結石を出来やすくします。穀物や野菜には、マグネシウムや食物繊維が多く含まれています。
マグネシウムは、腸管内で蓚酸と結合し、結石の原因となる蓚酸の吸収を抑制します。また、尿中でも、蓚酸と結合し蓚酸マグネシウムを形成することにより蓚酸カルシウム結石の形成を防ぎます。逆に、砂糖の過剰摂取は、尿中へのカルシウムの排泄を増加させ、結石の形成を促進します。この他、脂肪の過剰摂取も尿路結石を増加させることが知られています。

尿路結石も、近年増加しており、お米や野菜の摂取量の減少や、動物性蛋白、脂肪、砂糖の消費量の増加が、その大きな原因と言われています。また、帰宅が遅く、夕食から寝るまでの時間が短い生活が、就寝中の尿路結石形成の原因となります。
胆石症や尿路結石は、食生活の欧米化がもたらした生活習慣病の一つとも言えます。



見逃されやすい膵臓病

(18年7月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)


胃が痛いと言って病院に来られる人は、毎日のようにお目にかかりますが、膵臓が痛いと言って来られる人は、めったにお目にかかりません。ところが、きっちりと検査をすると、腹痛の原因の5%は、膵炎であるとのデーターもあり、軽症の膵臓病は、見過ごされている場合が多いようです。膵炎では、上腹部痛の他、背中や腰に痛みのみられる場合もあります。膵炎には、急に起こってくる急性膵炎と、何度も炎症を繰り返す慢性膵炎があります。膵臓は消化液を造る臓器ですので、膵臓に炎症を起こると、アミラーゼやリパーゼといった消化酵素が血中で上昇し、また、これらの測定が診断に有用です。膵炎には、自然に軽快する軽症のものから、集中治療室に入院となる重症のものまであり、病気の重さは様々です。重症膵炎と診断されると、20〜30%が死亡すると言われています。軽症の膵炎では、胃炎等と、重症の膵炎では、急性心筋梗塞等と誤診される場合があります。

もう一つの膵臓の病気は、膵臓癌です。膵臓癌は、悪性腫瘍による死因の第五位です。罹患率と死亡率がほぼ同率の難治癌で、年間2万人が、膵臓癌のために死亡しています。膵臓癌の大部分は、浸潤性膵管癌と言われるものであり、2003年に発表された日本膵臓癌学会の20年間の浸潤性膵管癌の癌登録をみてみますと、登録された9703人の平均生存月数は、わずか8.6ヶ月であり、5年後の生存率は、9.7%でした。膵頭部切除を受けた4864人のうち、直径2cm未満の早期に発見された人は、79人にすぎません。しかも、79人の5年後の生存率は、57%であり、その様な早期に見つけても半分位しか治らないことを示しています。しかし、1cm未満の大きさで発見すれば治癒可能であるとも言われており、疑わしい場合は、積極的に検査を勧める必要があると考えます。

 膵癌では、インシュリンの分泌が悪くなるために、糖尿病を引き起こすことがあります。今まで全く血糖が高くなかったのに、あるいは家族に糖尿病がいないのに、急に糖尿病が発症した場合は、念のため、腹部超音波検査を受けておくことをお勧めします。

膵臓病は、大量のアルコール、脂肪の摂取過多、喫煙などが、誘因となります。
アルコール摂取量や、脂肪の摂取量の増加している今日、膵臓病は、増加が危惧される疾患の一つです。



慢性C肝炎と肝臓癌
(17年5月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)

慢性C型肝炎とは、肝臓にC型肝炎ウイルスが住み着いて、持続的に炎症を起こしている状態を言います。炎症のため、肝細胞がつぶれ、肝細胞内に含まれている、GOTやGPTが、血中にもれてきます。したがって、血中のGOT、GPTを測定することにより、炎症の強さがわかります。炎症が、何年、何十年と持続しているうちに、線維化がおこり、肝硬変へと進行します。肝臓内に炎症を繰り返していると、癌細胞が、高率に発生します。慢性肝炎では、年率1.5 %の、肝硬変では、年率7% もの肝臓癌が発生します。肝臓癌を防ぐためには、ウイルスを排除するのが一番であり、その唯一の手段が、インタ−フェロンです。

インタ−フェロンが、保険適応になってから、十数年経ちますが、初期の頃に比べ有効率が著明に改善されています。インタ−フェロンαを24週投与するだけの頃は、著効を示す人は5 % でしたが、現在、リバビリンという内服薬と週一回のペグインタ−フェロンの注射を併用療法しますと、50%以上の人が著効します。このことは、以前インタ−フェロン療法を行って有効でなかった患者さんでも、新しいインタ−フェロンの適応があるかもしれないということを示しています。また、高齢や副作用のためインタ−フェロンを使えない場合やインタ−フェロンが効かなかった場合には、ウルソ内服や、強ミノの注射によって炎症を抑え、少しでもGOT、GPTを下げておくことが、発癌を防ぐため大切です。

最後に、30年前の医学書では、肝臓癌は発見されると余命3ヶ月と書かれていました。これは、背部痛や黄疸が出現して医療機関を受診するため、打つ手がなかった時代の話です。現在では腹部超音波検査により、1 cmの大きさの肝臓癌の発見が可能です。直径2 cm以下の肝臓癌であれば、経皮的マイクロ波凝固療法やラジオ波焼灼療法で、切らずに根治が期待できる時代となりました。
日本肝臓学会のガイドラインでは、慢性C型肝炎で治療
中の患者さんには、3ヶ月に一回腹部超音波を施行し、肝癌の早期発見に努めることが望ましいと記載されています