検診と生活習慣の改善で、大腸癌による死亡を減らそう 
(29年10月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。) 

大腸癌は、進行しないと症状が出現しないため、早期発見に検診は欠かせません。大腸癌による死亡の半分は、検診により防げると考えられています。大腸癌は、肺癌や膵臓癌に比べると進行が比較的遅く、年1回の検診であっても治癒可能な状態で発見出来ることが多いのが、その理由の一つです。大腸癌検診では、便に血液が混じているかを診て、陽性であれば内視鏡検査をおこないます。日本では、健診が普及していますが、残念なことに職場健診で便潜血の陽性を指摘されても、痔出血であろうと自己判断して、精密検査を受けずに手遅れになる方が、時々、おられます。このため、当院では、そのことを説明し、便潜血反応が陽性になった場合、ほぼ全員に精密検査を受けて頂いており、その結果、ほぼ毎年、何人かの内視鏡で切除出来る早期大腸癌の患者様が、見つかっています。

大腸癌は、ポリ−プから進行癌へと発育することが多いため、早期であれば内視鏡で切除し、治癒させることが出来ます。進行癌であっても、最近では、腹腔鏡と呼ばれるお腹に小さな穴を開けて切除する手術方法が普及してきています。大腸癌は、肛門近くに発生した場合は、術後人工肛門が必要になりますが、人工肛門を付けても、ほぼ通常と変わらない生活が可能です。抗癌剤も進歩してきています。手術で切除できない進行再発大腸癌と診断された場合の生存期間中央値は、抗癌剤を投与しなければ約8ヶ月ですが、化学療法をおこなえば、30ヶ月程度に延長されます。また、抗癌剤の効果は、個人差が大きいものの、切除不能進行再発大腸癌であっても、抗癌剤が著効した場合には切除可能になることがあります。

治療の進歩にもかかわらず、大腸癌は、癌による死因の男性で第3位、女性では第1位です。糖尿病、赤肉・加工肉の摂取、肥満、運動不足、喫煙、多量の飲酒などで増加し、その予防には、日頃の生活習慣の改善が大切と言われています。


ノロウイルスは、今日も生き続けています 
 (29年1月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)

二十世紀に入り赤痢やコレラ等の消化器系伝染病が、次々と克服されました。しかし、ノロウイルスは、二十一世紀の現在においても隆盛を誇っています。毎年のように冬になるとノロウイルスは、流行します。今回、何故ノロウイルスは克服されないかを考えることにより、ノロウイルスの感染を予防するためのヒントを勉強したいと思います。

ノロウイルスは、赤痢菌等の細菌よりもずっと小さいウイルスという存在です。従って、細菌を殺すお薬である抗生物質は、効きません。ノロウイルスは、比較的高温に強いため、少しの加熱では、生き残ることが出来ます。また、乾燥や酸に強く、水中でも長時間生き続けることが出来ます。従って、感染を起こした人の便に含まれるノロウイルスは、下水から川を流れ海に流れ着き、カキ等の二枚貝に食べられるまで生き続けることが出来ます。嘔吐により排出されたウイルスは、床に残り、吐物が乾燥すると埃とともに舞い上がり、その埃を吸えばウイルスが喉に付着し、ノロウイルスに感染してしまいます。
ノロウイルスは、免疫の持続期間が短く、しばらくすると再度感染が起こりえます。また、変異を起こしやすく、姿を変えることも再感染をおこす原因です。
ノロウイルスは、酸に強いのも特徴で、pH3の溶液に3時間つけても死滅しません。また、70%のアルコールでは、最低でも5分間は浸す必要があります。人間の体温と同じ37度の環境では一週間程度感染力を維持することが出来ます。4度の冷たい水の中では、二ヶ月間、冷凍にすると数年間、感染力を維持することが出来ます。

ノロウイルスに感染した人の30%は、下痢や嘔吐等の症状のみられない不顕性をおこします。この人達が、感染に気づかず料理をして人にうつしてしまうことも多々あります。
ノロウイルスは非常に感染力が強いので、10個程度のウイルスが体に入ると発病してしまいます。

以上の状況をふまえ、ノロウイルスに罹患しないためには、しっかりと手洗いをしておくことが、大切です。



胃食道逆流症が増加しています

 (27年12月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)

食物を消毒するため、胃の中は強い酸性になっています。食道の下部食道括約筋は、食事をすると弛緩し、食べ物が胃に入って行きます。嚥下と無関係に下部食道括約筋が弛緩し、胃酸が逆流するのが胃食道逆流症です。胸部と腹部の間には横隔膜があり、横隔膜には食道裂孔という穴があいています。食道裂孔を通して胃が胸部に入っていくことがあり、これを食道裂孔ヘルニアといいます。食道裂孔ヘルニアも胃酸逆流の原因となります。 ピロリ菌は、自身が胃の中で生存するために、胃酸を中和しています。
最近、衛生状態がよくなり、ピロリ菌に感染している人が減少してきています。このことは、胃癌の減少につながり、良いことではあるのですが、胃の酸度が上がり、食道への胃酸の逆流が増加する結果となります。胃食道逆流症は、食道の粘膜が胃の粘膜のような円柱上皮で覆われている状態、すなわちバレット食道の原因になります。バレット食道は、バレット癌といわれる食道癌を発生することがあり、欧米では、食道癌の半数は、バレット食道によって発生します。しかし、日本人では、バレット食道癌は、胃癌に比べると発生頻度が極端に少ないため、ピロリ菌を除菌しておく意味は大きいといえます。

胃食道逆流症の症状は、胸焼けだけではありません。時に胸が痛くなり、狭心症と間違われることがあります。喉まで胃酸が逆流することにより、喉のイガイガ感を、逆流した胃酸が気管に入ることにより慢性の咳嗽を招くこともあります。胃食道逆流症によるこれらの症状が疑われた場合は、胃酸の分泌を抑制するお薬を投与し、これらの症状が改善するかどうかをみてみることが診断に役立ちます。
タバコ、お酒、チョコレート、脂肪の多い食事、臥位、右側臥位などが胃食道逆流症を悪化させると考えられています。横になっていると、食道と胃が同じ高さになり、胃酸が逆流しやすくなるため、ベッドを挙上して寝ることは有用です。また、腹腔内の脂肪が増加すると胃が挙上され、胃酸の逆流が増加するため、肥満を改善すると、胃食道逆流症も改善します。

 



過敏性腸症候群は、意外に多い疾患です 
(25年8月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)

過敏性腸症候群とは、大腸癌、潰瘍性大腸炎、クロ−ン病、腸結核、甲状腺疾患などの病気がないにもかかわらず、腹痛を伴う便秘や下痢のみられる状態を言います。
便秘と下痢の両方が出現することもあれば、どちらか一方の場合もあります。
男性では、下痢のことが、女性では、便秘のことが多いと言われています。決して珍しい疾患ではなく、日本人の10〜20%が、過敏性腸症候群との統計もあります。症状の増悪には、精神的なストレスが関与しており、通勤通学の電車の中、車を運転していてトンネルに入った時、会議で自分が発表する時など、トイレに行けない状況になった時に急に腹痛や下痢が出現することがよくみられます。繰り返し起こるのも特徴で、診断基準では、6ヶ月以上にわたり症状があることや、月に3日以上腹痛や腹部不快感が起こることが挙げられています。このほか、排便によって症状が軽快することや、排便の頻度や便の形状が時々で変化するのも特徴です。

過敏性腸症候群は、以上の症状や血液や便の検査に異常がないこと、体重減少や血便のみられないこと等から診断します。但し、五十歳を過ぎてから新たにこのような症状の出現した人は、大腸癌を除外するために、一度は、大腸の検査を受けておくことが望ましいと考えます。薬剤としては、便の水分を吸収する働きのあるコロネル(ポリカルボフィルカルシウム製剤)、腸管の運動を調節するセレキノン(トリメプチンマレイン酸塩)、ビオフェルミンやレベニン等の乳酸菌製剤が有効です。また、便秘時には下剤を、下痢の時は止瀉薬を使用します。ストレスがかかると腸の粘膜からセロトニンが分泌され腸の運動異常を誘発、腹痛や下痢の原因となります。したがって、過敏性腸症候群では、セロトニン受容体拮抗薬であるイリボ−が、しばしば、特効薬となります。
慢性の腹痛を伴う下痢や便秘でお困りの方は、下剤や止瀉薬を漫然と使うのではなく、内科で相談してみて下さい。


胃炎でのピロリ菌の除菌治療が、保険適応になりました

(25年4月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)

以前は、胃酸のため胃の中に細菌は生息できないと考えられていました。
1982年オ-ストラリアの研究者が、胃の中で生息しているピロリ菌を発見しました。その後の研究で、慢性胃炎、胃潰瘍、胃癌などのある人は、高率にピロリ菌に感染していることが分かりました。また、胃潰瘍を繰り返している人が、抗生物質を一週間内服してピロリ菌を除菌してしまうと、ほとんど再発しなくなることも分かり、胃潰瘍に対する除菌は、広く行われています。しかし、慢性胃炎は、胃潰瘍に比べ痛みなどの症状が軽く、消化管出血などの重篤な合併症の少ないこともあり、胃炎に対するピロリ菌の除菌は、保険適応になっていませんでした。


年間5万人が、胃癌のために亡くなられています。胃癌の最大の原因が、ピロリ菌と考えられています。しかし、ピロリ菌は、成人してから感染しても、免疫力があるため胃の中に住み着くことができません。5歳頃までに胃の中に入ると、十分に免疫力の発達していない間に繁殖し持続的な感染が成立すると考えられています。不衛生な環境がピロリ菌の感染に関与していると考えられ、下水の発達していなかった時代に小児期を過ごした五十歳以上の世代では、8割近くの人がピロリ菌に感染しているのに対し、二十歳の人は、約1割しか感染していません。

平成25年2月下旬、慢性胃炎に対するピロリ菌の除菌が、保険適応になりました。ピロリ菌の除菌は、胃癌の予防に有効であると考えられます。しかしながら、除菌治療を受ける上で、いくつかの注意点もあります。まず、高齢者でピロリ菌が生息していなかった場合、喜んでばかりは、いられません。ピロリ菌による胃炎が長く続いたため、胃が荒れ果てピロリ菌が住めなくなった人がいるからです。このような場合、ピロリ菌に感染している人よりさらに胃癌の発生率が高く、定期的な胃癌検診は欠かせません。また、高齢になればなる程、胃炎が進行する程、除菌による胃癌の予防効果の少ないことも分かっています。したがって、除菌をおこなった後も定期的な胃癌検診は、必要です。



大腸疾患の予防と早期発見のためのポイント

(24年3月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)

今回、大腸疾患の予防と早期発見のための注意点を考えて見たいと思います。


水道や冷蔵庫の普及により、コレラ、赤痢、食中毒などの腸管感染症は、激減しました。しかし、ノロウイルスやロタウイルスによるウイルス性下痢症は、毎年冬になると流行を繰り返しています。ノロウイルスやロタウイルスは、アルコ−ル系の消毒剤では効果不十分であり、十分に石けんで手洗いをすることが大切です。ノロウイルスの消毒には、熱水か塩素系漂白剤を用います。ノロウイルスは、直接手で触らなくても、嘔吐により飛散し、ウイルスを吸い込んで感染する危険があり注意が必要です。


大腸疾患の大切なサインは、血便です。虚血性大腸炎、潰瘍性大腸炎、クロ−ン病、大腸憩室炎、大腸癌など、放置すると危険な疾患のほとんどが、血便をきたす可能性があります。下血が、続いていると、入院が必要な場合も多いので、早めに受診して下さい。痔があるからと言って、血便をそのためだと決めつけてはいけません。大腸癌からの出血を痔からの出血と思い込み、手遅れになった人は、少なくないのです。便通がないにもかかわらず嘔吐を繰り返す場合は、腸閉塞の疑いがあります。腸閉塞は、高齢者に多く、過去に腸の手術を受けている場合は、要注意です。ある意味、激しい下痢を伴う嘔吐より、便通のない嘔吐の方が、危険です。

日本では、年間、11万人以上の人が、大腸癌に罹患し、4万人以上の人が、大腸癌のため死亡しています。癌による死亡原因のうち、大腸癌は、男性で第3位、女性で第1位です。しかしながら、大腸癌は、進行が比較的遅いため、毎年、便潜血の検査を受けておくと、死亡の半分は、防ぐことが出来ます。また、大腸癌は、高脂肪食、低繊維食、運動不足、肥満などにより増加することが知られており、いわゆるメタボと言われる腹部肥満の人の増加が、大腸癌の増加の原因と考えられています。
大腸癌による死亡は、生活習慣の改善と検診により防ぐことが出来ま
す。

 


ストレス社会になり過敏性腸症候群が増加しています

(22年5月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)


過敏性腸症候群とは、大腸に大腸癌や炎症性腸疾患等の疾患がないにも関わらず下痢や便秘を繰り返す状態を言います。腹痛や腹部不快感がみられ長期に渡り症状が持続します。また、便秘又は下痢或いはその両方がみられます。一方、血便、発熱、体重減少を伴うことはありません。したがって、血便、発熱、体重減少がみられた場合は、大腸癌や炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病等)など過敏性腸症候群以外の何かの疾患が隠れている可能性があり、検査が必要です。過敏性腸症候群とは、そのような病気がないにも関わらずストレス等が原因で消化管の運動に異常が生じた状態です。男性では下痢が多く、女性では便秘が多いことも知られています。

薬剤としては、下痢の場合は便を固くする薬、便秘の場合は便を軟らかくする薬を用います。時に、下痢と便秘を交互に繰り返す場合もあり、下痢と便秘の両方に効くようなお薬もあります。ストレス等の精神的なことが関与する場合も多く、抗不安剤や抗うつ剤が有効な場合もみられます。

過敏性腸症候群が疑われる場合は、大腸癌や炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病等)がないことをまず診る必要がありますので主治医と相談されることをお勧めします。また、食事のバランスに気を付け、夜食を避けるようにしましょう。ストレスも関与する疾患ですので、内服治療だけでなく、過度の疲労、睡眠不足、社会的心理ストレスを避けることも必要です。

胸焼けは、胃食道逆流症に多くみられる症状です

(22年2月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)


胃酸が食道に逆流し、胸焼けを訴える疾患を胃食道逆流症と言います。

食べ物を殺菌するため、胃の中は酸性になっています。胃の粘膜は強い酸にも耐えられるようにできていますが、食道にそのような仕組みはありません。このため、何らかの原因で胃酸が食道に逆流すると痛みを感じるのが胃食道逆流症です。

食道の粘膜が炎症や潰瘍を起こし、内視鏡で確認できる場合もありますが、表面の粘膜がきれいに見えても、痛みを訴えることがあります。胃食道逆流症は、加齢により胃と食道の間の下部食道括約筋の締まりが悪くなった場合、食べ過ぎや飲み過ぎで胃の中がいっぱいになり胃の内圧が上がった場合、腰が曲がりお腹が圧迫されて胃酸が逆流し易くなった場合、肥満により胃が押し上げられた場合などに起こります。また、脂肪分の追い食事、酸味の強い食事、繊維の多い食品など胃酸を多く分泌するような食事は、胃食道逆流症を悪化させます。

食後すぐに横になると、胃酸が逆流しやすいため、食後しばらくは座っていることをお勧めします。就寝時は上半身起こし気味にして寝ると症状が起きにくく、逆に、右下で寝るのは胃酸の逆流を促進する可能性があります。また、強いガードルやベルトで下腹部を圧迫することは逆流の誘因となります。

この他、ピロリ菌の感染に対する治療が、胃食道逆流症の原因となる場合があります。ピロリ菌が胃の中で住み続けられるのは、ピロリ菌自身がアンモニアを産生し胃酸を中和する働きがあるからです。ピロリ菌を除菌すると、胃潰瘍や胃癌は減るものの、胃の酸度が上がり胃食道逆流症を誘発する可能性があります。

胃食道逆流症は、時に胃酸が喉にまでに逆流し、喉のイガイガの原因になります。さらに気管まで逆流していくと、咳などの症状を訴える場合があり、時には酸の逆流が原因で、喘息発作を起こすこともあります。この様な場合、胃酸を抑える薬を投与することにより、胸焼けだけでなく、咳や喘息も軽快します。


大腸癌から身を守る3つのステップ
(21年4月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)

1975年当時、大腸癌に罹患すると約2/3が死亡していましたが、医学の進歩に伴い、最近では約1/3が死亡するに留まり、大腸癌は、治癒することの多い癌になっています。
それにも関わらず、大腸癌による死亡者数は、この20年間で約2倍に増加、年間約4万人に達し、女性に限れば、癌による死亡原因の第一位です。


戦後、まず、欧米で大腸癌が増加し、その後、日本でも大腸癌が増加しました。
最近では、日本以外のアジアの国々で、大腸癌が増加しています。
大腸癌の増加は、運動不足が最大の原因と言われており、糖尿病と同様、自動車社会の到来と関係が深いようです。
その他、赤身の肉や加工した肉食品の摂取、野菜不足、飲酒、肥満も大腸癌を増加させると考えられています。

大腸癌から身を守る第1のステップは、積極的な運動と野菜中心の食生活と言えます。しかし、残念ながら、大腸癌を確実に予防する手段は、ありません。中高年の誰しもが、大腸癌になる可能性があります。幸い、大腸癌は、年1回の検診がかなり有効です。
平成19年度の河内長野市の検診結果をみますと、肺癌検診で受診者2163人中2名、胃癌検診で受診者9786人中30名、大腸癌検診で受診者12276人中47名が癌と診断されています。
肺癌は、進行が早いため、検診ではわずか2名の癌しか見つけられなかったのに対し、大腸癌は、47名見つかっています。当院でも、毎年数名の大腸癌が検診で発見され、ほぼ全員が治癒しています。
大腸癌は、進行が比較的遅いこともあり、検診が最も有用な癌の一つです。
大腸癌から身を守る第2のステップは、年1回大腸癌検診を受けていただくことと言えるでしょう。


大腸癌の症状は、多彩です。便秘になることもあれば、下痢になることもあります。
血便は、大腸癌でしばしば見られる症状ですが、痔があるとそこからの出血と考え検査を受けず、手遅れになってしまうことがあります。
大腸癌から身を守る第3のステップは、血便があれば、痔からの出血と自己判断せず、医師に相談しましょう。



ピロリ菌、痛み止め、アスピリンは、胃潰瘍の原因です

(20年5月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)


胃潰瘍とは胃の壁に傷が付く病気です。口から入った細菌を殺菌し、食べ物を消化するため、胃の中は強い酸性になっています。胃壁は、強い酸にも耐えられるようにできていますが、ピロリ菌が住んでいたり、アスピリンや痛み止めを内服していると、胃壁が弱っているため、潰瘍ができやすくなります。

文豪の夏目漱石は、胃潰瘍による出血で死亡しました。戦後、胃潰瘍の出血は、手術で治療出来る様になりました。1980年代には胃酸を強力に抑えるお薬が次々に登場、今では、内科的に容易に治癒することの多い疾患の一つです。


しかし、胃酸を抑えて治癒しただけでは、高率に再発します。再発予防の為には、ピロリ菌の除菌などを同時におこなう必要があります。一週間、決められた抗生剤と胃酸を抑えるお薬を内服すると、
約8割の人で、ピロリ菌が除菌できます。ところが、一回失敗した人が、同じ治療をおこなっても、
二回目の成功率は5割以下でした。しかし、昨年から新たな抗生剤が保険適応となり、二回目の除菌の成功率も8割を超えています。ピロリ菌の除菌に失敗した人でも、あきらめず再度御相談いただけたらと考えます。


最近は、高齢化社会で、腰痛などのためロキソニンやボルタレンなどの痛み止めを常用している人や、脳梗塞や心筋梗塞の予防のため少量のアスピリン (バイアスピリン、バファリンなど)を毎日内服される方が増えています。アスピリンや痛み止めは、ピロリ菌がいなくても潰瘍ができる原因となります。

痛みを伴わない胃潰瘍もありますので、定期的に血液検査をして、貧血などが出現している場合は、胃潰瘍ができていないかをチェックする必要があります。
また、アスピリンや痛み止めを常用される場合は、たとえ胃の丈夫な方でも、胃薬を併用されることをお勧めします。



日本は、胃癌の最多発国です
(19年10月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)
 

世界の胃癌の13 %を日本人が占め、日本は、韓国と並ぶ胃癌の最多発国です。しかし、日系移民の胃癌罹患率が、高くないことを考えますと、環境因子の関与も大きく、ある程度予防可能な癌であるともいえます。
今回は、胃癌の予防と早期発見のための注意点を考えたいと思います。


高濃度の塩分は、胃の粘膜を損傷し、胃癌の原因になることが分かっています。塩分を控えることは、高血圧だけでなく、胃癌の予防にも大切です。また、緑色野菜や果物の摂取が週1回未満の人は、胃癌の発生率が、25 % 程度増加します。喫煙は、肺癌のように強い因果関係はありませんが、胃癌も増加させます。


最近、胃癌の原因として大きく取り上げられているものに、ピロリ菌があります。ピロリ菌は、免疫力が十分でない5歳頃までに感染すると、胃の中に住み着き、炎症を繰り返すうちに、胃の粘膜が萎縮し(萎縮性胃炎)、さらには、胃の粘膜が腸の粘膜のように変化し(腸上皮化生)、最後には胃癌を発生してきます。
抗生物質の内服でピロリ菌を殺してしまうこと(除菌)が可能ですが、胃の粘膜の病変が進行してしまってから除菌をしても元に戻らず、胃癌を予防できないとの意見もあります。したがって、若いうちに除菌しておくことが、胃癌を予防するためには、大切です。
EBウイルスも、胃癌の原因の10%弱を占めるといわれていますが、現在のところ、これによる胃癌を予防する手段はありません。


胃癌は、日本人に多い癌であり、予防にも、限界があります。幸い、日本は、胃癌の診断技術が格段に発達しており、また、日本は、世界で唯一、胃癌検診が広くおこなわれている国です。その結果、日本では、諸外国に比べ、早期胃癌の段階で診断される割合が格段に高く、欧米諸国では胃癌と診断された人の5人に1人しか5年後には生きていないのに対し( 5年生存率 約20% )、日本では胃癌と診断された人の2人に1人は5年後も生存しています( 5年生存率 約50% )。


当院でも、朝の診察前に市民健診の胃癌検診をおこなっています。胃癌の見つかるのは、年に1名程度ですが、検診で見つかった人は、胃が痛くなってから来られた人とは違い、皆さん治癒し、お元気にされています。
河内長野市の胃癌検診は、40歳以上の河内長野市民が対象です。
一般の市民健診(基本検診)とは別に申し込んでいただく必要がありますので、ご希望の方は、診察時や受け付けでご相談ください。



胃の痛みを考える

(17年10月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)

 
胃の痛みで、まず思いつく疾患は、胃炎と胃潰瘍です。胃炎は、胃の表面がただれている状態を言います。これに対し、胃潰瘍は、胃の壁が削り取られた状態です。
胃潰瘍は、ピロリ菌が住みついて弱った胃の粘膜や、痛み止めの内服などで血流の減少した胃の粘膜に発生します。したがって、再発の予防には、ピロリ菌の除菌や鎮痛剤の中止が最も有効です。
また、ストレス、タバコ、コ−ヒ−などが、胃炎や胃潰瘍の増悪因子となりますのでご注意下さい。

進行胃癌では、上腹部痛や貧血が出現してきますが、早期胃癌では、痛みを訴えないことも多く、年一回の胃癌検診は、胃癌による死亡を半分に減少させると言われています。


最近は、胃けいれんという病名をあまり聞かなくなりました。超音波検査の普及により、激しい上腹部の痛みがあって、数時間後に嘘のように治まった場合は、胆石の痛みのことが多いと分かってきたからです。もう一つ、胃の痛みとして誤診される病気に、膵炎があります。膵臓は、胃の裏側にある為、胃の痛みと区別しにくいのです。また、軽い膵炎では、痛みが治まってからエコーやCTを施行しても、異常が出ないことが多いのもその理由です。膵臓は、アミラ−ゼ、リパ−ゼ、トリプシンなどの消化酵素が入った膵液を分泌する臓器ですので、膵炎の診断は、血中にこれらの酵素の上昇がみられることによってなされます。
膵液や胆石の原因となる胆汁は、脂肪の吸収を助ける働きがあります。したがって、脂肪の多い食事の後に上腹部痛を繰り返す様な場合は、胆石や膵炎の痛みを疑う必要があります。逆に、胃炎や胃潰瘍では、食事により胃酸が中和され、痛みが軽減することも多いようです。

最後に、盲腸(虫垂炎)は、上腹部の痛みや悪心、嘔吐で発症することが多く、右下腹部に痛みが持続するようになるのは、発症後数時間経ってからです。
人の体内は、体の表面と違い、痛みの部位が、悪いところを正確に表すわけではありません。
上腹部痛と悪心、嘔吐を訴え来院する心筋梗塞もまれではありません。上腹部痛を胃の痛みと簡単に結びつけないことが大切です。