エジソンが、造った不眠症
(27年11月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)

脳は、繊細な臓器であり、16時間以上連続して覚醒していると、酒気帯び運転と同じ程度にしか機能しなくなります。このことは、長時間運転が危険であるというだけでは、ありません。小学生では、夜8時から9時の間に寝ている子供の成績が、一番優秀であったとの報告もあります。人は、起床直後に太陽光が目から入ると体内時計がリセットされ、そこから12〜13時間の間は、血圧や脈拍が高めに設定され、活動に適した状態が続きます。しかし、14〜16時間経過し暗くなると松果体からメラトニンの分泌が始まり、手足の末端からの放熱が盛んになり、脳や体の温度が低下し1〜2時間のうちに自然な眠気が出現します。夜、寝つきの悪い人は、まず、朝の日光を浴びることから始めましょう。また、夜は、明かりを暗くすることで、メラトニンの分泌を妨げないようにしましょう。

 コ−ヒ−に含まれるカフェインは、睡眠誘発物質であるアデノシン受容体をブロックします。カフェインは、半減するまでに2.5〜4.5時間かかります。夕方以降は、コ−ヒ−や紅茶を飲まないようにしましょう。人は、少しお酒を飲むと脳が興奮し、普段言えないことを言ったりしますが、大量に飲むとその中枢神経抑制作用のため、眠ってしまいます。 お酒を睡眠薬の代わりに飲む人がいますが、3時間程してアルコ−ルの血中濃度が低下して来た時に目が覚めると、脳が興奮して眠れなくなるため、お勧めではありません。また、タバコに含まれるニコチンにも覚醒作用があり、半減するのに2時間かかります。このため、就寝前2時間は、タバコを控えましょう。

欧州の記録では、昔の人は、日没と伴に3時間程眠り、2時間程起きた後、3〜4時間程眠る生活をしていました。日が暮れても眠らない現在の生活になったのは、ガス灯が普及して以降であることが、分かっています。NHKの調査では、夜10時に眠っていた人の割合は、1960年の66%に対し2010年には24%に減少、この間に睡眠時間が、1時間少なくなっています。夜も光にあふれた現在人の生活が、不眠症を造っています。就寝前の30分は、テレビ、パソコン、スマ−トフォンは、脳を興奮させ、睡眠の妨げになるので控えましょう。

大きないびきは、脳卒中や心筋梗塞の引き金になります

(23年1月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)

睡眠時無呼吸症候群とは、大きなイビキと10秒以上の呼吸停止を繰り返す状態を言います。生まれつき上気道の狭い人や太って脂肪がつき上気道が狭くなった人が、夜間睡眠中に上気道を広げている筋肉が弛緩したため、気道が閉塞するのが主な原因です。睡眠時無呼吸症候群では、熟睡出来ないため日中に居眠りがでて交通事故の原因となる場合があります。しかし、居眠りが出ないからと言って安心は出来ません。

人の体は、アクセルにあたる交感神経とブレ−キに相当する副交感神経により調節されています。睡眠中は、本来、体を休めるため副交感神経が優位となり、血圧や脈拍が低下します。ところが、睡眠時無呼吸症候群があると、睡眠中に息が止まって苦しくなるため、アクセルにあたる交感神経が亢進した状態が続きます。その結果、夜間睡眠中に血圧が上昇、心拍数も増加し、心筋が多くの酸素を必要とする状態になりますが、息が止まっているため、酸素が入ってきません。このため、心筋が酸素不足になり、心筋梗塞、不整脈、心不全などを誘発します。また、血圧は、通常、夜間睡眠中120以下に低下します。睡眠時無呼吸症候群があると、逆に、夜間血圧が、昼間よりも上昇します。このことが、寝ている間に血管の壁を傷つけ、脳卒中や心筋梗塞の原因になります。

睡眠時無呼吸症候群のために眠れない人は、睡眠剤を飲んではいけません。睡眠剤は、筋肉を弛緩させ気道の閉塞を悪化させるからです。睡眠時無呼吸症候群の人は、昼間の血圧が正常だからと言って安心出来ません。起床直後の血圧を測定してみましょう。睡眠時無呼吸症候群による夜間高血圧の影響で、早朝高血圧があるかも知れません。睡眠時無呼吸症候群には、睡眠中、上気道を広げるためのマウスピ−スを使用する、cPAPと言われる装置を装着して気道が閉塞しないよう空気を送り込むなどの治療があります。睡眠時無呼吸症候群の詳しい検査には入院が必要ですが、自宅で一晩モニタ−を装着して寝て頂くことによりある程度の診断は可能です。たかがイビキと考えず、御相談下さい。

健康は、良い睡眠から
(23年3月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)

睡眠の問題には、睡眠不足と不眠があります。健康・体力づくり事業団の調査では、睡眠不足は、成人の23 %にみられます。睡眠不足の原因は、残業、遠距離通勤、遊びなどであり、若い人では3割以上にみられますが、60歳を超えると1割以下に減少します。逆に、高齢者で増加するのが、寝付けない、夜中や早朝に目が覚めると言った不眠です。60歳以上では、約3割の人に不眠がみられます。

睡眠不足は、糖尿病や高血圧の発症リスクを増加させます。睡眠不足になるとインシュリンの効きが悪くなり、血糖が上昇します。睡眠時間が、7〜8時間の人に比べ5時間未満の人は、糖尿病の発症率が2.5倍になるとの報告があります。睡眠時間が短くなると、グレリンという摂食促進ホルモンが増加し、満腹を感じるレプチンというホルモンが低下、食欲が亢進して太りやすくなります。徹夜をすると拡張期血圧(下の血圧)が、10 mmHg 程度上昇することが知られています。睡眠時間7〜8時間の人に比べ5時間未満の人は、高血圧の頻度が、1.5倍になります。睡眠時間には個人差がありますが、少くとも5時間は眠ることをお勧めします。但し、長ければよいと言うものではなく、9時間以上になっても糖尿病や高血圧の発症率が増加してきます。

次に寝ようと思っても眠れない不眠について考えて見ましょう。人間の体内時計は、25時間周期になっています。したがって、真っ暗な洞穴の中で生活をすると一日に1時間づつ寝る時間と起きる時間が後にずれていきます。人間は、朝、日光を浴びメラトニンというホルモンを分泌することにより体内時計を毎日リセットしています。このため、日光に当たらない生活をしていると寝つきが悪くなります。

不眠は、うつ病や睡眠時無呼吸症候群でもみられます。就眠中に喉の筋肉が弛緩、気道が閉塞して呼吸が出来なくなる睡眠時無呼吸症候群の人に睡眠剤を投与すると、筋肉がさらに弛緩し病態が悪化します。うつ病や睡眠時無呼吸症候群による不眠では、安易に睡眠剤に頼るのではなく、原因となる疾患の治療が大切です。寝る前の少量の飲酒は、寝つきを良くします。しかし、量が増え連用するようになると、寝つきはよいものの、夜間や早朝に覚醒し熟睡出来なくなります。この様な場合は、まず、睡眠薬を用いて不眠を解消し、アルコ−ルの連用を中止することが大切です。不眠は、人により原因も治療法も異なります。不眠が気になる人は、診察時に御相談下さい。


睡眠時無呼吸症候群では循環器疾患による死亡が増加します。

(22年2月のコミュニティー紙「おかあさんチョット」に掲載されたものです。)

 睡眠時無呼吸症候群とは、大きないびきをかいた後にしばらく息が止まる疾患です。生まれつき上気道の狭い人が、太って脂肪が付き上気道がさらに狭くなり、睡眠中に上気道を広げている筋肉が弛緩した時に気道が閉塞するのが主な原因です。睡眠時無呼吸症候群では、熟睡出来ないため日中に居眠りがでて、交通事故の原因となる場合があります。しかし、居眠りが出ないからと言って安心は出来ません。

夜間に呼吸が止まり酸素が入ってこないため、低酸素の状態となり、血管の壁に傷が付き動脈硬化が進行します。人の体は、アクセルにあたる交感神経とブレ−キに相当する副交感神経により調節されています。睡眠中は、本来、体を休めるため副交感神経が優位となり、血圧や脈拍が低下します。ところが、睡眠時無呼吸症候群があると、睡眠中に息が詰まって苦しくなるため、アクセルにあたる交感神経が亢進した状態が続きます。その結果、夜間睡眠中に血圧が上昇します。交感神経の緊張は、心拍数を増加させ、心筋が多くの酸素を必要とする状態になりますが、息が止まっているため、酸素が入ってきません。このため、心筋が酸素不足になり、心筋梗塞、不整脈、心不全などを誘発します。睡眠時無呼吸症候群があると心筋梗塞の発生頻度が23.3倍になるとの報告もあります。

睡眠時にcPAPと言われる装置を使用することにより、心筋梗塞の予防効果があります。大きないびきをかく人や睡眠中に息が止まる人は、一度、医療機関で御相談下さい。


睡眠障害への対応
(17年12月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)

睡眠時間は、加齢と共に減少し、70歳を過ぎると平均6時間弱になると言われています。また、睡眠時間には個人差があり、4時間位の睡眠でも十分な人がいます。不眠症とは、単に睡眠時間が短いと言うことではなく、熟睡できず、昼間に居眠りがでたり、疲れが残ったりする状態を言います。

人には、体内時計があり、朝になると、心拍数や血圧が上昇し、気管も拡がり活動しやすい状態となるのに対し、夜になると、血圧や心拍数が低下、気道も狭くなり、脳血流も減少して、眠りやすい状態となります。しかし、この日内リズムは、25時間周期でできており、地球の24時間周期とは1時間のずれがあります。人は、毎朝、光を浴びることにより、この1時間の時差を修正しています。目が覚めたら日光を十分に浴び、体内時計を修正すること。これが不眠に対する最初に行うべき治療です。この他、日中の運動は寝付きを良くします。就寝前4時間のカフェインの摂取と就寝前1時間の喫煙は避けて下さい。午後3時までの2〜30分の昼寝は問題ありませんが、夕方以降の昼寝は、睡眠に悪影響を及ぼします。お酒は寝つきを良くしますが、睡眠を浅くし、一度目が覚めると、逆に寝つきにくくなります。また、アルコールには、肝障害やアルコール依存症の危険性があるため、どうしても眠れない場合には、睡眠薬の方が安全と言えます。

睡眠薬は、寝つきが悪い不眠症、明け方早く目が覚める不眠症、夜中に何度も目が覚める不眠症など、そのタイプにより、短時間作用型のものや長時間作用型のものを使い分けます。睡眠薬は、安全な薬剤であり、長期連用しても問題となるような副作用はほとんどありません。また、しばらくして眠れるようになれば、中止可能です。 

ただし、大きないびきと共に息が止まるため熟睡できない睡眠時無呼吸症候群や、食欲不振、興味の喪失、疲れやすいなど他の症状を伴う鬱状態による不眠では、不眠だけを治療しても症状は軽快しません。また、認知症のため、夜間幻覚症状などがあり、興奮するような高齢者には、睡眠薬は返って幻覚を増悪し症状を悪化する場合があり、抗精神薬を使用します。不眠にもいろいろなタイプがありますので、診察時にご相談下さい。