リウマチは、治る病気になりました
(28年11月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)
免疫とは本来、ウイルスや細菌等の外敵を攻撃するために人間が持っている防御機能です。その免疫の異常により、自分の関節を自分で攻撃をしてしまう疾患が、関節リウマチです。その攻撃が長く続くと関節は、変形し、やがて動かなくなります。関節リウマチの治療として、アスピリン等の痛み止めやステロイド剤が古くから使われていました。しかし、痛み止めは痛みを軽減するだけであり、病気そのものを治すわけではありません。また、ステロイド剤も大量に使用すると骨粗しょう症などの副作用があります。このため、最近では、疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARDs)が、最初に使われる薬剤、いわゆる第一選択薬となっています。DMARDsの中でもメトトレキサ−ト(MTX)は効果が強いことから治療の中心となり、アンカ−ドラッグと呼ばれています。これにより、関節リウマチは、治る疾患となりました。しかしMTXを用いても、よくならない場合もあり、そこで考えだされたのが、生物学的製剤です。
関節リウマチの病態には、TNFやIL-6などのサイトカインと呼ばれる物質や活性化T細胞と呼ばれるリンパ球が、関与しています。これらを直接阻害するのが、生物学的製剤です。生物学的製剤は、その原因を制御する薬剤であるため、これまでの抗リウマチ薬のように何か月も使っていくうちに徐々に効くというのとは違い、ほとんどベッド上の生活で入院されてきた患者様が、1週間後には廊下を元気に歩いているということも珍しくありません。但し、生物学的製剤は、本来の細菌やウイルスに対する免疫も抑えてしまうため、若い頃に感染して治癒した結核やB型肝炎が再燃することもあり、注意が必要です。
以前、関節リウマチは、関節の変形をもって診断されました。現在は、超音波検査やMRIで関節が変形する前に診断し、MTXや生物学的製剤を早期から使うことにより、関節が変形する前に寛解させることのできる疾患になっています。[(注)関節リウマチは、一度よくなっても、再発することがあるため、関節リウマチがよくなることを治癒と言わず寛解と言います。
関節リウマチ の治療は、21世紀になり大きく変わりました
(25年6月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)
関節リウマチは、関節の滑膜に炎症が持続し、関節や骨が破壊される疾患です。以前は、痛みが出てくるとしばらく痛み止めを処方し経過を診ていました。関節が、破壊され、X線検査で異常がみられるようになってから治療を開始することが多く、比較的効果の弱い抗リウマチ薬(DMARDs)を使用することが多かったようです。
以前は、血液検査でリウマトイド因子が陽性の場合に関節リウマチを疑ってきました。ところが、リウマトイド因子は、発症してしばらくしないと陽性にならないため、早期診断に有用ではありませんでした。最近使われるようになった抗CCP抗体は、早期から陽性になり、関節リウマチ以外の疾患では陽性になりにくいことが分かっています。また、超音波検査やMRIを用いると、X線検査よりも早期に関節リウマチによる変化をとらえることが可能です。関節リウマチによる関節破壊は、発症後2〜3年で急速に進行することが分かってきたこともあり、最近では、関節リウマチを早期に診断し、早期に治療を開始するようになっています。また、抗リウマチ薬(DMARDs)の中でも効果の強いメトトレキサ−トから開始することが、多くなっており、メトトレキサ−トの投与量も以前に比べ、大量に使うようになってきています。
21世紀になり、多くの生物学的製剤が、開発されました。関節リウマチによる骨破壊は、骨を壊す働きのある破骨細胞が過剰に活性化されることにより起こることが分かっています。生物学的製剤の多くは、リンパ球T細胞から産生される炎症性サイトカイン(TNFαやIL6)を制御することにより、直接、破骨細胞の活性化を抑えます。リンパ球B細胞に作用するものもあり、作用機序は、製剤により異なりますが、いずれもこれまでの製剤に比べ、病気を寛解へと導く可能性が高くなっています。入院時、ほとんど歩けなかった人が、生物学的製剤を用いることにより、短期間で普通に歩けるまでに改善することも珍しくありません。しかしながら、生物学的製剤の効果には、個人差が多く、免疫力が低下しますので、感染などの副作用に十分な注意が必要です。
昔、ステロイドが関節リウマチの特効薬と言われた時代がありました。その後、ステロイドは骨粗鬆症等の副作用を招くことが分かり、一時ほとんど使われなくなった後、現在では、少量であれば比較的安全に使えるため少量のステロイドが使われています。消炎鎮痛剤であるアスピリンは、関節リウマチの痛み止めとして100年以上前から使われています。その後、ボルタレンのようなより強力な消炎鎮痛剤が使われるようになり、最近では、モ−ビックやセレコックス等、比較的胃にやさしい消炎鎮痛剤が使われるようになっています。
関節リウマチは、本来、細菌や癌細胞を殺す役目のある免疫力で自分自分の関節を破壊してしまう自己免疫性疾患です。関節の破壊には、腫瘍壊死因子(TNF)-α、インタ−ロイキン(IL)-6、T細胞などが関与しています。このため、最近では、主に症状を軽減するだけの消炎鎮痛剤やステロイドで長く経過を診ることは行われなくなり、早期に免疫調節薬や免疫抑制剤が使われる傾向にあります。特に、免疫抑制剤のメトトレキサート(リウマトレックス)は、より早期により大量に使用されるようになってきています。我が国では、副作用を避ける目的で一週間に8mgまでしか投与できませんでしたが、今年2月のガイドライン改訂により一週間に16mgまでの投与が可能となっています。
21世紀になり、メトトレキサートで効果が不十分な場合は、生物学的製剤と言われる注射薬が使用されるようになっています。生物学的製剤のうち、インフリキシマブ、エタネルセプト、アダリムマブは、関節破壊に関与する腫瘍壊死因子(TNF)の阻害薬であり、トシリズマブも、関節破壊に関与するインタ−ロイキン(IL)-6を標的とした薬剤です。これらの薬剤は、結核や肺炎を引き起こしやすい一面もありますが、開発されて以降、病気の進行をストップできる、いわゆる、寛解する患者様が増加してきており、関節リウマチは、もはや不治の病ではなくなりつつあります。
最後に、リウマチのお薬は、長期用いるため、副作用に十分注意する必要があり、定期的な血液検査を行い、効果を見ながら投与量を調節する必要があります。
なぜ、慢性関節リウマチ から 関節リウマチ へ病名が変更されたか
(19年1月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)
関節リウマチは、関節の滑膜に炎症が起こり、持続し、破壊されていく疾患です。
遺伝的素因に何らかの環境要因が加わり発病すると言われています。炎症を起こした関節は腫脹し、圧痛がみられます。複数の関節に、同時に異常が見られるのが、外傷などによる関節痛との鑑別になります。両手の同じ部位が、対称性に同時に障害されることも多く、また、朝、手の関節がこわばり、1時間以上してから軽快して来るのも特徴の一つです。一時的な関節の痛みは、リウマチでないことも多いので、米国リウマチ学会の診断基準では、症状が、6週間以上続いた時点で、関節リウマチとするとなっています。何年も経過して、関節が変形してくれば、検査をしなくても見ただけで、関節リウマチと診断できるようになります。しかし、破壊され変形した関節は、回復しません。骨破壊は、発症の比較的早期に起こることから、早期に治療し、関節破壊の進行を阻止しようとの考えが生まれ、日本リウマチ学会の早期関節リウマチ診断基準が作られました。これによれば、6週間を待たず、より早期に治療を開始することも可能です。
1897年、アスピリンが、発見され、リウマチの痛みは、随分軽減されました。しかし、これは、あくまでも、痛みをとるだけであり、関節の破壊を抑えるものでは、ありません。
1949年、副腎皮質ステロイドホルモンが、リウマチに有用であることがわかり、広くも用いられるようになりました。その後、副作用のため、ほとんど使われなくなった時期を経て、現在では副作用に注意しながらの少量投与が有効と考えられています。
その後、痛みを抑えるだけでなく、関節の炎症や破壊を抑える抗リウマチ薬(DMARDs)が登場、金製剤など、いくつもの薬剤が開発されました。抗リウマチ薬は、アスピリンなどの消炎鎮痛剤と違い、すぐに効果が出るわけではなく、また、すべての人に効果があるわけではありません。このため、投与3ヵ月後位を目途に、効果を判定、無効例では、投薬を変更する必要があります。また、有効な薬剤でも、2年以上使っていると、効果が減弱してくることがあり、薬剤の増量や変更が必要となります。活動性の高い場合や、骨破壊のある場合は、免疫抑制作用のある抗リウマチ薬を用います。これらを用いても改善しない場合、最近承認された、生物学的製剤を併用します。生物学的製剤は、関節での炎症に関与するサイトカインを直接阻害する薬剤です。生物学的製剤では、進行を抑えるだけでなく、X線での骨びらんや関節裂隙の狭小化の改善が期待できます。免疫抑制作用や生物学的製剤は、他の薬剤に比べ、有効ですが、免疫力が低下しますので、感染などの副作用に十分な注意が必要です。
早期に診断し、早期に免疫抑制剤や生物学的製剤を用いることにより、治癒も期待できることから、21世紀になり、病名が「
慢性関節リウマチ 」から、「 関節リウマチ 」に改められました。
病名の変更には、なんとかリウマチを慢性化させず治癒させたいとの期待が込められているのです。
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