( 読む高血圧教室 1  

高血圧で毎年10万人が、死亡 

 今回から、「読む高血圧教室」とのタイトルで、記事を書かせて頂くことになりました。世の中には、数え切れない程の種類の疾患があります。しかし、その中で最も人々の健康寿命に影響を及ぼし、尚かつ、治療可能な疾患が、高血圧症です。人は、病院で測定した血圧が120/80mmHgを超えて高くなる程、脳卒中・心筋梗塞・腎臓病・認知症などを発症する頻度が増加し、その結果、寿命が短くなるだけではなく、要介護状態になる危険性も増加します。日本では、高血圧に起因する脳心血管疾患で亡くなられる方が、年間10万人と推定されています。健康日本21では、食生活・身体活動・飲酒などの対策推進により国民の上の血圧の平均を 4 mmHg低下させることを目標としており、わずか 4 mmHg低下させるだけで、脳卒中による死亡が年間1万人、心筋梗塞などの虚血性心疾患による死亡者が5千人減少すると推測されています。

私は、35年間の医師生活を循環器疾患の診療に費やしてきました。現在は、高血圧や糖尿病など、循環器疾患を引き起こす疾患の治療にたずさわっていますが、以前は、救命センターで急性心筋梗塞の治療に携わったこともあり、また、現在、経営する介護施設を通じて認知症の脳トレなども行っています。その経験の中で、人々が健康で幸せな人生を送り続けるための高血圧治療の重要性を痛感しています。「読む高血圧教室」を通じて、河内長野市民の健康寿命の増進に少しでもお役に立てればと考えています。

( 読む高血圧教室 2  

高血圧治療ガイドライン2019に基づいた高血圧の定義

 診察室で測定した上の血圧が、120以上に、下の血圧が、80以上になると、高ければ高い程、脳卒中や心筋梗塞を発症する確率が、増加することが分かっています。このため、上の血圧が、120未満で、なお且つ、下の血圧が、80未満を正常血圧と定義しています。家庭で測定した血圧は、診察室で測定した血圧に比べて低くなるため、家庭血圧の正常値は、上が115未満で、なお且つ、下が、75未満と定義されており、かなり厳しい数値となっています。

上の血圧が、120129で、且つ、下の血圧が、80未満の状態を正常高値血圧と定義されています。正常高値血圧は、将来、高血圧に移行する確率が高いこともあり、減塩や肥満の予防などの生活習慣の修正が望ましい状態です。上の血圧が、130139、もしくは、下の血圧が、8090の範囲にある場合、高値血圧と定義されます。高値血圧では、生活習慣の修正が治療の主体となりますが、蛋白尿や心房細動等、他の疾患を合併している場合は、降圧剤の適応となる場合があります。

通常、診察室で、上140以上、もしくは、下血圧90以上、家庭血圧で、上135以上、もしくは、下85以上になると高血圧と診断されます。高血圧の状態が続けば、脳卒中や心筋梗塞を予防するため、降圧剤の投与が必要となります。但し、降圧剤を開始しても生活習慣の修正は、引き続き行う必要があり、生活習慣の修正により投薬が不要になることもしばしばあります。

( 読む高血圧教室 3) 

特定用保健食品(トクホ)は、高血圧に有用か?

 特定用保健食品(トクホ)とは、保健の効果を医学的、栄養学的に証明し、表示することを厚生労働大臣が許可した食品を指します。高血圧においても、トクホに指定された製品がいくつかあります。トクホとして認可されるためには、動物実験だけでなく、トクホを使用した人とそうでない人を比較して、12週間以上にわたってその効果を検証しなくてはなりません。

製品によって含まれる成分は異なりますが、高血圧に用いられるトクホには、次のような成分が含まれます。ペプチドには、降圧剤として使われるアンジオテンシン変換酵素阻害剤と同じような働きがあり、杜仲様配合体には、副交感神経を刺激して血管を広げ、血圧を下げる働きがあります。γ−アミノ酪酸には、血管を収縮させる働きのあるノルアドレナリンの分泌を抑制して血圧を下げる働きがあり、燕龍茶エキス(フラボノイド)には、一酸化窒素を介し血管を拡張させる働きがあります。

しかし、トクホは、決して生活習慣の改善に代わりうるものではなく、血圧を下るための基本は、適度な運動、肥満の予防、減塩食、カリウムの摂取、飲酒の制限、十分な睡眠などです。また、トクホの製品には、「 血圧が高めの方に 」と記載されていますが、血圧の高めな方とは、収縮期血圧が130台程度の高血圧には至っていないが高めであるという人を指します。収縮期血圧が140以上の場合は、高血圧症であり、脳卒中や心筋梗塞を防ぐ為、トクホを摂って様子をみるのではなく、医療機関を受診していただく必要があります。


( 読む高血圧教室 4 ) 

忘れられがちな高血圧の運動療法

 お薬の飲み忘れはなく、減塩などの食事療法が上手くいっている人でも忘れられがちなのが運動療法です。1960年代までの高血圧は、主に塩分の摂りすぎが問題でした。しかし、最近の高血圧は、太り過ぎや運動不足の影響が大きくなっています。では、高血圧には、どのような運動が有効なのでしょうか。通常、早歩き程度の運動が、最も血圧を下げるのに有効とされています。自覚症状としては、軽く息が弾む程度、軽く汗ばむ程度の運動で、息切れはしていても会話が出来る程度の運動がお勧めです。これを1分間の脈拍で表しますと、40歳で120、50歳で115、60歳で110程度となる運動が、最も降圧効果があります。但し、家庭血圧で、上が160以上、もしくは、下が100以上の高度の高血圧では、運動中更に血圧が上昇するため、まず、お薬で血圧を下げてからの運動をお勧めします。降圧を目的とする場合、出来れば毎日、少なくとも隔日におこなうことをお勧めします。110分以上かけ、合計が一日30分以上になるようにしましょう。

 わざわざ運動の時間がとれない場合でも、日常の身体活動が、健康によい影響を及ぼします。65歳以上では、運動の強度を問わず一日に40分以上の身体活動をおこなうことが、18歳から64歳では、3メッツ以上の強度運動を一日に60分以上おこなうことが推奨されています。メッツとは、安静時を1として何倍のエネルギ−を消費するかの指標です。アイロンがけや皿洗いは、2.3メッツで、運動強度としては、弱い印象ですが、掃除機は、3.5メッツ、風呂掃除は、3.8メッツ、庭の草むしりは、4.5メッツであり、降圧効果が期待出来ます。

 ( 読む高血圧教室 5 )

降圧目標 

上の血圧が115以上、下の血圧が75以上になると、高ければ高い程、脳卒中や心筋梗塞が増加します。このため診察室で測定した上の血圧が140以上または下の血圧が90以上を高血圧症と定義しています。家庭で測定する血圧は、診察室で測定する血圧よりも低くなる傾向にあることから、家庭血圧では、上135以上または下85以上が高血圧症と定義されます。では、高血圧の治療をする場合、どこまで下げる必要があるのでしょうか。日本高血圧学会のガイドラインには、降圧目標として、診察室血圧で上130未満、下80未満、家庭血圧で上125未満、下75未満と記載されています。しかし、例外もいくつかあります。その一つは、腎臓病のある場合です。血圧を下げることは、蛋白尿を減らし腎機能の維持に役立ちますが、血圧を下げすぎることにより腎機能が悪化することがあるため、蛋白尿や糖尿病を伴わない腎臓病の場合は、降圧目標を診察室血圧で上140未満、下90未満、家庭血圧で上135未満、下85未満としています。

75歳異常の高齢者の降圧目標も、診察室血圧で上140未満、下90未満、家庭血圧で上135未満、下85未満の緩めになっています。その理由の一つは、高齢者では、食後や立ち上がった時に血圧が下がりすぎることがあり、血圧の低下がふらつきによる転倒の原因になるからです。しかし、高齢者では、脳出血や動脈瘤の破裂など血圧の上昇に伴う疾患の発症リスクが高く、また、高血圧が心不全を悪化させることもある為、個々の患者様に応じた降圧目標の設定が大切です。



読む高血圧教室
コミュニティー紙「おかあさんチョット」に掲載