喘息の治療には、正しい知識が必要です

(令和1年112月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)  

今回、気管支喘息の患者様に知って頂きたい情報を記載したいと思います。気管支喘息の治療の主体は吸入薬ですが、高齢者の場合、器具を上手く操作出来ないことや、筋力が低下しているため強く吸えないことがあります。このような場合は、吸入指導や吸入器具の変更が必要です。喘息で死亡される人の9割は、65歳以上の高齢者ですので、このことは特に重要と思われます。煙草を吸うと、吸入ステロイドが効きにくくなります。禁煙出来ない喘息患者様は、難治性になる可能性が高く、禁煙は喘息の治療にとっても大切です。また、喫煙者では、肺気腫を合併している患者様が多く、喘息発作を起こしますと、しばしば入院が必要な程重症となります。

猫、ハムスター、うさぎ、犬などの毛の生えた動物も、喘息の原因となります。このため、喘息の素因がある人は、毛の生えた動物を室内で飼育してはいけません。女性の極端な肥満も、喘息の重症化に繋がります。また、痛み止めが原因で起こる喘息もあります。一般にアスピリン喘息と言われていますが、アスピリン以外の痛み止めでも喘息発作を引き起こしますので、風邪、腰痛、歯の痛みなどで医療機関にかかる場合は、必ず喘息があることを伝えて下さい。また、副鼻腔炎、特に好酸球性副鼻腔炎があると、難治性喘息の誘因となります。好酸球性の副鼻腔炎は、両側に起こり、しばしば鼻茸を合併するのが特徴です。

最近、重症の気管支喘息に対して新たな治療がおこなわれています。ひとつは、生物学的製剤と言われるお薬で、抗IgE抗体、抗IL-5抗体、抗IL-5受容体α抗体があります。これらは、様々な治療をおこなっても改善しない難治性の喘息に使用されます。もう一つの新たな治療法として、気管支熱形性術(気管支サーモプラスティ)があります。この手法は、気管支に高周波電流を通電することにより気管支を損傷させ、気管支の平滑筋を減少させることで、発作を起こらなくする治療ですこの治療は、はじまったばかりですので、長期の有用性が不明です。

成人後の肥満は、閉経後の乳癌のリスクを高める
 

(31年2月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。) 


乳癌は、女性の罹患する癌の第一位であり、その約2割を占めます。今回は、乳癌についてまとめてみました。肥満は、閉経後の乳癌を増加させます。特に二十歳以降に体重が増加し肥満になった女性で、60歳以降の乳癌の発生率の増加が顕著と言われています。逆に閉経後女性では、運動することで乳癌の発症が減少します。これらの傾向は、糖尿病でもみられますが、実際、糖尿病の既往があると乳癌が増加すると言われています。乳癌の検診は、マンモグラフィ−と呼ばれるX線撮影が基本となります。但し、30〜40歳代に多い高濃度乳腺の人は、乳腺が濃い白色に写るため癌の診断率が低下します。このような場合、超音波検査やMRIを併用すると感度が上がります。

乳癌の治療も他の癌と同様、手術が基本となります。但し、20世紀には、乳房全切除術が一般的でしたが、放射線治療などを併用することにより縮小手術が可能となり、最近では、腫瘍及びその周辺を切除して乳房を残す乳房温存手術が、手術全体の6割を占めています。また、センチネルリンパ節生検と呼ばれる方法で、リンパ節転移の範囲を以前よりも正確に把握出来るようになったため、腋窩リンパ節と呼ばれる脇の下のリンパ節を温存出来る患者様が増加し、その結果、術後に腕の浮腫で悩まされることも減少しています。

乳癌に対する薬物療法の大きな目的は、術後に残存しているかも知れない微少転移を制御することにあります。摘出した乳癌の細胞に女性ホルモン(エストロゲン)に対する受容体がある場合、内分泌療法がおこなわれます。タモキシフェンは、乳癌細胞の核内にあるエストロゲン受容体とエストロゲンの結合を阻害して、乳癌の増殖を抑制します。閉経前女性では、卵巣から女性ホルモンが供給されますが、閉経後は、副腎から分泌された男性ホルモンが末梢組織等のアロマタ−ゼにより女性ホルモンに変換されます。このため、閉経後でエストロゲン受容体のある乳癌に対しては、アロマタ−ゼ阻害薬が用いられます。また、乳癌の中には、細胞の表面にHER2蛋白があり、HER2蛋白が癌細胞対して増殖するよう指令を出していることがあります。このような場合、病状によっては、HER2蛋白の働きをブロックするお薬が、抗癌剤と併用し投与されます。

突然の激しい胸痛や背部痛は、大動脈解離かも知れません

(31年1月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)

大動脈解離とは、大動脈の壁が突然裂けることにより発症する疾患です。発症時、激しい胸痛や背部痛を訴えます。裂ける時に痛みが移動するのを自覚する場合もあります。但し、解離により脳循環に障害が及ぶと、痛みを訴えることなく意識障害で発症する場合もあります。また、解離が、心臓の周辺に及ぶと心臓を栄養する血管である冠動脈を閉塞し、心筋梗塞を発症する場合もあります。このため、心筋梗塞と診断した場合でも、動脈解離を合併していないかを見極める必要があります。この他、心臓に解離が及んだ場合、大動脈弁逆流や心タンポナ−ゼなどで致命的になる場合もあります。したがって、心臓や脳への血管に比較的近い上行大動脈が解離している場合は、合併症を予防するため、通常、緊急手術となります。一方、心臓から遠い下行大動脈が、解離した場合は、心臓や脳への血流が維持されることから、手術をせず、血圧を下げるなどの内科的治療をおこないます。内科的治療が、旨くいくと、解離がそれ以上進展せず、解離腔が血栓で塞がります。しかし、解離腔が血栓化しないで、徐々に拡大し、後に解離した動脈が破裂して死に至る場合もあります。したがって、たとえ下行大動脈の解離であっても、大動脈径が大きい場合や解離腔が大きい場合は、破裂を予防するための手術を検討します。逆に、たとえ上行大動脈の解離であっても、解離腔が血栓で塞がり、大動脈も解離腔もあまり拡大していない場合は、内科的治療で経過を診る場合があります。  大動脈解離は、通常、高齢者の疾患ですが、Marfan症候群などの遺伝素因があると若年者でも発症します。筆者は、27歳の大動脈解離を経験しています。上行大動脈が解離している場合は、発症後1時間毎に1〜3 % の人が死亡し、発症後48時間で半数近くが死亡するとされています。人口10万人あたり年間10人程度が発症するとされています。当院でも、この2年間で3人の大動脈解離の患者様を経験しており、決して稀な疾患ではありません。今までに経験したことのない突然の激しい胸痛や背部痛を感じたら、救急車をお呼び下さい。


2回の夕食が、肥満を防ぐ
(30年11月のコミュニティー紙「おかあさんチョット」に掲載されたものです。)

 朝と夜では、同じ量を摂取しても、結果が同じではありません。
朝食後は、体温を上昇させ活動しやすくするため、食後に発生する熱量が多いことが分かっています。

朝7時の食事と夜7時の食事を比較しますと、発生する熱量は、朝の方が1.6倍程多く、夜中の1時に食事をすると、体を休めて翌日のためにエネルギ−を残しておこうとするため、発生する熱量が、朝7時の食事に比べて1/4に減少します。その結果、朝欠食する人は、肥満になる率が朝食を摂っている人の5倍であったとの報告があり、朝、昼、夕の摂取エネルギーの配分は、3:3:4が良いとされています。遅い夕食は、お腹が空くためたくさん食べてしまいます。また、空腹状態が長く続くと、血糖が低下し糖を使えないため脂肪が分解され遊離脂肪酸が上昇します。すると、体は、血糖を上げようとするため、血糖を下げるホルモンであるインスリンの効きにくい状態になり、血糖が上昇し動脈硬化が進行します。

 最近の調査では、20代から40代の男性の3人に1人は、夕食の開始時刻が夜9時以降でした。ベッドタウンである河内長野市では、都心の人より帰宅が遅くなる傾向にあります。夕食が遅くなる場合、夕方6時頃に職場でおにぎりかサンドイッチなどの炭水化物を摂り、帰宅した後はご飯を食べずに野菜と蛋白質だけを摂取するという方法があります。1回目の食事を炭水化物にすることでインスリンが出やすくなり、2回目の食事でインスリンの分泌が増進すると考えられており、セカンドミ−ル効果と呼ばれています。
2回に分ける夕食は、夕食が遅いことによる肥満や、夕食後の血糖上昇による動脈硬化を予防します。



睡眠には、日光が必要です 
(30年11月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)

メラトニンは、体内時計を調節するホルモンです。メラトニンが、増えると眠くなり、減ると覚醒します。朝、太陽の光が目に入ると、その刺激が脳内の視交叉上核に伝わり、さらに奥にある松果体へと伝わっていきます。この刺激により、松果体は、朝になったことを認識し、メラトニンの分泌を減少させます。そこから、一定の時間が経過すると、メラトニンの分泌を増加させていきます。夜、メラトニンの分泌を増加させる時刻を規定しているのは、暗くなった時刻ではなく、起床後に光を浴びた時刻です。したがって、朝に十分な光を浴びていないと、夜になっても眠くなりません。また、夜遅くまでパソコンやスマ−トフォンなどのブル−ライトを浴びていると、夜間のメラトニンの分泌が、抑制され、熟睡出来ません。

メラトニンは、夜になると昼間の10倍以上も生産されます。高齢者では夜間のメラトニンの分泌量が低下しており、50〜60歳では、15歳頃の半分になると言われています。また、昼と夜の分泌量の差が小さくなります。このことが、高齢になると熟睡出来なくなる大きな理由です。また、白内障があると、光を浴びても光が網膜に到達せず、夜間にメラトニンを分泌する効果が弱くなります。食事の時刻も、体内時計の調節に関与しています。夜眠くなるためには、朝食を起床後2時間以内に摂ることや、遅い夕食や夜食を避けることも大切です。

 不眠に対して、最も多く用いられているベンゾジアゼピン系の睡眠剤は、神経伝達物質であるγアミノ酪酸(GABA)受容体のαサブユニットに作用することで効果を発揮します。ところが、アルツハイマ−型認知症になるとα1受容体が欠落し、効果が不十分になります。また、高齢者では、ベンゾジアゼピン系の睡眠剤により、ふらつきによる転倒のリスクが増加します。このため、高齢者に睡眠剤を投与する場合、ベンゾジアゼピン系の睡眠剤よりもメラトニンの分泌を増加させる作用のあるお薬や、覚醒を維持する脳内物質オレキシンの働きを抑えるお薬が、優先されます。加齢に伴に睡眠時間は、短くなりますが、過度の不眠は、脳へのアミロイドβの蓄積を促進し、アルツハイマ−型認知症の誘因になります。加齢による不眠を自覚したら、日中に十分な光を浴び、夜遅い食事やテレビを避けてみて下さい。


前立腺癌が、増加しています
(30年10月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)

 

最近、前立腺癌の罹患者数が、急激に増加しており、男性では、胃癌、肺癌、大腸癌と並んで罹患数の多い癌となっています。前立腺癌が、急に増加してきた背景には、食生活の欧米化と高齢化があります。以前から、ハワイやロサンゼルス在住の日系人は、前立腺癌の罹患率が日本人と比べて数倍高いことが分かっていました。肥満、運動不足、赤身肉、乳製品、動物性脂肪に多く含まれる飽和脂肪酸の過剰な摂取が、前立腺癌の罹患率を高めると考えられています。

前立腺癌の検診は、腫瘍マ−カ−であるPSAを血液検査で測定することによりなされます。通常、PSA値が、4以上であれば、MRI等でさらに精査をおこないます。PSAは、前立腺肥大や前立腺炎でも上昇しますので、4以上であっても必ずしも前立腺癌と言う分けではありません。しかし、精査をして癌と診断されなかった場合でも、その後、癌が顕在化する場合がありますので、経過観察が必要です。また、PSA値が正常であっても、引き続きPSA値による健診を受けられることをお勧めします。

前立腺癌の治療は、年齢、転移の有無などにより様々です。若くて転移がなければ、主に手術( 前立腺全摘術 )が、適応されます。最近、急速に普及してきたのが、米国で開発されたda Vinciを用いたロボット支援手術です。ロボット支援手術では、三次元画像を見ながら、手指の動きを小さく変換して体腔内に挿入した鉗子を操作出来るため、微細な操作が可能で、出血量や直腸損傷などの重度の合併症が減少すると言われています。前立腺癌は、放射線治療も有効な癌です。放射線治療には、外部照射、小線源療法、RI内用療法があります。外部照射では、できるだけ直腸が損傷しないよう工夫をしながら前立腺を外部から照射します。永久挿入密封小線源治療では、前立腺内に直径 0.8 mm、長さ 4.5 mm程のヨウ素125を密封した小線源50〜100個を前立腺内に直接埋め込みます。前立腺癌は、男性ホルモンであるアンドロゲンの存在下で増大する傾向があるため、転移のある場合や高齢者では、アンドロゲンの分泌を抑えるお薬やアンドロゲンの働きを抑えるお薬が、用いられます。前立腺癌には、患者様や癌の状態に応じ様々な治療があるため、泌尿器医とよく相談されてから治療を受けられることをお勧めします。


高齢者は、フレイルに注意

(30年6月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)

 フレイルは、平成26年に日本老年医学会が、健康な状態と要介護状態の中間的な段階として提唱した概念です。フレイルの状態にあると、短期間の入院をきっかけに足腰が弱り寝たきりになるなど、容易に要介護状態に陥ります。しかし、逆に、フレイルの段階であれば、要介護状態と異なり、健康な状態に戻ることが期待出来ます。英語のfrailtyは、加齢に伴う脆弱な状態を意味し、従来、虚弱や老衰と訳されてきました。しかし、虚弱や老衰と言った言葉では、不可逆的状態を推測してしまうことから、フレイルという言葉が、提唱されました。

では、フレイルを予防し改善するために、何が有効なのでしょうか。日本人高齢女性の調査では、蛋白質の摂取量が多い程、フレイルの発症が低くなることが分かっています。また、血中のビタミンDの濃度が低いとフレイルになりやすいと報告されています。ビタミンDは、魚に多く含まれています。果物や野菜の摂取量が少ないと、フレイルのリスクが増加するとの報告もあります。
フレイルの予防には、脂肪ではなく、筋肉を増やすことが大切です。運動は、フレイルを予防します。運動の種類としては、ウオ−キングだけでなく、筋肉に抵抗をかけるダンベル体操のようなレジスタンス運動、片足立ちのようなバランストレ−ニングを同時におこなうことが、有用です。運動強度は、中等度から高度へと漸増的に上げていくことが大切です。トレ−ニング時間は、1回1時間で週3回、10週以上行うようにしましょう。

フレイルの状態にある人も、脳卒中や心筋梗塞を予防するために、血圧は、しっかりと下げておく必要があります。但し、フレイルの人は、血圧の調節が上手くいかないことがあり、立ち上がった時に急に血圧が下がって立ちくらみを起こすことがあるので、注意が必要です。また、糖尿病があると、フレイルになりやすいことが分かっています。但し、糖尿病の治療で低血糖を引き起こすと、それがフレイルの原因になります。糖尿病の人のフレイルを予防する為には、高血糖を避けるだけでなく、低血糖をおこさないことも大切です。



かかりつけ医の仕事 

 (30年2月のコミュニティー紙「おかあさんチョット」に掲載されたものです。)

 先日「第17回南河内CVDミ−ティング」と言う羽曳野市、柏原市、藤井寺市の循環器疾患や糖尿病の診療を行う医師を対象とした勉強会で、「プライマリ−ケアにおける心エコ−の役割」と言う題の講演をする機会があり、心エコ−の見方について、米国心臓病学会のガイドラインなどを参考にお話をしました。大動脈の壁が裂けて激しい痛みを訴える急性動脈解離や心臓の弁に細菌が感染する感染性心内膜炎のような、頻度は少ないけれども緊急入院の必要な疾患の診断に心エコ−を用いる場合のコツ。心筋梗塞が疑われるが心電図だけでは診断がつきにくい場合の、心エコ−の見方。心臓弁膜症で手術を勧めるかどうかの判断材料として、心エコ−をどのように活用するか。成人の先天性心疾患を見逃さないための工夫。心不全の患者様で、水分管理が上手くいっているかどうかの判断材料として、心エコ−をどのように活用するかなど、医師を対象に実践に即したお話をさせて頂きました。

  日本では、かかりつけ医が気軽に心エコ−が行えます。しかし、世界の医療事情は、様々です。米国では、専門医が心エコ−検査を行うと無保険の人では、1回5〜6万円かかるそうです。ちなみに日本では、一割負担で880円、三割負担で2640円です。一方、英国では、医療費は無料ですが、家庭医が心エコ−が必要と判断した時は、専門医を紹介して受診していただく必要があります。今回、私以外のかかりつけ医にも、もっと心エコ−を活用し、より良い医療を提供して頂きたいとの願いから、講演をさせて頂きました。



高齢者の食事療法 メタボとサルコペニア

 (29年8月のコミュニティー紙「おかあさんチョット」に掲載されたものです。)

 
中高年のカロリ−の過剰摂取が、動脈硬化を促進し、働き盛りの人の突然死を招くことは、メタボとして広く知られています。一方、超高齢化社会を迎え、高齢者の低栄養が問題になっています。高齢者の低栄養は、筋力低下による転倒や免疫力の低下に伴う肺炎の原因となり、死亡率を上昇させます。

 下肢の筋力低下を簡単に見分ける方法に、指輪っかテストがあります。両手の人差し指と親指で輪っかを作り、利き足でない方のふくらはぎの一番太い部分を力を入れずに軽く囲んでみましょう。囲める人は、下肢筋力の低下したサルコペニアの状態が疑われます。70歳を超えると、蛋白質の利用効率が低下し、筋力低下の一因となります。このため、腎臓病があるなどの一部の人を除いて、高齢者は若い人以上に蛋白質の摂取が必要となります。高齢者は、血液検査の結果を見る時、動脈硬化の原因となる血糖やコレステロ−ルの上昇だけでなく、栄養状態を反映するアルブミンの低下に気を付けて下さい。体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)で計算されるのが、BMIで、体重58Kg、身長1.6mの人のBMIは、58÷1.6÷1.622.6です。これまで、BMI22の人が、最も長生きすると言われてきました。しかし、最近の調査で、70歳以上で最も死亡率の低かったのはBMI22.527.4でした。このため、厚生労働省では、70歳以上のBMIの目標値を21.524.9と若い人に比べて高く設定しています。65歳までは、カロリ−の摂りすぎに、75歳をすぎたらカロリ−不足に注意しましょう。

 


足の裏の痛みは、歩きすぎかも知れません

(29年8月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。) 


足の裏には、足底筋膜と呼ばれる膜のような薄い幅広い腱が、かかとの骨から足の指の付け根まで張っています。足の甲の骨は、ア−チ状になって体重を支えていますが、このア−チを弓の弦のようにピンと張って支えているのが、足底筋膜です。この足底筋膜が、歩行、ランニング、ジャンプなどで使いすぎると、固くなったり、ひびが入ったりして炎症を起こすため、痛みが起こってきます。若い人でも起こることはありますが、特に40歳代以降の中高年で起こりやすくなります。

足底筋膜炎では、歩いたり走ったりした時に足の裏が痛くなることが多いと言われています。歩きはじめの第一歩が一番痛むことが多く、朝、布団から起きて一歩を踏み込んだ時、立ってじっとしている状態から一歩踏み出した時、デスクワ−クをしていて立ち上がった時などに痛みが強くなる傾向にあります。痛みは、足が地面につく瞬間や離れる瞬間に強くなります。また、長時間立っていると痛くなる人もいます。この他、足の裏を押すと、痛みが強くなる場所があるのも、足底筋膜炎の症状です。

足底筋膜炎では、安静が大切で、9割の人が1ヶ月〜3年以内に自然治癒するといわれています。このため、スポーツをしている人は、練習量を減らし、自然治癒を待つのが基本です。痛みが強い場合には、内視鏡下で足底筋膜炎を切り離す手術を行うこともありますが、通常、マラソン選手など特殊な条件の人以外は、手術はおこなわれません。足底筋膜炎はX線検査や超音波検査などにより、整形外科で診断されます。消炎鎮痛剤や、湿布は痛みを軽減するのに有用です。2014年から、体外衝撃波疼痛治療という超音波を使った治療が、条件付きで保険適応となり、一部の病院でおこなわれています。

帯状疱疹は、早期治療が大切です

(29年7月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)


ヘルペスには、口唇や陰部にできる単純疱疹と、顔、体部、四肢の片側にできる帯状疱疹があります。単純疱疹は、単純ヘルペスウイルスが、帯状疱疹は、水痘帯状疱疹ウイルスが原因で、発症します。子供の頃に水痘・帯状疱疹ウイルスに感染すると、水痘(みずぼうそう)を発症し、しばらくすると治癒します。しかし、水痘・帯状疱疹ウイルスが、体内から消滅した分けではありません。感染した水痘・帯状疱疹ウイルスは、免疫力によって押さえ込まれ、背骨の中にある神経節に閉じこめられているのです。長年、おとなしくしていたウイルスは、加齢などにより免疫力が低下してくると、再び、活動をはじめることがあります。私達の背骨の中には神経が通っており、脳から体の隅々までつながっています。免疫力の低下により元気になった水痘・帯状疱疹ウイルスは、神経に沿って増殖します。体の神経は、背骨から左右に分かれて走行する為、帯状疱疹の発疹も左右どちらかにしか出現しません。

帯状疱疹では、数日間、神経に沿った痛みがみられた後に水疱を伴う赤い発疹が出現します。発疹が出現する前の帯状疱疹が、原因不明の痛みを引き起こすことはめずらしくありません。原因のよく分からない痛みが出現し場合は、同じ側の痛みの部位の痛みの周辺に発疹が出現してこないかを少なくとも数日間は、観察して下さい。帯状疱疹の発疹も、水痘と同様、しばらくするとかさぶたになり、痛みも軽快、3週間ほどで治癒します。帯状疱疹を出来るだけ軽くすませるには、抗ウイルス薬が有効です。帯状疱疹では、時に、痛みが何年も続く帯状疱疹後神経痛と言われる状態になることがあります。早めの抗ウイルス薬の内服は、帯状疱疹後神経痛の予防にも有効です。帯状疱疹では、発症した部位によって、眼病変、顔面神経麻痺、排尿障害などを引き起こす場合があります。免疫抑制剤内服中の人や癌患者様など免疫力低下した人は、特に注意が必要で、入院して抗ウイルス薬の点滴を行う場合もあります。帯状疱疹の予防には、水痘・帯状疱疹ウイルスに対するワクチンが有用であり、50歳を過ぎた人が対象になります。帯状疱疹後神経痛の3分の2は、ワクチンにより予防可能と言われています。

統合失調症は早期治療が大切です

(29年5月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)


統合失調症では、幻覚、妄想、自我障害、自発性減退、感覚鈍麻、不安、焦燥、興奮、自閉など多彩な精神症状がみられます。幻覚の種類としては、幻聴が多くみられ、複数の声が自分のことを話す対話形式の幻聴や自分の考えや行動を批判する幻聴などが特徴的と言われています。また、妄想は、被害的な内容が多いのと言われています。病歴が長くなると感情鈍麻、思考や会話の貧困化、無為自閉といった症状が出現します。進行すると、記憶、注意、遂行機能などの認知機能にも障害が出現するため、社会生活に支障をきたすようになります。統合失調症にはいくつかのタイプがあり、被害妄想を主体とする妄想型、若年で発症し、感情鈍麻、思考や会話の貧困化、無為自閉といった陰性症状が早期よりみられる破瓜型、興奮と混迷を繰り返す緊張型、陰性症状だけがみられる単純型などに分けることができます。

 以前は、統合失調症により社会生活が困難となり、長期入院生活を送られる方が多数おられました。しかし最近は、早期治療により重症化しない患者様も増加しています。典型的な統合失調症の症状が出現する前に、落ち着きのなさ、抑鬱気分、不安、焦燥、集中力低下といった統合失調症に特徴的でない症状がみられることが多く、また、短期間、軽度の幻覚や妄想などが前駆症状として出現することもあります。統合失調症は、10代後半から20代で発症することの多い疾患です。120人に1人の頻度で発症し、決して珍しい病気ではありません。若い人に妄想や幻覚などが出現した時は、統合失調症の可能性を疑い、早めに精神科を受診されることをお勧めします。また、統合失調症は、治療を自己中断されることの多い疾患と言われています。初回のエピソ−ドで内服治療を続けた場合1年後の再発率は、26%であるのに対し、内服をしない場合は61%との報告もあり、治療の継続が大切と考えられます。


子宮体癌が、増加しています 
(29年2月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)

子宮癌には、子宮の入り口付近(頚部)に発生する子宮頚癌と子宮の内側を覆う内膜から発生する子宮体癌があります。この2つの癌の原因は、大きく異なります。
子宮頚癌の多くは、性行為により感染するヒトパピロ−マウイルスが原因で発症します。このため、若い頃から複数の人と性交渉を持った人に発症しやすいことが分かっています。ヒトパピロ−マウイルスに感染しなければ子宮頚癌の発症を予防できることから、ヒトパピロ−マウイルスに対するワクチンが開発されましたが、一部の人に副作用が疑われたため、現在、日本では殆ど使われなくなりました。現時点での最も大切な子宮頚癌に対する対策は、子宮癌検診による早期発見です。
子宮癌検診では、子宮頚部の細胞をこすりとり、顕微鏡で細胞の形を観察します。子宮癌検診は、子宮頚癌の早期発見に極めて有用であり、その普及に伴い子宮頚癌による死亡は、減少してきています。子宮頚癌は、20歳代の人にもみられますので、性行為を経験した女性は、若い人でも子宮癌検診を受けておかれることをお勧めします。


一方、子宮体癌は、女性ホルモン(エストロゲン)と関係の深い癌です。妊娠経験のない人や無排卵などの排卵障害のあった人は、ホルモンバランスが崩れて、子宮体癌を発症しやすいと言われています。閉経後、卵巣からの女性ホルモン(エストロゲン)の分泌は、停止しますが、卵巣や副腎から分泌される男性ホルモン(アンドロゲン)が、脂肪細胞で女性ホルモン(エストロゲン)へ変化します。したがって、閉経後の肥満は、女性ホルモン(エストロゲン)の増加に結びつき、子宮体癌の増加の原因となります。最近、子宮体癌が、増加しており、食生活の欧米化に伴い脂肪摂取量が増えたことも一因と考えられています。


子宮癌も他の癌と同様、進行しないと症状がみられません。したがって、症状が無くても子宮癌検診を受けておくことが大切です。また、月経時以外の出血(不正出血)やピンクや茶褐色のおりものは、子宮癌を疑わせる症状です。この機会に、性交時の出血は、子宮頚癌を、閉経後の出血は、子宮体癌を疑わせる症状であることを知っておいて下さい。


膀胱炎は女性に多い疾患です

(28年10月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)

膀胱は、下腹部にある尿をためる臓器で、袋状になっており、その中に細菌が繁殖した状態が膀胱炎です。膀胱炎を起こす原因菌は、肛門周囲にある大腸菌など便に含まれる細菌で、肛門周囲の細菌が尿道口から膀胱内に侵入し膀胱炎を発症すると考えられています。このため、男性に比べて尿道の短い女性で発症頻度が高くなり、成人女性の1割が少なくとも年に1度は膀胱炎を発症すると言われています。

膀胱炎の症状は、排尿時の痛み、排尿後の痛み、下腹部の痛み、頻尿、残尿感、血尿などです。膀胱炎とよく似た疾患に、女性の膣炎や男性の前立腺炎があります。膣炎は、膀胱炎と同じような症状を呈しますが、外陰部の痒みや帯下の増加、悪臭などを伴っているのが特徴で、排尿の直前や排尿中に痛むのが膀胱炎で、排尿後に痛むのは膣炎が多いと言われています。膀胱炎では、通常、発熱をすることはありません。発熱を伴う場合は、細菌が、膀胱から尿管を通って腎臓に侵入し腎盂腎炎を発症したことが、疑われます。また、男性で膀胱炎様の症状を呈し発熱を伴う場合、前立腺炎を疑い検査をする必要があります。

通常の膀胱炎は、単純性膀胱炎と言われ、1週間程の抗生物質の内服により治癒します。しかし、尿道にカテ−テルが留置されている場合、膀胱の収縮力の低下した神経因性膀胱と考えられる状態で排尿後も膀胱に尿が残っている場合、膀胱結石がある場合、先天的に尿路の奇形のある人などにみられる尿路感染は、複雑性膀胱炎と言われ難治性です。複雑性膀胱炎では、完治することは諦め、症状が増悪した時だけ適時、抗生物質を使用します。

膀胱に尿が停滞していると、細菌が繁殖しやすくなります。このため、膀胱炎を予防するためには、おしっこを我慢しないこと、水分をたくさん取り尿量を増やすこと、女性では、排便後、便中の細菌が尿道に入らないよう前から後ろに拭くことなどを注意してみて下さい。若い女性では、性行為によって感染することがありますので、性行為後の排尿がお勧めです。

老眼鏡をいくら合わせてもはっきり見えないのは、白内障かもしれません

(28年9月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。) 

目はカメラのような物を映し出す臓器であり、脳はそれを認識する場所です。カメラのレンズにあたる部分が水晶体であり、フィルムに相当するのが網膜です。レンズに相当する水晶体の中には、クリスタリン蛋白という蛋白質が存在します。蛋白質は、卵をあたためると硬くなってしまうように、何らかの原因で変性してしまうことがあります。水晶体の内にあるクリスタリン蛋白が異常変質することによって水晶体が濁ってくるのが、白内障です。白内障は、アトピー性皮膚炎で頻回に目をこすることや、糖尿病、ステロイド剤の長期内服、ボクシング等での目の外傷などによって発症する場合もありますが、原因の多くは、加齢です。80歳をこえる頃にはほとんどの人が、90歳をこえるとほぼ全員が、白内障になっています。

白内障を治癒させる薬は、存在せず、点眼薬は、進行を抑制するためのものです。したがって、白内障の視力障害を回復するには、手術が必要です。世界的にみると、白内障は、失明の原因の第1位です。しかし、日本では、手術が発達しているため、白内障により失明することはあまりありません。白内障になると、水晶体の濁りのため、光が十分に入らなくなり、薄暗くみえる場合が多いと言われています。しかし、時には、水晶体内で光が乱反射し、眩しくみえる場合もあります。また、霧がかかったようにぼやけてみえるようにもなります。眼鏡をいくら合わせてもはっきり見えないことや、遠くのものもみえなくなるのが老眼との違いです。

白内障の手術では、濁った水晶体を取り除き、その代わりに人工の水晶体(眼内レンズ)を挿入します。白内障の手術をうける患者様は、高齢者が多いため、脳梗塞や心筋梗塞を予防する目的で血液をさらさらにするお薬(抗血小板剤や抗凝固剤)を内服されている方も多数おられます。しかし、水晶体内には血管がないため、これらの薬を中止することなく手術をおこなうことができます。

上手くコミュニケ-ションがとれないのはアスペルガ−症候群かも知れません

 (28年8月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)

アスペルガ-症候群の人は、相手の気持ちを理解することやその場の空気を読むことが苦手で、自分の気持ちを相手に上手く伝えることが出来ず、また、相手が何を望んでいるのかを判断することが出来ません。みんなが喜んでいる時に一緒に喜ぶことが出来ず、相手の傷つくことを平気で言ってしまいます。このため、対人関係を上手く築くことが出来ず、社会生活にしばしば障害が生じます。
アスペルガ-症候群は、自閉症と類似の疾患ですが、知的障害や言語障害がみられないため、単なる変わり者と思われてしまうことがあります。一方、アスペルガ-症候群では、特定のことに異常に興味を示します。興味を持った物に関しては、多くの情報を記憶することが出来ます。また、規則的な行動にこだわり、普段元気に学校に通っていても遠足に行くとパニックになるなど、非日常的なことには対応できないことがあります。

アスペルガ-は、この疾患を報告したオ-ストラリアの医師の名前です。アスペルガ-症候群の発症頻度は、千人中数名程度と言われ、決して珍しい疾患ではありません。アスペルガ-症候群は、男性に多く、その4分の3は男性です。アスペルガ-症候群の原因は、よく分かっていませんが、アスペルガ-症候群の人は、対人相互作用などに強く関係すると言われる上側頭溝・紡錘状回・扁桃体・内側前頭前野・下前頭回などの部位の脳全体に占める割合が、相対的に小さいことが京都大学から報告されています。アスペルガ-症候群に対する根本的な治療薬は、ありません。アスペルガ-症候群では、流れを読みながら会話をしたり、行間を読むことが困難です。「雨が降りそうだから注意してね。」と言っても何を注意すればよいのか分りませんが、「雨が降りそうだから傘を持っていってね。」と言えば、理解出来ます。このため、周りの人が、そのことを知っておくことが大切です。

健康診断と受診時の検査は、同じではありません。
(28年5月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)

 

今回、健康診断でおこなわれる検査と受診時に受ける検査の違いについて、考えてみましょう。河内長野市など自治体のおこなう特定健診では、糖尿病、高血圧、高脂血症のような生活習慣病を対象とした健診であり、血液検査では、肝機能、糖尿病、高コレステロ−ル血症に関する検査を、尿検査では、糖と蛋白を調べます。生活習慣病は、肥満が増悪因子となるため、腹囲を測定し、太っている人には痩せるよう働きかけます。特定健診とは、一言で言えば、栄養過多になっていないかをチェックする健診であり、この健診で癌を発見することはほとんどありません。むしろ、高血圧や糖尿病があっても、癌で痩せてくると数値が正常になることもあり注意が必要です。また、特定健診では、腎機能や血尿を調べませんので、腎疾患が、見逃される可能性があります。特定健診は、コレステロ−ル値の高い患者様が、お薬を飲まれてコレステロ−ル値が下がったかどうか見るには有効ですが、副作用のチェックは出来ません。高血圧に関しても、特定健診では、血圧は測定し高血圧がどうかの診断には役立ちますが、なぜ血圧が高くなったのかを知るのには役立ちません。但し、特定健診の内容は、自治体独自で検査の一部を追加しているところもあり、お隣の富田林市では、腎機能の検査もおこなわれているようです。また、職場健診でも、特定健診の項目に独自の項目を追加しているところもあります。

自治体の行う検診には、特定検診以外に癌検診があります。河内長野市がおこなっている癌検診には、胃癌、大腸癌、肺癌、子宮癌、乳癌があります。大腸癌検診は、便に微量な血液が混じっていないかを見ることにより行いますが、進行癌であっても1〜2割り程度見逃すことがあります。また、肺癌も、胸部X線による検診のため心臓や肝臓の影に隠れてレントゲンに写らない場合が、あります。従いまして、現検診は、完全なものではなく、症状がある場合は、検診を受けるのではなく直接医療機関を受診し医師と相談されることをお勧めします。また、河内長野市の癌検診では、前立腺癌、膵臓癌、胆嚢癌などの検診は行われていません。前立腺癌の検診としては、腫瘍マ-カ-であるPSAを測定することを、また、肝臓癌、腎臓癌、膵臓癌などのスクリ-ニングには腹部超音波検査を別に受けておかれるのがよろしいかと思います。

子宮筋腫は、女性の貧血の主な原因の一つです

(28年2月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)

子宮筋腫は、子宮筋に発生する良性の腫瘍で、月経のある女性、特に30歳以上の女性に多くみられる疾患です。子宮筋腫により、子宮内腔が拡大したり、変形したり、あるいは子宮筋の収縮不全がおこると、過多月経となり貧血の原因となります。また、子宮筋の過剰収縮がおこると、疼痛をきたす場合があります。大きくなった子宮筋腫が膀胱を圧迫すると頻尿に、腸管を圧迫すると便秘に、神経を圧迫すると腰痛や下肢の痺れの原因になります。子宮筋腫が卵管の機能障害の原因となり、不妊を引き起こすこともあります。また、子宮筋腫が存在したまま妊娠した場合には、早産の原因となることもあります。

診断は、腹部超音波検査でおこないます。産婦人科では、性交未経験の女性や巨大な筋腫などの場合を除き、通常の超音波検査に比べ子宮が鮮明に見える経膣エコーを使用します。しかし、当院のような内科で他の疾患を診断する目的で腹部超音波検査をおこなっている時に、たまたま、子宮筋腫がみつかることもしばしばあります。これは、子宮筋腫が非常に頻度の高い疾患であるからです。子宮筋腫をさらに詳しく調べる場合は、MRI検査をおこないます。

症状のある子宮筋腫や、大きさが5〜6cmを超えた子宮筋腫は、手術を考慮します。手術には、開腹する手術、腹腔鏡を用いた手術、部位によっては子宮鏡下の手術があります。今後、出産を希望する場合には、子宮を温存して筋腫だけを摘出しますが、出産を希望しない場合は、子宮全体を摘出します。子宮筋腫は、女性ホルモンであるエストロゲン依存性に発育するため、ホルモン剤を治療に用いることもあります。子宮筋腫による月経過多が原因で貧血になっても、自分の月経の量を他の人と比べる機会がないため、気付かずにいる人も多く見かけます。貧血を治療すると今まで以上に元気になる人も多くいますので、月経のある女性に貧血がみられた場合、内科だけでなく産婦人科も受診することをお勧めします。

前立腺癌が、増加しています
 (27年8月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)

男性だけにみられる悪性腫瘍に、前立腺癌や精巣腫瘍があります。精巣腫瘍は、睾丸の腫大で気づかれることが多いのですが、@ 痛みを伴わないことが多い、A 20歳から40歳位の若い人に多いため患者さん自身が悪性腫瘍を疑わない、B 回りの人が腫大に気づいて受診を勧めることが少ないなどの理由から、病院を直ぐに受診せず、手遅れになることがしばしばあります。睾丸の腫大に気づいたら、直ぐに泌尿器科を受診して下さい。

前立腺癌は、日本人に少ない癌と言われていましたが、最近、増加しており、米国へ移民した日本人は、日本に住んでいる日本人よりも前立腺癌の発症率が高いことから、食生活の欧米化がその一因と考えられています。前立腺癌は、前立腺肥大と異なり前立腺の肛門側に発生し、尿道を圧迫しないため、頻尿などの症状が出にくい癌です。前立腺癌は、骨転移を起こしやすい癌であり、骨転移による腰痛で気づかれることも珍しくありません。前立腺癌の腫瘍マ−カ−であるPSAは、前立腺肥大や前立腺炎でも上昇するため、上高いからと言って必ずしも癌ではありませんが、小さな癌でも上昇するため、早期発見のために有用な腫瘍マ−カ−です。但し、前立腺癌の中には、発育が緩やかで放置しても長期に渡り転移しないものもあるため、Gleason スコアと呼ばれる顕微鏡で見た悪性度が低い場合には、直ちに手術せず経過を診る場合もあります。

前立腺癌には、手術による切除以外に、男性ホルモンであるアンドロゲンを遮断しその発育を抑えるホルモン療法や放射線治療が、有用です。放射線治療には、体外から放射線を照射する外照射療法と前立腺内に放射性物質の付着した針を前立腺に埋め込む内照射療法が、あります。前立腺癌は、ホルモン療法や放射線治療が有用であるため、通常、高齢者では早期に発見しても手術をせず、ホルモン療法などを選択します。


女性の健康寿命を伸ばすには
 

 (27年5月のコミュニティー紙「おかあさんチョット」に掲載されたものです。)

 平成22年度の平均寿命は、女性が男性に比べて6.4年長かったのに対し、介護を必要としないで生きられる健康寿命の差は、3.2年しかありませでした。その理由の一つとして、癌による死亡者数は、男性が圧倒的に多いのに対し、寝たきりの最大の原因である脳血管障害による死亡者数は、女性の方が少し多いことが上げられます。また、認知症が、女性に多いこともその原因と考えられます。

 脳血管障害の最大の原因である高血圧の頻度は、30歳代では女性は男性の1/4ですが、

60歳以降性差は消失します。女性ホルモンであるエストロゲには、血管を拡張し血圧を低下させる作用があります。閉経後は、エストロゲンの分泌が低下するため血圧が上昇します。また、エストロゲンの分泌低下は、塩分の尿への排泄を低下させることが知られています。閉経後の高血圧を予防するためには、今まで以上に塩分の過剰摂取に注意する必要があります。この他、エストロゲンには、悪玉コレステロ−ルの肝臓への取り込みを促進し悪玉コレステロ−ルを下げるとともに善玉コレステロ−ルを上げる働きがあります。閉経に伴う悪玉コレステロ−ルの上昇も脳血管障害の原因となります。

 閉経後、肥満の女性が顕著に増加します。50歳を過ぎた頃から肥満になり、血圧、血糖、コレステロ−ルが上昇してくる女性を多く見かけます。高血圧や糖尿病は、脳血管障害だけでなく認知症の原因になることも知られています。健康寿命を伸ばすためには、50歳からの肥満に御注意下さい。


当院では、胃癌、大腸癌、肺癌の検診をおこなっています 
(27年4月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)

河内長野市がおこなっている癌検診に、胃癌、大腸癌、肺癌、子宮癌、乳癌があります。
当院では、胃癌と大腸癌に加え、今年から肺癌の検診もおこないます。平成24年度、河内長野市全体では、6417人が胃癌検診を受けられ、16人( 0.25 % )が、胃癌と診断されています。このうち、当院では、166人が胃癌検診を受けられ、2人( 1.20 % )が胃癌と診断されました。平成23年度は、河内長野市全体では、6458人が受けられ17人( 0.28 % )が、当院では、164人が受けられ2人( 1.22 % )が、胃癌と診断されました。当院での胃癌検診は、癌の発見率が高いのが特徴です。これは、撮影枚数が、市で決められた最低限の8枚よりも多い12枚程度であることや、できるだけブスコバンやグルカゴンを投与し胃の動きを止めて撮影していることによる発見率の向上も関与していると推測しています。

一方、大腸癌は、便潜血反応でスクリ−ニングをし、陽性の場合に大腸カメラで精査をします。平成24年度、河内長野市全体では、9593人が受けられ811人(8.5 % )の便潜血反応が陽性でした。その内、490人( 60.4 % )が大腸カメラを受け、36人( 0.38 % )が、大腸癌と診断されました。当院では、231人が受けられ32人( 13.9 %)で便潜血反応が陽性、その内、30人( 93.8 % )が大腸カメラを受け、4人( 1.73 % )が、大腸癌と診断されました。平成23年度は、河内長野市全体で、9536人が受けられ、802人( 8.4 % )の潜血反応が陽性、463人( 57.7 % )が大腸カメラを受け、43人( 0.45 % )が、大腸癌と診断されています。当院では、228人が受け、18人( 7.9 % )の便で潜血反応が陽性、15人( 83.3 % )が大腸カメラを受け、4人( 1.75 % )が、大腸癌と診断されました。大腸癌に関しても、はぶ医院の発見率は、高く、河内長野市全体の4倍程度でした。当院の患者様に高齢者が多いため癌を持っている人が多いことに加え、便潜血反応が陽性であった場合に大腸カメラを受ける率が、河内長野市全体では6割程度であるのに対し、はぶ医院では、9割程度と高いことが要因と考えます。検診で便潜血が陽性であったにもかかわらず、放置したため癌が進行してしまった人を時々見かけます。当院では、便潜血反応をおこなうだけでなく、陽性であった場合、その意味を十分説明し、納得した上で大腸カメラを受けて頂くまでが検診であると考えています。

癌の痛みは、がまんせず訴えましょう 

(27年1月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)

日本人の2人に一人は、癌になり、3人に一人は、癌により死亡します。そして、癌と診断された時点で 25 〜 30 % の人に、末期癌では、80 %  の人に疼痛が見られます。これまで、医療側は、癌を早期に見つけることや治すことには、熱心でしたが、痛みなどの苦痛を取ることには、あまり熱心ではありませんでした。また、日本人には、がまんを美徳とする考えがあり、また、麻薬に対する悪いイメ−ジがあることから、モルヒネなど医療用麻薬の消費量が極端に少なく、2004年 〜 2006年の統計では、米国の50分の1、先進国の中では特に使用量の少ない英国と比べてもその7分の1にしかすぎません。しかし、最近では、癌が、たとえ治すことのできない状態であっても、痛みを軽減して、自分らしい生活を少しでも長く続けるための緩和医療が、普及してきています。

癌の痛みを取るには、まず、NSAIDsと呼ばれる消炎鎮痛剤を使います。NSAIDsとしては、腰痛などで使うロキソニンや発熱時に使うアセトアミノフェンなどが、用いられます。アセトアミノフェンは、発熱時には400 mg 程度を使用しますが、比較的安全な薬であるため、癌の痛みに対しては、4000 mg 使用することもあります。NSAIDsを使っても痛みが残る場合、オピオイドと呼ばれるモルヒネなどの医療用麻薬が、使用されます。医療用麻薬には、覚醒剤のような依存症や幻覚などの危険な副作用はありませんので、痛みのある場合には、怖がらずに使うことをお勧めします。但し、吐き気、便秘、眠気などの副作用は、ほぼ必発です。このため、はじめは、少量から使用し、痛みがなくなるまで徐々に増量していきます。また、使い始めには、吐き気止めや下剤を併用します。

医療用麻薬は、内服薬だけでなく、坐薬、貼付剤、注射薬などがあり、薬剤の種類もモルヒネ、オキシコドン、フェンタニルの3種類が、あります。このため、効果が、不十分な場合、薬剤を変更する場合もあります。私達開業医にとっては、外来よりも末期癌患者さんの往診時に使用することの多いお薬です。癌だから痛むのは、あたりまえと思わず、診察時に痛みを訴えて下さい。

前立腺癌による死亡が、増加しています
 
(26年8月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)

前立腺は、精液の一部である前立腺分泌液を産生する臓器で、膀胱から尿が排出される管である尿道を取り囲む臓器です。前立腺肥大症では、尿道の回りの前立腺の移行域と言われる部位が肥大し尿道を圧迫するため、尿の勢いが悪くなり、排尿後も膀胱が空にならず直ぐに膀胱が一杯になって頻回に尿意が現れるなどの症状がみられます。前立腺肥大症は、夜間頻尿の主な原因の一つです。前立腺肥大の治療薬としては、α遮断剤などの排尿障害を改善するお薬が処方されます。最近、前立腺を小さくする5α還元酵素阻害薬も使われるようになりました。
前立腺肥大があると、尿が急に出なくなることがあります。いわゆる、尿閉と言われる状態で、尿閉になると尿道に管を入れて排尿する導尿が必要となります。また、尿閉を繰り返す場合は、手術も考慮されます。風邪薬のなかには、尿閉を誘発するお薬もありますので、前立腺肥大で治療中の患者様や普段から尿の出にくい方は、風邪などで内科を受診した時にも、その旨をお伝え下さい。
前立腺癌は、前立腺肥大とは対照的に前立腺の辺縁域に好発するため、頻尿などの自覚症状が見られないことも多く、かなり進行し骨に転移したことによる痛みなどの症状で気付かれ受診することも少なくありません。前立腺癌の腫瘍マ−カ−であるPSAは、肺癌や大腸癌などの消化器癌とは異なり、早期から上昇することが多いため、前立腺癌の早期発見に有用です。前立腺癌には、手術による前立腺全摘出以外に、放射線治療も有効です。放射線治療には、病院で定期的に放射線を当てる外照射療法と前立腺の内部へ線源を埋め込む小線源療法があります。大型の施設が必要な重粒子線を照射する治療も、いくつかの施設でおこなわれています。また、男性ホルモンであるアンドゲンの作用を抑制する薬剤が、前立腺癌に有効であり、転移のある前立腺癌や高齢者では、この内分泌療法と言われる治療がおこなわれます。元々、前立腺癌は、欧米人に多く、日本人には少ないと言われていました。しかし、近年増加傾向にあり、2020年には前立腺癌の年間死亡者数は2000年の2.8倍(2万1千人)と予想されています。米国に移住した日本人には、前立腺癌の発生率が高いことから、食生活の欧米化が前立腺癌増加の一因と考えられます。

めまい以外の症状を伴うめまいは、要注意
 
(26年7月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)

めまいは、ぐるぐる回る回転性めまい、ふわふわ浮いた感じのする動揺性めまい、気が遠くなる眼前暗黒感に分けられます。

回転性めまいで一番多いのは、良性発作性頭位めまい症で、平衡感覚を保つための三半規管に小さな結石ができることが原因と言われています。これによるめまいは、寝返りや振り向いた時など、頭を一定の方向に向けた後1〜数秒して出現し、1分以内の短時間で消失します。同じ方向への頭位変換を繰り返していると、慣れの現象により次第にめまいが出現しなくなるのも特徴です。
前庭神経炎は、耳の奥にある前庭神経の障害が原因で、突然、悪心、嘔吐を伴う持続性の激しい回転性めまいで発症、しばしば救急受診されます。前庭神経炎は、症状は激しくても耳鳴りや聴力低下を伴わないことや1〜6週で自然に回復するのが、特徴です。
メニエ−ル病は、内耳の異常で起こるめまいで、少なくとも20分以上、通常は2〜3時間程度続くめまいを繰り返します。めまいのたびに一過性の耳鳴り、難聴、耳閉感などを生じるのが特徴です。メニエ−ル病では、発作を繰り返していると持続性の難聴になるため、めまいが自然に消失しても放置しないことが大切です。

脳卒中や脳腫瘍によるめまいを中枢性めまいと言います。手足が動きにくい、上手く話せない、物が二重に見えるなどのめまい以外の症状があれば、中枢性めまいと診断でき、多くの場合、入院が必要です。小脳虫部と言われる狭い範囲だけが脳梗塞になった場合は、脳梗塞が原因のめまいであっても、めまい以外の症状が見られません。しかし、片足立ちができないような激しいめまいでは、めまい以外の症状がなくても中枢性めまいである可能性が高いと言えます。
この他、中枢性めまいには、頸の後ろを走行する椎骨動脈に狭窄性病変がある場合などにみられる椎骨動脈循環不全と言われる病態があります。頸をどちらかに向けて振り向いた時にめまいが起きるのが特徴で、しばしば、複視や構音障害などの症状も伴います。めまいには、てんかんや片頭痛に伴うものもあります。眼前暗黒感は、低血圧や不整脈などで脳血流が低下した時にみられる症状です。

めまいには、恐いめまいと恐くないめまいがあります。めまいを感じたら、早めに御相談下さい。


元気だからこそ、健診を受けましょう
 
(26年4月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)

時々、元気で何の症状もないから健診を受けないと言う人がいます。
そうではなく、症状がないからこそ健診を受けて下さい。
元気だからと言って高血圧や糖尿病を放置し、高血圧のため脳出血を発症してはじめて医療機関にかかる人や糖尿病を放置し腎不全でむくみが出て透析が必要になって初めて通院される患者様に時々お目にかかります。忙しくて、健診を受けていなかった、あるいは、健診を受けて高血圧や糖尿病を指摘されていたが、忙しくて医療機関を受診していなかったと言うのが、ほとんどの理由です。しかし、健康を犠牲にして働いても、働けなくなったら何にもなりません。

健診の結果は、そのままにしないで下さい。
糖尿病も早めに治療すれば、食事や運動に気をつけるだけで良くなります。治療が遅れれば、お薬が必要です。更に遅れれば、インスリンの注射が必要になります。糖尿病が元で、脳梗塞や心筋梗塞を発症してから、治療を開始することになる場合もあります。
時に癌検診の結果をそのままにする人がいます。大腸癌検診で便潜血反応が陽性であるのに医療機関を受診せず、その後、血便が出てあわてて受診したが手遅れだったという人を何人も経験しています。特に健診を職場で受けると、結果を医師から直接聞くのではなく、結果用紙を渡されるだけで説明がないため、深刻に考えず放置されることがしばしばあります。
河内長野市は、胃癌検診を胃X線で、大腸癌検診を便に微少出血がないかどうかの検査で、肺癌検診を胸部X線でおこなっています。これらの検診で大腸癌による死亡の半分以上を、胃癌による死亡の約半分を、肺癌の死亡の約2割を防ぐことが出来ると言われています。
日本人の2人に1人は、一生に一度は、癌になり、3人に1人は、癌で死亡します。

症状がなくて元気でも、癌検診は、必ず、受けておいて下さい。逆に、症状のある時は、健診を受けず、受診して下さい。胃が痛いからと胃癌検診を受け、異常がなかったと安心していたら、膵臓癌が、手遅れになることもあります。



80歳からの健康のため、骨密度を測定しましょう

(25年12月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)


健康寿命という言葉があります。健康寿命とは、誰の助けも受けずに一人で生活できる寿命を言います。この健康寿命に大きく影響を与えるのが、骨粗鬆症という疾患です。
骨も他の臓器と同様、骨芽細胞によって造られ破骨細胞により代謝されることにより、絶えず生まれ変わっています。骨を作る骨芽細胞よりも骨を壊す破骨細胞が有意に働いた時に、骨は徐々に弱り、やがて骨粗鬆症の状態となります。
骨の強さは、女性の場合、44歳頃から徐々に低下します。しかしながら、少し骨が弱くなっても急に腰が曲がるわけではなく、一見、元気に生活することができます。また、若い間は運動神経が衰えていないので、余り骨折はしません。80歳に近づいた頃、急に骨粗鬆症による障害は起こってきます。たとえば、背骨が骨折することにより曲がってきます。背骨が曲がるということは、単に腰痛の原因になるだけではありません。一度、背中を丸くしてみて下さい。非常に息苦しく感じると思います。背中が曲がることにより腹腔が狭くなり、胃が十分に膨らむことができません。それによって、栄養の吸収が悪くなってきます。また、胃が胸の方へ押し出され、食事が逆流しやすくなり、誤嚥性肺炎の原因にもなります。
一方、大腿骨頸部骨折は、主に80歳以上の高齢者にみられる骨折です。大腿骨頸部骨折は、手術をしなければ、高頻度で寝たきりになります。高齢者が寝たきりになる原因の一位は、脳卒中、2位が、骨粗鬆症です。骨粗鬆症の治療は、ここ10年程で急激に進行しました。ある注射薬では、ビタミンDやカルシウムを摂取しているだけの治療に比べて、背骨の骨折を5分の1に減らすことが出来ます。しかしながら、あくまでも新たな骨折を減らすという治療に過ぎず、一度骨折して曲がった骨を元に戻す薬では、ありません。

骨粗鬆症は、若い頃からの予防が大切です。骨の強さは、遺伝子の他、若い頃にどれだけ運動し、日光を浴び、ビタミンDやビタミンKを摂ったかで決まります。また、当院でも、40歳から70歳までの女性を対象とした河内長野市の骨粗鬆症検診をおこなっていますのでご利用下さい。


乳癌は、増加しています

(25年10月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)

今回は、食生活の欧米化や閉経後肥満の増加に伴い増加している乳癌について考えてみましょう。
乳癌は、日本では年間約5万人が罹患しています。
但し、乳癌は、肺癌や膵臓癌に比べて、検診が有効であり、また、自分で触って見つけることのできる数少ない癌でもあります。
河内長野市による乳癌検診は、2年に1回、触診とマンモグラフィ−というレントゲン撮影でおこないます。以前は、触診のみをおこなっていましたが、触るだけでは小さい癌が見つけられないため、マンモグラフィ−でおこなうようになりました。
2年に1回、乳癌検診を受け、毎月、誕生日の入浴時に自分の乳房を自己検診してみてください。


乳癌は、増加していますが、治療も進歩してきています。以前の手術は、脇の下のリンパ節を採るため、腕のリンパ液が還流できなくなり上腕がむくむ、腕が上がらないなどの合併症が見られました。最近では、センチネルリンパ節生検といわれる手法を用い手術中にリンパ節転移の有無を素早く診断できるようになったことや、放射線治療を併用することにより、乳房を切除しない乳房温存手術が手術の6割を占めています。


乳癌の特徴の一つは、ホルモン療法が有効であることです。ホルモン療法は、手術で摘出した乳癌の細胞が女性ホルモン受容体を持っている6〜7割の乳癌に有効です。
ホルモン療法には、女性ホルモンであるエストロゲンの働きを抑える抗エストロゲン薬や、脳の下垂体が卵巣に対し分泌している性腺刺激ホルモンを抑えることにより卵巣からの女性ホルモンの分泌を抑えるLH-RHアゴニスト製剤があります。
閉経後は、卵巣が機能しなくなるため、女性ホルモンであるエストロゲンは、副腎から分泌される男性ホルモン(アンドロゲン)を肝臓や皮下脂肪にあるアロマタ−ゼという酵素の働きにより女性ホルモンに変換することにより造られます。
このため、閉経後の乳癌にはアロマタ−ゼの働きを抑えるお薬が、有効です。また、乳癌の細胞膜に癌細胞の増殖に必要な情報を細胞内に取り込むHER2と言う受容体が過剰に出現している場合、これを阻害する分子標的療法(トラスツズマヅ)が有効です。
この他、抗癌剤も用いられますが、ホルモン療法や分子標的療法の有効性が高いことが、乳癌の特徴と言えます。


平成25年9月22日、河内長野市立市民交流センタ−で開催された河内長野市いきいき介護フェスタ・健康展に於いて、約1時間にわたり講演をおこないました。下記記載内容は、その時の講演をまとめたものです。

 

 人間の腎機能や肺機能は毎年1%ずつ低下し、それぞれの臓器の寿命が120年位と言われています。また、120年経つと脳内のドーパミンが枯渇するため、誰しもがパーキンソン病のような状態になると考えられています。したがって、人間の寿命は、最高年齢120歳程度と推定されます。

癌の特効薬が、いまだ開発されていない現在においては、健康に良くないことを一つずつ止めていくことが最も重要なことと考えます。
タバコは、脳卒中や心筋梗塞など循環器系の疾患と肺癌を初めとする癌の原因となり、喫煙によって年間149,000人が死亡していると推定されます。心筋梗塞や脳卒中などの循環器系疾患は、癌と並ぶ日本人の二大死因の一つです。
日本には高血圧の患者さんが3500万人以上いると推定されます。日本人の収縮期血圧をわずか2 mmHg下げるだけで循環器系疾患による死亡者数が、年間21,055人減少すると推定されています。高血圧の最大の原因は、食塩であり、食塩をほとんど摂取しないヤノマモインディアンには高血圧の人はほとんどいません。
日本高血圧学会は、塩分一日6g以下の食事を推奨していますが、これを実行するためには、醤油やソースをかけないということだけでは達成が困難であり、調理段階から工夫する必要があります。高血圧の人の食事を別に造ることは難しいので、日本人全体が減塩食に慣れることが必要です。人は、薄い味付けに慣れると少ない塩分でも美味しく感じるようになります。


糖尿病患者さんも近年増加が著しく、戦後50倍に増えたと言われています。
日本人のカロリー摂取量は、最近30年間減少を続けており、カロリーの過剰摂取のみが糖尿病増加の原因ではありません。自動車台数の増加、さらには、家電製品の充実により、動かなくても何でも出来る社会がその原因と推定されます。
日本人は欧米人に比べ糖尿病になりやすい民族であり、食生活の欧米化も問題です。食生活の欧米化に伴い、血糖だけでなく日本人のコレステロール値も上昇してきており、このことも動脈硬化を促進しています。但し、コレステロール値が高くない人でも、しばしば心筋梗塞や脳梗塞を発症します。
メタボリック症候群は、その主な原因の一つと考えられています。これまでお腹の脂肪は、単なる貯金箱と考えられてきましたが、1990年代頃から急に研究が進み、血圧を上げたり血糖を上げたり血液を固まりやすくする物質を分泌する内分泌臓器であると考えられるようになりました。
生活習慣の変化に伴い、過栄養になったことが内臓脂肪を貯留、そのことが血糖や血圧を上げ、心筋梗塞や脳梗塞増加の一因となっています。
人間にとって血糖、塩、コレステロール等は、不足することはあっても過剰になることはない時代が長く続きました。江戸時代以降、急に塩が簡単に手に入るようになり、さらにここ数十年、お肉などコレステロールを多く含んだ食品が簡単に手に入るようになりました。そのことに対して、人間がまだ十分に対応しきれていないのが生活習慣病の最大の原因です。
また、運動不足に陥っている人が多いのも現代人の特徴です。人間も動物ですから動いて生きていくものであり植物とは違います。運動不足は、血圧や血糖を上昇し、動脈硬化を促進します。したがって、健康に生きていくためには、適度な運動が必要です。
但し、健康のために過度に激しい運動は必要ありません。お相撲さんは短命ですし、プロ野球選手よりプロ野球の審判の方がかえって長生きするというデ−タもあります。
過剰に運動すれば健康になるというものではありませんが、運動不足は間違いなく病気の原因となります。
忙しい毎日、健康のために何かをはじめるのは、大変です。生活習慣病の是正には何をするかではなくて何を止めるかということからはじめましょう。
例えば、タバコを吸わない、お醤油をかけない、車に乗らないということだと思います。その上で、適度な運動などをはじめられれば、最高です。

お酒はタバコと違い、一日に一合程度の飲酒は、善玉コレステロールを増加させ、血行を良くし、寿命を延ばすと考えられています。
但し、お酒を飲むと顔が赤くなる人は、アセトアルデヒドの溜まりやすい人であり、アセトアルデヒドは膵臓癌のリスクを高めるため注意が必要です。また、飲酒は、翌朝の血圧を高め、血糖や中性脂肪を上げます。また、女性は、一日に日本酒3〜5合の飲酒でも肝硬変に至ることがあります。これらを参考に自分にあった飲酒量を考えて下さい。但し、日本酒換算で3合以上の飲酒は、すべての人の健康に良くありません。
日常生活では、お風呂や睡眠にも注意して下さい。年間14,000人の人が入浴中に死亡しています。入浴中に死亡する原因は、入浴中に血圧が上がるだけではありません。
長く入浴してお風呂からあがった後、血管が拡張して血圧が下がり過ぎるのも死因の一つです。また、42度以上の湯船の中で居眠りをして体温が42度以上になると死亡する場合があります。
高齢者では、お湯は、ぬるめで、入浴は短時間にすることが肝心です。降圧剤を内服している人は、お風呂から上がった時に下がりすぎていないか血圧を測ってみましょう。
睡眠中に大きないびきをかいて時々息が止まっている人は、睡眠時無呼吸症候群の可能性があります。睡眠時無呼吸症候群は、夜間、息が止まっている時に血圧が上昇し、心筋梗塞や不整脈による突然死の原因にもなりますのでかかりつけ医に御相談下さい。

癌は、お薬で治癒することはまれな疾患です。また、循環器疾患に比べ、予防が、困難です。
タバコ以外にはっきりと分かっている原因として、ウイルスや細菌の感染症による癌があります。例えば、胃癌はピロリ菌が、肝臓癌はC型肝炎やB型肝炎が、子宮頸癌はヒトパピロマウイルスが主な原因と考えられています。このため、ピロリ菌は早めに除菌することをお勧めします。(但し、内視鏡により慢性胃炎もしくは胃潰瘍と診断されていない方に対する除菌の保健適応はありません。)また、B型肝炎やC型肝炎などのウイルスに感染していないかをこれまでに一度も調べてことのない人は、検診で調べてみて下さい。癌の予防は難しい部分があります。したがって、癌を早期に見つけるための癌検診は、大切であると考えます。
日本人の2人に1人は癌になります。そして3人に1人は癌で死亡します。そんな時代に癌検診を受けておくことは大切です。


ところで、人間には寿命以外に健康寿命という考えがあります。これは、介護を受けずに自立して生活出来る状態の寿命を言います。
平成21年のデータですが、男性76.4歳、女性78.6歳と健康寿命にあまり男女差がありません。女性に骨粗鬆症や認知症が多いということが一因と考えられています。
女性の骨量は、中学、高校時代の成長期に増加し、44歳から70歳頃までに急激に低下します。したがって、この間の食生活や生活習慣が骨を強くするために大切と思われます。骨粗鬆症のために腰が痛くなったり、足の骨を骨折して寝たきりになったりするのは主に80歳を過ぎてからですが、若い頃からカルシウム、ビタミンD,ビタミンKの摂取や運動を心掛け、骨を強くしておくことが大切です。
認知症も最近増加している疾患です。認知症の最大の原因であるアルツハイマ−型認知症とは、脳内にアミロイドβ蛋白が蓄積して起こる疾患です。
現在、発売されているアリセプトなどの薬では、進行を遅らせることは出来ますが、根本的に治すことは不可能です。現在のところ認知症を予防するためにできることは、若い頃から血圧や血糖を正常にしておくことです。
このほか、高齢者では、肺炎に注意する必要があります。
日本人の死因の1位は、癌、2位が心筋梗塞ですが、3位は脳卒中ではなく肺炎です。
戦後間もない頃は、コレラのような消化器感染症が、肺炎と並んで日本人の死因の上位を争っていました。抗生物質や冷蔵庫の普及で、現在、消化器感染症で死亡される人はほとんどいません。にもかかわらず、肺炎が克服されないのは何故でしょうか。
これは肺炎の種類が変わったからです。80歳を超えた高齢者に起こる肺炎は、外から感染するのではなく口腔内の細菌を睡眠中に肺に誤嚥して起こる誤嚥性肺炎が大部分です。
御高齢の人を介護している人は、高齢者の口腔内を清潔にすることを心掛けて下さい。入れ歯をいれたまま眠るのは論外です。
もう一つ知っておいて欲しい高齢者の特徴は、血圧が低い、コレステロールが低いということだけで状態が良いとは言えないということです。
心臓が悪くなると心臓が勢いよく血液を送り出せなくなるため血圧が下がってきます。また、栄養状態が悪くなるとコレステロールが下がってきます。したがって、高齢者ではコレステロールよりもむしろ栄養状態に反映するアルブミンに注意する必要があります。


人生は、長いので、その時々で作戦は異なります。
赤ちゃんの時にお母さんが飢餓状態になると、胎児の膵臓や腎臓はあまり大きくなりません。したがって、大人になってから過栄養になり沢山のカロリーや塩分が入ってきた時には、それらを上手く利用出来ず、糖尿病や高血圧を発症し易くなります。したがって、赤ちゃんがお腹の中にいる時には、お母さんはしっかり栄養を摂ることが大切です。
一方、40歳、50歳位の時は、過栄養になりメタボの状態になることがしばしばです。したがって、この頃にはお腹が出ないようにしっかり運動してお酒や食事に気を付ける必要があります。
さらに80歳を来えてきた時には、しっかり栄養を摂り、肺炎など感染症に備えることも必要です。
ただし、人には、個人差があり、万人にあてはまる健康法はありません。その時々で血液検査などを参考にしながら自分にあった食生活をかかりつけ医と相談されることをお勧めします。



お酒の適量は、人により異なります
(25年9月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)

日本酒に換算して一日に1〜2合のお酒を飲む人は、飲まない人や3合以上飲む人に比べて死亡率の低いことが報告されています。その理由として、少量のお酒には、善玉コレステロ−ルを上げる作用があること、血小板凝集抑制物質を出し心筋梗塞を予防する働きのあること等が考えられています。少量の飲酒は、薬になる可能性があります。一方、飲酒により、口腔癌、咽頭癌、食道癌、肝癌、結腸癌、直腸癌などの癌が増加することも知られています。また、膵炎の40〜50%は、お酒が原因とされています。2011年、WHOは、世界の全死亡の4%(250万人)が、アルコ−ル摂取が原因の外傷、癌、心血管疾患、肝硬変によると指摘しました。大量の飲酒は、健康に良くないことは明白です。

アルコ−ルが代謝されると、アセトアルデヒドになります。アセトアルデヒドは、アセトアルデヒド脱水素酵素により酢酸に代謝され体外に排出されます。日本人の4割は、生まれつきアセトアルデヒド脱水素酵素の働きが弱く、アセトアルデヒドが体に長く残るため飲酒後に動悸がしたり顔や体が赤くなります。このタイプの人が、飲酒をすると食道癌や頭頚部癌のリスクが高まると言われています。アセトアルデヒドは、膵癌のリスクを高めることも知られており、お酒に弱い人が無理にお酒を飲むのはお勧めしません。また、女性は、男性に比べ、半分から3分の2の量の飲酒で、肝機能障害や肝硬変に至ることが知られています。女性は、一日3〜5合程度の飲酒でも肝硬変になることが多いので注意が必要です。

少量のお酒は、インスリンの効きを良くする働きがあり、糖尿病の発症を予防します。但し、お酒には、カロリ−はありますので、糖尿病の人や中性脂肪の高い人は、飲んでも少量にとどめるべきです。お酒を飲んだ直後は、血圧が下がりますが、翌朝血圧が上がります。朝だけ血圧が高い人には、晩酌の習慣のある人が多く見られます。早朝血圧の上昇は、脳出血の原因になりますので、注意が必要です。




 重症の喘息発作は、少なくなっています
(25年7月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)

夜間熟睡している時は、体の代謝が低下、昼の活動時に比べ酸素消費量も低下します。それに合わせて気管も狭くなるため、喘息発作は、夜中によくおこります。私が、医師として働きはじめた1984年頃は、病院で当直をしていると夜中に喘息の患者さんが来られ、点滴をしても明け方まで発作が続き入院される方が沢山いらっしゃいました。当時、公害による大気汚染は改善に向かっていましたが、マンションのような気密性の高い住宅が普及し室内のダニが増加したため、喘息の患者さんが急増していたのです。

1990年代になり、吸入ステロイドが普及、喘息の患者さんの数は増加したままであるものの、入院を要するような重症の喘息患者さんは、目に見えて少なくなりました。これに伴い喘息による死者数も減少、2000年頃、年間約6千人であった気管支喘息による日本人の死者数は、約2千人にまで減少しています。しかしながら、治療を自己中断されたり、タバコをやめられないため喘息発作を繰り返しているうちに呼吸機能が徐々に低下してくる人もまだ一部おられます。

気管支喘息には、若い人に多くアレルギ−が関与するアトピ−型と、高齢者に多く風邪を引いた後などに発作がおこる非アトピ−型があります。小児の喘息では、主にダニやホコリのアレルギ−が原因であるため、屋内の掃除が大切です。カ−テンの上や椅子の裏まできれいに掃除をしましょう。ふとんのダニも干すなどして除去することが大切です。もちろん干した布団を喘息の人が、叩いてはいけません。ダニの死骸を吸っても発作がおこるからです。今、犬や猫にアレルギ−がなくても、飼っているうちにアレルギ−を獲得します。喘息の小児は、毛の生えた動物を室内で飼ってはいけません。一方、高齢者の喘息は、風邪を引いた時など喘息発作が出そうな場合、早めに受診し治療を受けることが大切です。喘息発作は、一度おこると次の発作がおこりやすくなるからです。また、インフルエンザが喘息発作の原因となることもありますから、喘息の患者さんは、インフルエンザの予防注射を受けておきましょう。

緑内障で治療されている人は、内科でもお伝え下さい
(25年1月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)

世界的にみると、白内障は失明原因の第一位です。一方、医学の進歩した日本では、白内障は手術で改善するため、緑内障が、失明原因の第一位となっており、70歳以上の人の約1割は緑内障と言われています。緑内障は、眼球を満たしている房水の排出障害により起こります。閉塞偶角緑内障は、排出部位が機械的に閉塞することにより、開放偶角緑内障は、排出部位が目詰まりすることのより発症します。

β遮断剤と言われる心臓の収縮を押さえる働きのある内服薬が、高血圧や不整脈の治療によく使われます。β遮断剤は、房水の産生を押さえる働きがあるため、その点眼薬が緑内障の治療にも用いられます。β遮断剤の点眼薬は、眼球の表面にある角膜を通過して眼内入り効果を発揮しますが、その大部分は眼内入ることなく鼻涙管を通って鼻へ流れ、鼻粘膜や消化管から吸収され、全身に回っていきます。このため、β遮断剤の点眼薬でも、血圧や脈拍が変化することがあります。高血圧や不整脈の治療を行う上で、どのような点眼剤が使われているかの情報が必要です。

最近、新しく点眼薬を処方された患者様は、内科受診時に、お薬手帳もしくはお薬を見せて下さい。

内科で風邪を引いた時よく処方されるPL顆粒は、眼圧を上げ緑内障を悪化させる可能性があります。また、花粉症や不整脈に対するお薬や睡眠剤の中にも緑内障を悪化させる可能性のあるものがあります。緑内障のある患者様は、お薬を変更する場合がありますので、内科を受診した時に緑内障のあることをお伝え下さい。また、緑内障にも個人差がありますので、緑内障の患者様が眼科を受診した時には、PL顆粒などの風邪薬を飲んでもよいかどうかを聞いておいて頂ければ有難いです。

インフルエンザの出席停止期間が変わりました

(24年11月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)

インフルエンザは、毎年の様に流行していますが、その様相は、少しずつ変わってきています。2009年に出現した新型インフルエンザは、約2年で流行しなくなり、2011年末からは、50年以上前から流行を繰り返している香港型が、流行しました。新型インフルエンザの出現により、これまで香港型と並んで流行を繰り返してきたソ連型は、ほとんどみられなくなっています。これらの世界的大流行を繰り返すインフルエンザをA型と言いますが、これ以外に国や地域などもう少し狭い範囲で流行するインフルエンザもあり、これをB型と言います。B型は、A型が流行した後、同じ冬に流行することも多く、続けてインフルエンザに二回罹った時は、A型とB型であることが、ほとんどです。

さて、インフルエンザワクチンは、有効でしょうか。ワクチンを打ってもインフルエンザに罹患することは、ありますが、有効とされています。これは、ワクチンを打っておくと罹らないというのではなく、罹りにくく、また、感染してもワクチンを打っていない場合に比べ、軽く済むことが多いからです。今年のワクチンは、1回で新型、香港型、B型の3種類のウイルスに対する抗体を造ることができます。但し、B型は、A型に比べ、ワクチンの効果が弱いと言われています。インフルエンザは、罹患すると学校や仕事を休まなければならないだけでなく、しばしば、肺炎を併発し、時に死に至る場合もあります。インフルエンザに罹患した後、肺炎を併発する確率は、16歳から64歳で0.8%、65歳から79歳で2%、80歳以上で13%と言われています。高齢者は、インフルエンザの後、肺炎などで死亡することがあり、高齢者のワクチン接種に対して補助が出るのもそのためです。

最近、タミフル、リレンザ、ラピアクタ、イナビルと次々とインフルエンザの新薬が、発売されました。投与するとこれまでよりも早期に解熱し元気になるため、ウイルスが少し残っていても登校してしまい、人にうつす結果になりかねません。このため、今年4月から、学校保健法で、インフルエンザに罹患した場合、発症後5日間の出席停止が義務付けられました。


痛風の治療は、尿酸を下げるだけで良いのか?

 (24年9月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)

尿酸の体液中の濃度が上昇し、溶解限界である6.4 mg/dl を超えると、関節や腎臓に尿酸が沈着するようになります。関節に蓄積した尿酸結晶が白血球に食べられて炎症の起きた状態を痛風と言います。痛風は、足の親指の付け根の関節に多くみられ、激しい痛みと発赤を伴います。痛風の予防には、血中の尿酸の濃度を6.0 mg/dl 以下に保ち、関節に尿酸結晶を蓄積させないことが重要です。また、尿中への尿酸の排泄量が増えると、腎臓に尿酸塩が沈着し、腎機能障害を引き起こします。このため、血中の尿酸の正常値は、7.0 mg/dl 以下と定められています。

食事で摂取されたプリン体は、体内で代謝され尿酸として排泄されます。したがって、尿酸値が高い場合、プリン体を多く含む食物を控える必要があります。プリン体を多く含む食品として知っておいて頂きたいのは、鶏・豚・牛などのレバ−、アジ・イワシ・サンマなどの干物、かつおぶし、大正エビ、イカ等です。また、アルコ−ルは、プリン体の分解を亢進し尿酸の産生を増加させる働きや腎臓からの尿酸の排泄を抑える働きがあり、尿酸値を増加させます。尿酸値の高い人は、一日の飲酒量を日本酒1合以下(ビ−ルの場合500mL以下、ウイスキ−の場合60mL以下)にすることも大切です。ビ−ルは、プリン体を多く含むお酒であり、二重に尿酸値を上げると言えます。

最後に、メタボリックシンドロ−ムでは肝臓での尿酸の合成が促進されるとともに、腎臓からの尿酸の排泄が低下し、尿酸値が上昇することが知られています。メタボリックシンドロ−ムでは、心筋梗塞や脳梗塞のリスクが増加しますが、これは、血中の尿酸が高値であることよりも血圧の高いことや血糖の高いことがより関与していると考えられています。尿酸値が、男性で8.0 mg/dl以上、女性で6.0 mg/dl以上になると死亡率が上昇するとの報告もありますが、これは、必ずしもお薬で尿酸値を下げれば死亡率が下がると言うことを示しているのではありません。尿酸値の高い人は、その後血圧が上昇する可能性が高いとも言われています。もし、メタボリックシンドロ−ムのため尿酸値が上昇しているのであれば、まず、運動や減量により、尿酸値だけでなく、血圧や血糖値も下げることが大切です。

いきなりエイズを避けよう
 (24年7月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)


人の体は、好中球やリンパ球など白血球の働きにより細菌やウイルスから守られています。
ところが、HIVウイルスは、本来ウイルスを攻撃する働きのあるリンパ球に感染するため、十分な抗体を造ることができなくなり、免疫力が低下します。その結果、結核、カンジダ症、帯状疱疹などの感染症に罹りやすくなるだけでなく、悪性リンパ腫やカポジ肉腫などの悪性腫瘍も出来やすくなります。また、通常の免疫状態では感染しないニューモシスチス肺炎やサイトメガロウイルス感染症を発症することもあります。HIVウイルス感染により免疫力が低下、これらの感染症を併発してきた状態をエイズと言い、治療しなければ、発症後数年で死に到ります。

HIVウイルスが発見され、約30年が経過しますが、この間に様々な薬剤が開発されました。現在では、いくつもの薬を組み合わせて内服することにより、ウイルスの増殖を抑え、天寿を全うすることも可能になっています。しかし、現在の医学では、HIVウイルスの感染を治癒させることは、困難です。従って、HIVウイルスの数が少ない早期に診断し、適切な時期に治療を開始することにより、免疫力を低下させず、HIVウイルスの感染者ではあるが免疫力低下による感染症や悪性腫瘍を発症していない状態、すなわちエイズではない状態を維持することが大切です。

HIVウイルスに感染すると、その50〜70%の人に感染11日から6週後に発熱、倦怠感、咽頭痛、筋肉痛、リンパ節腫脹などが見られます。
しかし、これらの症状は、インフルエンザなどと症状が似ていて自然に軽快するため、たとえ医療機関を受診しても自ら不特定多数との性交渉などのHIV感染の機会があったことを伝えないと見逃されてしまいます。
保健所では、HIVの検査を匿名で受けることができます。検査をしている曜日や時間帯は、各保健所で異なりますので、希望される場合、直接問い合わせるか、ホ−ムペ−ジなどでお調べ下さい。

更年期障害は、45〜55歳頃にみられます
(24年6月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)

50歳前後の女性に多種多様な症状が現れた場合、更年期かも知れません。卵巣の機能が低下し、月経がなくなることを閉経と言い、閉経の前後5年間を更年期と呼びます。多くの方は、45歳から55歳の約10年間が更年期に相当します。更年期では、卵巣から分泌されるエストロゲンやプロゲステロンといった女性ホルモンが減少するため、ホルモンのバランスが崩れ、様々な症状がみられます。よくみられる症状に、のぼせ、ほてり、発汗、動悸などがあります。また、不安、抑鬱、気力の減退、不眠などの精神神経症状を伴うことも多く、これらの症状を更年期症状と呼びます。更に、これらの症状のため日常生活に支障を来すような状態になると更年期障害と呼ばれます。但し、甲状腺疾患、鬱病、高血圧症などでも同様の症状を呈することがありますので、注意が必要です。

更年期障害に最も有効な治療は、ホルモン補充療法です。ホルモン補充療法は、更年期になって少なくなった女性ホルモンを補充する方法で、ホルモン補充療法が全く効かなければ逆に更年期障害の可能性は低いと考えられます。女性ホルモンが減少すると、コレステロ−ルが上昇し、骨粗鬆症が進行します。ホルモン補充療法は、高コレステロ−ル血症や骨粗鬆症に対しても同時に効果がみられます。但し、長期にわたり使用すると乳癌の発生率が増加すると言われていますので、使用する場合は、乳癌検診や子宮癌検診をきっちりと受けて頂く必要があります。この他、抗不安薬や抗鬱薬などを使用する場合があり、また副作用が少ない治療として、漢方薬を用いる場合もあります。

更年期を過ぎると、生理がなくなるため貧血がみられなくなり、返って元気になる人も沢山おられます。しかし、同時に血圧やコレステロ−ルが高くなり、動脈硬化の進行する時期でもあります。更年期を過ぎたら、今まで以上に血圧やコレステロ−ルに注意して頂く必要があります



インフルエンザと如何に付き合うか
(23年11月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)

毎年のように冬になると、インフルエンザが流行します。2年前に新型インフルエンザがメキシコで発生した時は、飛行機の消毒や入国者のホテルへの隔離をおこないましたが、ほとんど効果はなく、ウイルスは簡単に日本に侵入しました。その何年か前に中国でSARSが流行した時、空港での検疫を徹底し、日本に持ち込ませなかったのとは対照的でした。この一つをとっても、インフルエンザは感染力が強く、その流行を防ぐことは至難の業のようです。しかし今回の新型インフルエンザでは、大正時代のスペイン風邪のように、大量の死者が発生することはありませんでした。今回、その理由を考える中で、今後のインフルエンザ対策を考えてみたいと思います。

第一次世界大戦中に流行したスペイン風邪による死者の多くは、インフルエンザウイルスによる死亡ではなく、インフルエンザウイルスにより荒らされた肺に細菌が感染し肺炎を引き起こしたことによる死亡であったと考えられています。現在、肺炎に対する有効な抗菌薬がたくさんあり、このことが新型インフルエンザによる死者が少なかった大きな理由の一つと考えられます。また、タミフル等の抗インフルエンザ薬の進歩も大きかったと言えます。人口10万人当たりの新型インフルエンザによる死者数は、米国 3.96人、英国 0.76人、日本 0.15人でした。4千万人の無保険者がいる米国で比べ、医療費が無料の英国や国民皆保険制度がありタミフル等の抗インフルエンザ薬の消費量が世界で一番多い日本で新型インフルエンザによる死者が少なかったことは、これまでの日本のインフルエンザに対する治療方針が間違っていなかったことを証明したとも言えます

予防注射でインフルエンザの感染を完全に予防することはできませんが、罹りにくくする効果があり、また、たとえ罹ったとしても軽症で済むと言われています。予防注射とタミフル等の抗インフルエンザ薬による早めの治療が、現在おこなえる最も有効なインフルエンザ対策と考えます。


果物は、血圧に良いの?

(23年11月のコミュニティー紙「おかあさんチョット」に掲載されたものです。)

果物には、カリウムが豊富に含まれています。カリウムは、塩の成分であるナトリウムと一緒に腎臓から排泄されます。カリウムを大量に摂取しその排泄量が増加すると、血中のナトリウムも排泄され、塩分を控えたのと同じ効果が生まれ、血圧の低下が期待できます。また、果物には、ビタミンや食物繊維が豊富に含まれており、食物繊維には、コレステロ−ルの吸収を抑制する働きもあります。

しかしながら、果物には、緑黄色野菜とは違い、果糖、砂糖、ブドウ糖等の糖類も豊富に含まれています。このため、糖尿病の患者様の中には、冬、寒いので外出が減り運動不足になって悪化する人がいる一方、夏から秋にかけて果物を食べ過ぎて血糖が上昇する人も少なからずみられます。果物は、血糖を上げるだけではありません。使われずに余った糖類は、体の中で、中性脂肪に変わります。増加した中性脂肪は、お腹の脂肪に変わり、お腹の脂肪がたまってくるとメタボリック症候群になり、血圧や血糖が上昇します。スイカ、梨、びわ、リンゴに多く含まれる果糖は、ブドウ糖に比べて脂肪になりやすい糖と言われています。

肥満や糖尿病がなく中性脂肪も高くない高血圧の患者様には、果物がお勧めです。

しかし、肥満や糖尿病がある場合、果物を摂る時は、食事を減らす、果物の代わりに生野菜でビタミン、食物繊維、カリウムを摂取するなどの工夫が必要です。

最後に、腎臓の悪い人も、カリウムが上昇しやすいので、果物には注意が必要です。



摂食障害には、食べなくなる神経性食思不振症とストレスで食べてしまう
神経性過食症の正反対の疾患があります。

(23年9月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)

神経性食思不振症では、痩せていることを理想とし、どんなに痩せていても自分がまだ太っていると感じ、更に痩せようとします。低栄養になることにより、血圧が低下し、月経はなくなり、貧血になります。また、意識的に嘔吐をしたり、自己判断で下剤を使用するため、カリウム不足になる場合もあります。ただし、脳腫瘍でも同様の症状が出現することがあり、注意が必要です。

神経性食思不振症は、女性に多く、特に長女に多いと言われています。元々、性格的には素直で聞き分けがよい、真面目でしっかりしているとみられている人に多く発症します。食べるように言っても、頑固に聞き入れないことが多いので、家族は食事を摂らないことを非難するのではなく、その人の気持ちを理解し、支持していくことが必要です。

一方、神経性過食症は、ストレスを解消するために1日に数回過食する場合が多く、特に夜に過食する人が多いようです。例えば、夕食を食べた後にコンビニで大量に買い込んだパンやお菓子を数時間かけて全部食べてしまう。その後、自分で無理矢理吐き出そうとするというような行為が見られます。食べている間は現実の悩みを忘れ、過食を止めようとしても自分の意思で抑えることが出来なくなってしまいます。急に過食を止めることは難しいので、徐々に食事の回数や量を減らすことを目標に改善することが大切です。

神経性食思不振症も神経性過食症も精神的な疾患であり、神経性食思不振症の患者さんが、ある時、神経性過食症に変化する場合もあります


高齢者は、熱中症に要注意

(23年7月のコミュニティー紙「おかあさんチョット」に掲載されたものです。)


熱中症は、若い人が直射日光下で激しいスポ−ツをしている時だけでなく、高齢者が、自宅の居室で安静にしている時にも起こります。そして、その何れもが、時に、死につながります。一般に、熱中症は、日射病、熱痙攣、熱疲労、熱射病に分類されます。

日射病は、炎天下での長時間の作業や運動、特に頭頂部を太陽光線で直接照射された場合に発生することが多く、多量の発汗、皮膚血管の拡張、運動に伴う筋肉の血流増加などのため、血管の中を流れる血流が減少したことのより発生します。数秒間の意識消失を伴う場合もありますが、大抵、涼しい場所に移し、体を冷却、点滴をすることにより、数時間で回復します。

熱痙攣とは、多量の発汗により大量の塩分、すなわちナトリウムが失われた時に水分のみを補給したため、筋肉の興奮性が亢進して筋肉の痛みを伴う痙攣が発生した状態を言います。胃や腸の筋肉も痙攣するため、しばしば、腹痛や嘔吐を伴います。昔の運動部では、熱痙攣を予防する目的で、しばしば、活動中の水分摂取を禁止していました。しかしながら、それでは脱水による熱疲労を招く危険があります。最近では、スポ−ツの最中は、適度な水分とナトリウムなどの電解質の両方を補給することが望ましいと考えられています。

熱疲労は、発汗による脱水に加え、熱産生の増加に熱放散が追いつけず、体温調節機能が破綻して、高体温となった状態を言います。多量の発汗、頭痛、眩暈、悪心、嘔吐、筋力低下、頻脈、血圧の低下等の症状がみられます。体温が40度以上となり、意識障害を伴ってくる重症な状態になると熱射病と呼びます。熱射病では、肝機能や腎機能の障害を伴うようになり、意識障害も引き起こされるため、入院治療が必要となります。

熱中症は、真夏だけでなく、体が暑さに順応していない梅雨明けにもしばしば見られます。高齢者では、体内の水分量が減少しているだけでなく、喉の渇きも感じにくくなっており、脱水を来しやすくなっていますので、心不全のため水分の摂取制限を受けている人は別として、夏は、若い人以上に水分の補給が必要です。


車には車検が、人間には癌検診は必要です

(23年4月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)

河内長野市が行っている主な健診に、特定健診、いわゆる、メタボ健診と癌検診があります。特定健診は、糖尿病、高血圧、脂質異常症のような生活習慣病を対象とした健診です。日本人の3分の1は、脳卒中や心筋梗塞など生活習慣病を原因とする疾患で亡くなられ、これを予防するための健診が特定健診です。一方、日本人の2人に1人は、癌になり、3人に1人は、癌で亡くなります。河内長野市では、頻度の高い胃癌、大腸癌、肺癌、乳癌、子宮癌の検診をおこなっています。肝臓癌は、ほとんどが慢性肝炎や肝硬変の人に起こりますので、癌検診としてではなく、肝炎ウイルスの検診として行われています。

平成21年度の結果をみますと、河内長野市の胃癌検診の対象者は、42,636名、受診者6,196名で、20名が胃癌と診断されています。大腸癌検診は、44,020名の対象者の内、7,704名が受診され、18名に大腸癌が見付かっています。肺癌検診は43,723名の対象者に対し、1,220人しか受けておられず、1名の癌しか発見されていません。乳癌は、25,367名の検診対象者の内3,602名が受診、14名に癌が発見されています。子宮癌は、34,132名の対象者の内2,926名が受診し、癌の発見者は2名でした。受診者に対する癌の発見率は、胃癌0.32%、大腸癌0.23%、肺癌0.08%、乳癌0.39%、子宮頸癌0.07%でした。

現在の河内長野市の癌検診にも幾つかの問題点があります。たとえば、膵臓癌のように進行の速い癌を年1回の検診で見付けるのは困難であり、胆嚢癌や膵臓癌の市民検診はおこなわれていません。また、甲状腺癌は、死亡率が低いこともあり、市の癌検診の対象にはなりません。肺癌検診は、胸部X線でおこないますので、小さな癌を見付けることは難しく、発見率は、0.08%と低値です。しかし、胸部X線は、被爆量がCTの100分の1であり、日本人の癌の数%はCTによる被爆が原因とも言われており、その意味では、被爆が極めて少なく有用な方法とも言えます。

様々な問題もある癌検診ですが、40歳以上の市民全員が大腸癌検診を受けていたとすれば、河内長野市で1年間に103名の大腸癌が検診により発見されたと計算されます。癌は、無症状のうちに早期発見することが大切であり、車には2年に1回の車検が、人間には、1年に1回の癌検診が必要と考えます。

当院でも、河内長野市の癌検診のうち、胃癌検診と大腸癌検診をおこなっています。市の癌検診に関する御質問は、診察時や受付でお尋ね下さい。



日本は、エイズの増加している数少ない先進国です

(22年12月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)


 エイズは、1981年米国で初めて報告されたHIVウイルスの感染により発症する疾患です。

HIVウイルスは、人の免疫を司る白血球の一種であるリンパ球に感染し、リンパ球の働きを低下させ、その結果、免疫力を低下させます。

HIVウイルスに感染して数週間後に、発熱、リンパ節の腫大、喉の痛み、発疹などがみられます。

しかし、症状は数日から数週間で自然に軽快するため、風邪を引いたのかなと思っているうちに良くなることが多いようです。その後、症状のない時期が続きます。この間、HIVウイルスの数は徐々に増加し、無治療の場合は10年程すると免疫力が著明に低下、ニュ-モシスチス肺炎、サイトメガロスウイルス感染症、カンジタ症などの感染症を起こすようになりエイズと呼ばれる状態になります。

エイズでは、結核や非結核性抗酸菌症も発症し易くなります。また、カポジ肉腫や悪性リンパ腫などの悪性腫瘍、HIV脳症と言われる認知症もみられます。

日本では、血液製剤により感染した患者さんが多く、同時にC型肝炎ウイルスに感染している頻度が高いため、それによる肝硬変が多くみられます。

2004年末、世界に4030万人のHIV感染者がいましたが、2580万人がサハラ以南のアフリカに住んでおり、この地域では成人の実に7.2%の人がHIVウイルスに感染していました。これに対し、日本は世界でもHIVの感染率の少ない国であり、2008年末のHIV感染者10552人、エイズ患者4899人でした。これは、米国の感染者が100万人を越えていることと比べてもかなり少ないといえます。しかし、先進国での感染者数は、最近、減少傾向に転じているのに対し、日本は、増加傾向にあります。
HIVウイルスは、肛門での性交や麻薬などの注射の回し打ちによって感染することが多く、ペニス膣性交ではコンドームを正しく使うことにより予防出来る疾患です。
最近、治療が急激に進歩しており、HIV感染を早期に診断しウイルスが増加しないよう内服していれば、エイズを発症せず、通常の生活が続けられるようになっています。
HIV感染症に関しても、予防と早期発見が大切であることは、他の疾患と何ら変わりありません。


新型インフルエンザは、もう一回流行する?

(22年11月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)


昨年、メキシコで新型インフルエンザが発生し、大騒ぎになりました。しかし、当初予想されたほどの被害もなく安堵しているところです。

鳥インフルエンザウイルスは、まれに変異して豚などの動物に感染、さらにこれが変異して人に感染することがあります。さらに、このウイルスが人から人に感染するようになると新型インフルエンザの誕生です。

これまでも、約30年に一度の割合で、新型インフルエンザが発生してきました。そもそもインフルエンザは、麻疹や水疱と違い毎年少しずつ姿を変えますので、新型インフルエンザが発生しなくても一生のうちに何度もかかる疾患です。しかし、新型ウイルスが発生しますと、ほとんどの人に免疫がないため、一挙に流行することになります。

20世紀だけでも、スペイン型、香港型、アジア型、ソ連型と言ったインフルエンザが誕生し、その度に、大量の死者が出ました。ところが、今回の新型インフルエンザでは、殆ど死者が出ませんでした。その理由の一つとして、21世紀になり普及したタミフルなどの抗ウイルス剤が、ウイルスが体の奥まで入り込み肺炎、脳炎、心筋炎などを起こすのを防いだことが挙げられます。タミフルの消費量の多いことで知られる日本は、欧米に比べ新型インフルエンザによる死者は少なく、その頻度は欧米の10分の1以下でした。次に、抗生物質の発達です。スペイン風邪では、日本だけで何十万人も死亡しました。その中には、インフルエンザが治った後、インフルエンザで荒れた肺に細菌感染を起こし肺炎で死亡した人も多くいたことが分かっています。現在は、抗生剤があるため、細菌性肺炎を続発しても助けることが出来ます。

二十世紀に流行した4つのインフルエンザは、発生した年に1回流行し、その数年後にもう一度流行する傾向がありました。このため、新型インフルエンザも今年もしくは数年後にもう一度流行する可能性が高いと言われています。インフルエンザウイルスの世界にも生存競争があり、さらにその後も流行を続けるのか、消滅していくのかは分かりません。
スペイン型とアジア型のウイルスは、既に消滅しています。新型が発生したことで、ソ連型は、劣勢になってきており、今年流行するとすれば、香港型もしくは新型のいずれかであると予想されています。
このため、今年のワクチンは、香港型、新型、B型の3種類のウイルスに対応しています。


アレルギー疾患が増加しています

(22年7月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)


 アレルギ−反応とは、通常は害を及ぼさない物質に体が過剰に反応する状態を言います。アレルギー疾患には、花粉症、気管支喘息、食物アレルギー、アトピー性皮膚炎などがあります。

花粉症は、スギ、ヒノキ、かもがやなどが原因となります。戦後、木材の不足を解消するため、山にスギの木がたくさん植えられたこともあり、花粉症は著増しており、成人の25%以上が罹患していると言われています。

気管支喘息は、アレルギーによるものと風邪などに引き続き起こるものがあります。高齢者では、風邪などの呼吸器感染に引き続き起こる喘息が多くみられますが、小児ではアレルギー反応による喘息が主体です。

アレルギーによる気管支喘息は、原因として、ダニとホコリが最も多く、犬、猫、ウサギ、ハムスタ−のような毛の生えた動物も原因となります。昔のすきま風の入ってくる家では、冬になるとダニは繁殖出来ませんでした。最近、気密性の高い住宅が増えており、冬でも暖房が完備されているため、ダニの繁殖しやすい環境となっており、喘息の増加した原因と言われています。

この他、小児科領域では食物アレルギーも増加しており、乳児で約10%、3歳児で約5%が食物アレルギーであると言われています。

アレルギーは、必ず、反応を引き起こす物質がありますので、それを遠ざけることが大切です。花粉症であれば、外出時は眼鏡やマスクをする、花粉の多い日は外出を控える、帰宅時に洗顔、うがいを行う、衣服に付着した花粉を戸外で払い落としてから帰宅する、鼻をかむなどの対策が有効です。気管支喘息であれば、掃除をしてその原因となるダニやホコリを遠ざけておくことが、大切です。



喫煙者の長期間持続する声のかすれ(嗄声)は喉頭癌かもしれません

(22年6月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)


喉頭癌は喉に出来る癌で、声を発生するのに重要な働きをする声門にできる声門癌が約70 %、声門より上に発生する声門上癌が約 25 % を占めます。声門癌(声門にできる喉頭癌)の初期症状のほとんどが、声のかすれ(嗄声)です。声がかすれていても痛くないので風邪かと思い放置していると、その内に進行してしまいます。声門癌は、初期であれば放射線治療が有効で声帯を温存することが出来、後遺症なく治癒することが可能です。しかし、放置しある程度進行すると喉頭全摘が必要となり、音声保存が困難となります。喉頭全摘後は食道発生、ボイスプロステーシス、T―Eシャントなどによる代用音声を行うこととなりますが、その場合は、呼吸器感染も起こしやすくなります。

声門上癌(声門より上の部分に出来るの喉頭癌)の症状としては、咽頭違和感、嚥下痛、血痰などがあります。声門上癌は頚部のリンパ節に転移して頚部の腫れを訴え来院することも少なくありません。

喉頭癌の診断は、耳鼻咽喉科での内視鏡による観察と生検です。我が国の喉頭癌は喫煙が原因の扁平上皮癌が大部分を占めます。喫煙者は、肺癌に3〜5倍なりやすいと言われていますが、喉頭は肺よりも更に煙草の煙によく触れるため、肺癌以上に煙草によって増加し、喫煙者は非喫煙者に比べ27倍出来やすいとの報告もあります。喉頭癌の予防には禁煙が何よりも大切です。また、中高年の人で、声のかすれが長く続く場合、或いは頚部に腫瘤を触知する場合、痛みがなくても喉頭癌の可能性を考え早めに医療機関を受診することをお勧めします。最後に、喫煙により喉頭癌が発生した場合は、すでに肺癌や膀胱癌など喫煙が原因の他の癌も発生し易くなっています。喉頭癌に罹患したことのある患者様は、喉頭癌が再発していないかだけでなく、肺癌や膀胱癌など他の癌に関する検診も定期的に受けておかれることをお勧めします。


乳癌は、自分で見つけられる癌です

(22年1月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)

日本では、年間約4万人が乳癌に罹患しています。乳癌は、月経周期にさらされている期間が長いほど発生し易く、初潮の早い人、閉経が遅い人、妊娠経験がない人に多いと言われています。また、お酒の好きな人、背の高い人、閉経後に太ってきた人に多い癌でもあります。乳癌は、病院に行かなくても自分で発見できる数少ない癌の一つです。2005年の日本乳癌学会の報告では、自覚症状がなく乳癌検診を受けてたまたま発見された人は、全体の18.7%に過ぎません。実に70.5%の人は、自分で腫瘤に気づいて医療機関を受診しています。また、時には、血性乳頭分泌、乳房の皮膚の変色や萎縮、乳頭の爛れや偏位で気づかれる場合もあります。当院では、デイサ-ビスでの入浴中にヘルパ-が乳房の腫瘤に気づき発見された乳癌を何人か経験しています。乳癌は、決して高齢者に少ない癌ではありません。

乳癌の全身麻酔による手術は、1804年に花岡青洲によって世界で初めて行われました。青洲に乳癌の手術を受けた一人は、術後41年間生存したことが記録されています。その後、再発を防ぐ目的で、できるだけ広く大きく切り取る手術がおこなわれるようになりました。しかし、大きな手術は、乳房を失うだけでなく、脇の下のリンパ節を採るため、腕のリンパ液が還流できなくなり上腕がむくむ、腕が上がらないなどの合併症もしばしば見られます。最近では、術前に抗癌剤を投与し癌を小さくしておく、放射線治療を併用し再発を防ぐ、センチネルリンパ節生検といわれる手法を用い手術中にリンパ節転移の有無を素早く診断する等の工夫がなされ、日本での乳癌の手術の約60%は、乳房を切除しない乳房温存手術となっています。また、一部でメスを使わないラジオ波焼灼治療もおこなわれています。    

しかしながら、現在の日本でも年間約1万人が乳癌のために命を失っています。乳癌は、早期に発見すれば江戸時代でも治せた癌です。毎月、自分の誕生日には、入浴中に自分の乳房を自己検診してみてください。また、小さな癌を発見するためには、乳癌検診を受けておかれることをお勧めします


痛風は王様の病気?

(21年12月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)

血清尿酸値が、7.0 mg/dl を越えると、尿酸が血液に溶けにくくなります。痛風とは、血中の尿酸値の高い状態が持続した結果、関節内に尿酸塩が析出し、関節炎を引き起こした状態を言います。痛風は、足の親指の付け根の関節に起こることが多く、激しい痛みの為、風が吹いても痛いという意味であると言われています。

プリン体は、体内で尿酸に変換されるため、痛風を予防するには、プリン体の摂取を制限することが有用です。レバ−、かつおぶし、マイワシやサンマの干物、エビには、プリン体が多く含まれています。肥満は、尿酸値を高めます。このため、エネルギ−の摂取を制限すると体重の減少に伴って尿酸値も低下します。アルコ−ルの摂取は、尿酸の合成を促進し、排泄を減少させます。したがって、プリン体を多く含むビ−ルだけでなく、プリン体を殆ど含まない焼酎も、血清尿酸値を高める働きがあります。痛風の人は、晩酌をビ−ルから焼酎に変えるのではなく、飲酒量自体を減らすことが大切です。尿酸は、痛風ばかりでなく、腎結石や腎不全の原因にもなります。その予防には、海草や野菜を多く摂って、尿をアルカリ性にしておくことも有用です。運動自体は、血清尿酸値に殆ど影響を与えませんが、好気性運動により肥満が改善すると、尿酸値も低下します。高尿酸血症の人の8割は、高血圧、耐糖能異常、脂質異常症等の生活習慣病を合併していると言われています。肥満の改善は、これらの生活習慣病に対しても同時に良い影響を与えます。

痛風は、大昔から知られている疾患で、痛風発作の治療薬であるコルヒチンは、紀元前5世紀にすでにヒポクラテスが使っていたことが記録に残っています。昔は、ごちそうの食べ過ぎが原因となるため、王様の病気とも言われていました。経済成長と共にその有病率は、急激に増加、男性でみると、健診の血液検査での高尿酸血症の頻度は、1960年代は5%程度でしたが、1990年代には約20%に増加しています。食生活に関しては、今や、日本人は、みんな王様になったようです。


健康寿命を延ばす

(21年11月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)

健康寿命とは、介護を受けることなく、自立して健康に過ごせる寿命のことを言います。最近、老人の介護が問題になっており、健康寿命を延ばすことが、単に寿命を延ばすこと以上に重要になってきています。

一般に平均寿命が長い国は、健康寿命も長い傾向にあります。日本人の平均寿命が世界一であることは、よく知られていますが、実は健康寿命も世界一と言われています(2002年)。それでも、不健康期間すなわち介護が必要となってから亡くなるまでの期間は、日本人の場合、男性で6.1年、女性で7.5年となっています。不健康期間の原因となる主な疾患としては、脳卒中、骨折及び認知症があります。脳卒中の予防には若い頃から高血圧や糖尿病を治療しておくことや必要に応じ血液をさらさらにする抗凝固剤や抗血小板剤を内服することが有用です。また、骨折の予防には普段からの運動習慣や骨粗鬆症に対する内服治療が有効とされています。残念ながら認知症の予防効果が立証されているのは、高血圧の治療だけです。

千葉県の調査では、65歳の方の男性の平均余命は16.4年、女性は20.8年でした。平均寿命は女性の方が4年程長いのですが、65歳以上で自立して生活出来る人の割合は、男性 85.9%に比べて女性76.4%と、女性の方が低くなっています。このことは、平均寿命だけでなく不健康期間も男性に比べ女性の方が長いことを示しています。その理由として、骨粗鬆症や認知症が女性に多いことが関与していると考えられます。

同じ要介護状態であっても、家族と一緒に生活をしていればほぼ自立出来る方から寝たきりになって褥瘡が出来、手足が拘縮している方まで様々な要介護状態があります。従って、健康寿命を維持することは大切ですが、何らかの介護を要する状態になっても、更に進行しないために治療していくことも大切と言えます。

帯状疱疹が増加しています

21年10月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。) 


10歳までに9割以上の人が水痘(みずぼうそう)に罹患します。水痘は、健康な人にとって、容易に治癒する良性の疾患です。しかし、一度、水痘に罹るとウイルスが消失することはなく、一生、後根神経節と呼ばれる神経の中にウイルスが潜むことになります。そして、体力が弱った時に神経を伝って再度ウイルスが増殖します。

これが、帯状疱疹(帯状ヘルペス)です。このため、皮膚には、水疱と同じ様な発疹が出現し、診断は比較的容易です。しかしながら、痛みと同時に皮疹が出るわけではなく、痛みは、通常、皮疹の出る数日から1週間前に出現します。痛みは漠然とした鈍い痛みに始まり、次第にズキズキする痛みを感じるようになります。

この時期、皮疹がみられないため、胸に痛みがあれば心臓や肺の病気が、お腹に痛みがあれば消化器疾患などが疑われ、検査をするも異常なしと言われ原因がわからないまま経過観察になることもしばしばあります。また、整形外科を受診し、レントゲンでは骨に異常なく原因が分からないということも時にあります。

したがって、原因の分からないチクチク、ズキズキするような痛みが続く時には、毎日、皮疹が出てこないかを観察することが必要です。特に、背中などの自分で見えない部位が痛む時は、家族にみてもらうようにしましょう。

帯状疱疹は、免疫力が低下してきた中年以降に多く出現します。また、膠原病や癌がある場合やステロイドや抗癌剤を内服している場合には、免疫力が低下し、発症しやすくなります。帯状疱疹の皮疹は、放っておいても1ヶ月程で自然に治癒します。

しかし、時に、皮疹が治癒しても痛みが治まらず、帯状疱疹後神経痛PHNと呼ばれる痛みが一生残ることがあります。帯状疱疹後神経痛は非常に治りにくい痛みで、治療に難渋します。

最も大事なことは、皮疹出現後出来るだけ早期に抗ウイルス薬を投与することです。

皮疹出現後72時間以内に抗ウイルス薬を投与すれば、帯状疱疹後神経痛の約半分は予防出来るといわれています。特に50歳以上になると帯状疱疹後神経痛が残る割合が増加しますので、原因不明の痛みが出現したら1週間程は皮疹が出ないか常に観察し、早期発見に努めることが大切です


認知症とは

21年7月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)


認知症とは、記憶力が低下したために色々な症状が現れてくる疾患です。たとえば、物を盗られたと訴えるのは、しばしば、認知症にみられる症状ですが、これは、物をどこになおしたかを忘れたため、盗られたのだろうと考える、すなわち、つじつまを合わすためにみられる現象であり、その根本の原因は、記憶力の低下にあります。

したがって、治療として、できるだけ記憶力をよくする薬剤であるアリセプトが使われます。しかしながら、アリセプトで記憶力の低下をある程度押さえることは出来ますが、病気の原因そのものを治すお薬ではないので、その有用性には限りがあります。では、認知症の原因は、何でしょうか。

認知症の原因には、いくつかあります。血管性認知症は、動脈硬化のため、脳血流が低下、これに伴い脳の働きが低下することにより起こってくる疾患です。

血管性認知症の予防には、若い頃から、高血圧、糖尿病、高コレステロ−ル血症などの治療を十分におこない、動脈硬化を予防することが大切です。言い換えれば、高血圧や糖尿病の治療により予防出来る認知症とも言えます。

一方、アルツハイマ−型認知症は、症状がみられる20年程前から、すでに脳内にアミロイドと言われる物質が沈着していることが分かっています。現在、このアミロイドを取り除くワクチンが開発されてきていますが、副作用などの問題があり、実用化には至っていません。アルツハイマ−型認知症の詳細な原因は不明なことも多く、現時点では、根本的な予防や治療は、困難です。一般的には、物を考える習慣を持ち、外部から様々な刺激を受けることが大切と言われています。このため、認知症が進み、閉じこもりがちになった人には、デイサ−ビスなどで刺激を与えることも有効です。

はぶ医院の関連施設である健真会 デイサ−ビス「福寿」では、認知症ケア専門士による脳トレもおこなっています。

何を食べたかを忘れるのは老化によるもの忘れであり、食事をしたこと自体をすべて忘れ、食事をした後直ぐに、「ご飯は、まだか。」と言うのが認知症だと言われています。しかし、これは相当進行した認知症に当てはまることであり、初期診断はMRIや脳血流シンチなどの検査をおこなっても困難な場合が多くみられます。もの忘れが気になる方やもの忘れの検査を希望される方は、診察時に御相談下さい。


7月から高齢者賃貸住宅「福寿」と併設のデイサ―ビス、
ケアプランセンタ−、訪問介護事業所をオープンします

21年5月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)


最近、医師不足や医療費抑制政策などのため、大きな病院での長期入院が困難になってきています。
また、核家族化に伴い退院しても介護する家族が遠方に住んでいるなどの問題が生じています。
一方、特別養護老人ホームなどの介護施設は数が少なく、入居を待っている間に亡くなられる方も珍しくありません。

はぶ医院の関連施設として自宅での介護や医療が困難な患者様を対象に、河内長野市で初めての適合高齢者専用賃貸住宅(適合高専賃)「福寿」を開設しました。


高齢者専用賃貸住宅(高専賃)のうち、一定の条件を満たし大阪府の認可を受けた施設が適合高専賃です。高専賃とは、有料老人ホームと異なり、賃貸住宅ですので高額な入居金は不要です。
このため、特別養護老人ホームやグル―プホ―ムの入所待ちの間だけ利用していただくことも可能です。また、状態が良くなれば、退所して自宅に帰っていただくこともできます。「福寿」では、食事を提供すると共に、夜間も含め介護スタッフが常駐しています。
1階には、訪問介護事業所を併設しており、介護保険を使った介護サ―ビスやデイサービスを提供します。訪問介護、デイサ―ビス、ケアプランの作成は、入居されている方のみでなく近隣にお住まいの方にも利用していただけます。はぶ医院からは、2週間に1回程度、定期的に訪問診療をおこない病状を把握、病状によっては、頻回の訪問や時間外の往診もおこないます。


家族が簡単に立ち寄れる家庭的な施設を目指し、ラブリーホールの近く川見の辻の交差点のすぐ横に建設しました。
万一の火災時に備え、スプリンクラーや消防署への直通電話も設置しています。7月オープンを目指して準備中です。
福寿の高齢者賃貸住宅へ入居、デイサービス、訪問介護、ケアプランの作成等に関するお問い合わせは、 0721 - 26 - 7711 までお気軽にお電話下さい。
また、それ以外の介護に関する様々な御相談も、三人のケアマネージャーが、随時、受け承ります。



性差を考慮した医療

(21年2月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)


医療では、年齢にのみでなく性差を考慮する必要があります。
女性は、一般に男性よりも長生きであり、日本人の2006年の女性の平均寿命は85.8歳、男性は79.0歳で、その差は7歳あります。しかしながら、これは普遍的なものではありません。発展途上国ほどその差は小さくなり、中国では3.7歳、インドでは1.7歳にすぎません。これは、先進国では、乳児死亡が著明に減少することや、腸炎、肺炎、結核などの感染症での死亡が少なくなり、癌、脳梗塞、心筋梗塞が死因の多数を占めるため起こる現象と考えられています。

それでは、女性は男性に比べてなぜ癌や循環器疾患になりにくいのでしょうか。
最大の原因は、男性の喫煙歴が高いことです。もしも女性が男性並みに喫煙すれば、7歳の差は4歳ぐらいに縮まるだろうと推定されています。また、男性の方が、血圧やコレステロ−ルが高いことも大きな原因と考えられています。


最近、メタボリック症候群が注目されています。消化管の周りについている腹腔内脂肪は、単なるカロリ−の貯蔵庫ではなく、血液を固まらせる物質や血圧を上げる物質を分泌するため、動脈硬化を促進することが分かってきました。
女性では、皮下脂肪が多いため、同じ腹囲の男性比べ腹腔内脂肪が少なく、動脈硬化が起きにくいと推定されています。このため、メタボリック症候群の診断基準には、女性で腹囲90cm以上が、男性ではそれより小さい腹囲85cm以上が用いられています。しかしこれはあくまでも平均値での話であり、もともと痩せ型の女性で皮下脂肪の少ない人が中年になりお腹だけが出てきた場合は、それ程腹囲が大きくなくても男性同様注意が必要です。


女性ホルモンには、コレステロ−ルを下げる働きがあるため、女性は、閉経後に動脈硬化が進みます。このため、貧血のある人は、生理のある間はお肉を食べ、閉経後、コレステロ−ルが上がってくれば、お肉や卵を控えるようにするなど、年齢と伴に食生活を変えることも必要です。
喫煙することにより癌や循環器疾患の増加する割合は、男性より女性の方が大きいことが知られています。また、飲酒による肝機能障害は、同じ飲酒量であれば、女性の方が高率に起こります。骨粗鬆症は、女性は男性に比べ3倍多く発生します。したがって、女性は、男性以上にカルシウムやビタミンDの摂取に気を付けておく必要があります。



気管支喘息が増えています
(20年8月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)

 1960年代と現在を比較すると、日本における気管支喘息の有病率は、小児で1%から6%へ、成人で1%弱から3%へそれぞれ大幅に増加しました。気管支喘息を発病させないために、また、悪化させないためにはどうしたら良いのでしょうか。

気管支喘息の大きな原因は、ダニ、ホコリ、カビ、ゴキブリなどです。気密性の高い最近の住宅は、ダニが繁殖しやすいため、きれいに掃除をしておくことがまず大切です。
犬、猫、ウサギ、ハムスターなど毛のある動物を室内で飼うのも良くありません。
また、妊娠中や出産後の母親の喫煙は、子供の気管支喘息の原因となるため、女性の喫煙率の増加も問題です。

 
気管支喘息の10人に一人は職業性感作物質によると言われており、パン製造業の小麦、大工さんの木材ダスト、自動車塗装業の有機化学物質など様々な物質が原因となる可能性があります。熱さましや痛み止めでも、喘息発作を起こす人がいます。このような人は、市販の風邪薬、痛み止めの塗り薬や貼り薬でも重症の喘息発作を引き起こす可能性があり注意が必要です。
大きく息をする激しい運動は、喘息発作を誘発する可能性があります。ただし、始める前に気管支拡張剤を吸入しておくなどの工夫により、スポーツが可能となる場合も多く、また、水泳では、気道が乾燥しにくいため喘息発作が起きにくいと言われています。喘息だからといってスポーツをあきらめる必要はありません。


気管支喘息の原因は、慢性的な気道の炎症です。気道が急に狭くなった時に発作が起き息苦しくなりますが、そうでない時にも気道の炎症は続いています。放置すると、気管が慢性的に狭くなり、少し歩くだけで息切れがするようになり、治療をしても改善しない可能性があります。発作が起きて息苦しい時だけでなく、症状がない時にも充分に治療し炎症を抑えておくことが大切です。幸い、1990年代から吸入ステロイドをはじめとする気道の炎症を抑える治療法が普及してきました。その結果、患者さんの数の増加にもかかわらず、喘息による窒息死は、年々減少、1995年には、年間六千人を越えていましたが、現在はその半分以下になっています。



−近年、パーキンソン病が増加しています。−
(20年6月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)

 
パーキンソン病は、脳内の黒質−線条体系のドパミン神経が緩徐進行性に変性脱落する疾患です。
この現象は、加齢によっても出現するため、パ−キンソン病は、高齢者に多く見られます。

パ−キンソン病の受診開始理由で最も多いのは、手足の震えです。
この他にも、歩くのが遅くなった、動作全体が遅くなった、すり足になった、前屈みの小刻みな歩行になり急な方向転換が難しくなった、顔の表情が乏しくなりしゃべり方の抑揚が無くなった、声が小さくなった、細かい手先の動作が下手になった、字が小さくなったなどの運動障害、便秘、起立時の血圧低下などの自律神経の症状、うつ状態、認知症などの精神症状もみられます。
パーキンソン病では、頭部のCTやMRIで異常がみられないため、睡眠中の大声や異常行動、嗅覚の低下などが他の症状に先駆けて出現した場合、早期診断がしばしば困難となります。


ある程度病気が進行し内服治療が必要になった場合、ドパミンの前駆物質であるL-DOPA、もしくは、ドパミンの受容体を刺激するドパミンアゴニストの内服を開始します。また、L-DOPAの投与により症状が軽快することが、診断に役立ちます。ある程度進行すると、リハビリテーションが必要となり、重症になると手術も考慮します。

パーキンソン病に関する情報をいくつか記載します。
 
@ 高齢者になると手足の震えがよくみられますが、パーキンソン病では安静時に震えがみられ、コップを持ったり、字を書いたりする時には震えが止まるというのが特徴です。これに対して、加齢による変化である本態性振戦では、安静時には手の震えが無く、字を書こうとしたり、コップを持ったりすると震えるのが特徴です。

A パーキンソン病と同様の症状が、薬剤の副作用として出現することがあります。薬剤を中止すると軽快しますので、その様な場合は、受診時に御相談下さい。

B パーキンソン病は、タバコを吸う人の方が吸わない人に比べて発病しにくい唯一の疾患です。しかしこのことは、喫煙を奨励するものではありません。パ−キンソン病は、徐々に寝たきりになり死亡することもありますが、治療の進歩で、一般人口平均余命の90〜100 % の期間の生存が可能になっています。

喫煙によるパーキンソン病の予防効果よりも、肺癌、脳梗塞、心筋梗塞など命に関わる疾患の発病頻度を上げることの方が遙かに問題だからです。



検査に異常の出ない疾患 「 慢性疲労症候群 」

(20年4月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。

  慢性疲労症候群は、激しい全身倦怠感、微熱、咽頭痛、頚部や腋窩のリンパ節腫脹、筋肉痛や筋力低下、頭痛、腫脹や発赤を伴わない移動性の関節痛など多彩な症状のほか、睡眠障害、抑うつ、思考力低下など、多彩な精神症状を伴う疾患です。

全身の疲労、倦怠感が、6ヶ月以上続き、短期の休養では回復しません。月に数日以上は、仕事を休んだり、家事ができず、臥床しないではいられない状態になります。
血液検査で異常が見られないことが多く、単なる「なまけ病」と診断されてしまう場合もあります。


一方、線維筋痛症は、中年以降の女性に好発する原因不明の疾患で、広範囲な筋肉や関節の痛みを伴う疾患です。「ズキズキ痛む」「ヒリヒリ痛む」「焼けるように痛む」など、さまざまな表現がみられます。また、びまん性のこわばりを訴えることも多く、しばしば、関節リウマチに似た朝のこわばりが見られます。
この他、目や口腔の乾燥、膀胱炎、便通の異常、寒いところに行くと指が白くなるレイノー現象、手指の腫脹など、多彩な症状を合併します。線維筋痛症に特徴的な圧痛点として、18ヶ所が提唱されており、このうちの11ヶ所に圧痛が見られたときに線維筋痛症と診断されます。
全身倦怠、微熱、不眠など、慢性疲労症候群と共通の症状も多くみられ、慢性疲労症候群として経過を見ているうちに、線維筋痛症に特徴的な筋肉や関節の痛みや、筋肉の圧痛が出現してくることも多々あります。最近では、慢性疲労症候群と線維筋痛症は同一疾患と考えられています。


線維筋痛症の原因は、未だ、不明ですが、抜糸、脊髄の手術、透析導入など、外傷に伴い発症するケースがあり、痛み止めが有効な場合があります。心理的なストレスから、線維筋痛症を発症する場合もあり、抗不安薬、抗けいれん薬、抗うつ剤なども使用されます。微熱があるからといって、安静にしているのではなく、ストレッチ、エアロビクス、柔軟体操なども効果があると言われています。

慢性疲労症候群や線維筋痛症は、血液検査で異常がないにもかかわらず、様々な臓器に症状が出るため、いくつもの診療科を受診し、結局、診断がつかないことの多い疾患です。


われわれ内科医は、全身を見るのが仕事ですから、一見、関係が無いと思われる症状も診察時にお話いただきたいと考えます。



20歳代でも高齢者でも子宮癌は、あります

(20年3月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)

子宮癌には、入り口にできる子宮頚癌と、体部にできる子宮体癌があります。子宮頚癌には、ヒトパピロ−マウイルスの感染が関与します。正常の子宮上皮にこのウイルスが感染すると、異形成となり、さらに何らかの要因が加わって、子宮頚癌を発症すると考えられています。前癌病変である中等度異形成から浸潤癌に至るまでの病変のうち、90 % 以上にヒトパピロ−マウイルスが検出されます。子宮頚癌の初期癌である上皮内癌や微少浸潤癌の多くは、症状がありません。比較的初期の症状としては、不正性器出血や性交後出血があります。この様な症状が現れた場合には、早めに婦人科を受診して下さい。また、子宮頚癌は、検診での初期癌の発見が比較的容易な癌でもあります。子宮頚癌は、ここ二十年ほど減少傾向にある癌ですが、逆に、20歳代の子宮頚癌は増加しています。これは、若者の性交パ−トナ−数が増加し、ヒトパピロ−マウイルスに感染する機会が増えたためと考えられています( 現在、ヒトパピロ−マウイルスのワクチンが臨床試験中です )。


一方、子宮体癌は、相対的過剰エストロゲン状態が関与するタイプTと、閉経後の高齢女性にみられ違った機序で発病するタイプUがあり、最近増加してきています。子宮体癌は、不正性器出血のため比較的早期に気付かれることも多く、子宮頚癌に比べ予後良好です。

卵巣癌は、子宮癌に比べ頻度が少ないこともあり、一般には検診をおこなっていません。卵巣腫瘍は、他の目的でおこなった超音波検査・CT・MRIなどで、偶然発見されることも珍しくありません。子宮癌と違い、出血などの症状をきたしにくく、腹満感を訴える時には、すでに 10 cm 以上に大きくなっていることもあり、早期発見されることが少なく、子宮癌に比べ予後不良です。卵巣癌は、未婚者、不妊、早発閉経、卵巣機能不全、動物性脂肪の多量摂取で増加すると言われています。


最後に、
@ 若者の性交パ−トナ−数の増加のため、20歳代の子宮頚癌が増加しています。動物性脂肪の摂取量増加のため、卵巣癌が増えています。高血圧や糖尿病と同様、普段の生活習慣が、女性特有の癌の予防にも大切です。
A 高齢者にも婦人科的な癌は起こります。不正性器出血があれば、早めに婦人科を受診して下さい。



人は120才まで生きられる

(18年3月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)

肺の働きは加齢と共に徐々に弱り、120歳位になると、十分酸素を取り入れることができなくなるため、人の寿命は、最高で120歳位ではないかと考えられています。
私たち内科医の仕事は、120歳まで健康にいて頂くためにあると言えるでしょう。そのためには、肺機能を低下させる可能性のあるタバコ、大気汚染、アスベストのような有害物質の吸引を避けて頂く必要があります。
次は、血圧です。三人に一人は心筋梗塞や脳卒中などの血管病変で亡くなられます。
血管を若く保つことが長寿の秘訣です。日本高血圧学会の試算では、日本人の血圧を、わずか2 mmHg 下げるだけで、年間の脳卒中による死亡が9千人減少すると言われています。また、糖尿病になると、血管が10歳年をとると言われていますが、実際、HbA1cという糖尿病の指標を1下げるだけで、糖尿病に関連した死亡が、25%減少します。


癌の予防も大切です。日本人の癌の1/3は、タバコが原因と言われており、喫煙は、同時に心筋梗塞や脳梗塞も増加させます。また、塩分を控えることによって胃癌の減少が期待されています。
ピロリ菌の感染は、胃癌の発生を3倍に増加させると言われており、若い頃に除菌しておくことは、胃癌の発生を低下させることが期待出来ます。しかしながら、年をとって胃の粘膜が萎縮してしまった人に対する除菌の胃癌を予防する効果は確立されていません。したがって、検診を受けて頂くことをお勧めします。

検診を毎年受けることにより、胃癌及び大腸癌による死亡を半分に減少させるともいわれています。肝臓癌の9割以上が、B型肝炎とC型肝炎が原因となります。B型肝炎は、ワクチンにより予防可能になっていますし、C型肝炎は、感染して初期であればインターフェロンでほぼ完治することが出来ます。したがって、将来は、肝臓癌による死亡も激減するでしょう。


近い将来、高齢者とは、90歳以上の人を意味する時代が来るように思います



超音波検査(エコ−検査)と私
(17年9月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)

超音波とは、人間の耳に聞こえないほど高い音程(周波数)の音を言います。
山びこでご存じのように、音は、物質に当たるとはね返る特性があります。この特性を利用し、戦争中、敵の潜水艦を発見するために開発されました。その後、魚群探知機として利用され、さらには、人体の中を見るのに使われています。

私が医師になった今から20年余り前は、超音波検査(エコ−)が急速に進歩してきた時代でもありました。
当時、お腹が痛いと患者さんが来た時には、とりあえず指で押さえてみて、胆石だろうか、胃潰瘍だろうかなどと考え、お薬を処方するのが普通でした。診断は、後日、検査に来てもらってから、確定するものでした。しかし、一部の若手の医師は、直ちに、エコー検査を行い、映し出される画像を見て、あなたは尿路結石です、あなたは盲腸によるお腹の痛みですと診断をつけていくのには驚き、すぐに教えて頂くことにしました。
その後、私は、近畿大学附属病院に10年余り在籍し、この間、臨床は内科全般に関し行っていましたが、研究は、エコ−を用いた循環器の研究を選びました。
当時、新しい治療法として開発されていた心筋梗塞や狭心症におけるカテーテル治療の効果をエコー法を用いて検討しました。高血圧があると、しばしば心臓が肥大しますが、その肥大が、お薬によりどうなって行くかをエコ−を用いて調べたり、もともと、カテーテルという管を体の中に入れ直接測定していた心臓のなかの圧を、エコ−法でもある程度推定できるかどうかを調べていました。その結果、推定可能であるとわかり、毎日の診療に役立てています。

今では、先天性心疾患(生まれつきの心臓病)や弁膜症(心臓の弁の病気)などは、心臓超音波検査だけで、手術適応や術式までもが決まる時代となりました。また、エコ−は、血管の動脈硬化の程度を見る道具としても使われるようになっています。

超音波は痛みを伴わず、また、被爆という、レントゲンでは避けて通れない副作用も無く、人に優しい検査であるため、ますます発展するものと期待されます。



癌を防ぐ
(16年12月号の院内紙「はぶ医院の健康情報」に掲載されたものです。)

 今回は癌にならないための日常生活について考えてみたいと思います。
肺癌に関しては喫煙との密接な関係が知られており、禁煙の重要性は言うまでもありません。また、肝臓癌は、95%程が、B型肝炎やC型肝炎の患者さんに発症しますので、それらの治療が何よりも大切です。


胃癌の予防効果が確実に認められているものは、野菜と果物の摂取及びビタミンCの摂取です。また、緑茶も胃癌を予防するのではないかと考えられています。逆に、塩分の摂取は血圧を上げるだけではなく、胃癌も増加させることがわかっています。
焼き肉や魚のこげが胃癌を誘発することは有名です。ピロリ菌の感染者に胃癌の発生率が高いことはよく知られていますが、高齢になってからの除菌が果たして胃癌を予防しうるかどうかは不明なため、胃潰瘍や十二指腸潰瘍に罹患していない場合の除菌療法は、現在のところ、健康保険の適応とはなりません。


大腸癌は、近年増加している癌の一つです。その原因として運動不足、肥満、過食が大腸癌の発生リスクとなることがあげられます。野菜を多く摂り、食物繊維を大量に摂取することは、大腸癌を予防するのではないかと考えられています。また、カルシウムやビタミンDには、大腸癌の原因となる大腸ポリ−プを予防する働きがあります。ニンニクにも大腸癌の発生を抑制する作用があると言われています。この他、脳卒中や心筋梗塞の予防のためにしばしばアスピリンが処方されますが、これらは大腸癌の発生も同時に減少させます。一方、大量の飲酒は血中葉酸レベルを低下させ、大腸癌の発生レベルを高めます。

肥満は、高血圧や糖尿病の原因となるだけでなく、乳癌の原因ともなります。

以上癌を予防する為に、日常気を付けて頂きたいことを2,3あげてみました。参考にして頂けれ

ば幸いです。