花色を変える遺伝子の発見!

 花の色の不思議については、当ホームページの「園芸アラカルトコーナー」で「花の色の不思議について」として取りまとめ、その中で、西洋アサガオ・ヘブンリーブルーの青色色素のことや、遺伝子組み換えによる青色バラの作出の可能性などについて紹介しました。
 今回は、アサガオの青色の発現を調節する遺伝子が岡崎国立共同研究機構の飯田教授らによって始めて明らかにされたことをご紹介します。なお、左の写真を含め、この内容は10月5日付の毎日新聞に掲載されたものです。

1.はじめに
 前置きが長くなりますが、今回の記事と関係するので、かつて園芸アラカルトコーナーで紹介した「花の色の不思議について」の一部をここにご紹介します。
◆西洋アサガオ「ヘブンりーブルー」色素の変化

◎西洋アサガオは蕾が赤紫で開花すると鮮やかなブルーに変化する。
◎色素はアントシアン系のペオニジン一種類だけで、この色素は花の中で唯一アルカリ性でも安定した色素であり、細胞の酸性度(pH=ペーハー)が蕾から開花までに酸性からアルカリ性に劇的に変化するため色が変化することが証明された。通常、植物細胞のpHは極端なアルカリ性にはならないが、このアサガオだけはpH7.7(pH7が中性、7以上はアルカリ性)まで変化することが、細胞内の微小部位のpH測定で証明された。

◎色素ペオニジンは細胞内では助色素のカフェ酸という物質と会合して安定していることも明らかにされている。

なお、「花の色の不思議について」はこちらをどうぞ。

2.花の色を変える遺伝子の発見 (新聞記事の内容)
◎飯田教授らは、アサガオの青い色が、花びらに含まれるナトリウムイオンの流れを調節する遺伝子の働きによって作られることを突き止めた。ナトリウムイオンは細胞内の酸性度(pH)を調節する無機成分。細胞内の酸性度(pH)をコントロールして花の色を変える遺伝子の発見は始めてのこと。
◎これまで、花の青い色はアントシアニンという色素の働きや金属イオン、酸性度(pH)などに左右されることや、アサガオの場合、花びらの細胞中のpHが高くなり、アルカリ性に近くなると花の青さが増すことは知られていたが、どんなタンパク質が酸性度(pH)の上昇に関係しているかは分かっていなかった。
◎飯田教授らは、青いアサガオの突然変異である紫色のアサガオに着目。紫色の花びらに青い模様の入るアサガオと青いアサガオの遺伝子を解析した。その結果、両者に共通する遺伝子の中で、紫色のアサガオの遺伝子には変異が起き、正常に働いていない部分のあることが分かった。
◎2色のアサガオの花びらの搾り汁を比較すると、色素成分には違いがなかったにもかかわらず、酸性度(pH)は青い花の方が紫の花より0.7も高いことが分かった。
◎このことから、この遺伝子は細胞中にナトリウムイオンを取り込み、同時に水素イオンを排出することで細胞内のpHを高め、花を青くする働きをしていることが分かった。

3.補足
(1)細胞の構造
◎最近、細胞の表面にはナトリウムやカリウム、水素などの各種イオンを通過させるポンプのあることが明らかになっています。地球上で最も小さいポンプです。このイオンポンプは、イオンの種類によって、ナトリウムイオンを通過させる「ナトリウムポンプ」や、水素イオンを通過させる「プロトンポンプ」などと呼ばれています。そして、今や、このイオンポンプの詳細な構造まで解明されつつあります。
◎イメージとして理解しやすいのは胃壁細胞のプロトンポンプで、このポンプは胃の中に水素イオンを高濃度に排出します。このため、胃液は強酸性になります。
◎今、細胞の構造をバケツと水道の蛇口に見立てます。バケツは細胞、蛇口はイオンの出入口です。イオンの流量を調節する蛇口のコックはタンパク質です。今回、明らかにされた遺伝子とは、ナトリウムイオンの流量を調節するタンパク質を作る遺伝子のことです。

(2)遺伝子とは?
◎遺伝子とは、「タンパク質を作る」道具です。たくさんの遺伝子がありますが、遺伝子に組み込まれた暗号の種類によって作られるタンパク質が異なる訳です。

◎青い色のアサガオと、このアサガオの突然変異である紫色のアサガオの遺伝子を比較分析し、異なる部分を見つけることが出来れば、その部分が青色を生み出す遺伝子であるということになります。今回、異なる部分として発見された遺伝子を、さらに解析したところ、それがナトリウムポンプとして細胞内のナトリウムイオンの量を調節するタンパク質を作り出す遺伝子であったということになります。

(3)この遺伝子に何が期待できるか?
◎今回発見された遺伝子は、色素その物を作り出す遺伝子ではありません。従って、この遺伝子を導入したとしても、全ての花の色を青色にする効果はありません。おそらく、この遺伝子の効果が見られるのは、細胞内の酸性度(pH)がアルカリ性になることによって色素の発現が青色側に変化する色素、つまりアントシアニン系の色素を含む花に対してでしょう。
◎もっとも、アントシアニン系の色素を含む花はたくさんあります。赤、ピンク、青、紫系の色素の大部分がアントシアニン系の色素ですから、この遺伝子の導入で色を青系に変化させる効果は大きいのかも知れません。
◎青いバラの作出が育種研究者の夢と言われていますが、まだ成功していません。遺伝子導入で作出された青いカーネーションについてはすでに商品化されています。今後、青いバラが生まれる日もそう遠くはないでしょう。

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