<世界の親父から>

たらったったらたーららー(世界の車窓から風)
オーストラリア南部の街アデレード。
この街には日本の姉妹都市から贈られた日本庭園があります。

そこに行こうとして道に迷って30分が経過していて、かなり煮え煮え状態だった俺は、誰か 通りがかりの人に道を聞こうと思い立った。
それが間違いの元だった。

誰かに道を聞こうと辺りを見渡していたその時、1台の車が止まった。
どうかしたのか?と運転手に聞かれたので、早速道を聞いてみた。
運転していたのはポールという男(推定年齢50歳前後)。
それまでオーストラリアの人達の親切心に触れていた俺は、そこまで送って くれるというポールの申し出をありがたく受ける事にした。
ポールはついでにF1アデレードGPの会場が途中にあるので、そこも案内して くれると言う。

何て親切な人なんだろう。ただではなかったが。いや、ただはただか。

そこに行くまでの間、ポールと世間話をしていたが、ポールの質問が途中から 微妙に怪しくなっている事に全く気が付かなかった。

「結婚してる?」
「していません。」
「彼女は?」
「います。」
この辺は、普通。
「歳いくつ?」
「20歳です。」
「え。14、5歳かと思った。」
こんな普通の質問の中に警戒すべき事項が隠れていたのだが・・・。

初海外だった俺は危ない雰囲気というものがまだ理解できなかったので、 しっかり真面目に質問に答えてた。
しかもポールが翌日の夕食に、いい寿司バーがあるのでそこに連れてってくれる という誘いにも乗っていた。

そしてつつがなく、車はGP会場に到着。
車に乗ったままで一通り説明を済ませた彼は、唐突に俺の太ももを触りながら、
「何かスポーツやってんの?いい太腿してるね。」
手をどけろという英語が出てこなくて手を払いのけようとした俺に、ポールが追い討ちを かける。
「その腹のところで抱えてるリュックどけちゃわない?」
「な、何で?」
声がひきつった俺に、
「ねぇ、そろそろホテルに戻らない?」
ひっっ。
ここで無理矢理押し倒されてたら、やられてたかもしれん。ポールはソフトな?ホモだった。

頑なに日本庭園に行きたいからとポールに言い続け、彼と別れて一目散に 日本庭園に入って、一安心。
・・・じゃねー。
庭園のベンチで一息ついていた俺は、とんでもない事をしてしまった自分に 気付いた。

食事の約束をした時にポールに宿泊先を教えてしまった事を。

日本庭園の風情など俺の心に染み入るはずもなく、周りの風景など目に入らないまま、 どっぷりと落ち込み、「どうしよう?」だけが頭の中を占拠した状態で、あんだけ探した日本庭園を 20分程で後にした。

翌日、現地の一日ツアーに出ていた俺は、ホテルに戻って速攻でフロントのお姉さんに事情を説明し、 近所のマクドナルドで籠城食を買い込み、眠れない夜を過ごした。
翌朝早くにアデレードを発ったし、その朝のフロントは別の人だったので、 ポールが実際来たかどうかは今もわからないけど、俺が14、5歳と思って車に 乗せ、しかも夜のお誘いをかましてくれたポール。

ひょっとして彼は今は刑務所にいるかもしれない。

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川落ち