<川落ち>

タイトル通り、この話は俺がいかにして川に落ちたか。
それを検証していくドキュメンタリーである。(大げさである。)

場所はブリスベン、結構な都会の街である。
そんな街を裸足で歩く事になろうとは。
事件の起こりは、俺の顔だった。

最初は街を見て歩いて、買物でもしようかと思ってた。昼過ぎに起きて鏡を見るまでは。
ここに来る前に、ビーチでのんびり過ごしたりしたのがまずかったのだろう。
日焼けで顔の皮があちこちぼろぼろめくれていて、めくれたところは触ったら絶対に痛いレベルの赤さ。
実際触るとかなり敏感になっており、顔を洗うと擦り傷でもあるのか位の痛み。
ビジュアル的には、何か病気か、お前?という感じだった。

とりあえず人里離れようと、マクドナルドで遅い昼食を買い込み、公園へ。
日本にいる時は何故かできないのだが、左手に紙袋、右手にシェイクを持って 飲みながら、オーストラリアなのにアメーリカンな感じで歩いていく。

そしてこの公園がだだっ広かったのが、第2の要因。
開放感があり緑が豊富で、草原に座って食い始めた時はかなりの充足感を感じていた。満たされていた。
食い終わってちょっと寝転がって、雲の動きを目で追って、ブリリアントな午後。
そして、公園内を歩き始めた。
本当にだだっ広い公園を、時間があるのに任せて端から端まで歩いてみようと思った。

この調子に乗った行動が第3の失敗だった。
途中に小川が流れていた。最終的にここにはまった。
行きは小川に橋がかかっていたので、それを渡る。
そして公園の端までたどり着いたところで休憩した。
したけど、元来の体力のなさが影響してか、休んでいる間にも足のだるさは増すばかり。
「帰ろう。」

もう夕方になっていた。この日の夜は映画館に行こうと思っていたが、地図を見ると、 公園と映画館の中間にホテルがあったから、一度ホテルに帰る事にした。
公園の外周沿いに歩けばよかったのだが、疲れていたので、公園を縦断して近道を しようと再び歩き出した。

行きの倍位の距離のような気がするのは疲れているからだろうと思いながら、 まさか自分が来た所からズレた方向に歩いてるなんて思わなかった。
来る時にもあった小川に着いた。
これを越えればもう少し。
・・・橋がない。ここで初めてそれに気付く。
見渡すとさっきの橋は約300m向こうにあり、もう1つ橋が見える公園の外周の 道迄の距離も同じ位離れていた。

ここでどちらにも行くのを面倒くさがった時点で今回の舞台は整った。
幅3m位の川だから走って越えよう。と何故か思った。
走り幅跳びで高校の時は5m位跳んでたし余裕、という根拠の薄い自信を元に 助走を開始した。

今なら絶対そんな事しない。

当時は若干20歳、俺は子供だった。

最初の足が向こう岸の地面に降りた時、やった。と思った。
のもつかの間、重心が後に傾いて、「ばしゃ。」
頭の中が真っ白になり、無意識に浸かった足を引き上げた。
靴が脱げて、下流に運ばれていく。
ここでまたあせって靴を取ろうとして、無事だった足を川の中へ。
「ばしゃ。」
・・・、周りに人がいないのをいい事に叫んでいた。
でも何を言ってるのか自分でもわからない言葉にならない叫び。
川から上がって、靴を脱いで水気を少しでも飛ばそうと振り回す。
靴下をしぼって、両方ともしばらく草原に置いて座り込む。
いくらブリスベンが亜熱帯とはいえ、すぐには乾かない。
とりあえずあきらめて靴を履いて歩き出した。

公園を歩いてる時は大丈夫だったのに、道路に出た途端、足元からじゅっぽ じゅっぽ妙な音がして、すれ違う人達が振り返る。
もうこの時点で常軌は逸していたのだろう。
その音を避ける為に、靴を脱いで裸足になる。
ぺたぺたというその音はじゅぽじゅぽよりはマシで、しかも怖い事にすごく それが楽しくなってきていた。

スキップするのがいいか、それとも「雨に歌えば」を口笛で吹きながら踊りだそうか、 どっちがいいか迷う位に楽しかった。

ホテルまでの距離が短く、迷ってる間に着いてしまい残念ながらどちらも できなかったが、やらなくてよかった。

顔がズルむけで、ところどころ赤くて、裸足で街を歩く男。
ホテルの人は「日本人ってきしょい奴。」と思ったに違いない。

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