<飲んではいけない>

シドニー郊外にブルーマウンテンという場所がある。
コーヒーの産地ではなく、霧の為に山々が青く見えるところから来ているらしい。
断崖の向こうに果てしなく広がる暗緑の山々。
それは素晴らしい景色だった。

その断崖を降りて道に沿って、2、3時間トレッキング?を楽しんでいたのだが、 延々歩けば当然喉が乾く。
いつも必ず飲み物は持ち歩くのに、この日だけ何故か水のボトルをホテルに忘れていた。
来た道を戻るのと先へ向かうのとは、おそらく同程度の距離。
一度気にし始めると、そればっかし気になってしまう事ありませんか?
その時の俺が正にそうなってしまい、景色を見に来たのに景色どころではなく、 水ー、水ーとなっていた。

我慢をしながら歩き続けて20分位、目の前に小さな川が流れていたのが見えた。
水は澄んでいた。
澄んでいた。
手ですくっても不純物は見当たらなかった。
飲んだ。
力いっぱい飲んだ。
推定1Lは飲んだ。
大満足でその後の足取りの軽い事、そして景色は美しい。

その夜、大発熱した。
力いっぱい熱が出た。
ほぼ一睡もできずに翌朝、ふらつきながら薬局に行った。
そしてつたない英語で精一杯、熱だけ、他は何の症状もなく熱だけなので、 解熱剤を下さい。と言ってみた。
解熱剤を買って、ホテルでさあ飲みますよ。と開けてみると1錠が10円玉位の 大きさ、厚みは10円玉2枚分位か。
しかも、成人は1回1錠と書いてある。
何故かここだけ冷静に判断ができ、体の大きいオーストラリア人が1錠なら、日本人は半錠 でしょう。と半分に割って飲んでみた。

それでも多過ぎた。

熱は確かに下がったのだが、翌朝は胃痛、胃痛、胃痛。
この解熱剤にお母さんの優しさは入ってなかった。
その日は延々何も食う事ができず、1日寝込んでいた。
そして夕方になってやっと調子がよくなったので、ちょっと映画を見に出かけた。
胃の調子が回復して、若干空腹を抱えていた俺の目に飛び込んできたのは、 売店に並んだ、バケツ一杯位のポップコーンと、牛乳パックのような大きさの容器のコーラ。
よくアメリカ映画の映画館のシーンに登場するようなやつ。
オーストラリアなのにアメリカンな雰囲気に浸りたくて、そこまでの経緯も考えずに 買ってしまった。
全部食ったし、全部飲んだ。1人で。

そしてその晩、俺は見事なまでの大嘔吐。
力いっぱい吐いた。
若い時は失敗を恐れずに、何にでも全力投球でいかなきゃ。
でも方向は間違ってはいけない。

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川落ち