<気絶した。>

気が付いたら、地面に倒れてた。
おそらくほんのわずかな時間だけだったが。

プラハで知り合ったKさんと夕食を食べようと、1軒のレストランに入った。
チェコの中央駅みたいな大きな駅の近くだったと思う。
日本語のメニューがあって、ここでもジャパンマネーは健在だった。
チェコ料理、俺が食べたのは肉の煮込みみたいな料理だったと思う。
それ自体は正直珍しい味ではないのだが、付け合せに出てきたパンとマッシュ ポテトと餅を合わせたようなクネードリキという食物がとても気に入った事は 印象に残ってる。

外は氷点下だがレストランはTシャツ1枚でもいけそうな温度だった。
2人でワインを開け、料理の事をあれこれしゃべったり、今まで行った旅行の 話、チェコでどこに行こうか、どこに行ったか等、色んな話をしたと思う。
ふと自然に呼ばれた(ここんとこアメリカ風)俺は、席を外してトイレに向かった。
店員に場所を聞くと、一度店の外に出た離れにあるらしい。
彼の地ではよくある事だったので、トイレの鍵を借りて店の外に向かう。

今から考えるとトイレで気絶しなくてよかった。

トイレで倒れてたら、そのまま店には戻らずにホテルに逃げ帰ってた事だろう。
入口のドアを開け、「うわ、外は寒いな。」と思ったのが最後の記憶。
次の瞬間は、気が付いたら店の前に倒れてた自分。
飲みすぎて寝てしまった訳では決してない。
誰かに助け起こされた訳ではないので、本当に一瞬だけだったのだろう。
起き上がって一番最初に考えたのは、漏らしていないかどうかだった。
ズボンを見たら無事でした。
その次は、Kさんが戻らない俺を心配してるかも、という事を考えた。
とりあえず、急いで用を済ませて席に戻る。

Kさんからは心配そうな様子は見受けられなかった。
何度もしつこいが、一瞬の間だけだったのだろう。
ほっとしてつかの間、俺は思春期特有の他の事が心配になったりし始めた。
(と言うほど若くはなかったか。)
それは、こいつ時間かかりやがって大便してたんじゃねえのと思われては しないかという思いだった。

よく考えると、そんな事思われたって大した事じゃないのだが、この時 実は結構動揺してたのだろう。
自分が気絶した事に。
でもKさんに、気絶してて遅くなりました。ごめんごめん。
とは言えないし。
今だから言おう。
Kさんへ。あの時は小便でした。

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友よ、安らかに眠れ。