<出ちゃいました。>

「出ちゃいました。」
普段、この言葉はどんな時に使うだろうか。
丁寧に言うと「出ておしまいになられました。」
人からこう言われたり、人にこう言う時、おそらくいい意味ではないだろう。

俺がメキシコへ向かう道のりで聞いたこの言葉も全くいい事ではなかった。
そう。出ちゃったのは飛行機なのである。

関空を出発した俺は、最初の目的地メリダまでにロスとメキシコシティで2回 乗り継ぐ予定だった。
乗り継ぎ時間は、結構十分あったと思う。
JALは関空から順調に飛び続け、ロスの空港に降り立った時、予定到着時刻 より30分も早かった。
メキシコシティ行きが出発するまで1時間半、余裕がありさえする時間だった。

ところが、着陸した飛行機は中途半端な所で止まり、壊れたように動かない。
機内のアナウンスは、前の飛行機がつかえていると。
つかえてる?そっか、前の飛行機がどっか行けばすぐか。
と窓の外を見ると・・・。
つかえてるどころじゃねえ!!
こういうのは一般社会では渋滞と呼びます。

窓の外、ターミナルへ向かう道には10機程の飛行機が並んでた。
前がこれなら、見えないけど後にも何機かいるのは間違いなし。
気持ちだけがあせる。あせる。あせる。
近くにいるお姉さんに聞いてみる。
お姉さんは外の係員に連絡を取ってくれたのだが、何故か顔が青く俺とまともに 目を合わせようとしない。
「連絡を取っておりますのでお待ち下さい。」
俺が当時会社で困った事があって、得意先とかに対応をせっつかれた時に 使っていたセリフ。

このセリフの最重要ポイントは決して「できる。」と言わない事。

それは何故か。

本人ができるかどうか怪しいと思ってる、いや多分無理だろうと思ってるから。

このセリフを聞いて、あせりは更に加速していく。
乗換機出発30分前。ターミナルに到着。
走って入国審査に向かう。
気の遠くなりそうな列が見えてくる。
銃を貸せ、アメリカ人。

「メキシコシティ行きの方はいらっしゃいませんか?」
不意に天使(係員)の声がする。
はーい、いらっしゃいまーす。と、スキップに近い足取りで彼女の元へ。
入国審査、初割込み。
割込みしなきゃなんねーような時間まで遊んでんな、とっとと中に入っとけ。 と思いながら見ていた割込みだが、実際にやってみるとかなり気持ちいいもの だった。
だって、俺のせいじゃないもーん。飛行機が悪いんだもーん。

そして入国審査を済ませ、乗換機の待つターミナルへ、彼女と俺とツアー客。
マラソン大会のように団体で走る。
そして無線機を耳に当てながら走っていた彼女が「あっ。」
不意に彼女が立ち止まって一言。
「飛行機、出ちゃいました。」

がくー。吉本新喜劇のように俺とツアー客の力が抜ける。
だって、関空発やから。

その後の記憶は薄れているが、ツアー客達は旅行会社の手配で消え、俺は 空港のターミナルの椅子に座り込んでた。
とりあえず、気力を振り絞ってJALのカウンターに向かう。

この日メリダまで乗り継げる飛行機はなく、JALの係員に提示された選択肢は2つ。
@ロスで宿泊し、翌日メリダ着は夕方。ロスのホテルは JAL持ち。
Aメキシコシティで宿泊。翌日メリダ昼前着。ただし、 JALはメキシコシティでのホテル代は払えないと言う。
さてどっち?
今になって思えば、JALが泊めてくれるホテルなら結構いいとこだったかも しれない。

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ルームスービス