<流血寺院>

世界3大何とか。

近頃そこら中に溢れてるけど、一体誰が言い出して決まるんだ、そんなもん。
世界3大料理は中華・フレンチ・トルコ。そーか?
世界3大夜景、香港・シドニー・リオデジャネイロ。
誰が選ぶか知らんけど、3つのうちの1つをアピールしたい誰かが決めたとしか 思えない。

という事で、世界3大仏教遺跡の1つ、バガンにもかなり懐疑的だった。
バガンは広大な土地に古い寺院が点在している場所。
当時は舗装されている道も村の中のごく一部だけで、後は砂地を歩くか、
自転車か馬車かでまわるという世界だった。(当然ツアーの人達は大型バス。)

俺はその中から自転車を選んだ。
見知らぬ土地を自転車で走るの最高。
止まりたい所で簡単に止まれるし、細かい交通ルールも気にしなくていい。
ホテルのおじさんが貸してくれたサンダルで軽快に遺跡に向けて漕ぎ出した。

思ったより日本人が多い。
この日ほどそれがありがたくなる事はないが、この時は気づいていなかった。
バガン観光の仕組みは、地図を見ながら道を走って気になる寺があったら、 裸足になってそこに入り見学、というのの繰り返しである。
俺はバガン広域風景が見たかったので、大きめで上って外を見る事ができる 寺院を目指した。

悲劇は2つ目の寺で起きた。
寺の中は電気など当然ないので、太陽の差し込まない場所は真っ暗、だから 懐中電灯は必携なので、一応ちゃんと持っていっていたのだが、面倒臭くて 使っていなかった。

その寺の名前は忘れたが(半年位は恨みから覚えてた。)、 屋上みたいな所へ上れて、そこから景色を眺められるのが外から見てわかって いて、気持ちが逸っていたのは間違いない。
しかもバガンの中で有名な寺ではなかったので、人の気配がなかった。
それも嬉しくて早足で中に入って、早く外が見てー、となっていて、階段の高さが 一定ではない事に気づかなかった・・・。

何段か上って、次の1段に左足を出したところ、そこは空間ではなく、階段のへり だった。
階段にぶつけた左足を反射神経が咄嗟に引いちゃったもんだから、バランスが 狂って、階段を転げ落ちた。
(といっても3、4段。ちょっとしたコメディ映画みたいに教科書通りの転び方。)

最初に気になったのはカメラだった。だが暗くて無事かどうか確認できなかった ので体のあちこちが痛んだが、手探りかつふらふらで階段を上って屋上に出た。
カメラは?・・・無事。あと、懐中電灯も・・・無事。
日本でもしょっちゅう転ぶから、体を気にしたのは所持品の無事を全部確認して からだった。

肘とか擦りむいてたけど、ま平気か、左足もしびれてるけど、無事・・・じゃない。

左足を見ると親指の爪だけが、他の爪と足に対する角度が違っていた。半分 はがれていた。
血も滲んでるというレベルでなく、流れてた。
振り返ったら、俺の歩いた後に点々と血の道がついていた。

あーあ。しびれてたから気がつかなかったけど、結構なケガだったらしい。
ホラー版ヘンデルとグレーテル。
帰り道がわかりやすい。

などと、その時は考える余裕もなく、まだ午前中早い時間でその後の予定も 色々と考えていた。
ホテルまで距離は大した事ないのだが、道が砂地だから結構時間がかかるので 面倒臭いな、でも・・・。
そんな事を真っ先に考えた。俺ってバカか?
海外旅行の時は絆創膏と消毒薬は必ず持ってきてるから、ホテルに帰れば あるんだけど。

とりあえず持っていた水を親指にかけて、血と土を流した。
そして慎重に階段を下りて、その寺を後にした。
後からあの寺に行った人は、どう思うだろう。
メジャーな寺じゃなくてよかった。
寺を出て仕方ないので、ホテルへの道を走り始めた。

しばらく走ってると、遠くから日本人らしき女の子2人が自転車で走って来るのが 見えた。
・・・。
恥ずかしいと思う気持ちより、ホテルに戻るのが嫌だという気持ちが勝って、 「あの、すみません。バンドエイドなんて持ってたりしませんか?」と話しかけた。
2人の内どっちだったかは覚えてないけど、幸運な事にバンドエイドを 持ってて、しかも「大丈夫ですか?1枚じゃ足りないでしょ?」と2枚ももらえた。

「ありがとう。」
と答えて足を見ると、また血が垂れてた。
そして、そこまでの道にも点々と。
ホラー版ヘンデルとグレーテル2。
ま、道の上の血は風と砂が隠してくれるでしょう。

こうして、NさんとNさんに出逢った。
彼女達と、後で登場する予定のS君は、俺が勝手に名づけた「ミャンマー友の会」の 一員である。

ここでは、お礼を言って彼女達とは一旦別れ、次の寺に向かった。
(と思う。この辺記憶あいまい。)

覚えているのは、その後は寺に入って懐中電灯を使うようになった事。
そして、それを後悔した事。

寺の内部を懐中電灯で照らすと、て、寺は、て、寺はコウモリとネズミの住処に なっていて、ゆ、床には明らかに彼らの、か、彼らの排泄物と思われる物体が 散乱していた。

そんなとこでコケて血を流したのである。
俺が変なのは生まれつきでなく、発病したせいなのかもしれない。
でも人にはうつらないと思うし。

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ミンミンと僕