<ミンミンと僕>

ミャンマーで1人の少女と出逢った。

その日、バガンの寺に上って1人でぼーっと夕日を眺めてた。
周りには夕日を見に来た観光客が大勢いて、観光客の間で現地の子達も楽しそうに 笑いながら夕日を見ている。
その中にちょっと違和感をにじませながら、彼女がいた。

そこで知り合った日本人S君と現地の子達と話している中で、突然「あなた達は2人とも笑うと えくぼが出てる。」と身振りで言ったのが彼女だった。
(確かにS君はえくぼだが、俺のはおそらく単なる笑いじわ)
夕日が沈んだ後も、カタコトの英語とちょっと知ってる日本語を交えて彼女と 会話した。

外国人の女の子の歳を当てるのは難しいのだが、推定で17、8歳か。小柄で 華奢で、でも目のしっかりした子だった。
最初の日は、しばらく話をしただけで別れた。
他の子達が、「彼女には近付かない方がいいよ。」と言う。
何故そんな事を言うか、理由は聞かなかったが、そんなつもりはないよと思った。

翌日。
バガンで一番大きい寺に行った俺は、入口の近くで再び彼女と偶然出会った。
昨日の忠告がちらっと頭をよぎったが、彼女が手を振ってるのを無視するのは 嫌だった。
彼女が「何してるの?」と聞くので、「この寺の中を見る。」
と答えたところ、「一緒に行く。」と言う。
妙にドキッとしたけど、年端も行かない女の子に何をする訳でもないので、 また色々話しながら境内を歩く。

彼女の名前はミンミン。正式には「ミンミンガウッ」ってな発音だったと思う。
でも発音ができない俺にとっては、彼女はミンミン。
歩きながら彼女が「うちにご飯を食べに来ないか?」と言う。
正直どうしようかすごく迷ったが、現地の家庭がどんなのか興味があったので、 「今日は約束があるけど、明日でもいい?」
と聞いてみる。その日はNさん達と現地ツアーに参加する予定だった。

彼女の顔が一瞬曇った後、ちょっと寂しげな笑顔になって、「じゃあ、お昼に。」と 約束をした。

その後、他の現地の子達と話している時に彼女の話題になった。
彼女には日本人の会社員でミャンマーに再々来る愛人がいるらしい事、その彼からの 援助で、周りの人達よりもいい暮らしをしてる事。
彼女が周りから少し浮いてる感じがしたのはそういう理由があったからだった。
その場は普通の態度で彼女達の話を聞いていたけど、頭の中では混乱していた。
彼女が俺を食事に誘った理由は何なんだろう?

わからないまま、次の日の約束の時間、彼女との約束の場所へ。
そして、家の中に入る。
大きな皿が3つあって、野菜炒め系の料理が盛られていた。
彼女がそれをよそってくれている間、何気に家の中を見回す。
質素な家にはふさわしくない電化製品、大きなテレビもある。
噂は本当だったのか。ちょっと暗い気持ちになる。

彼女に「食べないの?」と聞くと、「後で」と答える。
とりあえず1人で食べ始める・・・。ん?おいしいぞ。
レストランで食べる料理より格段においしかった。
食べている俺の横で彼女が俺や料理にたかる蠅を払い、俺をうちわであおいで くれる。
「いいよ。」と言っても、「いいから。」と続ける。

彼女は本当に優しい子なんだなと思った。心の引っ掛かりは取れていた。
(愛人のおやじにもこういう風にしてるのかな。とちょっと思ったりもしたけど。)
食べ終わってちょっと話をして、お礼を言って彼女と別れた。

その後、彼女に会う事はなかった。
彼女が別れ際に「手紙ちょうだい。」と言って俺に差し出した紙には「アーナンダ 寺院の近く」とだけ住所が書かれてた。
これで本当に手紙は届くのか?書かなかったからわからない。
それと一緒に蝶の形をした小さなバッジをくれた。
それだけまだ持っている。
彼女が何を考えていたのか、結局全然わからなかったけど、いい思い出なの だと思う。
(と、たまには普通に終わってみる。)

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