<ブッシュマンのお茶>

ナミビア、そこには日本人の見た事のない動植物達が生きている。

宿泊していたエロンゴウィルダネスロッジの敷地内をハイキングしていた時、ガイドの オルランドがその植物を俺にくれた。
それは20cm位の長さで幹の太さは1cmもないだろう、枯れた数本の小枝。
小枝には蕾状のふくらみが、等間隔に付いていた。

オルランドはその植物の名前を「ブッシュマンズティー」と言った。
ブッシュマンは差別用語だったか?でも地元民で先祖代々ナミビア出身のオルランドが言う のだから、そのままでいいと思う。
ティー?茶?
そう、茶だよ。
葉っぱの部分を煮出して飲むんだ。オルランドが説明する。
え?葉っぱなんてないやん。
それが俺とブッシュマンのお茶との長い付き合いの始まりだった。

この植物は、水のない時期はこうして枯れたような形になっているのだが、一度潤うと 葉が開くらしい。
次の宿泊先で1本使って実験してみよう。残りは日本に持って帰って友達に見せてあげなきゃいけないから、 ぐしゃぐしゃにならないように、服でくるんでカバンにしまっておくといい。
とオルランドが言う。
いやいや、植物を日本に持って帰るなんて無理だから。と思ったが、この植物を水に浸けるとどうなるか。 に非常に興味があったし、とりあえず実験するだけなら。と言われた通りに服にくるんでカバンにしまった。

そして次の宿泊地にチェックインした時、オルランドにその枝を部屋で水に漬けて置くように言われ、 コップに汲んだ水にその植物を浸けて、サファリツアーに出かけた。
サファリツアーが終わり、一度部屋に戻った時にはまだ何の変化も起きていなかった。
その後、夕食と夜の動物観察に出かけ、再度部屋に戻ってきたのだが、電気を付けても薄暗い部屋なので、 その植物がよく見えず、諦めて寝た。

そして翌朝、目が覚めて顔を洗いに洗面所に行くと、変化が起きていた。
水に浸けた部分の蕾が開き、緑の葉が見えていた。
!!!
驚いた。生命の神秘。自然はすげーな。と単純に驚いた。
オルランドにそれを報告すると、次に部屋に帰った時にはもっと葉が茂っているよ。と言う。
それを見るのを楽しみにしながら、朝のサファリツアーに出かけた。
そして水に浸けてから約丸1日が経過したその日の午後、再度植物を見ると、根元から天辺まで葉が開き、 枯れた小枝は、青々とした植物に変わっていた。
おー、すげー。テレビでしか観た事のない、水のない土地に生息する生物のたくましさを実感した。

その翌日、ナミビアを経つ日が来た。
空港にやって来た俺達は、まだ時間があったので別れを惜しんで空港の休憩所で昼食を食いながら 話していた。
するとオルランドが、ブッシュマンティーを日本に持って帰って友達に見せてあげてな。と言う。
はっ。忘れていた。あの小枝がまだ数本カバンの中に入ってる。

オルランドに植物は国外に持ち出せないから、捨てないといけない。と言うと、そんな事はない。 大丈夫だ。と根拠もなく自信満々で言う。
無理だって。今植物検疫がどんだけ厳しいかしらんから、そんな事言うねん、お前は。
懇々と説明したが、オルランドは全く信じない。何をそんなにあせっているんだ、君は。と 言いながら、それプラスバナナも持って帰んな。と無謀な事を言い出した。
ぜってー無理。間違いなく空港で捕まるじゃん、俺。

バナナも無理。と言い張る俺にオルランドは、南アフリカに行く時は必ず持って行くよ。と言う。
そして試しに持って入ってみろよ。とガイドの先生のくせに非常に無責任な発言をする。
もう1回無理だと言おうと息を吸ったところ、ふと横目に花束を抱えて搭乗口に向かう人が見えた。
俺が驚いた顔をしていると、ほらね。という顔でオルランドがこっちを見た。

わかったよ、やってやろうじゃん。
怪しい植物とバナナをカバンに入れ、俺は出国ゲートに向かった。
無事通過・・・。

世界は広い。
それはわかったが、バナナは飛行機の中で食ったし、ブッシュマンズティーは南アフリカのホテルで 再度実験した後処分したので、日本には密輸しなかった。
・・・日本には持ち込めないですよね?
ナミビアで実験した際に撮った写真だけ掲載する。ちなみにこの植物の茶は飲んでいない。



水に浸けた直後、午後。


その翌朝。


水に浸けてから約丸1日、午後。

旅の記録目次へ
肉焼けた