<誰が為に鐘は鳴る?>

上海でおかしな形のタワー「東方明珠塔」に上ろうと思い、チケットを買って中に入った。
すると入口の手前に金属探知ゲートがあった。
俺がその鐘をキンコンキンコン鳴らしまくった話である。

その金属探知機の前には、日や時間帯によっては長蛇の列ができるのだろう。
しかし、俺が行った時は中途半端な時間なのか、人が全然いなかった。
係員が手招きをしたので、早足で歩いて準備をしなかったのが敗因だったのかもしれん。
プラスそんな所に金属探知機があるという予想をしていなかった事もあるだろう。

持っていたカバンを係員に渡したのだが、中に貴重品が入っていたので非常に気になっていた。
だから身に着けている金属品には無頓着だった。

キンコーン。
俺がゲートを通り抜けると鐘が鳴った。
あ、ポケットの中のものを忘れていた。と思い、ジーパンのポケットに入っている小銭や家の鍵 などの金属品を全て出すと、警備員が再度ゲートを通れと言うので、再度ゲートを通り抜けた。

キンコーン。
え?何だ?警備員が不審そうな顔で俺を見る。
あ、ジーパンのポケットだけでダウンジャケットの中の金属品を忘れていた。と ジャケットのポケットの中から日本円の小銭と携帯電話を取り出して、再度通り抜けた。

キンコーン。
えーっ!もう金属品ないってー。
警備員がより不審そうな顔をして、ジャンパーを脱げ。という身ぶりをした。
ここで脱いで別に通せばよかったのだが、俺はすっかり混乱していて、ポケットというポケットを 叩きまくった。
あとポケットに入っているのは、・・・タバコと・・・。あ。
わかった。
ついクセでタバコの箱の中にライターを入れていた。
これだ!間違いない!
ライターを笑顔で警備員に見せ、再度ゲートを通り抜けた。

キンコーン。
えええーーーっ!
警備員は不審そうな顔を通り越して笑っていた。
しかも愛想笑いや失笑ではなく、爆笑で。
その場に警備員は3人いたのだが、3人とも笑っていた。
その笑いが俺のあせりを加速させる。
あせってポケットというポケットを確認するのだが、もうない。金属品がない。
警備員の方を向いて首を傾げてみせた。

すると1人の警備員が自分の所へ来るように言う。
行くと警備員が俺の服のポケットの場所を順番に叩き始めた。
そして、俺のダウンジャケットの胸ポケットを叩いたところで手が止まった。
「ここには何が入っているんだ?」
え?何も入ってないって。と一応手を入れてみると・・・。

あ。あーーーーーーっ!!!
胸ポケットから俺が取り出したのは「ipod」。
今思うと、何故俺が身に付けていた金属品の中で一番大きくて一番かさばるこいつの 存在を忘れていたのかさっぱりわからん。
だが、その時はipodの存在は俺の頭の中からすっかり抜け落ちていたのだった。
ipodを取り出して再度ゲートを通る。

・・・無音。
5回目にしてやっと通れた。
あー、よかったー。
笑顔の警備員に笑顔で手を振り、展望台に上るエレベータに向かって歩き出した。
そしてエレベータの前に到着して、デジカメを取り出そうとした。

・・・ない。

あ。

俺はあんだけ貴重品が入っている、パスポートと帰りの航空券が入っているカバンの存在を 頭の中から消し去っていて、ゲートの所に忘れてきた・・・。

慌ててゲートの所まで走って行き、ぽつんと置き去りにされていたカバンを手にした 俺を見て警備員全員が大爆笑だった事は言うまでもない。
そしてカバンの中から何も失くなっていなかった事も言うまでもない。

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世界のお嬢さんから