『関教授とは昔からのなじみですが、せっかちというか、杜撰というか…。』 舌足らずのリポーターと、脂ぎった中年親父。背後の壁は見知ったものだった。 『よくよく調査もしないで突っ走るといいますか。』 お前は調査しかしないじゃないか。埃は嫌いか? 現地は嫌か? お前に俺の何が分かる? がたがたと戸が鳴った。隙間から雪下が窮屈そうに顔を見せた。 「先輩、台車借りてきました〜。」 「おー。そこ置いてけ。」 なおもがたりと音をさせ、雪下が入ってくる。台車を入れてTVに気づく。豊かな表情が一瞬で固まる。こいつの反応は面白い。 「先輩、これっ!」 でかい声して指差すな。 「このダンボールとこれとそれだ。」 「先輩っ」 雪下に指示して運ばせる。我ながら私物は少ない。 「悔しくないんですか!?」 俺を上から見下ろすな。その袋も積んでくれ。 「TV。坂田教授ですよ!?」 雪下に袋を押し付けて、俺はTVを消してやった。だみ声が消えて清々する。苦い茶は捨てて湯飲みを洗うと、荷物の上に詰めてやる。 「あんなもん、くれてやれ。」 台車を押して部屋を出た。ゴン−−派手な音は雪下が桟にぶつかった音だろう。 研究室には、論文、資料、発掘品が全部残っていた。手元にあるのはDVD−ROMと愛用の湯飲みだけ。それ以外は全部まとめて後任にくれてやるつもりだった。 「世紀の大発見になるはずだったじゃないですか! 発表すれば、先輩はまだ…!」 窓が震える。学生達が注目する。おいこら、だまれ。 「いらん。」 台車を押して俺は進んだ。いつもは長い廊下だが、今日はやたらと短く感じた。 「先輩っ。」 「あそこには何もねぇよ。坂田が掘らせたって何も出て来やしねぇ。」 X線。電磁波異常、磁場異常。すべて終わったことを示していた。データはすべてここにあった。見えてるものは抜け殻ばかりだ。 「あれは事故で解決したじゃないですか。」 「関係ないだろ。そんな決着。それにな。」 管理室に鍵を返す。バイトの院生が扉を開けた。俺は台車を押し出した。 「見えねぇ光に手を伸ばして、聞こえねぇ声を拾い上げる。そんなこと、どこでだって出来るじゃねぇか。」 だから俺は惜しくねぇ。教授なんて職業は。かえって清々したくらいだ。 「まずは金を溜めねぇとな!」 俺は昨日までの職場を後にした。空はどこまでも高い。 |