空調の変化に、さらりと銀色の髪が舞った。シャンパンが運ばれてくる。まだ、未成年なのにと私は思う。 「いけるだろ?」 「大丈夫よ。」 軽く掲げて乾杯し、ユダはグラスを口元へ運んだ。一口流し込んで、こちらへまっすぐな視線を向けた。朗らかに笑う。 「よく化けたね、アダム。」 −なんでわかるんだ!? 驚く『声』が聞こえてきた。アダムを通して楽しそうなユダが見えた。 私は自室でため息をついた。 「驚いてる?」 にやりと笑ってユダが覗き込んできた。アダムは一度瞬きして、ようやく声を出すことを思い出したようだった。 「なんでわかるんだよ。」 「そりゃぁ、俺はイブを愛してるし、君のことも大好きだからね。」 頬が熱い。あまりに平然と出てくる言葉に、未だに慣れることができない。けれど、それは私だけではなかった。 アダムはあわててユダから眼をそらすと、眼の前のグラスを取った。淡い琥珀の液体を一息で飲み干す。 そこで、『声』が途絶えた。 予感めいた胸騒ぎで私は部屋を飛び出した。もどかしいくらいの動作でエレベータが停止すると、ラウンジは目の前だった。ガラス張りのドアを力任せに引き開ける。ドアベルが抗議のような音をたてた。 二人は探すまでもなく見つかった。入り口から奥へと続くカウンタの途中に、ユダの大きな背中があった。その向こう側で、銀髪がラウンジのわずかな照明をふわりとはじいた。 かっと、頬が熱くなった。 「アダムっ! 私の顔で、何てことするの!」 −誤解だっ。 いいわけめいた『声』が聞こえて、焦りきった『私』の目が、私を捕らえた 「何が誤解なの!?」 私が詰め寄ると、『私』は体を反らして逃げた。ごん。景気のいい音が辺りに響く。 「…痛ぇっ。」 頭を抱えるその様子は、私の知っているアダムだった。 くくく。抑えきれないような笑い声が聞こえた。私は声の主を見た。心底楽しそうなユダの笑顔が恨めしい。 「イブ。美人が台無しだよ。…場所を変えよう。」 「ユダは! …気づいてて、そういうことするの?」 じっと私はユダを見た。ユダはそっと私を抱き寄せた。 「もっと静かなところへ。」 またまた私は真っ赤になった。店中の視線にようやく気づいた。 ユダもアダムも、何も言わなかった。言葉にも、『声』にすら、ならなかった。 だから私は気付かなかった。ささやかな変化の積み重ねが、想像以上に膨らんでいることに。 |