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光の道行
07.テリトリーの死守

「関教授、いや、もう教授じゃありませんでしたな。今日はのんびり旅行でも?」
「坂田教授じゃないですか。TV番組のロケですか? お忙しそうですなぁ。研究している暇もなさそうで。」

 ばったりと顔をあわせた俺達の上を、搭乗開始を告げるアナウンスが流れた。


 うざい。一体どこまで偶然なんだ?
 用意させたジープは未舗装の道を走る。やがて轍すらなくなるだろう。危なげはないがスピードは出ない。視界を流れるのは一面の荒野と、併走するジープ。あふれんばかりの機材と肥えた親父が乗っていた。

「奇遇ですなぁっ。関先生もこちらですか!」
「観光ですよ! なにせ、時間はたっぷりあるもんでね!」

 俺はにっこり吼え返す。

「TVクルーは居ないようですなっ。」
「研究ですよっ。予算がたっぷり下りたのでねぇっ!」

 坂田は得意げに笑んだ。俺はここぞとばかりに満面の笑みで返してやった。

「それはそれは! 次の学会誌を楽しみにしていますよっ!」

 坂田の笑みが凍りつき、ジープはゆっくりと後方へ流れていった。
 ここ数年、奴の論文を見ていない。


 どさりと木箱を置いて、ジープは去っていった。道なんぞなくとも、結構な速さで視界から消えていった。それでもまだエンジンの音が聞こえた。坂田の視線が木箱と俺を往復していた。

「あぶない。帰る。危険。」

 片言でガイドがわめいた。俺のガイドはジープと一緒だ。俺は箱を点検してそれに応えた。

「このあたりにはライオンもヒョウもいないと聞いたが?」

 ライオンは居ないが、ゴリラは居る。危険の意味はそうではないが。

「No! 首狩り族。territory.」
「何!?」

 ガイドはきょろきょろとあたりを見た。遠くから、人工の音が聞こえてくる。
 坂田はシートベルトを慌てて締めた。俺は大笑いしたいのを必死で堪えた。

「おや教授先生。大学でのお仕事でも思い出しましたかな?」
「貴様…!」
「何でしょう?」

 おれはしれっと返した。

「You're crazy!」

 音に混じって人影が見え始めると、ジープは草地にタイヤ跡を刻んで、あっという間に見えなくなった。
 俺がひらひら手を振っていると、頭に硬く冷たいものがあてられた。

「急かすなって。」

 俺は木箱から瓶を一本つかみ出す。栓をあけて箱に置いた。ゆっくりと振り返ると小柄な男がそこに居た。槍を持ったまま瓶を煽る。
 酒の匂いが漂い出す。男はにやりと笑った。俺もにやりと返した。





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