じりじり。またまだ容赦のない日差しに、俺は木陰に逃げこんでいた。さっぱりした季節だと天気予報では言っていたが、俺の周りは蒸し蒸していた。 あちぃ。そして、重い。手は鉛をつけられたように鈍く、足にはとんでもない枷がはまっていた。逃げることを考えなかったわけじゃない。しかし、それは敗北を意味した。 「父ちゃん、戻ってこねーなぁ。」 俺は呟いた。狭い視界からは、通り過ぎ、立ち止まり、カメラを構える連中が見えた。心なしか浮かれるやつらに、俺は胸を張ってやる。 俺の役目は精一杯目立つこと。…足の枷はそのためについたものではあったが。 「母ちゃんも、どこ行ったんだろうなぁ?」 一段落して、持ち看板を木に立てかけた。 足元がもぞりと動いた。きゃぁ。側で歓声があがった。揃いのスカートは高校生か? つられて、留まる足が増えていく。 「かわいー。」 「すげー宣伝!」 「あれってセット?」 「先史? やるなぁ。」 注目があつまる。おそらく足元の、これのせい。がさごそと動く気配が…とまる。俺は足元を覗き込もうとした。しかし、大きなあごは足元を見せなかった。嫌な予感だけをひしひしと感じる。 「ふ…」 しゃくりあげる、その音がダイレクトに聞こえた。 「泣くな!」 立ち止まる足はさらに多くなっていた。視線ばかり感じたが、迷わなかった。腕の着ぐるみを引っこ抜き、『頭』を取った。 「わぁぁああぁ…!」 「げ、関じゃん!」 「何あのオジサン。」 「ドンかよ…!」 間に合わなかった。盛大な泣き声が校舎に響く。人ごみは見えた以上の規模で、それはさらに増えそうだった。ざわめく声に混じって不届きな言葉も聞こえたが、俺は無視した。 「光希、泣くなっ。俺が母ちゃんにしかられる!」 足元の巨大なポケットの中、はまり込んだ光希を抱き上げる。カンガルーのカバーオールを着た光希は、手足を力いっぱいばたつかせて居心地の悪さを抗議していた。俺はどうにか誤魔化そうと、光希を高く持ち上げる。 「ほら光希、たかいたかい!」 ぴたりと泣き止む。幸いなことに光希の興味を引いたらしい。光希は俺の顔をまじまじと眺めた。両手のひらが、握っては開くを繰り返す。高く掲げたその向こう、木漏れ日が優しく光希を包んだ。にこりと笑ったのがわかった。 「やった! 学祭中の昼飯おごりっ!」 しまった! 光希を抱えなおし、目を向けた先、証拠を写真に収めたゼミ生が走り去って行った。 |