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光の道行
10.どう考えても片利共生

 今日から夏休み。光希はずっとお休み。
 おじちゃんはお仕事。お休みの間、ずーっとお仕事。お休みだからお仕事なんだよって、なんか変。
 ママは、お休みの時にするお仕事なのよって言う。パパは働き者だからって言う。大変なのよって二人で言う。
 だから光希、お手伝いすることにした。

 ママの鍵でおじちゃん家に入る。おじちゃんはいない。窓を開けてさっぱりする。さぁ、お掃除だ!
 おじちゃんのお部屋はごちゃごちゃしてる。パパのお部屋とは全然違う。お片付け。お片付け。
 あ、五時になっちゃう。ママに怒られちゃうから帰らなきゃ。

 今日は風呂をお掃除するの。お家の石鹸を持ってきた。おうちでも光希お掃除してるもん。一人でもお掃除できる。きゅきゅきゅ。つる。どん。いたた。…光希泣かないもん。
 石鹸流して、さぁおしまい。
 あ、見たいテレビがあったんだ!

 お仕事終わって帰ってくるおじちゃんに、ご飯を用意しておこう。お味噌汁なら作れるもん。ご飯だって炊けるもん。お釜にご飯を入れて、にんじん切って、大根切って、お豆腐切って。お味噌入れて、お出汁入れて。
 おじちゃん食べてくれるかな。

 お天気がいいから、お布団を干そう。ベッドから引っ張りおろして、ベランダにのっける。重いけど、がんばる。おじちゃんが気持ちよく寝れますように。
 あ、雨だ。お布団入れなきゃ。濡れちゃう濡れちゃう。
 ほっかほかのお布団。お日様のにおいとおじちゃんのにおい。気持ち良い。

 *

 今日は試験だけだから、俺の仕事も午前で終わり。突然の雨を避けながら俺は走って帰ってきた。鍵が開いていることに気づいたのは、玄関に立った時だった。小さな侵入者は、まだ中にいるようだった。
 玄関を開ける。たたきには脱ぎ捨てられた小さな靴。台所には洗剤とスポンジ。口の端に苦笑が浮かぶ。家のことをやってくれているようなのだが。置きっぱなしの道具類。水浸しのまま保温にされた生米。すがたった豆腐。毎度毎度散らかされているのかどうか、良くわからない。
 侵入者は寝室にいた。ベランダから引っ張り込んだのだろう布団の上で、すやすや寝息を立てていた。俺はそっと台所へ戻る。冷蔵庫の中には卵、牛乳、砂糖、塩。ご褒美にプリンでも作ってやるか。
 ボールに卵をぶち込むと、ふわり。不意に涼しい風が吹きぬけた。
 俺は振り返って目を細めた。容赦ないの日差しはあまねく世界を包み込んで…優しかった。



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