はじめに

 本ページでは2021年6月公開の劇場版「あいつむぐほし」のネタバレを存分に含みます。
他、TVシリーズ1期及び2期(第九惑星戦役)のネタバレも沢山含まれると思われます。

…なので、そういうのが嫌いな方は先へ進まずにブラウザバックをお願いします。



さて、本作は謎の超生命体「ガウナ」(奇居子と書くそうですが、
近年では全部カタカナ表記になっていたので以後もそう書きます)に
よって地球が滅ぼされた以降の世界を描くSF?メカアクション作品で、
ロボット(衛人=もりと)や船(シドニア)のデザインが地味目ではあるものの、
アニメ作品としては非常によく出来ており、劇場まで足を運んでいた次第で。

で、太陽系は滅んだものの、脱出船となったシドニアは新天地を目指し、
播種船として宇宙を彷徨い続け、約1000年が経過、小さいとはいえ、束の間の平穏を過ごしていました。

…が、100年ぶりとなるガウナとの遭遇戦が始まり、
シドニアは幾つもの危機を乗り越え、何とかこれを撃退(TVシリーズ1期及び劇場版総集編)、
更にガウナとの雌雄を決する為、シドニアはレム恒星系に進路を取り、
この恒星系の第九惑星に陣取るガウナを殲滅し、反攻拠点として制圧する事に成功しました(TVシリーズ2期)。

そしてその制圧作戦の成功から10年。
装備や人員の拡充に努めてきたシドニアは、第七惑星(惑星セブン)に今尚陣取る大シュガフ船
(ガウナの巣とも言うべき巨大な集合体)を殲滅すべく、最後の戦いに挑みます…。

(詳しくは公式サイト等をご覧ください)

…では、「ネタバレ上等」という方のみ、この先へお進みください。 <シツコイ


尚、作中登場人物の名前や苗字の読み方が非常に特殊なので、ちょっと書いておきます。
岐神=くなと、海薀=もずく、科戸瀬=しなとせ、仄=ほのか、纈=ゆはた、といったところで、
主人公の名前は「長道(ながて)」ですね、キャラにより呼び名は「谷風さん」だったりしますがっ。

作中に登場するロボット(機動兵器)は「衛人(もりと)」と呼ばれていますが、
主人公機のみ愛称があり、「継衛(つぐもり)」、今回の「あいつむぐほし」では、
専用機として開発された「劫衛(ゆきもり)」が出てきますね…。

他の衛人は一八式、一九式(継衛は一七式、劫衛は弐零式だそうです)と呼ばれていますが、
ミリヲタ的にお馴染みの採用年式ではなく、開発・生産元である東亜重工の開発ナンバリングですね…たぶん。
(衛人Mk.18、とか第19号設計、みたいな意味かと。
好例は某公国が開発した機動兵器群、六式は汎用、七式は格闘戦タイプ、九式は重装甲・重武装型、
色々有ったが一四式に至ってヘイグス粒子砲が標準装備…って何の話だ…。)

メカ用語では「掌位(しょうい)」ですが、主役メカである衛人が移動時に手を交差組みするだけでなく、
他のサポートメカも連結合体(!)したりするので、この辺はアニメ版ならでは、ですね…(をぉぉ。
(外見は全く同じですが、旗艦兼空母っぽい役割の水城、名前は出てこないものの、
大型火器優先の艦艇やら、衛人優先の揚陸艦っぽいのも有る、みたいな感じで、
別働隊に見えて、結構大規模な艦隊戦力にも見えます)


■劇場版「あいつむぐほし」に関するアレコレ

 さて、公式サイト経由で見た感想ツイートでは、結構海苔夫のアレが高評価、みたいですね…(苦笑。
(落合の乗っ取りから解放された海苔夫が改心し、予備機になっていた継衛改二を駆り、
シドニア内に侵入した敵、知性体ガウナの迎撃に向かうシーン、まあこの折に1期OPでもあった
「シドニアの騎士」がかかるので、割と胸アツなシーン…と評価されています)

 …が。

 当方はガ○ダムとイケメ○とT34は敵という感覚のヒトなので、

 『イケメンかつ御曹司(=お金持ち)な上に健気で可愛い妹までいる(!)』のに、
 更に高望みをしている海苔夫は許容出来ないというか、
 TVシリーズでは見事なくらいに「マイナスの英雄」的扱いで色々とやらかしているキャラなので、
 その辺のマイナスを乗り越えていく言葉や行動の過程をもっと印象的に描いてくれないと、
 (10年分の後悔とか懺悔を吐き出しつつ、グシャグシャに泣き出すくらいの演出が無いと多分ダメ)
 当方の様な(持たざる)オッサンは納得出来ないんですよね…了見狭過ぎ、かもですがっ(苦笑。

 っていうか当方個人としては海薀のその後とか、TVシリーズを通してあれだけラブコメ?的展開を
 繰り広げてきた纈とイザナが、我々の預かり知らぬ10年の間にどう変化したのか、
 この辺をきちっと描いてくれた方が…と思ったりもする訳で(ぇ。

 (ゲスい可能性ではありますが、つむぎ・イザナ・纈の谷風ハーレムなんですけど、
 本人たちが望んで尚且つ小林艦長が許可すれば実現するんですよね…。 <をい
 シドニア的には其々優秀な人材ですし、メリットが有る
 (才能ある人間の子孫が確実に確保できるので!)と艦長が判断すれば許可されるかと。
 (また2期ラストの様に、英雄への褒章として特例を認める事により、
 衛人隊の士気を高めたり、目標や憧れを生み出す効果も期待できる、と判断されれば…
 この辺は小林艦長の側に居る事が多い纈が、小林艦長に進言・意見具申すれば一気に現実味を帯びてきます!)
 や、現代日本の倫理観が適用される世界ではないですし、
 小林艦長がシドニアという世界の最高責任者で決定権を持ち、且つ谷風君の保護者なので。
 …一番の問題は谷風君が超の付く不器用人間な事で、彼が了解しない可能性が高い事かなと。)

 そういえば纈は非番時に衛人のプラモを熱心に組んでましたし、
 当方とも気が合いそうな事も有って推していたんですが…やっぱ無理か…(ぇ。

 注:悔しいので妄想ネタが暴発作成しました。…ヒマな人はどうぞ(をい

 他、ついでに2期のOP「騎士行進曲」も何処かに入れられなかったか、というのを愚考していたのですが、
 冒頭の重力祭が決戦前の壮行会も兼ねている、という事にして、
 操縦士たちが酔った勢いも兼ねる?形でサビ部分を大合唱、って出来ていたら…とか。
 状況的には出撃前後での大合唱、でも結構滾る、と思っていたり。
 (状況的に密かつ大声での収録になるので難しかったかも?)


■更にミリヲタ的視点からアレコレ

 この辺はTVシリーズ放映時に日報コラムで書いた気がするのですが、
 シドニアにおける衛人隊って、軍隊で有って軍隊ではないというか、
 1期冒頭のパターンの様に、ガウナとの遭遇(=実戦)を想定していない状況ならともかく、
 以後の討伐任務で新人チームだけで実戦投入しているってどうなの、ってのに疑問を持っていたり。

 シドニアって船はフロンティア船団(!)とかとは比べ物にならない程小さな世界ですし、
 波動エンジンはおろか次元断層もプラネットキャッチャー(ヲイ、…も備えていない船ですし、
 装備生産及び維持の為の資源は勿論、人的資源だって貴重な訳です
 (仄姉妹の様な例こそありますが、人材の育成には手間と時間がかかるので)。
 
まあ、それが循環(技術や知識の継承も含む=作中では科学者の落合が生かされていた!)
 せず失われるのは、(長期)戦略的に見て不味い(→ジリ貧)のではと。
 っていうか、比較に挙げた設定ってやっぱりチート級ですよね…(苦笑。

 軍事や政治においては「仮定の質問には答えられない」というのは致命的(=存在意義に関わるレベル)で、
 想定外の事態(作中ではガウナとの遭遇戦闘等)に陥った時、
 パニックに陥らずに冷静かつ合理的に対処できる様、
 考えられ得るあらゆる事態を想定し、(非常事態への)対処法を考えておくのがセオリーです…。
 (広義には避難訓練、軍隊においては演習等を定期的に実施しているのはその為です、
 政治的な話に付いては、今現在我々が体感している現状を遡っていくと…ゲフンゲフン。
 言うまでも無く対応が後手後手に回るとどうなるか、ってのを我々は実際に体験していますがっ
 まあ、今時は色んな場所で悪質なクレーマーが出没するご時世ですし、
 そういった事柄への対処もまた、危機管理の一つ、とも言えるかと)

 (「有事」なんて本来起きてはならない事ですが、可能性が有る内は想定しておくべきですし、
 万一の場合に被害を最小に抑える上でも、想定というのは必須かと。
 シドニアの場合は、寄って立つ世界そのものが破壊されてしまう危険性だってあるので、
 最悪の事態を避ける為にも、色々と備えておくべきかと。…耳の痛い所ですがっ。
 現代においても新人社会人が研修後の配属でイキナリ現場に一人とか、
 そういうのは本来あってはならない事ですので…そこは人的資源というか人を育てる気が有るのか、
 …って話になる訳で)

 一応の擁護をしておくなら、シドニアという宇宙船は移民目的に建造されたというより、
 小規模な系外調査船がガウナの襲撃により急遽脱出船として機能した、と見るべきで、
 ちゃんとした準備期間が有ったなら、先のフロンティア船団と同じく、農業プラントの類とかを組み込んだ
 大規模な移民船団を組んでいた筈なので…という言い訳が一つ立ちます。
 (TVシリーズ1期で若干の説明は有りますが、500隻の脱出船…って多い様な…)

 そしてガウナの襲撃、という(たぶん)想定外の事態を受けての太陽圏脱出、となっている為、
 実質最小限度の規模しか持っていないのではと。
 (準備不足もあって民間人気質の人員しか居らず、軍事・政治の専門人員は元々居なかった?)

 後はそれなりに平和な時間が1000年続いて上から下まで平和ボケの精神構造に至ってしまった、
 …というのも考え得るのですが…。
 もう一つの可能性としては艦長を始めトップの人達が
 『そんな程度の事態に最初から対処できないような人材は不要だ』という方針なのか?
 疑問は尽きない所ですね…(苦笑。

 まあ、ドラマ的には無しですが、海苔夫チームではなくサマリや弦打らとチームを組んでの
 実戦参加(1期のアレ)が軍隊としては有るべき編成で、ついでに海苔夫チームの失態は
 本来チームリーダーである海苔夫が全面的に責任を取るべき
 (→ヒラ降格、減給、懲罰房行きとか、指揮権限の停止・剥奪等)なので、
 そういう部分が「衛人隊が軍隊になっていない」という問題点な訳ですな…。

 っていうかその観点から行くと、劇場でのアレも軍隊としてはペケ…ですけれどっ(苦笑。

■総括、っぽいアレコレ

 本作はTVシリーズ2期(第九惑星戦役)から10年後のお話、という事で、
 戦力・人員・装備其々かなりの増強がなされ、大規模な反攻作戦が展開されますが、
 デザインが地味でも見せ方が上手なので、思わず(をぉ…)と感じずにはいられないですね…。
 (音響関連はシネマシティでもお馴染みになった岩浪氏・小山氏・山口氏の鉄板トリオ!)
 (注:2013年頃のガルパン劇場版以降、爆音ファンになってしまったヒト)

 オリジナル要素に関しては原作漫画が未読なので評価できないのですが、
 作者さんの監修が入っていますし、問題なく視聴できるのではと。

 ただまあ、例によって超個人的な事を指摘しておくと、
 クライマックス以降の演出というか、ドラマ的な部分でもう少し畳みかけて欲しかったというか、
 行動で示しているついでに、言葉でも示してくれればなぁ…と。
 (某赤い彗星の人宜しく、無駄にかっこいいセリフでも可) <ロマンスDTこじらせてますし

 や、まあ、エンタメに何を期待しているのか、…って個人の主観に左右されますが、
 我々一般人では早々有り得ない状況が作り出される以上、期待するものや事柄は何かしらある訳で。
 その中でも生死を分ける様な極限の状況下で、人は何のために戦い、何のために命を賭けるのか、
 こういう部分の非日常ならでは、のドラマが見たいわけで。

 或は持たざる者視点から、「こんな事言われてみたい」とか、「言ってみたい」とか、
 計算ずくではない純粋な気持ちから出てきた、飾らない本音の告白とか、
 (普通に考えたら)『とてつもなく恥ずかしいセリフ』の応酬とか、
 …煽り文句に「身長差15メートルの恋」とありましたし、
 この二人の恋の結末を語るに当たって、もっとドラマ性のあるやり取りが欲しいんですよね…。
 結局の所、気持ちを伝える上で、言葉にするってのは重要な要素なので、
 「伝えておきたい事(気持ち・感情)が有るなら、まずは言葉にする」って話なのですがっ。

 もういっちょ好みを指摘しておくと、エンディングに回想またはその後のスナップ的な絵をいくつか入れて、
 最後のエピローグ的なシーンに繋げた方が、時間経過的なモノも感じられて、
 (俺的に)より素晴らしい作品に昇華したのでは、と愚考したり。

 …という事で、会話シーンに付いてはこの後、妄想ネタが始まる訳ですな…(苦笑。
 当然の事ながら、ここまでの指摘内容を反映させたような会話シーンも有ったり無かったり(ぇ。



***注意:ここからは先の考察を踏まえた妄想プレビュー(SS?)です、
     TVシリーズ及び劇場版での出来事を基準に据えていますが、
     執筆者の願望が色々と設定や解釈を捻じ曲げている可能性があります。
     …なので、原作漫画やアニメの原理主義的お考えの方や、
     同人的要素のある妄想話に嫌悪感のある方は、ご遠慮くださいませ。
     尚、海苔夫ファンの方にはお勧め出来ないシーンがございます、予めご了承下さい***




「あいつむぐほし」妄想プレビュー・そのいち(原作シーンの脳内補完用ep集っぽいもの)

(「かなた」との決着前のやり取りのシーンにて)

『星白だって、生き返らせる事が出来るかも…』
「…っ!、…俺の前でその名前を出すなぁーーッ!」
 (…と逆切れ、引き金を引くのもアリ)

「…過去って大事だけど、悲しみや後悔は乗り越えるものなんだ…
 それに、死んだ人を取り戻そうなんて、おこがましいにも程が有る、って思わないかい…
 俺は、(過去より)未来をもっと大事にしたいんだ…」 <決着後にポソリと

或は、
「俺はシドニアの騎士だ、俺個人の願望で皆を危険にさらすわけにはいかない。
 …それ以前に、俺はつむぎやイザナ、シドニアの皆をこれ以上死なせたくないし、
 危険な目に遭わせる事も、もう嫌なんだ…だから、ここで終わりにする!」

…という感じで、10年経って長道や纈(ゆはた)も上官・指揮官としての立場が出来たので、
立場的な発言を全面に出すのも良い(作中表現)のですが、
こういう時(戦争中ですが実質ラストバトル、っていうか長道にしか出来ないタイマン勝負の最中)
くらいは長道個人の戦う理由を明確にしても良いのでは、と。
(シドニアの総意・目的と矛盾していないので私的に言う位は多分問題無し、
或は割と良くある?人間賛歌的な事を言わせるのも良いかと。好例は某炎柱さんの名ゼリフ)

(その後、満身創痍の「つむぎ」とのやり取りにて)

「…つむぎ!そんな体でどうして…ッ!」
「好きな人の為に、頑張るのはダメな事ですか…?」
「…どうして、つむぎがいなくなったら、俺は…」
「…そんな事言って貰えるなんて、嬉しいです…。
 …私、死ぬのは怖くないんです…けど、谷風さんが死ぬのはイヤなんです!
 貴方は私の希望、それにシドニアの皆の希望なんです…
 …だから、生きて、…生きて、みんなの希望をつないでください!」
「…そんな…俺に、そんな価値なんて…」
「…私、幸せです…好きな人に抱かれて、好きな人の為に死ねる…なんて…」
「つむぎーーーーーーっ!!」

(…クソッ、…何がシドニアの騎士だ、
 死なせたくない、って言ったばかりなのに、…また、俺は…っ!)
 …と、モノローグ的に泣きながら吐き捨てて、暗転しても良いかと。

***

…行動や結果は本編と変わりませんが、
こんな感じの恋愛ドラマが有るか無いかでグッと印象が変わりますし、
何より二人の絆が『間違いなくホンモノ』であると印象付けられるんですよね…。
(状況的に本音で語り合っても許される場面ですし、
青春恋愛ドラマ並みのウェット感が個人的に欲しいので。
っていうか文句はむしろ俺が言わせない、的な気分)

「リゼロ」の長月氏が「善意のすれ違い」という事を仰っていますが、
本作においては『好意のすれ違い』というか、
この二人の恋の結末を一旦悲劇で終わらせる上で、こういう畳みかけが欲しい訳で。

(蛇足的なドラマですが、再会時のやり取り)

「私、ただの人間になっちゃいました…
 私にはもう、谷風さんを守る力も、能力も有りません…
 …それでも、私を必要としてくれますか…」
「人を好きになるのに、いちいち理屈や理由は必要ないよ…。
 …俺は、つむぎの力を好きになったんじゃないよ…
 君が、つむぎでいてくれるなら、それだけでいいんだ。
 …それに、俺も、つむぎも、もう戦う必要はないんだし…」

でもって一部始終を眺めていたイザナ(纈も居れば尚良し)が貰い泣きするとか、
(やっぱり、長道の一番はつむぎちゃんなんだね…)とか、
(あ~あ、ずっと前から分かっていた筈なんだけど、改めて見せつけられると、
 …もう、谷風さんの事は、…諦めるしかないのかな…)とか、
其々の(淡い)恋心の結末を受け入れる展開が有れば良いかなと。
(纈が居た場合、察した彼女がイザナを失恋ヤケ酒愚痴り会飲みに誘う、というのも結構アリ)

(ラストにイザナ・纈の2人はシドニアと共に再び旅に出ますが、彼女たちもまた、
失恋の痛手を乗り越えて?更なる未来に向かって歩み出す感じなので…)

***

更に蛇足的なお話ですが、
長道との対峙で割と明確になる「かなた」こと落合ですけど、
悪役になりきれなかった小悪党みたいな印象が有りますね…まあそこが良いのですがっ(ぇ。
根っこの部分でまだまだ人間であったというか、
何百年も生きて来ているという割に、目先の事や過去に囚われ過ぎ、ってのが人間臭さとも言える訳で。

まあ、自分の可能性を論じる(アピールする)のなら、シドニアの面々と対峙する前に、
実際にガウナと対話して従えて見せたりした(=ガウナとの共存の可能性を実証)後に
対峙していれば、もしかしたら(シドニア側の迷いや動揺を引き起こして)
違った結末を引き寄せていたかも…そうならなくて良かった、…とは思いますがっ。


「あいつむぐほし」妄想プレビュー・そのに(PART 1/緑川纈、立志編) <をい

(注:ここからは更に妄想が暴発します、時間軸としては戦いが終わった後、
   報告も兼ねてシドニアに部隊が帰艦する所からです)


「緑川纈、ただ今帰艦しました」
「ご苦労。…皆、本当に良くやってくれた、感謝する」

「…艦長。後で今後の事も含めて、ご相談いただきたいのですが」
「宜しい。では本日の当直任務終了後、私の私室への入室を許可する」

***

「それで、相談というのは?」

「ええ、まずは本作戦の論功行賞に付いてなのですが、
 一番の功労者はやはり谷風操縦士ですし、シドニアとしてもまず彼に報いるべき、と考えておりまして…
 ですが、勲章は既に授与されておりますし、惑星セブンへの入植者特権はどうかと」

「ふむ、悪くない、…が…
 私個人としても彼に報いたいとは思うが、シドニアは彼を失う事になるな…
 …実に惜しい、惜しいな…
 何れまたシドニアは別の恒星系へ向かう事になるだろうし、
 その折にまた彼の力が必要になる時が来るかもしれん…勝手な都合だが…
 …(ふむ)…
 …いや、待て。確か先の戦いで、白羽衣つむぎは戦死したと聞いているが、
 その後釜に緑川、お前が入る事は可能なのか?」

「はい?…あ、いえ…いいえ…私なんて…ただの、居候以下でした…。
 それに、科戸瀬博士からの報告では、復活の可能性が有る…と」

「そうか…ならば我々と緑川の思惑を果たすには、艦長権限を発動する他ないか…」

「…は?」

「私が許可する。これはシドニアの為でもある、最重要任務だ。
 確かイザナと言ったな、他にも谷風を悪からず思っている者は居るのだろう?
 彼らを説得し、緑川は谷風の子を生み、そしてシドニアの希望を繋ぐのだ」

「えぇぇぇぇーーーーー!!」

「…いいか、もう一度申し送りしておくが、これは最重要任務だ、
 倫理的にどうだ、という批判なら『英雄への更なる褒章』として喧伝すれば士気も向上するし、
 その程度の問題は解決出来ると思うが?
 …まあ、一番の問題はあの堅物男を説得できるかどうか、だと思うがな…」

「ですが、私には無理、無理なんです…っ!」 <叫びつつ項垂れる纈

「…どうした、もしかして何のアピールも無しに光合成を申し込んで断られたのか?」

「いえ、そんな事ではないんです!
 ご存知の事かと思いますが、私はあの時、水城に乗艦しており、かなた、
 …いえ、融合個体2号と谷風さんの戦いを見ていたんです!

 谷風さんは本当に強くて、頼りになって、格好良くて、素敵でしたよ…。
 追い詰められた2号は狡猾にも、星白を生き返らせるから、と命乞いをしました。

 でも、谷風さんは「皆の為に自分の願望は捨てる」って言い切って、トドメを刺しました。
 本当に、格好良かったです…私はこの人のそういう所も好きだったんだな…って。

 でも、…谷風さんは、融合個体を倒す為、自らを犠牲にする積りだったんです…。
 決着が付いて戦域を離脱しようとした時、死ぬつもりだった、って初めて分かって、
 私は…ッ!…愕然としました…

 すぐそばに居るのに、何も思い付かなくて、私、呆然としてました…。

 私、指揮官失格です…。
 一番しっかりしてなきゃいけないのに、動転してしまって、
 頭が真っ白になっちゃってて、救助命令も出せずにいたんです…

 私はそんな状態だったのに、あの子は、つむぎは、
 ボロボロになったままの体で水城の外装を壊し、
 谷風さんを助けに出撃していったんです!

 そして二人の最後の会話が、水城の指揮所にも届いたんです…。

 あの子、最後に何て言ったと思います?
 『谷風さんのために死ねるなんて幸せです』…って。

 私、その言葉を聞いた時、泣きそうになりました…。
 …私、皆と一緒に暮らしていた頃、私の恋敵はイザナだって、ずっと思ってました…。
 でも、違ったんです。谷風さんの為に命を賭けられるほどの恋をしていたのは、
 つむぎだったんだって。

 …私にはあんな事できませんし、見ているだけしかできなかった。
 それがずっと悔しくて、ふたりがとても羨ましかったんです…

 谷風さんはその後、
 『何がシドニアの騎士だ、また俺は、大事な人を…』ってこぼした後、
 ずっと泣いていたんです…

 私も、指揮所に居た皆も、一緒に泣いていました…

 劫衛を回収した後、私、居てもたってもいられなくて、
 谷風さんの所へ行ったんですが、
 私には目もくれず、ふらふらと何処かに行ってしまいました…
 私、あんな谷風さん見た事も無くて、追いかける事も出来ず、
 谷風さんが居なくなった劫衛のシートに座り込んで、ずっと泣いてました…。

 私、なにもできなかった!
 私じゃ、なんにもできないんです!

 …だから、…だから、そんなその他大勢の、ただの知り合い程度の女じゃ、
 あの人の心を掴む事なんて出来ないんです!

 …私だって…私だって、好きな気持ちは負けていない筈だったのに…
 …私じゃ、ダメなんです…っ!」

 (そして纈は顔を覆い、暫し泣き崩れる。
 絵的には顔を伏せ、涙が手の甲とかにボタボタ落ちる、とかも有り)

「…なるほど、事情は良く分かった。
 だがその有様からして、緑川は谷風の事を完全に諦めた、という様には思えんぞ?
 何とも思っていない者の為に、流す涙など無いのだからな…」

 (仮面を外し、微笑みかける艦長)

「…(ぐすっ)…え…」

「…いい機会だから少し昔話をしてやろう。
 谷風の父親、というか育ての親なんだが、斎藤ヒロキ、…と言ってな…」

「…っ!その人は確か、シドニアの騎士として幾度も危機を救った伝説の…」

「…そうだ。その斎藤が操縦士として頭角を現し始めた頃、
 私はまだまだ小娘でな…その強さと生き方に憧れ、恋をした。

 だが時が経ち、斎藤の衰えが見え始めた頃、彼を失う事を恐れたシドニア上層部は、
 彼のクローンを作りだし、支配下に置く事でシドニアの安全と自身の保身を図ろうとした…」
 (注:…という事にしておいてください…TVシリーズ1期参照)

「もしかして…」

「その予想は多分正解だ。計画を察知した斎藤は誕生したクローンを連れ、
 監視の及ばぬシドニアの地下へと逃走した。

 …私は今でも思い出すのだが、あの時、艦長の立場を捨て、
 彼に寄り添う選択をしていれば、私が焦がれた斎藤を失う事は無かったのではないか、と。

 彼の面影を強く残す谷風の顔を見る度、名前を聞く度思い出す。

 お前は私の様に、何年経っても消えぬ後悔に苛まれたままで、生きていく積りか?
 私はシドニアの為、それだけの為に生きて来た。
 目標が達成された今、私にはもはや生きる目的が無い。
 …何の希望も無いまま、孤独と後悔だけの人生など、生きていけるのか?

 …無理だな…だから、私にも新たな希望が必要なのだよ…」 <そして一筋の涙が…

「…希望…」

「…そうだ、希望だ。先程シドニアの為、と言ったが、アレは建前だ。
 結局の所、私個人の希望であり、ワガママに過ぎん」

「私が…私自身の、希望の為に…ですか…」

「そうだ、それでいい。
 先の戦いと同じく、見ているだけでは結果は付いて来ない。
 …だから、緑川、まずは自分自身の為に行動してみせよ。…私の様になりたくなければな…」

「後悔…しない生き方ですか…艦長にも出来なかった事が、私に出来るでしょうか…」

「出来る出来ないではない、やってみせよ。
 お前は指揮官として、これ以上ない程の結果を出して見せたのだぞ?
 今度は女としての勝利を掴んでみせよ。
 今回の敵はガウナ以上の強敵だぞ?
 頑固で一途な所は斎藤以上に厄介だと見ておくべきであろうな…
 故に、時間は有るが、余裕が有ると思うな。女の戦いとは、そういうものだ」

「はい!了解いたしました、緑川纈、これより新たな任務に邁進します!」

「うむ。…ひどい顔だが、悪くないぞ?」 (ニヤリ

「えっ、あ…っ!…しっ、失礼しました!」 (慌てて退出する纈

(諦めた筈なんだけど、やっぱり私、谷風さんの事、諦めきれないんだね…。
 問い詰められた上での話とは言え、大泣きしちゃったわけだし…でも、気持ちはハッキリした!
 それに、イザナだって、もしかしたら幸せになれる可能性だってあるんだし、
 艦長が後押ししてくれるなら、後は私達の問題さえ解決できれば…っ!

 …あ、他にも相談事項が有ったんだけど、…岐神さん達の事はまあ、後でいいか…)


***

他人から見るとぢつに(うわぁ…)な会話劇となりましたが、
予想外の所からブーメラン炸裂、っぽい感じで、飲み込んでいた筈の気持ちをえぐり出される、みたいな雰囲気を出しつつ、
会話の中で纈が涙交じりに告白している、…様に感じて貰えたなら幸いです。 <要するにそういう意図で書いてます

我々視聴者は「画面の向こう側」の出来事として物語を楽しむ事が出来るのですが、
それを現実として見ている人間は、どんな気持ちを抱くのか?
しかも一人は自分が密かに焦がれ続けた男、もう一人は親友で、これ以上ない形で絆の深さを見せつけた。
考えは何も浮かばず、とにかく行動してみたけど、自分は認識すらしてもらえなかった。

世界は漸く平和を迎えようとしているのに、自分はその世界に何も見いだせない。
希望があったハズなのに、今はどこまでも真っ暗だった。
あるのはただ、絶望と無力感だけ。
それでも尚、自分の義務だけは果たさねばならないから、必死になって体裁だけは整えた。

…そんな状況でお話が始まっている訳ですね…なんという偶然。 <作者の願望です

纈が移住の話を出したのには、せめて谷風を一人にしておいてあげたい、という想いとか、
つむぎがどうなるにせよ、自分から遠ざけたい気持ちも有ったのかな、と。
や、多分纈は二人を見るだけで、一連の出来事を思い出してしまいそうになる程、思い詰めていたかもしれないので。

小林艦長は聞き役に徹している様でいて、何となく纈の様子が普段と違う事に気付き、
報告を聴きながら考えを巡らせていた感じで、人生の先達として意見を交える事で、
上手い事纈の本心を引きずり出し、纈をその気にさせる様に誘導していっている、
…という風に感じて戴ければ、尚良いかなと。格好良いですね…指令の内容はともかく(苦笑。

尚、岐神兄妹の処置の相談が後回しになった為、彼らの軍規違反やらへの処罰が遅れ、
海苔夫はしれっと継衛(改二)の操縦士に居座ったまま…になるっぽいのですが…
…この辺もまた、我らが纈ちゃんに頑張ってもらう事に…(謎。

…という事で妄想は更に続きます。



「あいつむぐほし」妄想プレビュー・そのさん(PART 2/緑川纈、指揮官無双覚醒編)<まて

「科戸瀬博士、状況はどうですか?」

「あら、纈ちゃん。いらっしゃい。
 ええ、そうね、つむぎちゃんの事なら順調よ。
 …でもワザワザそんな世間話をする為に、来たんじゃないんでしょ?」

「恐れ入ります。
 今日は、イザナに話が有って、ここまで来ました。
 暫くあの子をお借りしてもよろしいですか?」

「いいわよ。…何なら朝帰りでも?」

「…っ!…そういうの良いですから!…お邪魔しますね…」

***

「どうしたの、纈?今日は何のお話?」

「イザナ、アンタと私の仲だし、回りくどい話は無しに言うわね。
 …あんた、この後どうするの?」

「…へ?」

「まだ本決まりじゃないけど、今回の戦いの褒章として、
 谷風さんとつむぎは惑星セブンに移住する事になると思う。
 私とアンタはシドニアに残り、いずれ次の恒星系へ旅立つ事になるわ。」

「…!…そう、なんだ…」

「思っていたより反応薄いわね…希望するなら、惑星セブンへの移住も許可されるかもよ?」

「…ゴメン、ボク、何にも考えてなかった…つむぎの事で一杯だったし…」

「シドニアに残ってくれるのなら、アンタにはやって欲しい事が有るのよ。
 ユレ博士と一緒に、岐神開発を引き継いでもらえないかしら?」

「えええっ!…待って、どういう事?」

「イザナ、アンタは操縦士でも有るんだし、事情は何となく分かるかな?
 今回の戦いにおいて、海苔夫は継衛改を駆り、シドニア内部に侵入した敵ガウナを撃退した。
 そのこと自体は評価出来るんだけど、出撃許可を誰が出したのか、不明なのよね…。
 つまり、無断で軍の所有物を持ち出した、って可能性がある訳。

 まあ無断持ち出しの件は戦功に免じて見過ごすつもりだけど、
 アイツはそもそも10年前、私の作戦を無視して谷風さんを陥れ、星白を戦死させた。
 4機掌位のリーダーのクセに、失敗の責任を谷風さんのせいにして、自身の栄達を望んだ。

 更にその後、再三にわたる出頭命令を無視した挙句、
 科学者落合の封印を解き、10年に渡って私達を騙し続け、
 一歩間違えばシドニアが滅亡する可能性だってあった。

 妹の海薀も、似た様なものね。操られていたとは言え、
 待機中の衛人や操縦士に対する破壊活動の罪は償ってもらう必要が有るの。

 一応、洗脳が解けて改心しているみたいなんだけど、それはそれ。
 仮に艦長が許したとしても、私やアンタ、それに衛人隊の皆は多分納得しないと思う。
 仮に納得したとしても、信用して命を預けられると思う?
 失った信用はあいつら自身が一つずつ取り戻していくしかないと思うんだけどね…。

 …で、あいつら兄妹には軍内での指揮命令権限を一切与えない積りでいるんだけど、
 それだけじゃちょっと弱くて、もっと目に見える形で何らかの罰を与えたい訳。」

「…それが、『岐神開発』って事?」

「…そう。
 差し当たってはあの会社が持っていた設備や人員を一新し、博士とアンタに引き継いで貰う事。
 海苔夫と海薀は一兵卒に降格、多分その命が尽きるまで兵舎住まい、…かな。

 (注:設備、というのは「かなた事件」の温床ともなった場所自体に、まだ落合の残滓とかバックアップの類があるかも、
 …という関係でこの際一気に廃棄・消去してしまおう、という意味合いが有ります。
 人員、というのは岐神兄妹以外にも、まだ操られている人が居ないか、或は自発的に協力していた者が居ないか、的な意味合いが有ります)


 厳しい処置に見えるかもしれないけど、意外とメリットは有るのよ?
 改心した、って言ってはいるけど、それが本当かどうか、何てすぐには分からないでしょ。
 何せ今までが今までだからね…。

 アイツは操られる前からプライドの塊みたいなところが有ったし、
 人を見下しがちなところも有って、何か生理的に嫌なヤツだったからね…。
 普通の人と同じ様に生活してもらって、感覚とか考え方を学んでもらって、
 そういう嫌な部分は徹底的に矯正してもらう積り。

 本当に改心した、ってなら、今までとは真逆の、底辺レベルの生活だって甘んじて受けるだろうし、
 周りの人達とだって、対等な信頼関係が出来ると思うの。
 御曹司の地位は無くなってるから、金や栄達目的の輩は寄ってこないし、
 アイツ自身の人間性とか性格に問題…以前と同じだったら…が有れば、
 信頼関係なんて築けないだろうし。

 それに、万が一不平不満を募らせて、また何かやらかすようだったら…
 …地位は勿論、金も影響力も無いから、大した事は出来ないだろうし、
 それならそれで、今度こそ堂々と処分できるわけだしね…。

 まあ、ガウナの討伐実績を稼いで評価を取り戻す事も可能だろうけど、
 レム星系にはもうガウナは居ないし、
 次の恒星系に着くまでだって、まだまだ先の事だしね…」

 (注:シドニアには波動エンジン(!)が無い事も有り、最大(戦速)でも亜光速です。巡航速度はもっと遅いかと。
 レム星系付近の状況は分かりませんが、地球圏から最も近い恒星系ですら8.7光年の距離が有り、
 そういうのを考慮すると、直近の恒星系に到達するまでだって、10年くらい普通にかかるかと推察されます)


「纈、凄いね…そこまで考えているって、もしかしてあの兄妹に恨みでも有ったの?」

「今はもうないわよ。
 …それにね、私は今回の一件は良い機会だと思うの。
 10年前、ガウナが現れた最初の戦いの事、覚えてる?

 あの時、司令部は軍務経験とかを無視し、成績で選んだ四人を討伐任務に向かわせた。
 だけど結果はどうだった?

 山野さんを取り込んで、知性体化しつつあったガウナを舐めていた事も有るでしょうけど、
 討伐部隊も少なすぎたし、百瀬さんがパニックに陥った所から、赤井さん、そして出雲兄さんまで、…
 あっという間に全滅し、貴重なカビザシを2本とも失う所だった。

 海苔夫は私の作戦を無視して勝手な事をしていたし、
 その後の作戦では、谷風さんの特別な力に頼り切った作戦ばかり立てていた。

 …私、思ったのよ。これじゃいけないって。
 シドニアを守っていく為には、ガウナに必ず勝てる戦略や戦術、
 そしてそれを実行出来る、組織体制が必要なんだって。

 まずは、軍隊としての命令指揮系統や規律が守られる事。
 次に、知性体の様な、難敵への対処方法と、連携戦術の練度の向上。
 想定外の事態にも対応できる、冷静で柔軟な精神性も必要ね…。

 そうやって、谷風さんみたいな特別な力が無くても、シドニアを守っていける、
 …そんな軍隊を作らなきゃいけないって。」

「…長道がいなくても、大丈夫な軍隊…か…」

「そう、今まで私たち、あの人たちの力に頼り切りだったし、
 ましてこの後は頼れない状況になるんだし、ね…。

 岐神開発に付いては他にも思う所が有ってね、
 軍内で指揮官以上の人間が把握していない状況が有るのって、不味いと思うのよ。
 (注:TVシリーズ2期後半の重力子放射線射出装置の暴走事故)

 だから、定期的に指揮官クラスへの報告とか、視察を受けてもらうようにするの。
 事前に知っていれば、万が一の時の対策だって立てておけるでしょ?

 研究開発の内容とかは新兵器でも新技術や素材でも構わない。
 でも、私個人としては、もっと別の事もやって欲しいのよ…

 …例えば私達が着用している安全帯。
 今迄は戦時の非常体制だとか、警報を発しているから、って事で済ませてきたけど、
 居住区への物的被害は勿論、人的被害だってバカにならないのよね…。

 シドニアは確かに大きな船だけど、惑星環境みたいに億単位の収容能力がある訳じゃない。
 装備や武器の生産や、維持に必要な資源は元々限りがある訳だし、
 死んだ人は帰ってこないし、仄姉妹みたいに量産するのもどうかと思うのよ…。
 あ、同じ顔してるから、増えすぎると区別が付かなくて困る、ってのも事実だけどね…。

 私はさ、これを何とかできないか、って思ってる。
 無くせないまでも、低減するくらいはしたい。
 戦争で人が死ぬのは当たり前だし、割り切らなきゃいけない事だって、多分みんな分かっている。

 シドニアの為、って大義名分だけで、平時にまで人を死なすのは減らしたいし、出来れば無くしたい。
 …アンタにはそんな研究をして欲しいのよ。
 …ただガウナを倒す為の技術じゃなくて、皆の命を救い、守る技術をね…

 シドニアの安全の為、って急加速したとして、
 その後、私達が一緒に暮らしてた、谷風さんとの想い出が一杯詰まった、
 あの家が無くなってたら、アンタだって寂しいでしょ?
 私は嫌だし、そんな事態は今後も、出来るだけ起こって欲しくないの…。

 まあ、今出来るのは衛人に優先使用していた超構造体で居住区を補強したり修理したりして、
 多少の重力変動じゃ壊れない程度に、強化する事しかないんだけどね…。
 それは小手先の事だし、根本的に解決するには、もっと別の技術が必要なのよね…。

 (注:先の重力子~は兵器としての利用を前提にしている訳ですが、
 この武器の制御に使っている技術を応用できれば、実現可能ではないかな、と当方は考えています。
 現状はシドニアの航行によって生じる反作用をそのまま利用している感じで、
 それ故に、シドニアの速度によって影響を受ける訳です。…ならば推進に使っている分とは別の、
 重力場発生装置の類を開発、運用出来る様になれば…
 尚、超構造体に付いては、戦争終結に伴い、衛人に使う分が減る事を見越した発言で、
 民事転用によって、東亜重工の仕事を減らさずに済む、というメリットも有り)


 …そんな私個人の意図もあって、岐神開発を解体して新組織にしたいのよ…
 あ、名前が気に入らないのなら科戸瀬開発でもイザナ研究所でも良いわよ?

 引き受けて…くれるわね?」

「うん、まあ、…名前の方はともかく、…やるよ…」

「ありがとう!イザナ、やっぱアンタはあたしが認めたライバルなだけの事は有るわ!」

「ライバルだなんて、何の事?」

「とぼけないで。
 …ふん、もう少し落ち着いてから話すつもりだったけど、仕方ないわね。
 アンタ、谷風さんの事、まだ好きなの?」

「えっ!イキナリ何を言い出すの?」

「私はもう決めたわよ、最後まで諦めないって。
 多分谷風さんは、つむぎと一生添い遂げる積りでいると思う。
 それでも私はあの人の事が好き。それは譲れない。

 それにね、イザナ。
 私は私自身に嘘を吐き続けるのは、辛くて苦しいし、もう止めにしたの。

 一番になれなくたっていいの。
 気持ちを伝えて、あの人が応えてくれるまで頑張るの。
 シドニアが再び旅に出る、その日まで、諦めないつもり。
 もう見ているだけは嫌だし、後悔を抱えたまま、シドニアに残る積りは無いの。

 アンタはどうする?
 断ったっていいけど、その時は私の邪魔をしないでね。
 …これは、私自身が私の為にする事なんだから」

「…ボクは…」

「イザナ、アンタは私なんかより、遥かに見込みが有るのよ?

 私とつむぎを含めた中で、谷風さんと一番長い付き合いが有るのは誰?
 星白が戦死した後、重症だった谷風さんが目覚めるまで、側に居続けたのは誰?
 谷風さんが寮を追い出された時、あの人が真っ先に頼ったのは誰?

 アンタが女になった時、最初に気遣ってくれたのは誰?

 第九惑星の偵察任務中に遭難した時、駆けつけてくれたのは誰?
 どうでも良い相手の為に、そんな事できる訳ないよね?

 …それと、千秋郷に二人っきりで出かけた時のこと覚えてる?
 アンタがあの時、自分の気持ちに素直になっていたら、
 谷風さんの一番はつむぎじゃなくて、イザナになっていたかもしれないのよ?」

「ちょっ…っ!なんであの時の事知ってんの?」

「そんな事は今はいいのよ!
 …まだあるわ。

 …私なんてね、掌位の儀式をした時しか手を握って貰えてないし、
 一緒に暮らし始めてからだって、二人きりで何処かに出かけた事すらないし、
 部屋に遊びに来てくれた事だって一度も無かったし、
 私、衛人が好きで部屋でプラモばっかり作ってた変な女だし、
 最初から女だったのに、後から女になったアンタより貧相な体なのよ?

 それにあんたは操縦士になった事で、谷風さんと一緒に戦う事だってできるのよ?
 あの時、アンタの機転が無ければ、谷風さん共々、戦死していたかもしれないのよ?

 私は指揮官だから、あんたたちに危険な任務を押し付ける側なのよ?

 そんな、あんた達に憎まれたって仕方ない立場の私より、
 アンタの方がずっと、谷風さんの近くに立っているのよ?

 それでも諦める積り?見損なったわね…」

「だって、ボクは…こんな体だし、それに、つむぎの事、裏切れない…」

「はっ!あんたが機械の体になった後、谷風さんの態度は変わった?
 むしろ変わったのは女になってからのアンタでしょう?
 それにつむぎの事なら心配ないわ。

 あの子がつむぎとして再生されるなら、
 姿形は変わっても、心の在り様がつむぎのままなら、
 私達と友情を育んだ、白羽衣つむぎのままで、帰ってきてくれるのなら…。

 あの子は私が説得して見せる。…絶対に。」

「ほんとう…?」

「約束するわ。イザナの為じゃなく、寧ろ私自身の為にね。
 だからこそ、信じてくれていいわよ。
 だって私、後悔を抱えたまま、谷風さんとお別れできる程、大人じゃないもの。

 …もう一度言うわね、イザナ。

 私を信じて、私に委ねて、一緒に幸せになろう。
 アンタにはその可能性が有るんだから、一緒に頑張ろう?」

「うん…」 <涙目になるイザナ

「…何泣いてんのよ。
 まだ何も始まっていないし、終わってもいないのよ?
 その涙はね、事を成し終えた時まで、とっておきなさい。

 女の涙はね、そんなに安いものじゃ無いのよ?
 谷風さんの前で使う時もね、ここぞという時に使いなさい…」

「わかった…纈、本当に、ありがとう…ボク、頑張るね…」

***

「話は全て聞かせてもらったわ。
 その話、私にも協力させてもらえるかしら?」

「ユレ博士!?いつからそこに!?」

「それはヒミツ。
 実は私もね、艦長から頼まれているの。
 もし纈ちゃんがイザナの説得に失敗しそうになったら、フォローしてあげて、って。

 それにね、私にとっても、可愛い孫が幸せになれるかどうか、って話だしね。
 断る理由が無いもの。
 …つむぎちゃんの説得には私も協力するから、よろしくね?」 (ニッコリ

(流石艦長…すでに根回し済みだったのね…
 道理で、最初の挨拶から何か含みのある言い方で引っかかってたんだけど…
 …そういう事だったのね…)

「あ~、それにしても纈ちゃん、最後の方は本当に格好良かったわよ?
 イザナちゃんが口説かれているみたいで、私もドキドキしちゃった…」 (ニヤニヤ顔

「~~~~~っ!!」 <真っ赤になって思わず顔を覆う纈、悶絶もアリ

(聞かれ、ちゃった…恥ずかしいセリフから密かなコンプレックスまで、…全部っ…!!)


***

という事で、第2編はイザナ説得編でした。
イザナはTVシリーズの2期後半から、中性から女性化する関係もあってか、
女の子としてのメンタリティーが他の女性キャラと違い、未成熟な部分が有ると推察されます(個人的偏見。

なので、どちらかというと男友達的な考えや立ち位置を取りがちで、
長道を巡る正妻戦争(仮)においても、長道やつむぎとの友情を優先し、
一歩引いた形での関わり方をしてきた…様な気がするんですよね…。

(「あいつむぐほし」の時点で、イザナは情報分析とか観測メインの部隊を率いているみたいで、
軍全体から見て、正面戦闘は分担しておらず、精々追撃とか緊急時の増援程度の位置付けっぽいですね…。
本人がTVシリーズで語った通り、あまりアグレッシブ、又は攻撃的な性格をしていない事が分かる、立ち位置になってますね…)

それゆえ、自分から動き出す事は出来ず、今回の様なやり取りの末にようやくその気になる、
という展開になりましたが、書き始めたらアラ不思議、スルスルと言葉が浮かんできました(笑。
まあ、仕事人間の悲しいオチというか、不幸な巡り合わせの多いキャラって当方のリアル状況と被るからか、
TVシリーズのイザナ関連シーンを思い出しただけで、言葉が出てきましたね…。

纈がイザナに対して抱いている(であろうと当方が超拡大解釈した)コンプレックスをぶちまけただけかと思わせつつ、
本人が無自覚にやっていた好感度稼ぎを気付かせたり、TVシリーズで長道が発したイザナへのセリフの意趣返しあり、
自分をダシにした上でイザナのアドバンテージを指摘してみたりとか、恋敵と認めた相手だからこその言動かなと。
そして最後のは本編の結末に至る前の裏話というか、纈がイザナを口説いている様にも見える訳で…(笑。

会話の前半部は当方が先の考察で書いた通り、シドニアの軍隊としての体裁とかを現代レベルにまで戻すための物で、
劇場版のその後を描くなら、こうして欲しい、…というのを纈の言を借りて語っています(特に海苔夫関連の禊ぎは絶対!!)。
シドニアに明文化された軍法・軍規類が有るかどうか知りませんが、第二の海苔夫や落合の出現は防ぐべき、ですし。

作中を見る限り、軍隊でお馴染みの階級呼称が一切出て来ていない感じがしていて、
衛人隊の操縦士は基本全員が同格みたいに扱われていて、4機のリーダーは固定っぽいのですが、
作戦時の班長は指揮官が都度任命している、みたいに見えるんですよね…誰が誰の命令で動くのか、
くらいは事前に決めておくべきだ、と思うのですがっ。サマリや弦打は経験も豊富そうなので、
大尉・中尉、或は準佐官という事にしておけば…。1級・2級・特級操縦士とかでも良いかと。

…最後のオチなんですが、思い付きで入れたらこれがまた思いの外ツボで、
素に戻った纈が可愛く見えていたら幸いです。

…で、本来なら復活後のつむぎを説得するシーンを書くべきですが、
ユレ博士の協力やら、つむぎ本人の素直さも相まって割とすんなり話が纏まりそうなので、
そこは省略して次へ進みます。

まあ、本編の追加セリフでヒロインとしての魅力は(個人的感覚で)引き出せたかと思うので、
…そこはいいよね?…って事でお願いします。
(っていうか元々、スポットの当たらなかった2人を引き上げるIF話ですし)


…で、当初飛ばす予定だったシーンが出来ましたので、興味のある方は続きをどうぞ。



「あいつむぐほし」妄想プレビュー・そのよん(PART 3/再生したら星白閑だった件) <え

(そして迎えた、長道とつむぎの再会の日。
 主治医としてユレ、介添人としてイザナに加え、纈も控えています。
 そして二人の感動の再会を見届けたイザナは、思わず貰い泣き。
 イザナの様子に気付いた纈は、二人に気付かれぬ様、イザナを小突いて窘めようとします)

「ちょっ、何アンタまた泣き出してんの…ホラ、良い所なんだから、しっかり目に焼き付けておきなさ…」

「はいはい。後は若い二人に任せて、お邪魔虫は退散しますよ~」

「「えっ、あっ、ちょっ、待って、待って、分かったから引っ張らないで~」」

***

「…ふう。ここまで来れば大丈夫ね。
 貴方たち、この後どうするか、ちゃんと分かってるわよね?」

「…え?ええ、それは忘れてませんよ?私はその為に皆を巻き込んだんですし。」

「それは良いけど、貴方明日にでもつむぎちゃんと交渉を始めかねないもの。
 見せつけられちゃったせいで、ライバル心がムキ出しだったわよ?

 …いい?貴方たちよく聞いて。
 今の二人はお互いの事しか眼中にないの。心に余裕が無い、とも言えるわね。
 …そんな状態なのに、纈ちゃんは自分の勝手な願望を押し付けようとしてるのよ?
 それじゃあ説得は上手く行かないし、寧ろ頑なになって、邪魔しようとするわよ?」

「ええっ!それじゃあ、いつになったら良いんですか?」

「…そうね、貴方たちには申し訳ないけど、暫く先の事だわ。
 その点は私に任せて。私はあの子の主治医でも有るんだし、タイミングは私が指示するから。
 …それまで、あの子たちにどんな言葉をかけてあげるのか、じっくり考えておいて。

 むしろ今は、つむぎちゃんがちゃんと以前のままのつむぎちゃんだ、って事を確かめて欲しいの。
 融合個体だった頃の、貴方たちと友情を深め、命を賭けて谷風君を愛し抜いた、
 あの時のままのつむぎちゃんなんだ、って。
 出来るわね?あの子にはもう融合個体だった頃の能力は一切無いし、
 今はただのか弱い女の子だ、って事をゆっくり教えてあげて欲しいの。

 それは私じゃなくて、貴方たちしかできない事だし、かつての友情が本物だった、って事を教えてあげて?
 やってくれるわね?」

「はい!お安い御用です、私達の親友を、恋敵を取り戻して見せます!
 …見てなさい、このまま勝ち逃げなんて、絶対、…させないんだから…っ!」

「宜しい。心意気は良いけど、程々にね。…特に纈ちゃん?」 <目が笑ってない

「…スミマセン…」

「あははっ!前から思ってたけど、おば…の前だと、流石の纈も形無しだよね~」

「…くっ…!イザナ、アンタそんな笑ってる余裕あるの?
 アンタ谷風さんに言う内容ちゃんと考えてる?
 行き当りばっかりじゃ、谷風さんは1000年経ってもアンタの気持ちに気付かないわよ?
 ほら、そうと決まったら作戦会議よ!来なさい!
 …あ、ユレ博士、イザナお借りしますけど、問題ないですよね?」 <返事も聞かずにイザナを連れ出す纈

(…はあ。やっぱ、若いっていいわよね…私もときめいちゃいそう…。さて、私も…)

***

「やっほ、つむぎ、元気そうね?体の方は大丈夫?」

「ええ、おかげさまですこぶる順調です。私も、…この子も。」 <膨らんだお腹を撫でるつむぎ

「ね、名前決めた?男の子?それとも女の子?予定はいつ?」

「せっかちですね、纈さん。…名前は、まだです。予定はあと1週間前後だって、ユレ先生が。
 …それと、性別は分かるんですけど、敢えて聞いていないんです。
 …だって、どっちなんだろう、って考えるのが毎日楽しくって…」

「ね、触っても良い?」

「あ~、ズルイよ纈、…つむぎ、ボクも良い?」

「ええ、喜んで。」

(そしてベッドの両側から二人は其々ひとしきり撫でまわした後、更に耳をあてます)

「はあぁぁ~、やっぱいいわね…あっ、今動いたの分かったよ?イザナ?」

「はふぅ…本当、命って、本当に不思議だよね~~」 <聞いちゃいない

***

「…ふぅ、堪能したわ…本当にありがとうね、つむぎ…」

「いえいえ、私が今感じている幸せが、お二人にも伝わったみたいで、私も嬉しいです!」

「それで、ね…幸せを分けて貰ったついでに、つむぎ、貴方にもう一つお願いしたい事が有るの。

 貴方は多分知っていると思うけど、私達も、谷風さんの事が好きなの。
 だから、これから私達、谷風さんに気持ちを伝えようと思っていて。

 親友でもある貴方に不義理を働く事になるんだけど、承認、とまではいかなくても、
 せめて黙認して欲しいの。邪魔しないで、ただ見ていてくれるだけでいい。

 お願い…できるかな?
 つむぎ、貴方の本心を聞かせて欲しいの。」

「…?…それだけで、良いんですか?」 <平然と答えるつむぎ

「「…へっ?」」 <暫し固まるイザナと纈

「…ちょっ、つむぎ、アンタ再生してから何か変なモノとか食べたりしてないわよね?
 一人で歩けるようになったからって、知らない人に声かけられてホイホイ付いていってたりとか、
 …してないよね?」

「食事は皆で、が私の基本なので、先生に何か盛られた可能性は否定しませんが、
 歩ける様になってからは、漫画喫茶に通ってただけですよ?…最下層の。
 気になってたけど、行けなかった場所でも普通に行けるのって、素晴らしいですね…(うっとり。

 …。ああいえ、纈さん。…こういう時は、
 『ぐへへ、子供の命が惜しかったら、黙って俺達の言う事を聞くんだな~』とか、
 『旦那にバラされたく無かったら、大人しく言う事を聞け~』って、要求する所ですよ~

 そして私はひとり、こう嘆くのです。
 『信じて貴方、体は許してしまったけど、心を許すのは貴方だけなのよ…』と。」

 (何故か嬉しそうに身をよじらせ始めるつむぎ)

「――ストーーップ!…今時どころか、1000年前だってそんなの言うヤツはいないわ。
 まあ、妄想の出所に付いては後で聞かせてもらうとして、…

 …今は、正直な気持ちで答えて欲しいのよ。
 さっきの返事、それだけじゃ、むしろこっちが納得できないもの。」

「私達親友だから、阿吽の呼吸で通じると思ってました…ごめんなさい。

 …私、知ってるんですよ?
 私を再生してくれたのはユレ先生ですが、
 そのユレ先生に、『誰が』私のかけらを持ち込んだか。」

「――ッ!」 <思わず纈を見るイザナ

「…私、今、とっても幸せなんです。
 谷風さんがいて、イザナさんも、纈さんも元気でいてくれて。
 私が一番守りたかった人達は、誰一人欠けずに今日を迎えられたこと。
 そしてこれから、もう一人増えること。

 私、いつも思うんです。これはもしかして、私が見ている夢なんじゃないかって。
 本当の私は、死にきれずに宇宙をかけらのまま彷徨っていて、
 皆はとっくに死んじゃってて、寂しくてたまらない私が見ている、叶う筈がない、願望なんじゃないかって。

 …この子が出来た事は、私の想像を遥かに超える幸せでした。
 だったら、私の想像をもっと超える事があったって、いいじゃないですか。

 それに、言われるまでもなく、私だって、お二人が谷風さんを好きな事くらい、知ってます。
 後からぽっと出の私が、親友でもあるお二人を差し置いて、谷風さんを奪っちゃったんですよ?
 その事を気にしている私に、お二人の気持ちを無視して、自分だけ幸せになれる訳がないじゃないですか。

 それがお二人の幸せになる、って言うのなら、私は応援します。
 いえ、寧ろ積極的に協力させて下さい。…お願いします。」

「~~~っ!…もう、アンタって子は…

 …いや、子供の事も有るし、せめて状況が落ち着くまででいいから、
 出来るだけ大人しくしていて欲しいんだけど…」

「え~~、そうですか、…残念です…」

「…そうだ、忘れてたけどアンタ、例の漫画喫茶に通うのは今後一切禁止。
 その子が大きくなった後も、連れて行ったりとか、通わせたりとかしちゃダメ。いい?
 あのお店はね、アンタみたいなリア…じゃなくて、相思相愛でラブラブな人たちが行っちゃいけない、
 それは恐ろしい場所なの。
 アンタがあのお店に通い続けると、そのうち夫婦仲だってヒビが入りかねない危険性が有る場所なのよ?」

「え~~~、本当ですか、…残念です…」

「ま、その内それどころじゃなくなると思うけど、まずは元気な子を生んでね?約束よ?」

「はい!お任せください!」

***

「…何か拍子抜けするくらい、簡単に話が纏まっちゃったね…ボク、もっとかかるかと…」

「…そうね、私達は親友、とか言ってたけど、まだまだ分かっちゃ居なかったみたいね…色々と。
 一応私は拒否された時の対応も考えておいたんだけど…」

「…それ、聞いても良いの?」

「そうね、簡単に言うと、
 『アタシの谷風さんが、アンタ等如きの誘惑になびく筈が無いわ、
 そこまで言うならやって見せなさい!』
 …って雰囲気に持って行くのよ。
 挑発する事になるから、友情にひびが入りそうな案だけど、手段は選んでいられないかもだし、ね…」

「ヒッドイ案だね…確かに目的は果たせるけどさ…
 ね、ボクを巻き込んだ時に、格好良い事言ってたけど、その時にもう考えてあった事?

 後、ついでに聞きたいんだけどさ、欠片の件とか、漫画喫茶の件とか、さ…」

「…イザナ。私達は親友であり、目的を同じくする同志でも有るんだけど、
 それでも秘密の一つや二つは有るものなの。
 …いい?この世界には、知らない方が幸せな事だって沢山あるのよ?
 それを肝に銘じておきなさい。…だからこの話はこれでおしまい。」

「え~、ズルイ~。…って、二つどころか三つ以上有るよね…」

「はいはい。揚げ足取りは良いから、アンタも谷風さんになんて言うか、
 ちゃんと考えておきなさいよ?じゃないと、私に先越されちゃうかもよ?」


(言える訳ないよね…だって、私あの時無我夢中だったし、
 何でそんな事したのか、未だによく分かってないんだし…。

 私、兄貴の影響で少年漫画ばっかり読んでて、衛人のプラモ組んでるのもそのせいだし、
 今回の参考になるかと思って、少女漫画とか恋愛小説読みに行ってた、なんて…。
 それにあの店、奥には薄い本だって沢山有るしね…刺激が強すぎるから、絶対に遠ざけるべきだし…)

***

…という事でつむぎ説得編でした。
飛ばしたのには一応の理由が有って、つむぎの性格からしてゴネる展開が想像できず、
盛り上がりに欠ける様な気がしていたからで、何か面白く出来る要素が無いか、と考えた結果がこれです(汗。
自画自賛で恐縮ですが、当初の想定を大きく超える、良いハナシになりました…やってみるものだなと。

ウソ設定はシドニア内に存在するか怪しい、同人ショップ兼用の漫画喫茶なのですが、
つむぎの乙女チックメンタルに、メンヘラというか妄想癖要素を加えても違和感が出なかった事と、
纈の恋愛マニュアルの参考ソースとして活用するため、に登場させています
(資源が限られている為、出版業は最低限で有ろう事から、こういう形を採ってみました)。
(電子書籍は普及していますが、履歴が残る為、秘密にしたい人はアナログを選ぶというアレ、
つむぎの場合は単なる好奇心からですね、深入りしない方が多分幸せ、というのは説明不要ですよね?
因みに戦時下はアレでしたが、平和になったので再開した、…という俺設定、当然、今後は増えていくかと)

纈も指揮官とか作戦参謀の職歴が長いので、勝つため、或は負けないためにはどうすればいいか、
という思考をする習慣が身に付いており、今回の戦いの為にデータベースを欲した訳ですな…。
で、才能の無駄遣いですが、非番時は勿論、戦時体制が解かれるにつれ(指揮官なので平時は暇)、
当直中も脳内シュミレーションを繰り返し、そこでいつになく真剣な顔をし続けたため、
他のオペレータや交代要員から、恐れられたり、感嘆されたりしてます(笑。
これらは、この後の展開で色々と役に立つ…かと。

他、バレバレですが思わせぶりなセリフに関して。カマかけた、って訳じゃなくて、本当に知っている上での発言です。
や、整備の人が偶然、ってより、とある人物が必死になってかき集めた、って方が断然面白いじゃないですか…(ぇぇぇ。
ホラ、人命救助は時間との勝負ですし、それが融合個体であろうとも、処置が早ければ早い程、成功確率が上がるのは当然では、と。

戦闘生物としての本能か、或は融合個体である故の負い目からか、
つむぎは周囲の空気とか雰囲気とか、状況を把握する能力に長けており、つむぎは自分が目覚めた時、
どうして自分が生きているのか、誰がここに連れてきたか…というのをずっと考えていた訳で。
(当方の経験ですが、全身麻酔から覚める時って、意識だけが有って、手足の感覚が無いんですよね…
もしかしたら、目覚めた時は本当に上半身だけだった、とかは十分にあるかと)

可能性が有るのはたった二人、博士との会話や、その後の長道の態度から、当然の様に確信を抱いていた訳です。
(なので、ユレ博士が面白がってリークした、…のではなく、仮に聞かれた場合も、「考えて」、と促すだけです。
纈は少し博士を疑ってそうですが…確証が無いので、当面は黙秘する事にした、と)
そんな経緯が有って、つむぎは纈が何か頼み事をしてくる機会を、ずっと待っていたんですね…。
で、ついにその機会が巡ってきた!…と思っていたら、真正面からささやかな願いを口にしただけだったので、拍子抜けした次第。
本人がその気になれば、命の恩人だ、って事をタテに、強制する事だってできるのに、と。

最初に茶化して見せたのは、そういう事をおくびにも出さなかった、纈への意趣返しでもあり、
緊張を和らげて、本心を伝える前の、前振りになっているんですね…ええ子やないか…(微笑。

…さて、どんな風に、というのは次の機会に、ちゃんと本人の口から、キッチリ真相を語ってもらおうかと(ぉ。

…という事で超ド級の鈍感男と、無駄に頭が回ってしまうが故にスベり気味な不器用女(+1)との、
不毛な戦いが始まってしまいます… <我ながら酷い例え方



「あいつむぐほし」妄想プレビュー・そのご(PART 4/ツンデレ纈は谷風ボーイの夢を見ない編)<ヲイ

「どうしたのイザナ、何か改まって」

「あ、あのね、長道…ボクね、その…」 <もじもじと顔を赤らめるイザナ

「俺とイザナの仲じゃないか、遠慮すんなよ。
 トイレ行きたいんならさっさと行ってきなよ、そのくらい、俺待っているから」

「…っ!長道の、バカぁ~!!!」 <長道をハタき、走り去るイザナ

(痛って…イザナ、右手の方で叩きやがったな…まあいいか…)<立ち上がり歩き出そうとする長道

「はぁ…分かっちゃいましたけど、ここまで予想通りだとは思いませんでしたよ、谷風さん」<物陰から登場

「纈…」

「そんな鈍感男の谷風さんに教えてあげます。
 イザナはね、宣戦布告に来たんですよ。」

「…?」

「意味がまるで通じてませんね、じゃあもっと直接的な表現にしないと、伝わりそうもないですね…
 いいですか、イザナは谷風さんに告白をしに来たんですよ?」

「…告白…?誰が、誰に?」

「理解が追い付いていないようですね、順番に説明しないとやっぱりダメですか…。

 …はあ。仕方ありません。イザナは谷風さんの事が、ずっと前から好きだったんです。
 でも、あの子は中性から女性になってから、まだまだ日が浅いんですよ。
 なので女性としての身の振り方とか有り方とかは、まだまだ未熟で稚拙なんです。
 中性だった頃の、男友達みたいな言葉遣いのまんまですし。

 そんな事も有って、谷風さんとの接し方をどうするか、ずっと悩んでいる内に、
 谷風さんはつむぎに恋をし、親友でも有ったイザナは自分の恋心に蓋をして、
 二人を応援する事に決めたんです。

 そうやって自分の気持ちを誤魔化してきましたが、限界に至りました。
 あの子はなけなしの勇気を振り絞り、谷風さんに気持ちを伝えよう、って頑張ってたんです。

 …ここまで言えば、そろそろ理解してきたんじゃないですか?」

「そんな、バカな…イザナが、俺を…!?…いつから?」

「はああ…それを私に聞くんですか…想像以上に絶望的ですね…(溜息。

 そんなのイザナ本人に聞いてください。少なくとも昨日今日の話じゃないですよ?
 多分谷風さんが想像した以上の、ずっと前から、だと思いますよ?
 信じられないかもですが、事実です。それはこれからも証明し続けます。私達の行動で。」

「私達…って、…いや、まさか、そんな…」

「今度は理解が追い付いたみたいですね、その通りです。
 勘違いでも思わせぶりでも無く、私も谷風さんの事が好きなんです。
 だから、私もあなたに告白し続けます。私が納得できる答えがもらえるまで。」

「えっ…いや、俺、…その、つむぎの事裏切れないし、無理だよ?」

「その事でしたら問題ありません。つむぎは今回の事、快諾してくれました。
 何でしたら今ここで連絡して確認しますか?」

(何だって~!いや、何がなんだか訳が分からん、ひとまずここは…)

『ゴメン、無理~~~!』 <ダッシュで走り去る長道

(行っちゃった…って、ちょっと待った、私、事情説明しただけで、
 何にも伝えられてないんじゃ…) <一人悶絶する纈

***

「ご苦労、落合。首尾はどうだ?」

「はっ。艦長の予測通り、科戸瀬イザナは言葉にする事も出来ず敵前逃亡、
 緑川纈は…」

「良い。どうせ谷風への説明だけで終わって仕舞ったのであろう?」

「恐れ入ります、その通りでありました」

「分かっておろうが、貴様の任務は状況の監視と報告だ。
 それと、我々が絶対に避けねばならないのは、谷風長道の完全なる逃亡だ。
 シドニア内部ならばともかく、惑星セブンに逃亡して姿をくらまされれば、打つ手がない。
 それだけは絶対に阻止せよ。…まあ、白羽衣を連れての逃避行などしないだろうがな…」

「はっ、心得ております」

「時に落合。口頭の報告も良いのだが、映像とか音声を記録する事は可能か?
 可能ならば、今後はそれを提出せよ」

「はっ、映像は難しいですが、音声ならば可能かと存じます。
 谷風操縦士はああ見えて超級の感性を持っております。
 作為ある能動的視線(→カメラ)を向け続けた場合、我々の存在に気付いてしまう危険性が有ります。
 なので受動要素の強い音声の方が妥当かと。」

「宜しい。では音声での報告を頼む。下がって良いぞ」

(ふふふ、少々時間がかかったが、漸くか…次の報告が楽しみだ…)

***

(つむぎに事情を聞いたものの、事実に混乱した長道は対処法が思い浮かばず、
 その後、あから様に2人を避け始めます。…状況に業を煮やした纈は、再び長道に挑みます)

「谷風さん!何故私を避けようとするんです!
 私の事嫌いなんですか?嫌なら嫌って、そう言ってください!…お願いですから…」

「…」

「どうしてそこで黙っちゃうんですか?
 お願いです、迷惑なら迷惑だって、ちゃんと言ってください…。」

「俺がっ…そんな事言える訳ないだろう…っ」

「イザナも私も、貴方が命を賭けて戦って、勝利したからこそ、今ここに居るんですよ?
 …私、水城に居たから、全部知ってるんですよ…かなたとの戦いの事も、
 その後のつむぎとのやり取りの事も。」

「…っ!?」

「あの時谷風さんはこう言ってくれましたよね?
 『俺個人の願望で皆を危険に晒す気はない』って。
 すごく格好良かったですよ。私、谷風さんの事がもっと好きになりました。

 谷風さんの『皆』の中に、私やイザナは入っていないんですか?
 私達は、ガウナみたいな、倒すしかない敵、…なんですか?

 つむぎも最後に言ってました。
 谷風さんは自分だけじゃなく、みんなの希望なんだって。

 その中には私やイザナも間違いなく入ってますよ?
 私たち3人は親友だし、その証拠に、この件にも快く承諾してくれました。

 あの時の言葉が嘘じゃないってなら、私たちの希望くらい、言わせてくれませんか?

 …だから、お願いです。
 私達の話を聞いて、気持ちを理解して、その上で答えてください。

 …じゃないと、私…」 <うつむく纈

「…分かった。俺、今まで誰かの気持ちなんて、考えた事なくて、今は何も答えられない。
 …とりあえず、考える時間をくれないか?」

「分かりました。今日の所はこれで良しとします。
 私も、こう見えて、つむぎみたいな聞き分けの良い女を目指してるんですよ?

 …でも、半端な答えだけはしないでくださいね?約束ですよ?」 <満面の笑み、だが何故か有無を言わせぬオーラが…

「あ、ああ、…わかった、善処する」

(…とは言ったものの、マズイ、…不味いぞ…何にも思い浮かばん…)

***

(…?はて、何か違和感があるが…何だ?)

「艦長、如何なさいました?何かお聞き苦しい点でも?」

「いや、何でも無い。ご苦労であった、落合。引き続きこの調子で頼む。下がって良いぞ」

(…そうか、言葉の端々に好意を潜ませておるが、谷風にはまるで伝わっておらぬのだ。
 これでは先の時と同様、何も伝えておらぬのも同然、ではないか…。

 …いやはや、緑川も不遇よな。
 だが、逃げの一手だった谷風が漸く、話を聞く様になっただけでも良し、とすべきあろうな…)

***

(対人スキルや経験がまるでない谷風は、考えを巡らせるも、断る口実が思い浮かばず、
 とりあえず適当な言い訳で誤魔化す作戦に出る訳ですが…)

「何で俺なの、俺よりもっと良い男なんて、一杯居ると思うよ。
 …ほら、例えば海苔夫、…とk(s」

(長道が言い切る前に纈が即反応)
「何でそこで海苔夫の名前が出てくるんです!相っ変わらずの鈍感力ですね!
 アイツは顔だけの男ですよ!継衛の件は許しましたけど、改心したなんて、私は信じてませんからね!
 ご存知ないんですか!アイツの実家、岐神開発はもうシドニアに存在しません。
 アイツの家は今や訓練生の寮の隣、一般兵舎です!ヒ山さんは寮母兼アイツの監視役です!

 アイツが谷風さんにしてきた事はもう忘れちゃいました?私は忘れてませんよ!
 アイツは私の命令を無視して星白を無駄死にさせた上に、責任を谷風さんになすり付け、重症まで負わせた。
 アイツあの後、リーダーのクセにTVにまで出て、偉そうな事言ってましたよ?
 良くそんな事、いけしゃしゃあと言えたもんです、反吐が出ましたよ。
 偉そうな事言ってた割に、紅天蛾(ベニスズメ)の前じゃアッサリ腰砕けになって、
 恥も外聞もなく、泣き叫びながら敵前逃亡しやがったんですよ?

 :現代の軍隊でもこれををやると、命令違反も加えて即銃殺刑モノ、表向きは戦死扱いですがっ。
  TVシリーズ1期冒頭、最初の遭遇戦闘が好例、前線でのパニックは、そのまま戦線の崩壊に繋がるからです。
  作中では、ここで長道がたった一人で踏ん張ってくれたお蔭で、救援が間に合った展開に至りますが…。
  それが出来ていなかったら、戦線を突破したガウナは迎撃準備が整う前のシドニアに到達し、
  シドニアは沈まないにせよ、かなりの被害を被る可能性だって有った訳で…ここまで説明すれば、ご理解いただけるかと)

 仮にもシドニアの騎士を自称したんです、その覚悟が有るんなら、刺し違えてでも勝て、って話でしょ?
 谷風さんは違いましたよね?絶望的な状況でも諦めずに、最後まで戦って、勝利してくれました。それも2度。

 分かりますか?アイツは口だけの根性ナシだ、って事を自ら宣伝したんですよ。
 いい気味でしたね、アイツの腐った性根をへし折ってくれた紅天蛾に、お礼を言いたい気分でしたよ?
 アイツは我欲に駆られて大切な仲間を見殺しにしたってのに、
 その意味も重さもまるで分かっちゃいなかった、ヘタレの大馬鹿ゴミカスクズ野郎です。

 操縦技術だって、そこらの操縦士よりは確かに上手いかもですけど、谷風さんの足元にも及びませんよ、あんな奴。
 継衛改の戦闘データ見てますか?
 アイツ、格好良く出撃してったくせに、追い詰められてましたよ?継衛の名が泣く、ってもんです。
 それも知性体とは言え、紅天蛾より遥かに弱っちいガウナに、ですよ?
 なんで刺し違えてくれなかったんだ、って今でも思ってますよ?
 そうしてくれてたら私、その後のアイツへの処分で、頭を悩ます必要だって無かったわけですし。

 そんなヘタッピ操縦士に私が惚れるとでも?私の事ナメ過ぎです。
 谷風さんはあの伝説の騎士、斎藤さんをも上回る操縦士なんですよ?
 それ以上の人なんて何処に居るんですか?居たら私に紹介してくださいよ、会うくらいはしてあげますから。

 他にも有りますが、とにかくそれら諸々の罪を償って貰うんですよ、アイツの一生をかけてでもね!
 意識とか記憶が継承できるなら、クローン再生してでも、引き続き償わせます。
 そんな訳で私はアイツのことが大大大っ嫌いなんです。

 嫌いなやつの事、好きになれと?
 谷風さんはつむぎを顔で選んだんですか?違うでしょう?
 だって今の星白さんソックリな顔立ちのつむぎになる前、融合個体だった頃から好き合ってたじゃないですか?
 …私だって、顔で選んでいる訳じゃないんですよ?そこをちゃんと理解しておいてください!
 なんでそんなに無神経なんです!そんなんじゃ、つむぎだっていつか私みたいにキレr」

(余りのアレっぷりに暫し圧倒されるも、流石の長道も宥めに入る)

「ゴメン!、本当にごめん…きょ、今日はもうここまでにしよう?
 ほら、人が集まって来ちゃったし、話はまた今度、ちゃんと聞かせてもらうからさ…ね?」

「…約束ですよ?」 <また会う口実が出来たので、少し機嫌が治った纈

***

「ぷっ!…くっ、…こっ、これは…」 <しばし肩を揺らす艦長

「いかがされました、艦長。…やはりお耳に入れる内容では有りませんでしたか、申し訳ございません」

「…くっ、あ、いや、そうではない。
 でかしたぞ落合、今回のは快心の報告であった、礼を言う。

 …落合、決めたぞ。前から見所が有ると思っておったが、想像以上だ。
 気に入った、私は緑川を第29代艦長にする。」

「…ッ!ご決断は尊重いたしますが、宜しいのですか?
 私には岐神絡みの処置について、私情を挟んだ、と明言している様に聞こえるのですが、
 そのような者を艦長に据えた場合、私情に駆られた決断をしてしまうのでは?」

「ふむ。その心配は当然だが、無用で有ろうよ。
 あの一連の処置については、緑川の進言を私が許可したものだが、
 動機が私怨に基づくにせよ、内容はシドニアの者達、皆が納得できるものであった事は事実だ。
 だからこそ、私もその見事な内容と効果に納得し、許可した。
 その証拠に、岐神海苔夫も海薀も現状を受け入れておるであろう?
 周囲の者達からも不満は一切漏れておらぬ。

 それにな、本当に私怨が残っているというなら、私経由でお前を使い、
 あの二人を闇に葬る事とて可能なのだぞ?事故死に見せかける程度、た易かろう。
 それが未だ成されておらぬという事は…そんなモノは存在しないも同然なのだ。

 要するに、緑川は指揮官としての立場、つまり公人としての自分と、
 私人としての自分をちゃんと区別できている、という事だ。

 緑川がその後、私に提示してきた改革案や提言案は実に見事なものだったぞ?
 私では考えが及ばなかった、これからのシドニアを見据えた素晴らしい案だった。
 あの者は自らの経験や感覚を基にしながらも、皆の事を考慮し、未来を見据えた行動が出来る人間だ。
 そんな者こそ、これからのシドニアを、未来と希望を託すに相応しい人間だとは思わんか?

 私は生き残るため、勝つためだけに、実に沢山のモノを切り捨て、
 有用なモノは多少の危険など顧みず、何でも利用する決断をしてきた。
 これからは違うし、緑川は私が切り捨てた、全てを拾い上げる覚悟すらある、と私は見ている。
 それ故に、私は緑川にシドニアの希望を託したいのだよ…。

 責められるべきは…そう、胸の内の奥深く、厳重に仕舞っておいた鬱憤の封印を、
 たった一言で、これ以上ない、という最悪の状態で解き放った、谷風の方だな。
 緑川の指摘通り、無神経にも程が有ろう。有る意味、見事と言うべきだが。

 谷風の前では緑川とて、ただの恋する女。つまりは私人だ。
 愛する男に、嫌悪してやまぬ男を勧められたのだぞ?逆鱗、とは当にこの事だ。
 谷風は緑川の事を、つまりは女心の何たるかを、まるで理解しておらぬ事を自ら暴露したのだ。
 それで激怒せぬ者など、居るまいて…。

 しかし、緑川といい科戸瀬といい、難儀な男を好きになったものよな…

 …だが、これで少し状況が変わった。次からは色々と動き出すぞ?」

「は?私には分かりかねますが…」

「うむ。以前は対応が分からず、逃げの一手であった谷風は、漸く観念して話を聞く方へと方針を変えた。
 だが、適当で曖昧な答えでは、此度の様に完膚なきまでに論破されかねんし、
 白羽衣もこの計画に賛同している事が分かっている以上、自分だけ逃げる、という選択肢は既に無い。
 …即ち、谷風が次に取れる選択は余り残っておらぬ、という事だ。

 さて、谷風は自力で取るべき選択に気付くかな…いや、保険はかけておくべきか…」

 (しかし今回は実に痛快で有ったな…斎藤が小娘に狼狽える様が目に浮かぶ様だ…
 腹の底から笑うような感覚なぞ、一体いつぶり、…なのだろうな…)

***

(はぁ、何とか切り抜けたとはいえ、状況は更に悪くなってる、よな…。
 俺じゃ良い断りの理由なんて、思い浮かばないよな…やっぱり。

 …そうだ、誰か他の人に相談してみるのは…
 海苔夫は…ダメだ、バレたら今回の二の舞だ、
 弦打さんは…こっちもダメだな、あの人の雰囲気からして、受け入れる方を勧められかねん…。
 サマリさん…そういえば昔連絡先貰ったような気が…どこやった…。
 仄姉妹…ダメだ、あいつらいつも一緒に居るせいで、未だにどっちが焔か煉か区別付かないし…。
 他の連中にバレたら、更に話がややこしくなりかねない気がする…っ。
 ヒ山さん、…寮には人目も有るし、連れ出すにもあの人、目立ちすぎる…。
 艦長は…そういえば俺の後見人だってのに、俺、連絡先も居場所も知らないや…。
 …後、相談に乗ってくれそうな人は…微妙に気が乗らないけど、あの人しかいないか…)

***

「あら、いらっしゃい。遅かったわね、待ちくたびれちゃったわ。
 私、谷風君が来るのを、ずっと待ってたのよ?」

「…もしやとは思いましたが、博士は俺がここに来た理由をご存知なんですか?
 まだ何も言ってないんですが…」

「その通りよ。貴方はつむぎちゃんの事も有って、とにかく断る方法を考えているって。
 そして色々試したけど、全部失敗して、どうするべきか分からなくなって、ここへ来た。そうよね?」

「はい、その通りです…」

「起こってしまった事はもう変えられないし、一度決まった事をひっくり返すには大変な力がいるわ。
 ただ抗うにも、相応の覚悟とか時間が必要なの。それは分かる?」

「…はい。なんとなくですが…」

「貴方はまず、誰かの事を考える前に、自分の事をちゃんと理解する方が先ね。

 …谷風君、思い出して。
 貴方がつむぎちゃんに初めて会った時の事。
 友達付き合いが始まった頃の時とか、一緒に暮らし始めた時の事とか。
 一緒に戦い続けた日々の事とか。
 つむぎちゃんが抱えてた悩みを理解し、全部肯定して受け入れた、告白の日の事を。
 死に別れになってしまった時の事とか、その後の悲しい日々の事を。
 再会の時に抱いた、気持ちの事とか。

 ねえ、谷風君。
 人を好きになるのって、理屈じゃない、って言ったのは貴方なのよ、覚えてる?
 そこに相手の都合なんて存在しないの。気付いてから考えるものなの。

 それを踏まえた上で、あの子たちに向き合ってあげて?
 時間はかかると思うけど、逃げたり言い訳ばかりじゃ、何も解決しないわよ?

 …私からのアドバイスはそれだけ。

 結論は強制しないし、するべきじゃない。
 安易な答えはいずれ破綻するし、
 ただ与えられただけの幸せには、大した価値は無いもの。

 これは谷風君が自分で考え、悩み、答えを出すべきものなの。

 だからまずは、あの子たちの想いをちゃんと受け止める事。
 分からないなら、どんどん聞いてあげて?

 …それくらいは、出来るわよね?」

「…はい、今の俺に出来る事を、俺なりに精一杯、やってみます」

「まあ、取りあえずは合格ね。…そろそろつむぎちゃんの所に帰らなくていいの?」

「…あっ!、はっ、はい、…失礼します!」

(…正直、不安しかないけど、私が出来るのは…まあ、ここまでかな…)

***

「長道、久しぶり。…少しはボクの話、聞く気になってくれた?」

「ああ、今日はそのつもりで来たし、最後まで付き合うよ。
 そういえば最初の頃から今まで、あんまり会っていない様な気がするんだけど…聞いても良いか?」

「あはは…実はボク、あの後纈に説教されててね…
 『アンタに任せといたらラチが明かないから、状況が整うまで、今は大人しくしてなさい!』って。
 …あ、今の本人の前で言ったらダメだよ、雷が落ちかねないから。」

「ああ、それは既に経験してしてるから、…安心してくれ」 <かなり真剣な顔

「ありがとう。…長道、ちょっとは気が利くようになったね、…そこは纈とつむぎに感謝、…かな。
 長くなりそうだし、移動しよっか?」

「そうだな…」

***

「…ねぇ、長道。最初に出会った頃のこと、覚えてる?
 星白と一緒に声かけたのにさ、長道はボクのこと覚えてなかったんだよね…地味にショックだったよ…

 思えば長道はあの頃から星白の事気にかけてて、
 そこからつむぎに繋がっていった様な気がするんだよね…確証はないけど。」

「…ッ!…そうかもしれないな…」

「ボクさ、中性って事も有って、訓練生の中でも浮いてたんだよね…。
 その後にも話したけど、戦いたくて訓練生になった訳じゃなかったし、
 たまたま素質が有る、って理由だけで連れて来られただけだったしね…。

 長道を初めて見た時、ボクの周りに居る人たちとはまるで違う、って事はすぐ分かった。
 この人はボクと同じで、周りと馴染めない人なんじゃないかって。
 だから、ボクとも友達になれるんじゃないかなって、そう思って声をかけたんだと思う。

 あの後は本当に色んな事が有ったよね…
 星白が戦死して長道も重症だった時、心配だったから目覚めるまでずっと側にいたよね…ボク。
 たぶん、長道の事を意識し始めたのは、あの頃からだったんじゃないかな、って。

 そんな日々が続いた後にさ、ボク、いつの間にか女になっちゃってて…
 その頃のボクは長道への気持ちなんて気付いてなかったし、
 とりあえずどう説明するか、ってだけで一杯一杯だったんだよね…

 そんな時だよ、長道が家に転がり込んできたのって。

 …わかる?どうしたもんか、と考えてる相手本人が突然現れる状況。
 何にも決めてないのに、状況だけが進展している状態。

 そんな事情なんてお構いなしで、普段通りに接してくるわ、事故とは言え…その…」

「あっ!いや、あの時は…その、本当にごめん…」

「あの時の事なら、いいよ。もう怒って無いし、良い切っ掛けをくれた、と今では思ってる。
 ボクはあの頃から、長道を男の子と見る様になってた、と思うんだけど、
 ボクは自分の事なのに良く分かって無くて、
 それが恋だとか、好きだなんて、考える余裕すらなかったんだよね…。

 覚えてるでしょ?そもそもの原因というか、つむぎがボクに会いに来てて、ごそごそやってた事。
 ボク、あの子に圧倒されて、自分と向き合う余裕なんて無かった訳だしね…。

 そうこうする内にあの子はグイグイ長道に迫ってて、長道、何だかんだでデレデレだったじゃない?
 気付いてないとでも思ってた?傍目にはイチャ付いている様にしか見えなかったよ?
 ボク、あの頃は自分の気持ちに気が付いてなかったから、
 自分が嫉妬してるなんて、まるで気付かずに、ただただ長道に当たり散らしちゃったよね…。

 あの後嬉しかったんだよ?ちゃんとボクの事も見ていてくれてる事、言ってくれたの。
 あの時は本当にごめんね?
 ボク、長道が何しに千秋郷まで連れて来たんだか全然分からなったし、
 おば…の差し金だって気付いた時、二人して私の事、何からかってんだ!
 って、長道の事殴っちゃったし…。

 そのすぐ後の、第九惑星の時は本当にありがとうね…
 長道が来てくれなかったら…間違いなくボク…」

「いや、あの時の事は俺からも礼を言わせてくれ。
 イザナが機転を利かせてくれなかったら、間違いなく俺は…」

「――そこまで。
 長道はシドニアの騎士なんだし、ボクだけの騎士じゃない。
 すごく格好良かったよ?今思い出しても、改めて惚れそうなくらいだった。

 …でもさ、最後はアレだったよ?
 『重くないですか?』 『全然。』…ってさぁ…。

 …あのさ、あの時継衛には隊長と私もいたんだし、つむぎの中には海薀だって居たんだよ?
 人目も憚らずにそんな事されちゃあさ、邪魔する気なんて起きると思う?」

「…あっ!…そ、そうだったよな…俺、皆の前でなんて事を…っ!」

「あははっ!今頃気付いたんだ、長道って本当に周りが見えてないよね…。
 まあ、あの件を切っ掛けに、ボクはつむぎの事を応援しよう、って決めた。

 …でも、そうじゃなかったんだよね…。

 距離を置いた事で、ボクには自分を見直す余裕が出来た。
 そこでやっと気づいたんだよね…ボクが誰のために女なったのか、とか、
 どんな切っ掛けで長道の事を気に留め、好きになっていったのか、って。

 それでも一度決めた事だし、長道とつむぎの事見守ろう、って決めて過ごしてきた。

 でもさ、最後の戦いでつむぎが戦死した、って聞いた時はすごくショックだったよ?

 なんであんな良い子が死ななきゃいけないの?
 あの子が幸せになれなきゃ、長道を諦めたボクはどうすればいいの?
 寧ろ死ぬべきは、長道に必要とされていない、ボクの方じゃなかったの?
 ボクと一緒に身を引いてくれた、纈はどうすればいいの?

 …って、ずっと考えてた。

 そんな時、おば…ユレ博士から連絡が有ったんだ。

 『つむぎを再生する事が出来るかもしれない』って。
 ボク、藁にもすがる思いでお手伝いに行ったよ?
 それが出来るなら何でもする、ってくらいの気持ちで。

 その時、こうも言われたんだ。
 『多分肉体は問題なく再生できると思うけど、心まで完全に再生出来るかどうかは分からない。
  だから、貴方と纈ちゃんの記憶の中に有る、つむぎちゃんの記憶をありったけ注いでほしいの。
  それとこの件は谷風君には内緒。状況が確定するまで絶対に秘密。
  希望が有るって伝えたいでしょうけど、絶対に我慢して。変に期待させる訳にはいかないから』…って。」

「――ッ!…そんな事が…
 …いや、ちょっと待て。何か大事な事が抜けている様な気がするんだが?…もしかして…」

「やっと察せられる様になって来たよね、いい傾向だと思うよ、長道。
 その、気になった事はちゃんと、本人の口から言わせてあげてね?
 仮に知っていたとしても、ボクからは絶対に言わないから。」

「どうして、今迄その事黙ってた?
 いや、つむぎの事をタテにして、言う事を聞かせる事だって、できた筈じゃ…」

「長道はやっぱ、まだまだボク達の事、理解できてないよね…。

 …例えばさ、星白と岐神海苔夫が相思相愛だったとして、長道は星白の事、諦められた?
 その後、どちらかの弱みとか握っちゃったとして、それを材料に、別れろ、…とか言える?
 出来る筈ないよね、だって長道だもん…」

「うっ!…確かに、その通りだな、俺にそんな事は出来ない…。」

「でしょ?ボク達も同じ。つむぎだって同じ気持ちなんだよ?」

「つむぎも?いや、あいつはこの件に関して黙秘しているし、
 最初の時は『許可してますが、それが何か?』…だったし…」

(凄いね…子育てで忙しいとはいえ、ちゃんと纈の言いつけ守ってるんだ…
 …でも、そろそろじれて飛び出して来そうだよね…)

「…という所でボクのお話はここまで。

 長道はさ、ここまでお話して、ボクの気持ちがどんな風に変わっていって、
 こうして諦めきれずに告白するまでになったか、理解できた?」

「ああ…ありがとうな、こんな俺を好きになってくれて。
 イザナの希望は多分今後も叶えてやれないとは思うけど、俺達の絆は揺るぎやしない。
 だから、これからも折りにつけて話をさせてくれ。寧ろ俺の方から頼みたいくらいだ。

 …それで、いいんんだな?」

「うん、それでいい。
 …そうだ、ボクにも新しい目標が出来たんだよ?聞いてくれる?」

「おう、頼む」

「えっとね、岐神開発の事は知ってる?
 ボクとユレ博士とで引き継いでいるんだけど、仕事の内容はさ、今までとはちょっと違うんだ。

 纈の勧めも有ってね、そこでは皆の平和を守るための技術を研究するの。
 例えば居住区の重力異常を低減する技術とか、無くせる様な技術とか。

 …どう?素敵な技術でしょ?
 長道がこの先シドニアから居なくなったとしても、皆を守っていける力。
 ガウナを倒す為の兵器とか、戦う力じゃなくて、守る力。」

「ああ、凄いな…イザナなら出来るんじゃないか、頑張れよ、応援してる」

「うん、うん、…長道、そっちこそありがとうね、大好きだよ」 <満面の笑み

(ぐっ、これは…この後の事とか、つむぎの事が無かったら、正直ヤバかったかも…っ!)

***

(惑星セブン、開発が進む町に近い何処か)

「…その様子ですと、イザナとはうまく和解できたみたいですね?
 ですが覚悟してくださいね?私は谷風さんの事をずっと見続けて、今日まで来たんですし、
 どれだけ私の想いが深いのか、これから身をもって教えてあげますからっ。」

「…お。おう。なるべくお手やわらかに、な?」

「ふふっ。じゃあ、場所を変えましょうか?」

(そして町を見下ろす、小高い丘の上に移動してきた二人)

「う~ん、やっぱりシドニアとは全然違いますね…空が何処までも高いし、
 地面だって何処までも続いていますし、風が気持ち良いです…。

 …ね。谷風さん、私が最初に挨拶しに来た時の事、覚えてます?」

「ああ、そうだ…。確か、最初にガウナを倒した後、『兄の敵を討ってくれてありがとう』だったか…
 …いや、重力祭の時に、赤井さん達との話に割り込んできたのが最初、だったな…。
 出雲さんとも、…もっと、話がしたかったな…」

「嬉しいです。兄の事も、ちゃんと覚えていてくれて。
 そうですね、私は兄の影響を受けたせいで、衛人に憧れていたんです。
 居住区に飾ってあった、継衛の前で悦に入ってたりとか、そんな女の子でした。

 長じてからはプラモを買い漁り、それを眺めながら、自分が操縦士になる事を夢見ていました…」

「…スマン、腰を折る様で何だが、『プラモ』って?
 俺、全然知らないんだけど、ちょっと教えてくれないか?」

「――あっ!ごめんなさい、今の忘れてくださいっ!」

「いや、そんな事言われると余計に気になるぞ。
 別に気にしないし、それで嫌ったりする事は無いと思うけど…」

「…本当ですか?
 じゃあ、話を続けますけど、プラモってのは、衛人やそれに付随する武器とか機械を、
 大体20センチくらいの大きさに縮小した、おもちゃの総称です。

 材質は改造とかがし易い様、本物とは違って、樹脂でできています。
 箱の中にはバラバラになった部品が入っていて、買った人が整備士さながらに、組み立てるんですよ…。
 人によっては更に色を塗り替えたり、肩のマーキングを書き換えたりするんですけどね…」

 (注:ガチ勢なので、当然纈もやってます。具体的には、自分仕様の架空マーキングを施した、一八式とか一九式が完成しており、
 継衛と2機掌位のポーズで飾ってある…かも)


「へぇ、そんなのが…どんなのが有るの?」

「衛人に関しては、ほぼ全ての型式が有るんじゃないですかね…。
 今の人気商品は当然ですが劫衛、
 なんせあの戦いを終結に導いた衛人ですからね…。当然です。 <何故か自慢げな纈

 それ以前の人気商品は断トツで継衛ですね。
 あまりの人気ぶりに、マーキング違いも沢山出ていて、それはもう大人気です。
 具体的には、初撃破時仕様とか、『改』も『改二』も出ました。
 更に、第九惑星戦役時の功績を称え、勲章授与式にも同席した、
 …という仮設定で起こされた、式典専用バージョンなんかも出ました。

 (海苔夫仕様機も出ましたが、討伐実績はこの時点でもゼロで、それ故ダントツの不人気。
 投げ売り・抱き合わせ商法も実らず、ワゴン行き…結局メーカ返品になって、
 デカール・箱替えで通常仕様に戻り、再販扱いになった、という裏設定が…。
 言うまでも無く、纈は海苔夫仕様以外の継衛を、それぞれ保存用・鑑賞用・布教用、或は改造用にと、
 …多数買い込んでいます、何かどっかで聞いたような…。)


 私、買う時にお店で見たんですけど、皆嬉々として買い求めてて、
 何かもう、自分の事みたいに誇らしかったですね…」

「えっ、何か俺の衛人ばっかりな気がするけど…。のr…あ、そこはいいか…
 (海苔夫仕様の事も、一瞬聞こうと思ったものの、本能的に回避)。

 …ところでその口ぶりから察するに、纈も何個か作ってる、って事で良いんだよな?
 何かちょっと興味湧いてきたし、今度家に行くから、見せてくれないか?」

「えっ?…えええっ!?良いんですかっっ!!
 だっ、だって、一緒に住んでた頃だって、私の部屋に、その…
 一度も来てくれなかったじゃないですか…」

「あ、ああ、…いや、そういえばそうだったな…。
 ほら、いつだったか、つむぎが出入り禁止、とか怒られてただろ?
 …それ、聞こえちゃったんだよね…俺、ガサツで不器用だし、君子危うきに近寄らず、って感じでさ…」

「…」 <放心状態の纈

「…どうした纈、やっぱり俺、無神経だったかな?
 教えてくれ纈、気に入らない事が有ったなら、ちゃんと…」

「あっ、いえいえいえ!そんなんじゃないんです!
 そこは寧ろ、私が谷風さんの事分かっていなかったと言うか、
 ああもう、あの頃の私に、言ってやりたい気分ですよ…もう…

 (そうだ、この人は融合個体だった頃のつむぎに告白して見せた人なんだし、
 プラモ位、なんてことない、って受け入れてくれる人なんだよね…
 私、バカみたい…自分で勝手に決めつけちゃってた…)」

「そうか、なら良かった。話、続けて?」

***

「…そうですね、私、谷風さんの前に現れる前、継衛の戦闘記録を見たんです。
 資源採掘の任務に出た時、ガウナが現れたのは覚えてますよね?あの時の記録です。

 私、興味が有ったんですよ。
 カビザシも持っていないのに、たった1機でガウナの猛攻を凌いで戦線を維持したんですよ?
 如何に継衛の能力が凄いにしても、考えられない事態でした。
 そのお蔭でシドニアには被害が及びませんでしたし、一体誰が乗っていたんだろう、って。

 私、あの頃は司令補じゃありませんでしたけど、コッソリ見させてもらいました。
 …凄い、こんな事が出来る人が居るんだって、ゾクゾクしました。
 出来れば直近で見ていたいし、この人と一緒に戦いたい、とも思いました。

 あの後私は司令部勤務になって一緒に…というのは無くなってしまいましたが、
 却って良かった、って今は思ってます。

 だって、操縦士だったら、任務によっては一緒に居れないかもじゃないですか?
 でも、司令部では全ての衛人の戦いをチェックできますし、
 谷風さんの戦いぶりを、ずっと見守る事だって出来るんですよ?

 本当に、幸せな日々でした…。
 戦闘が終わる度、谷風さんが勝利を収める度、
 帰宅した私は継衛のプラモを眺めたり、手に取って振り回しつつ、
 谷風さんの戦いぶりを反芻して、悦に入ったり、してました…。

 そんな時に気付きました。やっぱりこの人はただ者じゃないって。
 後ろに目が付いているんじゃないか、って錯覚する程の動きとか、
 初見の攻撃を躱して見せたりとか、数秒先の未来が見えてるんじゃないか、って思う位。
 憧れが、どんどん膨らんでいってたんですよね…あの頃の私。

 惜しむらくは、私の立場的なものも有って、中々ご本人とお話する機会が無い、って事なんですが。

 戦時下の宣言が出たのは幸いでした。
 それを口実に、一緒に暮らす事が出来たんですよ?
 …これでやっと、私も仕事以外でお話しできる、って喜んでました。

 でも、実際は違いました。
 私の最大のライバルであろう、と思っていたイザナはつむぎに遠慮する形で一歩身を引き、
 色々と相談に乗っていたりするうちに、あっという間につむぎは谷風さんと良い感じになりました…

 あの頃の私は、簡単に考えていたんでしょうね。
 近くに居さえすれば、谷風さんが気にかけてくれるだろうって。
 それに私には負い目が有りました。

 …だってほら、私、女なのに女の子らしい趣味なんて持ってないし、
 後から女になったイザナに比べて、随分と貧相な体してたんだな、って。
 おまけに私は操縦士達を死地に向かわせる役目、皆に恨まれたってしょうがない役目を負っています。

 それに私、谷風さんならやってくれるとか、谷風さんならこの状況をひっくり返してくれるとか、
 そんな危険な任務ばかり押し付けてたんですよ…。

 特に第九惑星の時なんて、谷風さんを囮にしたんですよ?
 上手く行ったから良い様なものの、本当にギリギリでしたし、
 後で戦闘記録見た時、私、…
 …谷風さんにどうやって謝ればいいんだろう、ってずっと悩んでましたよ…。

 恨まれたって仕方がない位の事をしてるんです、私。
 それも一度や二度じゃなく、殆ど毎回。

 …それで私の事好きになってくれなんて、言える訳が無いじゃないですか…」

「…そっか、纈はそんな事気にしてたのか、大した事ないんじゃないか?
 いや、小さいとか言ってるわけじゃないぞ?

 まあ、確かにギリギリだったけど、みんな無事だったし、
 惑星上に残っていたガウナを、一気に殲滅できたのは事実だ。
 本来なら、あの戦いの後も掃討作戦が延々と続いたかも知れないし、そこは寧ろ誇っていいと思うぞ?
 後で聞いたけど、艦長も纈の事、絶賛してたそうじゃないか、なら堂々と誇ればいい。

 それに、俺はシドニアの騎士だ。他の人より優れた能力が有るってんなら、それを最大限に生かして勝利する。
 むしろ最前線で、常にガウナと戦い続けさせてくれた事に、お礼を言いたい位なんだが?

 俺は戦う事しか能が無い人間だし、それがシドニアの皆の役に立つってのなら、
 俺は全力で戦い続ける、それだけだ」

「――っ!そうですね、有難うございます…。

 谷風さん、貴方はやっぱり、私の想像なんて軽く超えてしまう程の、
 …強くて、素敵で、格好良い、最っ高の、シドニアの騎士です…っ!」

「ほめ過ぎだ。…まだ続くんだろ?最後まで付き合うぞ?」

「はい!!」

***

「…そうですね、皆と一緒に暮らし始めた頃は、私、全然気付きもしなかったんですけど、
 知っての通り、つむぎは自分の負い目などまるで無いかの様に谷風さんにアピールし続け、
 やがて誰がどう見たって、二人の間には割り込めない雰囲気が出来ていました。

 それでイザナとも相談して、あの家を出る事にしたんですよね…辛かったです。

 まごまごしている内に終わっちゃったって。
 恋敵の邪魔をしようとしただけで、結局何も出来ずに終わっちゃったって。
 私の気持ちなんて欠片も伝えられず、終わっちゃったんだなって。

 でも指令として、谷風さんの戦いはずっと見ていられるんだから、
 それで我慢しようって、決めていた筈なんです…っ!

 そう決めて、その後の日々を過ごしていたんです…でも!

 あの日、かなたとの戦いとか、その後のつむぎとのやり取りだって、
 全部、水城から見てたんですよ?

 かなたとの戦いはやっぱり凄かったです…。
 それはもう、忘れようとしていた気持ちを改めて思い出すくらいに。

 でもそのすぐ後、谷風さんが死ぬつもりでいたって分かって、私、気が狂いそうでした!
 誰か救援に行かせたくても、劫衛以上の衛人なんてないし、
 私、何とかしたくても何にも思いつかなくて、ただただ見ているしか出来ませんでした!

 そんな時に、つむぎは重症の体をおして飛び出していったんですよ…
 あの子なら、もしかしたら…って、生まれて初めて、天に祈りました…。

 その先は良くご存知ですよね?
 つむぎは自分を犠牲にして、谷風さんを救ってみせました。
 …それも、『幸せです』なんて捨て台詞まで残して。
 格好良すぎじゃないですか…あの子。

 子供の頃読んだ、少年漫画の熱血主人公みたいなセリフ、
 現実の戦場で言ってのけるなんて、凄すぎでしたよ…。

 私にあんな事出来る力は有りませんし、もし有ったとしても、躊躇したんじゃないかって。
 あの子はそんな迷いなど一切も無く、ただ谷風さんの為だけに、命を捨てて見せました。

 …私、指揮所で考えてました。
 あんな事できないって。涙をこらえるのに必死でしたよ?

 劫衛が戻ってきた時のこと覚えてます?
 あの時谷風さん、私には目もくれずに、どっかへ行ってしまいました…。

 ちょっとは期待してたんですよ?
 無理かもしれないけど、もしかしたら、私でも谷風さんの支えになれるんじゃないかって。

 …でも、現実は残酷でした…。

 私じゃ、やっぱりダメなんだって。
 私じゃ、つむぎの代わりなんて無理なんだって。
 あんな辛そうにしている谷風さんを救ってあげられるのは、つむぎしか居ないんだって。

 私、谷風さんを追いかける事も出来ず、指揮所に戻る事も出来なくて、
 ただただ、劫衛のシートにうずくまって、泣いてました…。
 谷風さんを見ていられるだけで良いから、って諦めたのに、
 それすら、もう無理になっちゃったし、これからどうすれば良いんだろう、って。

 そうやって泣いて…泣き疲れた時、ふと顔を上げたんです。
 そしたら、見えたんですよ、ハッチの縁に残っていた、つむぎのかけらが。

 私、必死になって集めましたよ?
 恋敵、それも、これ以上ない形で谷風さんの心を奪い去った子なのに、
 どうしてもそうせずには居られなかった。

 後で医療班も呼んで他にも無いか、とかき集め、
 集めた欠片を培養容器に保管し、シドニアに戻った時、報告にも行かず、
 急いでユレ博士の所へ向かいました。

 私、必死だったんで、あんまり覚えてないんですけど、こんな事言った気がします。

 『谷風さんを救ってあげられるのは、つむぎだけなんです!
  シドニアの希望である谷風さん自身に、
  未来と希望を与えられるのは、この子しか居ないから!』


 …だったかな…。もっと並べ立てた気がするんですが…」

「そっか、そんな事が有ったのか…ごめんな、気付いてやれなくて。
 そっか、そうだよな…俺、つむぎと再会した時、
 誰が博士の所につむぎのかけらを持ち込んだか、なんて考えが回らなかった…
 あの時はただ、また会えた事が、ただ嬉しくってな…改めて礼を言わせてくれ。

 それと、水城に戻ってきた時の事は…本当にごめんな…。
 あの時俺、つむぎを目の前で失った事のショックが大きすぎてさ、
 どうやって水城まで戻って来たかも覚えてないし、
 纈が心配して迎えに来てくれてた事なんて、全然気付きもしなかった…
 教えてくれて、ありがとうな…。ひどい事しちまった事、今更だが謝らせてくれ。

 本当に、ありがとう、俺なんかの為に…感謝してもしきれないくらいだ…」

「お礼なんていいんですよ、私は多分、つむぎが許せなかっただけですし。

 …うん、何となく分かってきました。
 私は多分、あの子に嫉妬してたんですよ。

 これ以上ない形で、谷風さんの心を奪い去ったつむぎの事が。
 あの子が死んだことで、私の勝ち目は完全に無くなった事とか、
 そのせいで、皆の希望だった谷風さんがボロボロになってる事が、
 許せなかったんじゃないかな、って。

 私は多分、あの子に文句を言ってやりたかったんじゃないか、って。

 『貴方が一番に守りたかった、谷風さんが泣いているのよ?
 アンタしか谷風さんを救えないのよ、いつまで死んでるつもり?
 勝ち逃げなんて許さない、貴方は私達の谷風さんを奪った女なのよ?
 それなら最後まで責任を持って、谷風さんを幸せにしてあげて?
 私達とアンタが大好きな人を、不幸にするつもり?そんなの絶対許さない!』


 …って感じで、ね。」

「お、…おう、そうか、そうだな、そういう事にしておこうか…はは…」 <迫真の演技に思わずたじろぐ長道

「そうだ。今思いついたんですが、私にも新たな目標が出来ました。
 これからも、折に付け、イザナと私は谷風さんに好意を示し続けるんですが、
 いつか谷風さんに言わせたい言葉が有るんです。…聞きます?」

「何だよ、勿体付けて。…気になるから、サッサと言ってくれ…」

「ふふふ…いいですか、これからも、私達は色々とイザコザを起こすでしょう。
 そんな時に、私の悩みを一言で吹き飛ばしてしまう、魔法の言葉です。

 『そんなの大した事じゃない。
 身長差だって、たったの15センチだ』


 …って。どうですか?」

「ぶっ!…をい、ちょっ、ちょっとまて、…
 …ああいや、つむぎの事だし、知ってるのは当然、だよな…はは…

 …わかった。俺も肚を決めた。
 纈が望む限り、俺もお前の告白に付き合い続ける。…それでいいんだな?

 っていうか、俺と纈の身長差って、そもそもそんなに無いだろう?
 本当に、そんなんで良いのか?」

「ええ!これでいいんです!
 私がつむぎを超える為には、絶対に必要な言葉ですから!」 <満面の笑み

***

やっと終わった…って、よく考えるまでもなく、漸く向き合い始める所で終わってますけどっ(汗。

この部分も公開当初、バッサリ削ったパートで、後になってから書き足した部分なのですが、
当初、長道がとにかく逃げたり適当な事言って、それを纈が論破する展開しか浮かばず、
それらが延々とグルグルしていた訳で…や、多分谷風が鈍すぎるのが悪いんだよ!
…とか考えていたら、それらを一気に吹き飛ばせる、逆ギレ事件を思い付いた次第(→最初に書き上がったパート)。

とは言え、そこに至る道のりすらあまりにも長く、
その後も延々…だったので、こっちが折れるわ、な状況が続きました…。

幕間には再度艦長にご登場いただき、クローン落合との会話の中で、
作中のアレコレを解説・補足させて戴いています。ありがたや…。
…当初はここ、作者のウンチクやら解説やらが有ったのですが、
ちょっと書いてみたら予想以上にツマラなかったので、こういう形になりました(苦笑。

ラストはまあ、シリアスが続くと、当方がまず面白くないというか、
ちょっといい話風に持って行ったはずなのに、どうしてこうなった、とか、
最後の一言で台無しにする展開の方が面白いでしょ、という超個人的好みから捻り出してます。<サイt

(言い訳がましいですが、中盤の方で長道は纈の悩みを「大した事ない」と言っており、
これは、つむぎが長道に告白された例のシーン、そのままの別バージョンな訳ですよ…。
つむぎの性格からして、再生後も、折に付けてノロケ話を、何度も何度も、イザナや纈に延々と聞かせた筈で、
そのセリフを、思いがけず聞いた纈は、卒倒しそうになっているんですよね…。
ならば、纈が次に求めるのは、決めゼリフとも言うべき、アレな訳で…ただ、当の長道はまるで気付いてませんがっ。
纈側からすれば、長道の同情とか贖罪的な方面から気を引く作戦をきっぱりと否定し、そこだけは長道も気付いた、という事で。)

だってさ、これまだスタートラインに立っただけですし、
商業作品ならこの後、つむぎは勿論、仄姉妹も参戦(幼女仄達と長閑が仲良くなり、いつの間にやら全員…)とか、
連絡先渡したのに、一向に連絡も寄越さない長道に焦れた、サマリさんも参戦とか、
果てはあんまり接点が無かった筈の、海薀まで参戦するかも…ですよ?
(他でも書いてますが、シドニアは艦長が全てなので、裁判所は多分存在せず、
従って重婚罪の類は良くて名前だけ、の存在ですから…艦長次第でどうとでもなる訳で…)

や、そんなのそれこそプロの作家さんやらアンソロ本とか、誰かが薄い本でやるでしょ?
…という事にしておいてください(笑。

にしても、ユレ博士、何だかんだで大人ですね…能登さんボイスで当て読みして戴ければと(笑。
あ、勿論他のキャストさんも当て読みしながら書いてましたよ?但し女性キャストのみですがっ。

さて、最後の所で件の問答が無い訳ですが、流れ的に無粋かな…と思って削除していますが、
(艦長の言を借りるにしても、実質は当方の一面的解釈・好みなので、そこは皆様の判断に委ねようか…って)
その代わり、エピローグに再度ご登場いただく事になります…(脂汗。



「あいつむぐほし」妄想プレビュー・そのろく(PART 6/星巡る箱舟・新たなる旅立ち) <ソコカ

<ノーマルエンド風 ~予想通り長道は堅物を貫き通した~>

「結局、ボク達、長道に相手にしてもらえなかったね…」

「…そうね、始める前から分かりきっていた事なんだけど、
 谷風さんの鈍感さとか頑固さは、超構造体超え、の次元だからね…。

 その癖、サラっとこっちの悩みなんて吹き飛ばす殺し文句が出てくるし、
 本当にまあ、つむぎが10年かかってやっと口説いただけの人だわ、
 …って改めて思い知らされたわ…」

「そうだね…最近なんか、つむぎまで一緒になって説得、いや、アレは説教だったね…
 っていうか本当に、色々有ったね…」

「私も本当に色々有ったわよ…。一番最初の時はさ…本当にひどかったわ…。

 あの人、私たちが口にするまで、本当に何にも気付いていなくて、
 その癖、いざ口にしたら即『ごめん、無理』だったしね…
 …色々と諭す暇も与えてくれなくて、
 説明するだけで話が終わっちゃって、心が折れそうになったわ…。

 その後も、やたら避けまくる谷風さんの事を引き留める為に、
 思わせぶりな事を言って気を引いて、やっと話を聞く気になってもらったりとか、…

 …どうせ何か、適当な断りの言い訳とかするだろうな、って思ってて、
 全部論破する積りで色々考えておいたんだけど、
 『流石にこれは言わないだろ』って、私が途中で否定したセリフを、
 イキナリ言ってきた事が有ったわ…カッとなって、何まくしたてたか、よく覚えてないわね…。
 (注:実は思い出すとスイッチが入りそうなので、絶賛封印中)

 その後は割と順調だったのよ?
 あの人、私が抱えてた悩みなんて、『大した事ない』って言ってくれたのよ?
 ほら、そこまで来たら、後は決めゼリフだけでしょう?
 私、舞い上がってたのね、思わず言っちゃったのよ…例のセリフ。

 やっぱ、失敗だったかな…あ、今こうしてる以上、やっぱ失敗か…」

「――ぷっ、あっ、あははは…っ。

 ごめん、笑う積りなんて無かったんだけど、つい…(想像が付いてしまい、暫し思い出し笑い)…

 (少し居住まいを正して)
 …でも、そんな事言い出すなんて、ちゃんと纈なりの理由が有ったんでしょ?

 確かに結果は失敗に終わっているけど、原因はそれじゃない、とボクは思うな…。

 (何となく気付いたんけど、第九惑星の時の例も有るし 多分長道は何かに集中すると、周りが見えなくなるタイプで、
 そうやって凄い力を発揮する反面、そういう時は他の事に気が回らないんだよね…。
 話を聞く事に集中し過ぎて、自分に対する言葉の意味を理解できていないというか…上手く言葉に出来ないや…)


 …纈も本当は、そう言っ切った事に対して、今も当時も、後悔してないんじゃない?」

「勿論よ。変に同情されたりとか、つむぎの件での負い目を気にされても、
 全然私は納得できないし、嬉しくないしね…。
 弱みを握って関係を強要したとしても、誰も幸せにならないし、寧ろ全員不幸になると思うのよ…。
 艦長命令とかで言う事を聞かせるのも、間違いなく全員不幸になるわね…。

 理想中の理想というか、つむぎと同じく、正攻法の手順と行動、その積み上げに基づく合意の上で、
 ちゃんと結ばれたかった所だけど…。こうなってしまった以上は…」

「…?…どういう事?」

「…察しが悪いわね…。いいわ、もう私達はこの恒星系を出るんだし、話しておくわね。
 ユレ博士とつむぎはこの計画に協力してくれたでしょう?
 …で、その伝手で谷風さんのアレがシドニアにも保管してあるの。
 …その先は言わなくても分かるわよね?」

「ええぇぇぇぇぇーーーーーー!
 …いや、それって長道の許可とって…るわけないよね…」

「…そう、だからこその最終手段。
 私はシドニアの指令だし、今は艦長代行でもあるのよ。
 勝てる見込みのない戦いはするべきじゃないし、勝てない場合でも次善の策を用意しておくのが務め。
 …これは、必要な事なのよ。
 シドニアの為、と言いたいけれど、この件に関しては、私と、貴方、…イザナの為でもあるの」

「纈、本当に強くなったわね…色んな意味で」

「…まあね。あの二人には幸せになって欲しい、ってのも本心だけど、
 だからって私自身の幸せまで犠牲にする積りは無いの。
 …私はそれを使い、私と、シドニアの希望を繋いでみようと思う。
 レム恒星系を出て、次の恒星系に着くまでにはまだ何年もかかるし、
 その時間を使って育てるのも良いかな、と思うし。

 …で、イザナはどうする?
 私はあんたを巻き込んだ身だし、つむぎへの義理を立てる、というなら強制はしないわよ?」

「ボクは…」

「…そうね…前にも言ったけど、アンタがもし、千秋郷で素直に谷風さんを受け入れていたら、
 …惑星セブンで谷風さんの隣に居たのはアンタだったかもしれないし、
 今、私の隣に居るのは、同じく恋に破れたつむぎ、…だったかもしれないんだよ…

 …その、『もしも』の可能性の結果が手に入る、としたらアンタはどうする?」

「…そうだね、迷う必要なんてないよね、長道には悪いかもだけど、
 ボク、やっぱり長道の子供は欲しい。
 …でもって、デリカシーも有って気配り上手な、いい男に育てたい…」

「あははは!良い答えだわ、イザナ。
 …でも、生まれてくる子供の性別は多分選べないわよ?
 それに、どっちなんだろう、って考えながら過ごすのだって悪くないと思うよ?」

「あはは…うん、そうだ、そうだよね…」 <なぜか涙ぐむイザナ

「ちょっ、イザナ、アンタ何でまた泣きだしてんの?
 …あんたが泣き出すとさ…その、思い出しちゃうじゃない…
 ああもう、私だって本当は悔しいのよ?あんなに頑張ったのに、
 何回も何回も、私たちは誠意を見せてきたし、それでも私たちは選んでもらえなかったのよ?
 …悔しくない訳ないじゃない!」

「…違うの、纈。…これは、たぶん、うれし涙。
 後悔ばっかりで諦めてばかりの人生だったけど、希望が出来た。
 それが嬉しいの…」

「なら良かった。
 …希望と言えば、もう一つ言っておこうかしら。
 何年先になるかは分からないけど、いつか私たちは消えて、世界の一部になる。
 私も、イザナも、そして谷風さんも、つむぎも。

 …でもね、私たちの子供、そのまた子供達はその後もずっと続いていって、
 遠い未来、別の場所で出会い、友達になり、そして恋をするかもしれない。
 …そんな風に考えたら、何かワクワクしてこない?」

「うん、うん、…そうだね…とっても素敵な事で、ワクワクするね…」

「…でしょう?…それが私たちの希望なのよ?」


俺が異能者、じゃなくて長道だったら絶対こうなったエンド風 ~大方の予想に反して長道が甲斐性を見せた?ケース~>

「おかえり、イザナ。…子供達は落ち着いた?」

「…あ~、それなんだけど、泣き疲れちゃったみたいで、今はぐっすりだね…」

「良かった。3人とも、『ヤダヤダ~』って、言い聞かせるのも大変だったしね…
 まあ、長閑は一人になっちゃうけど、あの二人なら大丈夫でしょ…」

「結局、ボク達はシドニアに残るんだね…」

「まあ、確かに艦長権限とか英雄の特権やらを発動すれば、移住の名分は十分立つんだけどね…。
 私達には、これからのシドニアで、やりたい事が沢山ある訳だし、
 これ以上、あの二人の間に割り込み続けるのも…ねぇ?」

「でも、子供たちはそうでも無かった気がするけど?」

「…そうね、私たちの事情なんかお構いなしで、本当に、いつも一緒で、
 …見ているだけで、なんかこう、胸の奥が、じわじわ~って、あったかくなるのよね…」

「あ~、分かる、ボクもそう。…纈も、なんだ…」 <ニヤリ

「…ねえ、イザナ。
 別れは確かにつらいんだけど、これで本当にお別れ、って訳じゃない、
 …って私は思うんだけど?」

「どういう事?」

「考えてみて。
 確かに私達はこの恒星系を出るけど、終わりじゃなくてこれは始まり、なんだって。
 私達の世代じゃ無理かもしれないけれど、あの子たちが中心になった時代、
 更にその子供たちの時代…星白が言ってた、ガウナとの対話も可能になるかも知れない。

 もしかしたら、惑星セブンで生まれ育った子供達が、私たちと同じ様に、
 この広大な世界に旅立つ可能性だってあるんだし、
 その子たちと私達の子供たちが出会う事だって、決して夢物語じゃないと思うんだけど?」

「…凄いね、纈は。
 ボクは目の前の事で精一杯で、そんな事考えもしなかったけど…」

「イザナ、アンタはそれで良いと思う。
 何のために岐神開発を解体して、あんたの管轄下に置いたと思ってんの?
 …でも、今すぐ成果を出す必要はないわよ?

 …むしろ、今一番大事な事は…」 <ニヤリ


『私達の、希望を繋ぐ事、…だよね…』

(ハモり、または二人交互に言葉を紡ぐ感じで)

***

という事で、ラストは結局原作と大差ない状況に落ち着く形となりましたが、皆様の読後のご感触はどうなんだろうな、と(汗。
艦長の口を借りて先に言及していますが、長道の性格からして、
艦長命令とか権限を行使したとしても、長道は多分この計画に賛同しないと思いますし、
かつての斎藤の様に、逃亡する可能性だって十分に有り得るかと。
(その辺は幕間とかでちょっと解説してますね…)

本編ではどうもイザナと纈がくっつく事になって(纈が男性化?)いるみたいですけど、
TVシリーズにおいて準ヒロインとして活躍している二人ですし、
この二人が望んだ結末の数パーセントでも良いから、
救いが有る方が良いな、という一心からのお話ですね…好みが分かれそうですがっ。
でもってこのパート、当初公開時とV2公開時とで、少し会話の内容が変わっています…当然ですがっ(汗。

因みに最初に浮かんだ結末ありき、で書き始めたお話で、
2人が旅立つに当たって、前を向く為の理由とか、希望が欲しかったが故の妄想SSです。



「あいつむぐほし」妄想プレビュー・そのなな(オマケ編/Re:ゼロから始めるシドニア生活) <ヤメロ

(レム星系・惑星セブン軌道から、次の恒星系に向けてシドニアが動き出してから数日、
 居住区の外れ、廃屋と見紛わんばかりの、寂れた旅館にて)

「あ~、やっぱりここだった。艦長、探したわよ?」

「何だ、ユレか…帰れ。」

「え~、せっかく訪ねて来たってのに、追い返すの?
 やっと艦長の重責から解放されたってのに、それじゃあ寂しいでしょ?
 お話ついでに、お土産だって持ってきたのに~」

「帰れ、と言っておろうが…それに、私はもう艦長ではない。」

「あ、それじゃあ『さやかちゃん』で良い?
 それとも『さあや』の方が良い?」

「ぐっ、…両方とも却下だ!
 仕方ない、立ち話もなんだし、上がっていけ…そしてさっさと帰れ。」

「やったぁ~、ありがとう、『さあや』!」

「くっ、貴様と言うヤツは…先程、却下と言ったであろうがっ!」

***

「それで、用件は何だ、手短に話せ。
 引退して余生を過ごしている身だが、貴様の相手をしている時間など、私には無いぞ?」

「そうやって悪ぶるのは、さやかの悪い癖だと思うんだけどなぁ…」

「貴様、先程釘を刺しておいたのに、また…っ!
 …まあ良い、そこは我慢してやるから、続けろ。…流石に話が進まぬ。」

「そうね、私思ったのよ。
 自分の心を殺し、色んなものを犠牲にしてきたとはいえ、
 シドニアはガウナとの戦いに勝利し、念願の惑星移住を達成する事まで出来た。

 その立役者である艦長が、何の報酬も無く、一人で朽ち果てようとしてるなんて、
 他の人はともかく、私は見過ごせなかったのよ」

「何度も言うが、貴様の指摘通り、私は勝利の為、生き延びる為に何でもやった。
 その過程で、多少の危険など顧みず、様々な事を切り捨て、犠牲を強いた者は数え切れぬし、
 その罪は消えぬ。この私の一生をかけてでも、償い切れぬ程にな…」

「でも、その選択の積み重ねによって、シドニアが救われたのも事実でしょう?
 …それに、最近じゃ新たな希望だって見え始めたでしょう?
 私も協力させてもらったし、私個人としてもお礼がしたいのよ。」

「ふん、その事か。
 報告に戻った緑川の様子が少しおかしかったのでな、探りを入れたら興が乗った故、
 再出発の前の余興にと、あ奴を唆したに過ぎんよ。
 まあ結果は予想通りであったが、中々に面白き余興であったぞ。ただ、それだけだ」

「まったまた~。
 私は分かるわよ?次期艦長とも言える纈ちゃんがさ、あんな状態だったら、
 それこそ貴方と同様、いろんな事を我慢しながら、苦渋の決断をする事になっちゃうだろうし、
 そんなんじゃ、これからのシドニアを任せる事は出来ないでしょ?

 …だから貴方は一計を案じ、あの子を好きにさせた。違う?」

「ふん、だから私は貴様が嫌いなのだ…
 その話、あ奴らには決して口外してはならぬぞ?」

「やぁねぇ。そんな無粋な事しないわよ。
 その代わり、貴方に少し纈ちゃんの事教えるわね?

 あの子、シドニアに戻ってすぐ、真っ先に私の所に来たのよ?
 つむぎちゃんの欠片が入った、容器を抱えて。
 そして必死な形相で頼んで来たのよ、色んな事泣きながら訴えて、
 頼みもしないのに土下座までして…」

「…やはりか。報告を受けた時に感じた、違和感の一つはそれか…
 良い度胸だ。自分の処罰の事など、まるで考えておらなんだか…」

(上司であり最高責任者でもあるのに、それを差し置くとは…と言う意味です。
戦争は勝利で終わっている事もあり、確認程度の意味合いしか無かった事とか、
報告は続々と殺到しているため、艦長も若干混乱気味だった、という事で。
それでも、ユレ博士の名前が出た辺りで、何かに気づいた感じ)


「あら、良い子じゃない。
 自分の事なんてお構いなしで、友達の命を救う、それだけの為に、
 色んな危険を冒してまで、私の所に来たのよ?そんな簡単にできる事じゃないと思うけど?

 親友とは言え、大好きな人を奪っていった恋敵の為に、自分を犠牲にする覚悟が有った、
 …って考えてあげる事は出来ない?
 そしてその後、自分が一役買ってる、なんて一言も言い出さずに、
 真正面からぶつかって、色んな人たちの協力を得て、相応に納得できる結果も出して見せた訳だし。

 もっとも、助けられた本人(つむぎ)は、そんな事、とっくに気づいてた、と思うけどね…」

「…成程な。しかしそれ以外にも、思わぬ効果が有ったではないか。
 考えても見よ。谷風は確かに優秀な操縦士だが、それ以外は人並み以下だ。
 あ奴はいずれ、本人が望まずとも、惑星セブンの中心へと押し上げられるであろう。

 その折、あ奴は間違いなく苦労するであろう?
 人の考えなど読まぬし、その上、相手の都合や言い分など殆ど聞いておらぬ。
 …が、此度の一件によって、多少はマシになったであろう?

 最早我等はあの者に頼る事は出来ぬし、逆に保護してやる事も出来ぬ。
 故に、少しは安心して旅立てたのではないか?」

「そうね…確かに私達はもう、谷風君を導いてはあげられないけど、
 だからって、シドニアの希望が全部無くなった、って訳でもないのよ?」

「…待て。貴様、また何か仕出かして居るな…。
 いや、まさか、…中身が着替えにしては厳重過ぎるその箱、
 …貴様、その中身はもしや…ッ!」

「ご明察。この中身は谷風君のアレ。
 万一の予備にと纈ちゃんから頼まれ、つむぎちゃんから提供された物。
 これはその内の一つ。ケースは超構造体製で、
 電源供給無しでも100年以上、内部環境を維持できる優れものなのよ~」

「貴様、そこまで準備しておいて、私にそれを託して何とする!
 放置する事までも見越しておるとは、貴様、何がしたいのだ…」

「別に無いわよ。私は選択肢を用意しただけ。
 これは艦長への、私からのささやかな贈り物。或は退任祝い?

 まあどっちだって良いんだけど、これだけは知っておいて。
 私、知ってるのよ?斎藤さんが姿をくらませた時、どうするべきか悩んでいた事くらい。

 10年前、連絡を受けて斎藤さんの遺体を検分するのに、私も立ち会っているのよ?
 まあ、あっちは時間が経ちすぎてて、どうにもならなかったけど、
 これはね、斎藤さんそのものと何ら変わりない、谷風君のそれなのよ?
 …なら、私がするべき事はひとつ。

 私は、ただそれを貴方に提示するのみ。

 選ぶのは、貴方。
 選ばないのも、貴方。
 考える時間とか、悩む時間なら、まだまだあるでしょう?

 見届けるまでもないし、全て貴方の自由にさせる積り。
 とりあえず受け取ってくれる事が確認出来たら、ちゃんと帰るわよ?」

「貴様と言うヤツは…ッ!…何処までお節介なのだ…。
 まあ良い、貴様が帰るというのなら、それは床の間にでも飾っておいてやる。
 …礼など言わんぞ、寧ろ一気に悩みが増えたわ!…とっとと帰れ。」

「はぁ~い。それじゃあ、またね、『さあや』?」

「二度と来るでないわ、塩でも撒いておいてやる!」

***

…何だこの脱力感は…という事で、追加エピローグでした。

アニメ本編ではついぞ描かれずに終わってしまうのですが、纈が艦長になったとして、
小林艦長はどうするのかなと、個人的に愚考した訳で。

今回の発端(纈をけしかけた張本人)となった人物でもある訳ですし、その後くらいは欲しいな、と書いたものです。
作中で明言されていないのですが、ユレ博士は不死の船員会とも関係ある人ですし、
悪友っぽい立ち位置にしたら、中々面白い形になりました(苦笑。…黒幕に特大のブーメランが刺さった訳ですし…。

お気づきの方も多いでしょうが、艦長の名前はCV担当の大原さんから拝借させていただきました。
や、だってその方が、艦長への精神的ダメージ、大きそうですもん…(をい。

まあ、冒頭(PART1)の所でポロリと出た艦長の話が本物だった、という事がここで漸く回収できていたりとか、
色々格好良い事言ったり、悪ぶったりが実は…というのがやれて、個人的には良かったなと。

ユレ博士はこれ以前にも、さり気に重いセリフをバンバン言っている気がしますが、
これは、これまでの当方の知識や経験(!)を反映させた、恋愛観の一部、だと思って戴ければ…(ぉ。

結局の所、「人間って、面倒くさいけど、面白いよね」ってオチです…


…さて、書いた折には箱の中身はホンモノ、という積りで書いていたのですが、
もしかしたら、中身が入っていない可能性も有るよなと(ぇ。

その場合はこんなメッセージが入っているのではと。

『決断してしてくれてありがとう。
 悪気が有って中身が空、って訳じゃないの。
 捨てちゃう可能性とか、考える事を放棄しちゃう可能性とか、
 或は単なる確認で開けてしまう可能も有ったから。

 本物は私の研究所でちゃんと保管してあるから、
 本当に選んだというのなら、私の所に来て。
 若しくはもう一度呼んでくれても構わない。

 その日が来るのを、待っているわね』

…って感じのやつです。

当然、当方が気付いた事項は艦長にも伝播しますので(!、
シュレティンガーの箱宜しく、艦長は更に頭を悩ます事になる訳ですな…
(どういう選択をしても、殆どユレ博士の思惑通り、って事に気付いた)



■おわりに

最初の方の考察とかで書きましたが、TVシリーズから劇場版へと至る10年の間に、
「なにがあった」というのが今回の出発点でした…。
(今回のIF話中で其々が昔語りしてますが、ヒント的なモノも無いので、サラッと流してます)

本編において、その10年の間、幾つかの事件?を経て、
長道を巡る「正妻戦争」(苦笑)はつむぎの勝利で終わった感じになっていますが、
その過程でヒロイン3人が、それぞれ恋と友情の狭間で悩み、葛藤し、自分なりの答えを出し、
劇場版へ繋がっているとは思うのですが…
…やはり敗者にも救い(或はカタルシス的なモノ)が欲しいんデスヨネ…。

本編を正史とするなら、その正史の裏で起きた、纈とイザナの失恋模様が欲しい所ですが、
そういうのを書こうとしても、何かイマイチ自分にしっくりこなくて、
いっそ俺妄想のIF話をデッチ上げて焼けボックイ(火杭)に火が…って
考え始めたら、何か降りて来た、という罠。 <色々と大丈夫か、俺

当方が一番描いて見たかったのは「敗者二人の本心・本音」で、
一度諦めたり、折れたりした気持ちをどうやって克服していくか、というプロセスで、
その過程においての必須、とも言える(最強の)通過儀礼こそ、

『本音を洗いざらいぶちまけて号泣する』

事ではないかなと。

(どこぞの柱の男もそうでしたが、泣き喚いた後って、割とスッキリしますしね…) <古いわ

…なので、要所要所において、纈は本編ではついぞ見せなかった本音をぶちまけ、
イザナも含めてグシャグシャに泣く、というのを目指したら…
や、そこに至る過程も含めようとしたら、…随分と会話量が増えたかなと。
(V1時点は60KB台でしたが、V2初稿時で160KB台になってます…約2.5倍か…)

特に纈は今回のメインという事で、思い付くだけ盛ったので、
読んだ方々の中に有る纈像と、かなり違ってしまっているかもですね…。
まあ、それは他のキャラも同様なんですが、一番適当なのが長道だったりして…(苦笑。
や、操縦士仲間との絆は公的(社会人)な部分で、私的な部分についてはまだまだ…って感じですし。

(他、個人的願望も兼ねて、纈は作戦参謀としての知識と経験を存分に生かし、
更に小林艦長の薫陶を受け、目的の為にありとあらゆる手段を取り、
策に溺れる事なく目的を達成できる程に成長し、やがてシドニアの軍政改革を成功させる…かと。
まあ、文民統制とか隊内の規律とかを備えた、現代における軍隊と同様の組織になる、
…ってだけなんですがっ)


優れた物書きであったならば、短いやり取りの中でも確実に
そこへ至る過程が描けるかもですが…何分素人レベルなので、その辺はご容赦いただければと(苦笑。


■おわりに その2/シドニアの未来予想図(妄想)

さて、本文でも纈が幾つか言及していましたが、それ以外のシドニア改訂案を出しつつ、
その後の新体制等々を夢想していきます。


1.シドニア艦隊・または船団形成について

「あいつむぐほし」ラストではシドニア単体で再び旅立つ形になっていますが、ふと疑問が。
『現代でも単艦での戦闘行動は厳禁』でもあるのに、それいいの?って事で。

現代の空母機動部隊を例にすると、中心である空母は絶対沈めてはならない艦艇で、
ましてやシドニアは世界そのものなので、これを防衛する事は最優先事項であり、
最悪の事態が起きても、シドニアだけは脱出させねばならない訳で。
(例:太平洋戦争におけるミッドウェー海戦)

「あいつむぐほし」では丁度水城の様な補助艦艇が登場した訳ですし、
これを有効活用してシドニア艦隊、または船団を形成できないか、と。

水城型の船は超長期の単艦行動は出来ないので、
コバンザメ式にシドニアにくっつく形になりますが、いっそもっと数を増やし、
掌位陣形でぐるりと取り囲むのはどうかなと。
(シルエット的にはシドニアの外周に巨大な円筒が付く感じ)

惑星環境を改めて実感する事になった纈は、その大きさに感心すると同時に、
シドニアが改めて小さな船だ、というのに気付いた訳です。
シドニアを拡張するのは色々と大変そうだし、シドニアの2番艦を建造するのは手間が掛かり過ぎ、
…なので、基礎設計が有り、生産設備も有る既存の艦艇を利用する方法を思いつく訳で。

其々の大きさが不明(設定とか知らない人)なので、どのくらいまで掌位連結できるかですが、
100隻位までは余裕ではないかなと。

で、全部戦闘艦艇にしても良いのですが、運用する人間が不足するので、
幾つかの予備以外は全部、民事前提のプラントとして活用するのはどうかなと。
(最悪の事態が起きた場合、徴用する事も一応考慮してあるかも、例えば重力子砲のエネルギー源としてとか)

民事活用の船は衛人格納スペースを利用し、農業プラント、或は工業プラント、資源や弾薬類の保管庫とか、
はたまた保養施設(近隣の艦艇に駐屯する人員向け、一般開放も有るかな)として使用すれば、
惑星規模には遠く及ばないものの、シドニアを結果的に拡張できるんじゃないかなと。

時間経過(人口の増加等)により手狭になってきたら、掌位陣形を2重・3重にしていけば何とかなる筈…。
最外周は戦闘艦艇が取り囲む形になり、有事の際は一度分離した後、再度掌位合体して現場に向かいます。
(シドニアの居住区から乗組員が招集される場合も考慮し、発進する艦艇は分散配置がベスト、
軍全体の規模により第一、第二戦隊…という編成になっており、これでスムーズに順次出撃できるかと。
ついでに混雑が起きない様に配慮されている、とも)



2.戦術・必要とされる武装など

物語の初期においてはガウナを倒せる武器が「カビザシ」しかなく、数も限られていました。
この時点ではガウナを倒す戦法が「衛人で接近戦を挑む」という選択肢しかなく、
高度な操縦技術を要求される分、操縦士の損耗率も高い状況だった訳で。

後に人工カビが開発・量産され、本体貫通弾を装備した為、
遠距離から仕留める戦法が出来て損耗率は低下したものの、
今度は巨大な集合体やら連結型やら、果ては大シュガフ船が登場する訳ですな…。

都度突入作戦をするのは危険極まりない行為で、失敗の上に全滅…なんてのは絶対に避けねばならない訳で。
ましてや未来のシドニアに谷風長道は存在しませんし、妄想IF話の末に誕生するであろう子孫が…
…ってのはドラマとしては有りですが、戦争の有り方としてはナシ、かと思うのですよ…。

纈が先に「谷風さんが居なくても大丈夫な軍隊」と言っていますが、
衛人の持つ貫通弾では対処できない敵が存在する以上、この対策は必須な訳で。

まず思いつくのは「重力子放射線射出装置」(長いので以下「重力子砲」と略)ですが、
威力こそ申し分ないものの、使用するエネルギーが多すぎとか、準備に時間がかかるとか、
万一複数の大シュガフ船が現れたら…連射できないのも不味くないか、という事です。

そういう事で技術班に改良を指示する一方、
結果が出ない内は、最後の切り札として使う方向になるかと。

問題は衛人で運用できる貫通弾が、集合体以上のガウナには威力不足な事で、
これを補うには、もっと大口径の貫通弾を開発・運用する必要が有る訳ですな…。
とりあえず大砲を作って衛人に運ばせるのも有りですが、
携行弾数も限られるでしょうし、火器管制も含めれば、やっぱ船に装備した方が良いよね、って。

とはいえ、重力子砲の様に一撃で主本体ごと貫通出来るような貫通弾は無理なので、
段階を踏むような形で、複数種類の弾頭をぶち込んで、最終的に本体を破壊する方法になるかと。

具体的には、外殻を破壊する徹甲弾系(現代では炸薬系の弾頭が好例)、
再生する前に遅延信管的な感じで、弾着後、指向性を持たせた小型の貫通弾を炸裂させる弾頭、
…の2段構えで周囲のガウナを分解して、この繰り返しで本体を露出させる戦法を採る訳ですな…

そして本体の分解に伴い分離する小型・通常型ガウナに対し、
間髪入れず、広範囲に貫通弾をバラ撒く弾頭を叩き込めば、残りの戦力もかなり削れる訳で。

しぶとく生き残ったガウナには、衛人隊が満を持して掃討に向かえば良い訳ですが、
知性体ガウナが出てくる場合も有るので、その場合は先の炸裂弾より、
もう少し効果範囲を小さくした弾頭をぶち込んで、飽和攻撃を仕掛ける訳ですな…。

最悪でも動き位は止められるので、その隙に衛人隊が仕留める、という戦法です。
こういう戦法にシフトできれば、集合体の脅威度はかなり下がるのではと。

尚、俺設定ですが衛人が装備するのは一式、一部の衛人は遅延式散弾タイプの二式貫通弾を装備していて
(主本体に直撃しなくとも弾着後に炸裂するので、弱体化が期待できる弾)、
艦艇が装備する貫通弾はその種類によって、其々四式(炸薬系貫通弾)、五式(遅延式内部破壊弾)、
六式(対集合体ガウナ用、大型の本体貫通弾)、七式(広域飽和攻撃弾)、八式(対知性体ガウナ用、飽和攻撃弾)、
…となっています。
(三式は艦艇用の試作貫通弾の為欠番、という設定)

八式の設計に際しては、TVシリーズで対峙した紅天蛾の運動(機動)性能を基準にしており、
紅天蛾の倍の回避能力が有ったとしても、避けきれない程の飽和攻撃性能が有る、という代物です…。

…そんな感じで、衛人隊の負担が一気に軽くなる事で、
谷風長道の様な超級の操縦士に頼らずとも、大シュガフ船クラスの敵ガウナをも倒せる算段が出来た訳ですな…。

他、集合体系のガウナの数・種類や編成状態に応じて、
戦闘の難度や脅威度をランク付けする試みもなされており、
とりあえずAからZまで設定(運用は出撃戦隊の観測班オペレータが通達する形がベター)されています(数字でも可)。

全ての内容や状況を考えている訳ではありませんが、最後のXYZは現有戦力では対処不可能な事態、としておきます。
具体的には、

X:後退しつつ可能ならば各個撃破、戦線を構築、敵情報を出来るだけ収集(≒第九惑星戦役後のシドニア)
Y:戦線の構築は放棄し防御・遅滞戦闘へ移行、損害が拡大する前に撤退
Z:保有する全戦力を投入し、シドニアが脱出する時間を稼ぐ、遅滞戦闘に移行

…という感じです。

何れもシドニアに危害が及びかねない状況を想定している為、
この3つだけは艦長権限(負傷などの非常時には副指令が代行)でしか発令できないものと考えています。

考えたく無い程の最悪な事態ですが、大シュガフ船以上の脅威(例えば集合型の女王蜂ガウナみたいなやつとか)とか、
大シュガフ船が大挙して襲来し、シドニアに飽和攻撃を仕掛けてくる事態も、
宇宙が無限に広がる以上、可能性を否定する事は出来ないので…

で、その有り得ない事件が、実際に起きて仕舞うのがドラマであり、面白さでもある訳ですね…。
当然、その際には登場人物達に格好良いセリフを連発して戴く訳ですがっ(をい。



3.衛人操縦士のランク付け・編成について

そんなこんなで衛人隊操縦士の負担や死亡率は一気に下がる訳ですが、
だからと言って操縦士の技能は高いに越した事は無いので、訓練プログラムの見直しや、
階級も兼ねたランク付けが必要になる訳ですな…。

軍隊では数字が小さくなる程にランクが上がる、というのが一般的かと思うので、
取りあえず、こんな感じかなと。

5級:新人・またはヒラ扱いの操縦士。最初は皆これ、指揮権限は一切無し。
4級:一般レベル。3~5年の軍務経験と訓練・演習での経験を一定数こなした所で認定。
3級:4機掌位のリーダー格。小隊長的ポジション。
2級:12機掌位のリーダー。中隊長的(以下略
1級:大隊長的ポジション。現場指揮官的な感じで、戦闘参加は状況次第。
特級:連携により知性体ガウナを「複数体」出来た操縦士。遊撃隊的役割を持ち、
 先の集合体ガウナから、知性体ガウナが出現した場合に、対処する事を義務付けられている。
特S級:単独で知性体ガウナを「複数体」撃破できた者のみ、実質は谷風専用。

作中で登場した仮象訓練装置にはついぞ登場していませんが、
TVシリーズで登場した爆破訓練とか、集合体ガウナへの突入作戦も追加されています。
3級以上の認定試験では実際の指揮下の人員も動員し、適性を見ています。
(損害が出た場合は不合格、突入作戦タイプではガウナの再生能力を考慮し、時間制限が有ったり)

特級の認定試験には、シドニアが今迄遭遇した知性体ガウナのデータが反映されていて、
通常の仮象訓練にも時折出没するのですが、この試験の際は普通に登場します。
挑む操縦士は2級までの同僚を3名指定し、戦いに赴く訳で…。
(1級は指揮官扱いのため、クリア時には用意された報奨の何れかを選ぶ形になるかと)

合格条件は同僚の損害を出さずに、制限時間内に複数体を仕留める事。
(作戦遂行の中で障害となるケースが殆どなので、時間をかけられると、作戦全体に影響する為です)
鬼仕様ですが、2体目以降に必ず紅天蛾(2代目かつ能力値を上げています!)が出現します。
ついでに劣化仕様のかなた(超構造体ボディは持たず、ヘイグス粒子砲を連射するのみ…でも結構厄介)も登場します。

挑戦条件は操縦士である事だけで、操縦士達が自分の技量を知る為にも、広く利用されています。
或は自信過剰気味な操縦士の鼻っ柱をへし折るのにも役立ったり、谷風長道の凄さが伝説レベルに伝わったりとか。
(海苔夫は作中で共同戦果を挙げているので、「複数」という条件が付いている次第。
…彼の飽くなき挑戦は、この試練を乗り越えられるのか、気になりますね…)

特S級は谷風長道が居たからこそ、のランクなのですが、数十年の間、達成できた者は当然おらず、
可能性が有るとすれば、先の妄想話で誕生する(非公式の)子供達しかいないかと。
(子供達が軸になるお話を作る場合、何かドラマが出来そうですね…現実を見せつけられて挫折する流れで、
そこからどうやって這い上がってくるか、って王道パターンですがっ)



4.そして展開されるであろう戦闘シーン例

「現時刻より状況を開始する。
 第一戦隊、発進準備急げ。第二戦隊は発進後、シドニア周囲の警戒に当たれ。
 第一戦隊、全艦発進!」

シドニアをぐるりと取り囲む円筒状の輪の所々から、艦艇が次々と切り離され、
推進機関に火が点る――

「第一戦隊、シドニアを通過します」

「第一戦隊、掌位陣形用意。完了後、最大戦速へ移行せよ」

ブリッジのモニターに映るのは、集合体ガウナが5体。

「水城から各艦。第一戦速。掌位陣形を解除、横隊陣形、各艦砲戦準備。
 衛人隊、全機発艦。発艦後は射線外で待機。

 全艦、四式、五式弾、時差射撃準備。
 奇数艦斉射の後、カウント3にて偶数艦斉射。
 奇数艦、カウント10で六式弾を斉射。偶数艦は追撃準備、
 七式弾斉射に備えよ。撃ちー方!」

――ドドン!

「第一射、弾着を確認!敵集合体の貫徹率およそ3割!
 第二射、弾着します!…敵集合体の主本体、露出しました!
 続いて第三射、弾着します!…全弾命中!集合体、胞状分解します!」

そしワラワラと出現する通常型、及び知性体と思しきガウナ。
だが戦闘態勢に入る前、密集状態のガウナ群に七式弾の飽和攻撃が降り注ぐ――

「状況確認!敵群体の損耗およそ六割!偶数艦、七式弾にて追加砲撃!」

「状況確認!敵群体の損耗およそ九割!知性体ガウナ、反応5!」

「八式弾、奇数艦より斉射、カウント3にて偶数艦も斉射。
 特級部隊、知性体への牽制準備!他の衛人は距離1000より迎撃開始!」

――知性体ガウナに連続で降り注ぐ、貫通弾の飽和攻撃。

「状況確認!知性体ガウナの胞状分解を確認!残敵1!」

「山野隊、残敵の足止めに向かえ、八式弾で援護する。
 仄隊A、B、山野隊の援護に向かえ」

***

「――馬鹿!岐神、前へ出すぎだ、援護を待て!」

***

「状況、終了しました。残存ガウナ無し、衛人隊、死亡無し。
 衛人隊損害、中破、一、…」

「ご苦労。中破の岐神は営倉にて待機、処分は追って連絡すると伝えよ」

(…はああ…予想以上に上手く行ったと思ったのに、ケチが付いたわね…
 何時かやらかすかも、とは思っていたけどイキナリ、ってのは流石に予想外だったわ…。
 …まあいいわ、この機会に継衛から降りてもらうかな…)

***

――居住区の片隅に鎮座する継衛。
それを見つめる青年の前に、一人の男が現れる――

「成程、お前が緑川ミナトか。お前はこの継衛に乗り、シドニアの騎士を目指すつもりか?
 やめておけ。お前には確かに才能が有りそうだが、あの男には遠く及ばん。
 半端な技量や覚悟では、挫折を味わうだけだ。…この私の様にな…。」

***

「継衛に乗りたい、ですって?
 ミナト、そもそも私は貴方が操縦士になる所から反対していたわ。
 その上、今度はシドニアの騎士…って、貴方には無理だわ、止めておきなさい。
 何故なら貴方は私の息子だから。貴方には父さんの才能の半分しかないのよ?

 …まあいいわ、どうせ何を言っても聞かないでしょうから、現実を見せてあげる。
 付いてきなさい」

そして仮象訓練機の中、モニターに映し出される融合個体2号――

「この個体は特S級操縦士の最終敵として設定されている個体。
 特級訓練にも同様の個体が居るけど、これはそのオリジナル。

 コイツはガウナじゃない。人間とガウナの融合個体で、知性体としては人間そのもの。
 コイツはね、重力子砲を連射してくるし、体の殆どが超構造体製で覆われていて、
 衛人の貫通弾じゃ体表は撃破できない。

 更に、この戦場は私達が居たレム星系の主星軌道上。
 衛人の耐熱性能じゃ、中の操縦士は10分も持たないし、重力圏に捕まったら一瞬でアウト。」

「まさか…これ…」

「察しが良い様ね。
 そう、コイツは貴方の父さんが、命と引き換えに倒した、最強最悪の敵。

 …どう?好きなだけ挑戦しても良いけど、
 これが倒せたなら、継衛に乗る事を許可しましょう。…無理だろうけどね…。」

***

取りあえず導入部的な所ですが、纈の息子は仮ですが「ミナト」という事にしました。 <名付けセンス皆無
因みに当方は、海軍系の言い回しが得意ではないので、用語は割と適当です(をい。
海苔夫は憐れですが、まあ、継衛から降りて貰う為というか、根っこで焦りが有ったのかも…。
(約20年の間、仮象訓練のみだった訳ですし、長道への対抗心・劣等感が焦りを生んだ、とも)

20年後の世界、ってのは新主人公登場の為の時間、という事からの逆算で、
この時点でのシドニアの戦力は、水城型の戦闘艦艇が10隻×2戦隊+衛人隊多数、という感じです。
山野隊はレム星系での戦果も有って特級部隊入り、仄姉妹は姉妹ならではの連携やら、紅天蛾への復讐心やらで
めきめきと腕を上げ、A班B班の形で特級部隊に昇格しています(沢山居るので更に増えるかも…)。
尚、彼らは即応部隊的な役割も担っていて、水城には乗艦しておらず、ガウナ接近時に、
主戦力の艦隊が到着するまでの、時間稼ぎやら足止めやら偵察やらも担当しています。

でもって視聴者的にはバレバレの嘘が混じっていますが、
ミナトはそう言い聞かされて育っていたり、周囲の者も艦長の手前、言い出せずにいた、というオチです。
当然の様に、この事は後々、母子のすれ違いドラマに発展します…


***

(これは…まさか、これ程の数の大シュガフ船が、集団で…
 しかも、この動き…戦闘艦隊だけじゃない、シドニアも纏めて包囲殲滅する積りだわ…ッ!!)

「艦長より、全シドニア船員に命ずる。
 戦闘プラン『Z』を発令。総員退艦後、シドニアは最大戦速で戦域を離脱せよ――

 水城型各艦、操艦及び火器管制を旗艦に委譲。
 衛人隊各機、退艦乗員の援護と支援に回れ!」

***

一人指揮所にたたずむ纈の元に現れる船員が一人――

「艦長、お供させていただけないでしょうか…」

「海薀か…貴官にも退艦命令が出ている筈だが?」

「命令違反ならば、そのままこの命で贖います、ですからどうか…」

「…ふぅ。言っても聞かなさそうだし、貴方にはもう一つ任務を与えるわ。
 あの子に伝えて欲しいの、『今迄辛くあたって、ごめんね』って。」

「そんな…っ!」

「復唱どうした!サッサと退艦して!…お願いだから…」

***

誰も居なくなった艦内、戦闘準備に入る纈。

(さて、残っている武装は…貫通弾は…これだけか…
 重力子砲は…残存艦艇のエネルギーを集めれば、あと一発は行けそうね…
 でも、エネルギー切れはやっぱ危険だし、最後までとっておくか…

 …シドニアが最大戦速で亜光速まで加速出来れば、奴らも追いつけない。
 今のシドニアなら、居住区にも被害は多分出ない。
 まさか、本当に役に立つ日が来るとはね…。

 頼んだわよ、皆…脱出の時間くらい、私一人でも稼いでみせる。
 谷風さんやつむぎみたいな特別な力が無くたって、それ位は出来る筈…っ!)

***

重力子砲発射の影響で、崩壊寸前の水城――

(…やっぱり私じゃ、無理だったか…
 私じゃ、谷風さんやつむぎの代わりにはなれないのかな…

 小林艦長、申し訳ありません。私には、貴方の様な才能も実力も有りませんでした…
 ですから、これからこの命を以てお詫びさせていただきます…

 …ごめんね、みんな。
 ごめんね、私について来てくれたみんな。

 ごめんね、イザナ。私のせいで、辛い思いをさせちゃって。
 ごめんね、ミナト。私のワガママで、あなたの夢を邪魔しちゃって。

 ごめんね、谷風さん。貴方の了解も無しに、ミナトを生んでしまった事。
 ごめんね、つむぎ。貴方が折角繋いでくれた希望、私のせいで、全部無駄になっちゃうかも…

 ああ、こんな事になるなんて。
 …私、ちゃんとあの子と話し合えなかったわ、…ね…)

***

ヲイちょっと待て!…という所ですが、あくまでドラマとしてのシチュエーション前提なので、
実際に起きてしまった場合でも、作者が設定を思い切り捻じ曲げてでも死なせません

これ、ワーストは知性体ガウナと化した纈が主人公と対峙するとか、
エナ纈が誕生するにしても、救いが無さすぎて、間違いなく俺が折れます
更に、主人公は、ガウナとの対話の可能性を全否定し、ガウナスレイヤーとして覚醒するところですよ?
視聴者的には勿論、これまで散々盛ってきた、思い入れの有るキャラを死なせられる人は居ません。
星白はたまたま?主人公との関係値が深まる寸前だったので、ギリギリ許容出来るかもですが、
今回のは、ほぼ同じ展開を辿る感じで、トラウマが再燃するわ、
オマージュどころかパロディ臭がするわ、鬼畜過ぎて誰得…ですので。

…なので、この後は設定を無視してこうなります。


***

――ああ、つらい。

私が至らぬばっかりに、みんなを危険な目に遭わせた事が。

――ああ、つらい。

私のワガママを押し付けたせいで、ミナトと疎遠になってしまった事が。

――ああ、つらい。

こんな気持ちになるなんて。私の勝手で産んでしまったから…なのかな…



―― そんな事で悩んでたんですか、大した事ないと思いますよ ――



***

――ここは…そうか、私、死んじゃったんだ…本当に、死後の世界って有ったのね…。

――あれは、…星白?…そっか、ここ、死後の世界じゃなくて、ガウナの中なんだ…

――もしかして私、いつかの紅天蛾みたいに知性体ガウナにされて、シドニアの皆や、
 ミナト、それから、谷風さんとも戦っちゃったりとか…するのかな…

 …それは、…すっごく、…イヤ、…だ、な…

(涙で視界がぼやけ、再び暗転する意識)

***

「…さん。…纈さん。」

――あ、あれ…声が…上手く出ない…

「…漸くお目覚めでしたか、心配しましたよ?
 先程、一瞬だけ意識を取り戻されたんですが、また昏睡状態に戻ってしまいましたので…

 ああ、まだ動かないでください。麻酔も効いてますし、そのまま聞いてください。

 シドニアの皆さんは、全員無事に脱出できました。
 戦闘艦艇の殆どは大破、壊滅的ですが、衛人隊は健在です。
 人的被害は…纈さん、あなたが戻って来さえすれば、…ゼロです。

 纈さん、私の事、覚えていらっしゃいますか…
 お久しぶりです、ここに来るまで20年かかっちゃいましたが…ふふっ。

 私です、谷風長閑(のどか)です。
 …本当に、ご無事で、…よかったです…っ!」

――えっ!一体何がどうなっているの?

「貴方は立派にシドニア艦長の役目を果たして見せました。
 最悪の状況においても冷静に状況を判断し、皆の命を守った。
 絶望的な状況にも関わらず、最後まで諦めずに戦った。

 何も恥じる事は有りません。寧ろ胸を張って、堂々と誇ってください。

 貴方は、父様や母様にも決して劣らない、シドニアの騎士です。
 それを、知っておいて欲しいんです…」

ポロポロと涙をこぼす纈。

――あれ、私、何で泣いているんだろう。
――ああ、なんとなく分かった。
――私、嬉しいんだ。
――生き残った事じゃなく、みんなが無事だった事でも無くて。
――ただ、私の事を認めてくれた事が――

***

さて、ナゼナゼが尽きない所ですが、ご都合主義で終わらせないとするならば、長閑に色々と語ってもらわねば…
…なのですが、現時点で上手い口上(設定)が出てこないので略です(ぇ。

こんな話を思い付いたのは、現代における仕事人間、或は社畜呼ばわれるされる人々が、
その人生の中で最後に求めるのは、何だろうなと。

お金?出世?それともただの義務感?
当方の考えでは、『心からの感謝』ではないかなと。
崇め奉ってくれ、っていう話ではなくて、辛い立場や無理難題を押し付けている事に対して、
ほんの少しでいいから、感謝の気持ちを示して欲しい。
義務だから、責務だから当然だと思っていて欲しくない。…それではあまりに救いが無いから。

…そんな意味で、纈の着地点はここではないかな、と。
レム星系での戦いをただ傍観する事しか出来ず、無理だ、とか、私じゃダメ、とか思っていた纈が、
20年の時を経て、長道やつむぎと同じ心境に至った、って事が特に感慨深いかと。

そしてここから、母子の和解にも繋がる訳で。


***

「ミナト、今まで本当にごめんね…あなたの夢を邪魔する様な事ばかりして。
 でも、これだけは分かって欲しいの。
 貴方には、父さんみたいになって欲しくないって事。

 多分貴方は、才能が無くたって、シドニアの為、世界の為に命を投げ出すだろうから。
 …だって、貴方は谷風長道の息子なんだもの。

 でも、そんな、たった一人に世界の命運を託す様な事、
 もうしてはいけないし、有ってはならない事だから、
 貴方から衛人を遠ざけた。

 でも、貴方は自ら操縦士になる道を選び、シドニアの騎士になる覚悟を見せた。

 …そうね、もう貴方の邪魔はしない。
 シドニアの騎士になりたいというのなら、最後までその意志を貫いて。
 約束したんだから、途中で諦める事はこの私が許しません。

 …しっかり、やり遂げてね、それから、決して命を無駄にしないで…
 約束よ…」

「母さん…

 …ああ、良く分かった、俺ももう迷わないし、諦めたり挫けたりしない。

 けどさ、もう少し息子の事も信用してくれよ。
 大シュガフ船の大軍を前に、一歩も引かずに戦い、皆を守り抜き、
 ちゃんと生還して見せた、最高の女騎士様の息子をさ…」

「言う様になったわね、ミナト。期待しているわよ?」

「おう!」


―― ほら、大した事なかったでしょう? ――


***

「…ところでさ、ずっと気になってたんだけど、こちらの美人さんは誰?
 何か話しぶりからすると、母さんの古い知り合いみたいなんだけど…」

「やだ、美人さんだなんて…お上手ですこと。
 初めまして、緑川ミナト。母様から聞いておりましたが、漸くお会いできて光栄です。
 あ~、そういえばもう御一方、いらっしゃるんですよね、早く会いたいです…。

 …こほん。名乗りが遅れました。
 私は長閑。谷風、長閑です。

 私の事は、以後『姉さん』、もしくは『のど姉』、とお呼びください。

 …ああ、なんて素敵な響き。
 20年もの間、ずっと夢見ていたことが、ついに現実に…」(うっとり

「…(暫し呆気に取られるミナト)…

 …母さん。何か分からない事だらけなんだけど、きっちり説明してくれるかな?
 大丈夫、怒ったり拗ねたりしないし、
 ちゃんと最後には『大した事ない』って言い切ってみせるよ?

 …たぶん。」

「えっ!…ミナト、そう言いつつ、結構怖い顔してるよ?
 あ、ほら、母さんまだ重傷なんだし、また今度…ね?」

***

またこのパターンかよ…というのはナシでお願いします(苦笑。
本来ならばこの先は最終決戦へと向かう流れですが、そもそもの起点が「有り得ない事態」からですので…。

長閑の登場もさる事ながら、大シュガフ船の大襲撃に当たり、黒幕は存在すべきかと思うのですが、
融合個体2号(落合かなた)の再登場はかなり難しいんですよね…。

長道に倒された落合かなたは、レム恒星に飲み込まれていったと記憶していますが、
恒星の表面温度は数万度に達する為、超構造体は無事でも、中身の本体は、いずれ蒸し焼きになるからです。
(恒星が発するのは光や熱に留まらず、各種放射線も発しており、衛人のコクピットが超構造体であっても、
それを透過して内部温度やら人体への分子振動=電子レンジ状態になる、という事です、融合個体の外殻も同様かと。
好例は中性子線ですね、ある程度の減衰は出来るにしても、限界はある訳で)
ある程度の活動は可能かもですが、生き延び続ける事は生命体(有機物)である以上、不可能です。
更に恒星の質量は惑星とは比べ物にならず、亜光速を発揮出来るにせよ、その重力圏から脱出する事は至難の業かと。
ましてや致命的ダメージを負っていますので、回復する間もなく、外殻以外は燃え尽きたかと。

もう一つは、バックアップ(予備体)の可能性なのですが、落合自身が優秀な科学者で有ったにせよ、
その頭脳のリソースは全て計画の実現のみに割かれており、
戦術・戦略的思考はゼロだったから、バックアップは存在しないと思われます。

物語中、かなたは自分が負ける(死ぬ)可能性を全く考慮しておらず、
ラス前のセリフが命乞いであった事からも、それは明らかです。
(バックアップが存在するなら、「これで勝ったと思うなよ」的な捨て台詞を発する、と思われるのですが…)。

で、纈の出番となる訳ですが、岐神開発の処分に当たり、封印ではいつかまた大惨事を引き起こしかねない、
…という事で、汚物は消毒とばかりに徹底的に消去しています。設備は勿論、成果サンプルも全て恒星投棄、
データ類も全て抹消する積りでいましたが、ユレ博士の進言で艦長と博士の権限でのみ閲覧可、となっています。
…という事で、シドニア内部に落合かなたが潜伏している可能性は、ほぼゼロです。
(作中に登場した血線虫は本体である落合が消滅した為、残っていてもただの寄生虫、と化していると推測。
但し関係者全員にスキャンをかけて、残っている奴が居ないか、調査はしています)

残るはシドニア外壁に欠片が貼りついていて、20年を経て自力復活…って、かなり無理有るよね…。
覚醒時、自分が居た周辺(シドニア外壁)を思い切り吹き飛ばしてますし、恒星上での戦いの時、シドニアは別の場所で、
大シュガフ船との攻防をしていたので、破片がシドニアに付く可能性は…限りなくゼロです(汗。

いずれにせよ、ちゃんとした読み物として?書く場合、新キャラの名前とか役割も考えねばなりませんし
(もう一人、イザナの子供ですが、取りあえず中性、っていうのだけ決まっていたり。
後、小林艦長の選択の結果とかも、考えておかねばならないですね…)、
まずは、自分が楽しめる展開を考えねばならないので、今回はここまでです…



■謝辞

はい、という事で「今度こそ」最後になりましたが、最後までお付き合い頂いた皆様に感謝を。
この小編?は同人出版の予定も有りませんし、偶々見つけた方々とかの心に刺さってくれれば幸いです。

尚、ご意見ご感想は当サイトのBBS、またはメールにてお寄せ下さい。
リクエストには多分応えられないんですが、気分がノッたら他作品の妄想SSとか書く…かも?

ではまた、何処かでお会いしましょう。
命がつながる限り、希望も繋がると信じて。 <クサッ

我々が今抱えている悩みなんて、実は「大した事ない」かもしれませんよ?


■更新履歴

●Ver.1.01 作業日報の妄想ネタ等々から再構成・加筆、公開開始(2021/07/03)
●Ver.1.02 表記ゆれ修正、誤字脱字修正、一部追記(2021/07/05)
●Ver.2.00 エピソード追加、章番号修正、色々追記(2021/07/11)
●Ver.2.01 会話部分修正、誤字脱字修正、色々追記(2021/07/17)
●Ver.2.02 あとがき「2」追加、誤字脱字修正(2021/07/23)



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■アニメ版「シドニアの騎士」に関する妄想雑記(仮)