カルト教団2

 ウォール街から数分の所にあるビジネス街の雑居ビルの4階と5階の全フロ
アを借りる旭商事の4階受付に現れたペリエはジーパンに緑褐色の綿シャツに
チロル帽そしてデイバッグを背負い、いかにも場違いな服装だった。

 受付の東洋系の若い女性は顔色ひとつ変えずに笑顔で紋切り型の挨拶でペリ
エを迎えた。

 「副社長のムラータさんに昨日電話を差し上げたジム・ソクラテスです」

 ペリエが告げると受付嬢は電話を掛けた。

 大きな飾り時計が彼の目を引いた。

 ロココ調の模様が全体に描かれた豪華なものだ。

 さほど間を置かず現れた背広姿の50代の男は日本人特有のお辞儀を何度も
しながら、たどたどしい英語で「申し訳ありません。生憎村田は別件で出払っ
ております。私は支社長の沢村と申します」と言いペリエを奥の部屋に案内し
た。

 「私はオハイオ州の高校で地学を教えているジム・ソクラテスといいます。
実は先月夏休みを利用してアンデスの森を研究のために訪れたのですが。妙な
ものを発見しました」

 ペリエはそう言いながらデイバッグを開き、中から大人の握り拳ほどの大き
さの石ころを取り出してテーブルに並べた。

 「これは?」

 沢村支社長は不思議そうな顔をしてペリエを見た。

 前日ペリエは「アマゾン奥地で新しい金鉱を発見した」と村田に電話したの
だった。

 「イットリア鉱石です」

 「イットリア鉱石?」

 沢村は益々不思議そうな顔をして言った。

 金鉱石なら沢村にも分るがイットリア鉱石は彼には分らない。

 早速専門の技師が呼ばれた。

 「ほう、これは凄い!」

 技師の吉田はイットリア鉱石に顔を近付けながら言った。

 「どうなんだ?」

 沢村が訊いた。

 「凄いものですよ。私もこれだけのものは滅多に見た事がありません」

 そう応えた吉田はペリエに向き直り「中国からですか?」と尋ねた。

 「いえ、実はペルーとボリビアとブラジルの国境付近で見つけました」

 ペリエが言うと吉田は「有り得ない!」と間髪を入れずに言った。

 「ええ、私も信じられませんでした。でもサンプルを持ち帰って高校で分析
をしたら間違いなくイットリア鉱石でした」

 ペリエは興奮気味に応えた。

 「君、これは一体何なんだ?」

 沢村が不安そうに吉田に訊いた。

 「この鉱石からはイットリウム、テルビウム、ガドリニウムといった希少金
属が採れます。どれも貴重な金属です。恐らく金なんかよりも高価でしょうね


 吉田が言うと沢村の顔が高潮した。

 「実はこの石と私の情報を合わせて3百万ドルで買って欲しいのです」

 ペリエが切り出した。

 もし本当の話なら3百万ドルは安いものだ。

 「ええ、もし本当の話なら、お支払いしましょう。でも確認できるまでは…


 沢村が言葉を濁すとペリエは急に不機嫌になりテーブルに並べた石をデイバ
ッグに詰め込み始めた。

 「ま、待ってください!分りました。手付けに2万ドルお支払いします」

 沢村が言った。

 「まあいいでしょう」

 ペリエは手を止めて言った。

 早速現地へ調査に出掛ける段取りが取られた。

 一週間後にリマの空港で落ち合う約束をしてペリエは去った。

 ペリエは、その足でニューヨーク空港に向かい止めてある自家用機に乗り込
みデンバーへ向かった。

 行き先はロドリゴのアジトだ。

 その頃日本ではノイジーの分析に皆てんてこ舞いだった。

 いや慌てていたのは笑子・大田・長沢の3人で島野・杉原は何がなんだか分
らないので3人をオロオロ見ているだけだった。

 篠原の計らいで三鷹にある国立天文台の機材を10分間だけ借りる事が出来
た。

 たった10分だが調査には充分だった。

 かに星雲方向にある星座の位置がノイジーの重力(可なりの質量が集中して
いるので相当の重力場が形成されているはず)により変化して見えるはずだと
推測した笑子たちは三鷹の施設を使い観察した。

 しかし結果はノイジーの影響は全く受けていない事が分った。。

 




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