カルト教団1

 「しかし、気が引けるな」

 マルクスが言った。

 「よく言えたものだ。そんな言葉マフィアの連中が聞いたら間違いなく首をかしげるぜ」

 ペリエは助手席の窓を開けシガーライターを抜き、くわえた葉巻に火を点けながら言った。

 「そうは言うが、この稼業信用が大事だ」

 マルクスが神妙な顔をして言った。

 マルクスが運転する車はコロラドの田舎道を走っていた。

 行く先はカルト教団の『ガイアの魂』の教祖ホセ・ロドリゴの隠れ家だ。

 ペリエは或る企みの為にロドリゴを利用しようというのだ。

 実は既に利用していた。

 マルクスを介しガイアの信者であるリッチー(笑子の上司)から色々と情報を収集しようと試みたがペリエの欲しい”地獄耳”の情報は全く得られず取るに足りないものばかりだった。

 業を煮やしたペリエは”地獄耳”のプロトコルを要求したのだった。

 しかしプロトコルの意味すら理解しないリッチーは対外的に地獄耳を紹介した資料を寄越すだけだった。

 ※プロトコルは『外交』の意

 「使えない」

 そう判断したペリエはリッチーの殺害を決めドクに依頼したのだった。

 しかしドクが彼(リッチー)の部屋に入った時には既に彼は何者かに殺されていた。

 リッチーが殺された事を知ったロドリゴは「次は自分だ」と思いリッチーが使った笑子のIDから笑子をリッチーの手下と勘違いし全てを彼女に押し付けんがために殺害を企てた訳だ。

 ※その企てによりCIAの捜査官が犠牲になり
  笑子の家と家財道具は粉々に破壊された。

 「ところで何て紹介すればいいんだ?」

 マルクスが言った。

 「そうだな『食いつめものの貿易商』とでも紹介してくれ。お前に泣きついてきた」

 ペリエは葉巻を灰皿に押し付けながら言った。

 「食いつめものね?全然悲壮感が伝わらんがな」

 「そうか?」

 マルクスの言葉が妙に引っ掛かったのかペリエは急に真剣な表情になり言った。

 ペリエは車の中で色々とセリフを考え表情を作りながら練習した。

 その横でマルクスはケラケラ笑いながらハンドルを握っている。

 そうそうするうちに車は森の中のロドリゴのアジトに着いた。

 「そちが予の法力に、すがらんとする気持ちは良く分かった。しかしながら何事も心掛けが大事じゃ」

 ロドリゴは太った体を横たえながら気だるい目をして言った。

 目の前に居る男が自分の命を狙ったペリエとは知らず横柄な態度だ。

 「分っておりますとも、それはもう充分に。しかし悲しいかな今持ち合わせが有りません。でも、それではいけないと思いまして知人から工面してもらったオモチャを用意して参りました」

 ペリエは、そう言うとスーツケースを開けて自動小銃を取り出した。

 一見何の変哲も無い自動小銃にロドリゴは全く興味を示そうとはしない。

 そんなものは既に幾らでも持っているからだ。

 「これは製品化されたばかりで軍にも未だ出回っていません。これを横流ししてくれたメーカー技術者の話ですと恐ろしいほどの破壊力だそうです。恐らく尊師さまが軍関係者以外では初めてご覧になるのではと思います。私も今日初めて試射するんです」

 『恐ろしいほどの破壊力』という言葉に興味を示したロドリゴはペリエに促されるままに外に出た。

 ペリエは道路脇に生えた30cmほどの杉の木に狙いを合わせ引き金を引いた。

 ドン!

 通常の自動小銃よりも可なり図太い音だ。

 発車された銃弾は杉の木を揺さぶり直径10cmくらいの大きな穴を空けた。

 弾は貫通し向こうの景色が丸見えだ。

 そして杉の木はミシミシと音を立て折れた。

 大きく目を見開いたロドリゴは小刻みに震えている。

 「軍の連中の話ですと特殊弾を使えば戦車の厚い装甲も打ち抜くそうです。残念ながら今日は通常弾一発しか用意できませんでした。でも半月後には1グロス用意できます」

 ロドリゴの目は、この自動小銃に釘付けだ。

 「急用を思い出した」

 そう言ってマルクスはペリエを残して帰って行った。

 ペリエは、その夜ロドリゴの接待を受け、夜太った醜い女を抱いた。

 恐らくロドリゴも抱いたであろう女は鶏に似た下品な声を、一晩中挙げていた。

 その声が翌朝になってもペリエの耳から離れなかった。

 3日後ペリエはニューヨークに居た。

 




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