周藤さんの茶飲ん話

このコーナーは周藤さんが作られた「茶飲ん話」を載せてました。

本文の文節を共通語の文節に対応させるため、若干変な言い回しが有ると思いますが、出雲弁の妙味を存分に楽しんでください。

 

表紙ページ


 

 

 

 


 

おばばの旅行(お婆さんの旅行)>

えなげにございしてね。

変な天気でございましてね

 

まー、ば゛ば゛の話を聞いちゃってがっしゃい。

まあ、婆さんの話を聞いてください。

 

こないだ旅行に行かせてまった時の事でございした。

この間、旅行に行かせていただいた時の事でございました。

 

わしゃ、あんまし行きたあーませんだったども、隣保のおなごしが、どししてごすてて言わいますもんで、ま、座敷の肥やしになっちょーもなんですけん、行かせてまーことにしたんでございしが。

私は、あんまり行きたくなかったんだけど、近所の女の人が、一緒にしてくれると言ってくれるもので、まあ、座敷の肥やしになっているのも何だから、行かせていただくことにしたのでございますが。

 

なんせ、ざいごたらでございして、なーたきなら家でなんばぎんでももしっちょったがえだねかと思ったども。

なにせ、田舎者でございまして、なるべくなら家でトウモロコシでももいで居たほうが良いと思いましたけど。

 

ま、しゃんことで出掛けーましたども、ちーとで寄ったレストランたら言ーとこでの話でございし。

まあ、そう言うわけで出かけましたけど、途中で寄ったレストランとか言う所での話でございます。

 

なげことバスにふーてぶらいちょったもんですけん、腰はだいし、のどはからふっちょーだけん、

長いことバスに揺られていたものだから、腰は怠いし、喉は乾涸らびていて、

 

持って来らいた水を飲んましたども、こーがまんねのなんのてて、ことくそんならんだけん、

持って来た水を飲みましたが、此が不味いのといったら、役に立たないので、

 

さいでもまわともて『いがっしゃい。』てて、おっきゃん声だいたてて、何言っちょらちやな顔しちょーもんだけん、

白湯でも貰おうかと思って「湯ください」と、大きな声を出しても、何を言っているのかしらと言うような顔をしているものだから、

 

えー、こなものはやれと思ーましたども、もっぺん『いだわね。いごしなはい。』てて、言ったども、てにゃわずなあねさんだはなで、こっちゃ気が絶えーやねしたわ。

えい、この人は駄目だと思いましたが、もう一度「湯よ。湯ください。」と、いったけど、手に負えない女の人のようで、私は気が絶えるようでした。

 

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サスペンス奥野家のあいまち(サスペンス奥野家の過ち)>

ここだけの話だけん、だれんだいに言わっしゃーなよ。

ここだけの話だから、誰にも言わないでくださいよ。

 

こら奥野家に起こった殺害事件だわね。

これは奥野家に起こった殺害時件です。

 

そら、おだいかな、ばんげの事だったとまっしゃい。

それは、穏やかな、夕方の事でした。

 

この日は特にのくて、おだーやな日だったげな。

この日は特に暑くて、うだるような日だったそうです。

 

魚を焼く匂いが、そこんはた中にふろがって、まな板をたたく包丁の音がきさんじげに聞こえてくー……

魚を焼く匂いが、そこらあたり中に拡がって、まな板をたたく包丁の音が気持ちよく聞こえてくる・・・・・

 

そげな、いつもとたいして変わーせん、おらおらとした時間だったげな。

そのような、何時もとたいして変わらない、ゆったりとした時間だったそうです。

 

この時、奥野氏は ほかごとをしちょったげな。

この時、奥野氏は、他のことをしていたそうです。

 

『ぎゃー』…

 

豚が飯どきをむかいたやな、突然、おべふくかえーやな、そらそらがいな声がしたとまっしゃい。

豚が飯時を迎えたような、突然、驚いてひっくり返るような、それはそれは凄い声がした。

 

ガラスのみげー音、鍋がふくかえー音がしたかともったら、隣の部屋からこめ子のほえー声が聞こえてきたげな。

ガラスの壊れる音、鍋がひっくり返る音がしたかと思ったら、隣の部屋から小さい子の泣く声が聞こえたそうです。

 

こなはおべて、はやこと、そこへ行かなと気がせったども、なかなか行かえんだったとや。

彼は驚いて、早く、そこへいかなくてはと気がせったが、なかなか行けなかった。

 

なしてかちーと、こなは、おちらとあんこしちょったげな。

何故かというと、彼は、ゆっくりと大便をしていた。

 

体がおみーやなちょーずに、なげことつぐなっちょったもんだけん、しびないがきて やれはいに歩けんだったども、ほんのってちょーずを出たとたんに、ふくかえったげな。

体が蒸れるようなトイレに、長くしゃがんで居たもので、しびれがきて、やれはやに歩けなかったけど、やらやっとトイレを出たとたんに、ひっくり返った。

 

『あいな、けつ拭くこと わっせちょったわ。』

「あれあれ、尻を拭くのを 忘れていた。」

 

あわてて、けつ拭いて声のしたとこへ行ったげな。

あわてて、尻拭いて声のした所へ行った。

 

『ここーそどがねな どげした。』

「騒がしいな、どうかしたのか。」

 

そこへはーなり おべてしまって、ちょっこしなかい ほけちょったげな。

そこへ入るなり 驚いてしまって、少しの間 呆けていた。

 

部屋ん中はらしがねちか よつかれんちか あんましきちゃなて、気が絶えーやなったげな。

部屋の中は乱雑というか 寄りつけないというか あんまり汚くて、気が絶えるようだった。

 

そーよりなんより おかかが おぜ顔して、包丁をつきだいて立ったまんま ふとつとこを睨んつけちょーだ。

それより何より 奥さんが 怖い顔して、包丁突き出して立ったまま 一つ所を睨み付けている。

 

その睨んつけちょー先を見たら…

その睨み付けている先を見たら・・・・・・

 

みげたコップの先に動かんやんなったそーがふくかえっちょったげな。

壊れたコップの先に動かなくなったそれがひっくり返っていた。

 

足がすねこのとこから もっせてなかったげな。

足が臑の所から 千切れて無かった。

 

…………………

…………………

…………………

………………

 

『あんた!はやことかたずけらっしゃい。』

「貴方!早く片づけてよ」

 

はい。』ほせ声でつぶやいて奥野氏はかたずけたげな。

「はい。」小さい声でつぶやいて奥野氏は片づけた。

 

コキブリの死骸を。

ゴキブリの死骸を。

 

かわいそな話だねかね。

かわいそうな話だね。

 

こらごっとがフィクションだけん実在すーまいやちとは、一切がっさい関係あーません。

此は全部フィクションで実在する人たちとは、一切合切関係有りません。

 

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恋文の下書き

おまえさんは ちょーずのねきに こぼっしらと ふらいた一輪の白百合。

貴方は トイレのそばに こじんまりと 開いた一輪の白百合。

 

そーの淡くえらしじ香りをかずんでみーと…

その淡くいじらしい香りを嗅いでみると・・・

 

ええい、かざに匂わん。

ええい、そんなに匂わない

 

けー、あんこの ごーぎな匂いがじゃましちょーだねか。

けー、大便の 強い匂いがじゃまをしている。

 

ま、しゃんことは さておいちょいて…

まあ、そんなことは さておいて・・・

 

立ちゃービヤダルねまればタライ歩くおっそ姿はブタのけつ。

立てばビヤダル座ればタライ歩く後ろ姿は豚の尻。

 

いや、ちがーちがー。

いや、違う違う。

 

かいしき え言葉が浮かばん。

さっぱり 良い言葉が浮かばない。

 

おまえさんを ふと目見かけたその日から、おらは みなんとがはっせーやで、

貴方を 一目見たその日から、私は 心臓が弾けるようで、

 

夜ははやこと寝らかとフトンにもぐーこんでも 朝まで目が…さめません。

夜は早くからフトンに潜り込んでも 朝まで目が・・・さめません。

 

ちーはんは おまえさんを思ーと飯ものどを通らんこに…丼に三杯がやっと。

昼食は 貴方を思うとご飯も喉を通らずに・・・どんぶりに三杯がやっと。

 

ええい、なんを言っちょーか おらは。

ええい、何を行っているのか 私は。

 

おまえさんの白魚のよーな ふしくれだった がいな指。

貴方の白魚のような 節くれ立った 大きな指。

 

今にも すいこねらいやな その充血で濁ったふとみ。

今にも 吸い込まれるような その充血した瞳。

 

いけんわ。今日は調子がわりけん またちことに させてまーわ。

いけないわ。今日は調子が悪いから 又ということに させて貰うわ。

 

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 「茶飲ん話」の作者からのご挨拶

 

おいでました。 なまりの在へ。

いらっしゃいませ。 なまりの里へ。

 

あんたも けわしなか、わざに よー来てごしなはったね。

あなたも 忙しい中、わざわざ よく来てくださいましたね。

 

ま、ねまらっしゃい。

まあ、座ってください

 

そげん、えーちゃんこさんでも えわね。えじまくんで、えじまくんで。そげそげ。

そんなに、正座しなくても いいですよ。あぐらを組んで、あぐらを組んで。そうそう。

 

おーい、おかか! 茶なと出いてごいた。

おーい、おかあさん! お茶なとだして

 

そーと、なんぞ つまんもんねかいな。………

それと、何か 茶口はないかい・・・・・・・

 

おいこら、出すはえだども ふとをだらずにしちょーか。

おいおい、出すのいいけれど 人を馬鹿にしているのかい。

 

だいこ漬けのへたなんか持ってくーなや。おまけにしいらけちょーがな。

大根漬けのへたなど持ってくるんじゃないよ。おまけにしなびているよ。

 

ほかにねかや。せんべのしけたいちが あったらが。あれどげしたかい。

ほかに無いかい。煎餅の湿気たやつが 有っただろう。あれはどうしたかい。

 

なにや、ねじんが噛んだ。さいくんつかんのー。

なになに、鼠が噛んだ。役に立たないなー

 

へー豆の煮たがあったらが、あーでえけん持ってきた。

エンドウ豆の煮たのがあっただろう、あれでいいから持ってきて

 

なにや、ほんのって こめ皿にはんぶかや。えわ、そーで。

なになに、かろうじて 小さい皿に半分か。いいよ、それで。

 

ま、そげん辞儀さんでもえわね。

まあ、そんなに遠慮しなくてもいいよ。

 

おちらとしていきなはい。

ゆっくりとして行きなさい。

 

手誉めしーわけだねだども、ちた為んなー事もあーかもっせんけ。

自賛するわけでないけど、少しは為になることも有るかもしれない。

 

かせばっか ちー事もあーかな。

見た目だけ と言うことも有るかな。

 

出雲弁はみやしけん、覚えていかっしやい。

出雲弁は易しいから、覚えていってください。

 

                                            周藤

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