ヘアピンマッチングについて

多素子八木アンテナのように一般によく使われる同軸ケーブルの特性インピーダンス50Ωより低い給電点インピーダンスを持つアンテナを指定のインピーダンス、例えば50Ωにマッチングさせるためヘアピン状の1/4λより短いショートスタブのリアクタンス、すなはちインダクタンスを給電点にパラレルに接続する方法をヘアピンマッチングと言いますが、その原理について詳しくご紹介します。

次の図は「ヘアピンマッチングの等価回路1」です。
アンテナの給電点インピーダンスにパラレルにヘアピン状のインダクタンスを接続して使用周波数で50Ωにマッチングするようにしますが、その時アンテナの給電点インピーダンスZANT の抵抗分Rとリアクタンス分Xの値の間には密接な関係があります。


その密接な関係について述べる前に下図の「整合回路についてのワンポイント」をご覧下さい。

任意のインピーダンスZANT が整合回路によって特定のインピーダンス(今回の場合50Ω)にマッチングが取れている時、一般的なLとCの組み合わせの整合回路の任意の位置で切り分けると切り分けた位置から左側を見たインピーダンス ZA と右側を見たインピーダンス ZB はお互いに常に共役整合の関係になります。すなはちRを抵抗、XA をリアクタンスとして ZA=R+j XA とすると ZB=R-j XA で抵抗部は同じ値ですがリアクタンス部は大きさが同じで符号が逆です。片方がインダクタンスの場合は他方はキャパシタンスです。

この原理はスミスチャートやイミッタンスチャートを日頃使いこなされている局長さんには簡単に理解できると思いますが、 任意のインピーダンスZANT が整合回路によって特定のインピーダンスにマッチングが取れている時、スミスチャートやイミッタンスチャート上では連続した線で表現されます。そしてその連続した線の任意の位置で切り分けても、元々連続した線で表現されている訳ですから、切り分けた位置では必ず整合が取れています。
切り分けた位置から見た片方のインピーダンスがリアクタンスを含む場合、整合が取れていると言うことは他方のインピーダンスは必ず共役整合の関係になります。

この原理をヘアピンマッチング の等価回路でも利用してアンテナインピーダンスZANT の計算を行います。


次に「ヘアピンマッチング等価回路2 」をご覧下さい。
アンテナのインピーダンスZANT にパラレルにヘアピンによるインダクタンスを接続して使用周波数で50Ωにマッチングしていると仮定した時、「整合回路についてのワンポイント」で述べたように等価回路のa-a点から左側の50ΩとヘアピンによるインダクタンスのリアクタンスXp が並列接続されたインピーダンスと右側のアンテナのインピーダンスZANT は必ず共役整合の関係になります。
この場合、共役整合の関係からZANT は50Ωとキャパシティブ・リアクタンス(-Xp )が並列接続されたインピーダンスで表現されます。
このようにヘアピンマッチングで50ΩにマッチングするアンテナのインピーダンスZANT は必ず50Ωの抵抗分とパラレルにキャパシティブ・リアクタンスが接続された回路になりますが、一般にアンテナのインピーダンス表記は直列インピーダンスの形で表現されるので、50Ωと(-Xp )のリアクタンス、すなはちキャパシタンスが並列接続されたインピーダンスを下記の式で Zs=Rs+j Xsに変換します。


キャパシティブリアクタンス(−Xp)と50Ωが並列接続されたアンテナのインピーダンスZANT をアンテナのインピーダンス表記で普段使用される直列表記のインピーダンスに変換しています。
この並直列変換でアンテナのインピーダンスの抵抗分RA とアンテナのキャパシティブリアクタンスXA を求め、この2つの式からアンテナのインピーダンスの抵抗分RA の変化に対するアンテナのキャパシティブリアクタンスXA とヘアピンのインダクティブリアクタンスXp の変化を調べるための式を導き出しています。

ヘアピンマッチング Ra対Xa&Xp 計算結果

アンテナインピーダンスの並直列変換の図表の式によりヘアピンマッチングで50Ωに整合する場合のアンテナのインピーダンスの抵抗分RA の変化に対するアンテナインピーダンスのキャパシティブリアクタンスXA とヘアピンのインダクティブリアクタンスXp の変化を表計算ソフトExcel で計算してみました。

なお、図表のRA の式をXp≠0として変形すると
RA=50/(1+(50/Xp)2)となって分母は1より大であるので RA<50 になり、アンテナインピーダンスの抵抗分RAは整合目標のインピーダンスより必ず小さい値でなければヘアピンマッチングは成立しません。


上の表のアンテナインピーダンスの抵抗分RA の変化に対するアンテナインピーダンスのキャパシティブリアクタンスXA の変化のグラフです。

XA はキャパシティブリアクタンスですからマイナス値で表現すべきかもしれませんが、便宜上プラスの値で半円のグラフを書いています。

このグラフからも分かりますが、XA の値はRAの値が整合目標インピーダンスの半分の値の時最大で(マイナス値で考えると最小)かつ整合目標インピーダンスの半分の値のキャパシティブリアクタンスになります。
またXA の値はRA=25Ωを境にして左右同じ値になります。


次のグラフはアンテナインピーダンスの抵抗分RA の変化に対するヘアピンのインダクティブリアクタンスXp の変化を表しています。

Excel の表から描いたグラフです。
アンテナインピーダンスの抵抗分RA が整合目標インピーダンスの半分の値の時、ヘアピンのインダクティブリアクタンスXp の値と整合目標インピーダンスの値は等しくなります。RA=25Ωの場合、ヘアピンのインダクティブリアクタンスXp の値は整合目標インピーダンスの50Ωと等しくなります。
また、この表から分かるとおりアンテナインピーダンスの抵抗分RAの値 が整合目標のインピーダンスに近づくとヘアピンのインダクティブリアクタンスXp は無限大に近づいて非常に大きな値になります。

ヘアピンの特性インピーダンスZ0を求める式と長さL(λ)のヘアピンのインダクティブリアクタンスを求める式です。
ただし l <λ/4 です。ヘアピンは長さがλ/4より短いショートスタブと考えるとインダクタンスになります。
なお、ヘアピンの長さは短縮率を考慮する必要がありますが、測定器でインダクタンスあるいはリアクタンスを計測した方がよいかもしれません。

なお、ヘアピンのインダクタンスを L (μH)、使用周波数を f (MHz) とすると  2πfL=Zin ですから
L=Zin/(2πf) からヘアピンのインダクタンス L (μH) を求めることができます。

次のグラフはヘアピンの導体の直径が各々2,3,4,5mmで導体の間隔を10mmから70mmまで変化させた場合の特性インピーダンスZ0 の変化をグラフにしたものです。


次はアンテナ解析ソフトMMANAによるヘアピンマッチングの設計をご紹介します。

    APPENDIX