DL7PE Micro Vert Antenna の給電点インピーダンスについて


アンテナ解析ソフト「MMANA」による給電点インピーダンスの計算結果と実測結果との違いについて考えてみました。
今回 Extended DL7PE Micro Vert Antenna の給電点インピーダンスの計算結果と実測結果の場合で比較検討していますが、動作原理はオリジナル DL7PE Micro Vert Antenna の場合も同じと考えています。
MMANA計算結果  ⇒  32.35Ω
       実測結果  ⇒  50Ω

Extended DL7PE Micro Vert Antennaを単なる偏給電・短縮型半波長ダイポールと考えて給電点インピーダンスをMMANAで計算した結果は実測結果に比較して少し低いようです。
そういう訳でコモンモード電流とトロイダルコアに巻いた同軸ケーブルのRFCで動作しているカウンターポイズ部分を単なるアンテナエレメントとして考えるだけでなく、その他にローインピーダンスの給電点インピーダンスを50Ωに整合する回路が存在するのではないかとまず考えたのですが・・・

50Ωよりはるかに低い給電点インピーダンスを50Ωに整合する回路としては、簡単な回路として直列Lと並列CによるLC整合回路、1/4λ素子を利用したQマッチング回路、ヘアピンマッチングを含む広義のスタブマッチング回路、広帯域トランスを使用したインピーダンスのステップアップ等がありますが、ある日の朝、寝ぼけ眼の寝床の中で閃いたのはカウンターポイズ部分の同軸ケーブルの外部導体(シールド部分)によるアンテナエレメントの存在だけでなく、コモンモード電流はその下側の誘電体と芯線にも作用してオープンスタブが存在するのではないかという考えでした。
すなはちオープンスタブが偏給電・短縮型半波長ダイポールの給電点にパラレル接続されているのでは?と考えました。
また、その電気長が1/4λgより長く、1/2λgより短い同軸ケーブルによるインダクタンスを使用したオープンスタブマッチでは?
しかし、この考えは間違っていたようです。ある局からコモンモード電流とトロイダルコアに巻いた同軸ケーブルのRFCで形成されるスタブ状のものはスタブではないのではと云う指摘があったのです。確かによく考えてみるとスタブそのものはノーマルモード電流が流れて、はじめてスタブになる訳ですからコモンモード電流によるスタブなどは存在する訳がありません。
参考までに:次の図は私が考えたスタブを持つDL7PE MicroVert アンテナの説明図ですが・・・架空のスタブでした。

ここでお断りしておきますが、DL7PE MicroVert アンテナの同軸ケーブルによるカウンターポイズ部分のオープンスタブ説が錯覚による間違いだっただけで、アンテナの給電部にパラレルにオープンスタブあるいはショートスタブを接続してインピーダンスマッチングをとることは日常よく行われています。
例えば、50Ωより低いアンテナのインピーダンスを目標インピーダンス50Ωに整合させるため、アンテナエレメントを共振時よりも少し短くすることで、アンテナのインピーダンスがわずかにキャパシティブリアクタンスを持つようにして、給電点にパラレルに1/4λより短いショートスタブによるインダクティブリアクタンスを接続する方法がヘアピンマッチングですし、モービル用などに使用される1/4λホイップアンテナのように元々50Ωより低いインピーダンスを持つアンテナの場合、アンテナエレメントが共振してリアクタンス分がゼロになる長さよりもアンテナエレメントをわずかに長くすることにより、アンテナのインピーダンスがインダクティブリアクタンスを持つようにして、給電点にパラレルに1/4λより短いオープンスタブ、すなはちキャパシティブリアクタンスを接続することで50Ωにマッチングさせることもよく行われています。
DL7PE MicroVert アンテナのオープンスタブ説は間違いだったのですが、アンテナのインピーダンス整合によく使用されるオープンスタブやショートスタブについて知っていても損はしないので少し説明をしておきます。


上記は特性インピーダンスZ0長さLの無損失伝送線路に負荷ZLを接続した時の伝送線路入力インピーダンスZINを求める式ですが、ZL0の場合がショートスタブ、ZL=∞の場合がオープンスタブになります。今回は同軸ケーブルによるスタブを考えてみました。その長さLは同軸ケーブルに使用されている誘電体の比誘電率によって決まる短縮率を考慮した管内波長λgで考えます。
λg=λ×同軸ケーブル短縮率 λは空気中での波長です。

同軸ケーブルの先端を開放にしたオープンスタブを考える時は、負荷ZL=∞ の場合の式 ZIN=-j ZocotβL を使ってインピーダンスを計算することになります。
同軸ケーブルの長さLが1/4λgより短い時は、インピーダンスZINの値がマイナスのリアクタンスになりキャパシタンス、長さLが1/4λgより長く1/2λgより短い時のZINの値はプラスでリアクタンスはインダクタンスになります。
次に同軸ケーブルの先端を短絡したショートスタブですが、負荷ZL=0 の場合の式 ZIN=j ZotanβL を使ってインピーダンスを計算します。
同軸ケーブルの長さLが1/4λgより短い時は、インピーダンスZINの値がプラスのリアクタンスになりインダクタンス、長さLが1/4λgより長く1/2λgより短い時のリアクタンスはマイナスの値でキャパシタンスになります。

なお、同軸ケーブルの長さLが1/2λgの整数倍の場合、伝送線路入力インピーダンスZINは特性インピーダンスZ0の値と無関係で負荷ZLの値と等しくなり、すなはち L=1/2λg×n (n=1,2,3・・・)の時、ZIN=ZLです。
1/4λg奇数倍の場合は伝送線路入力インピーダンスZINと負荷ZLの積が特性インピーダンスZ0 の2乗の値と等しくなります。
すなはち L=1/4λg×(2n +1) (n=0,1,2,3・・・)の時、ZIN・ZL=Z02 です。

特に長さLが1/2λgの整数倍の場合、伝送線路入力インピーダンスZINが同軸ケーブルの特性インピーダンスZ0の値に無関係に負荷ZLの値に等しい事を利用して、アンテナに影響を与えないでアンテナの給電点インピーダンスを少し離れたところで正確に測定する方法に利用されています。
また、長さLが1/4λg奇数倍の場合、伝送線路入力インピーダンスZINと負荷ZLの積が特性インピーダンスZ0 の2乗の値と等しくなるので、インピーダンス変換に利用されています。俗に言うQマッチングです。

ここで上記の長さLが1/2λgの整数倍の場合のアンテナ給電点インピーダンス測定用同軸ケーブル長をインピーダンスメーター等の測定器を使用して実際に決定する方法を書いておきます。
私が日頃アンテナの測定に使用しているクラニシのStanding Wave Analyzer BR-210をインピーダンスメーターとして利用して測定用の同軸ケーブルの長さを正確に求めた例です。
まず同軸ケーブルの片側にあらかじめ接栓(コネクタ)を取り付け、同軸ケーブルの長さをL=1/2λ×n×0.67よりわずかに長く切り出します。なお、nは1,2,3・・・の整数で必要な長さを予め決めておいて下さい。
同軸ケーブルの接栓をBR-210に接続し、BR-210はインピーダンスメーターとしての機能に切り替えます。
周波数を目的の周波数に合わせてから同軸ケーブルの先端をショートしてインピーダンスメーターが0(最小)になるように、少しずつカットして長さを調整していきます。
例としてRG58A/Uをf=21.2MHzで1/2λg×2すなはち1×λgの長さで測定して、最終的に決定した長さは9.45mでした。なお、300/f(MHz)×0.67で計算した値は約9.48mです。

次のグラフは同軸ケーブルRG58A/Uを使用したオープンスタブ・インピーダンス曲線ですが、使用周波数21.2MHz、λg=9.48mで上記の式 Z=-j ZocotβL を使って計算した結果です。
1/4λgをさかいにして、それより短い場合はキャパシタンス、1/4λgより長くかつ1/2λgより短い場合はインダクタンスになります。

なお、Zo=50Ω、L=3.73m(0.394λg)の場合のリアクタンスを計算してみましたが約63.4Ωでインダクタンスです。


実を言うとリアクタンス値の計算は上記の式でなくてもMMANAの表示/オプション/スタブの画面上で簡単に計算できます。
使用周波数と同軸ケーブルの種類及び実際の長さを決定するだけで自動的にリアクタンス値が計算されます。
オープンスタブの場合は使用方法の先端開放にマークを付けます。ショートスタブの場合は先端ショートです。


次は 再びDL7PE Micro Vert Antenna の給電点インピーダンス計算についてです。