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「描こうとして見る」 ということ
私たちは普段、人物や、風景や、さまざまなモノたちを、意識もせずに、何気なくながめています。そして漠然とした感覚でそれらを認識しています。
また、さまざまなモノを目の前にしたとき、人にはだれにも備わった独自な感じ方やとらえ方があります。たぶんそれを私たちは「個性」と呼ぶのでしょう。
そして私たちが、ひとたび自分の手に、木炭や、絵筆や、鉛筆や、クレヨンなどを持ち、目の前にあるモノを描こうとするとき、私たちが漠然と眺めていたモノが、これまで見たことのない不思議な、珍しいかたちや色として目の前に存在することにはじめて気づくでしょう。
これが「描こうとして見る」ことのスタートです。
モノを前に、たった一本の木炭が引く一筋の描線にも、描く人それぞれの持つ「個性」はたちまち画面に現れます。全員が全く同じ木炭で、同じモノを描いても、木炭の濃淡や、描線の色や、形や、マチエールは見事なほど様々に異なり、どれひとつとして同じものはありません。
「オリジナリティ(創造性)」の源泉がここにあるのです。
私たちはこのように、見ること、描くことを通して、自分自身すら知らないオリジナリティの可能性を尋ねて果てしない旅を続けているのかもしれません。
そして芸術とは限られた人だけに与えられる特権ではなく、経験やキャリアとは関係なく、生きるすべての人に開かれた表現手段の世界であると確信しています。
指導・甲斐 清子
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