放送劇団での養成を受けて

 私がNHKに入ったのは、「東京放送劇団」の第五期生としてでした。昭和28年、1953年のことです。
 この劇団は、NHKが専属の声優・俳優を育てるためにつくったもので、五期生はとくにテレビ時代に備えて採用したと聞いています。私の 同期には、里見京子さん、新藤乃里子さん、黒柳徹子さんや、横山道代さん、友部光子さん、吉本ミキさん、八木光生さん、木下秀雄さん、 関根信昭さん、三田松五郎さんなどがいました。あとから中村恵子さん、白坂道子さんも加わりました。
 いろいろな意味でこの劇団と、そしてNHKでの体験が、私を朗読の世界に導いてくれたことになります。

 劇団に入るためには、基本的な訓練として、三カ月の養成期間を経なくてはなりませんでした。6千人弱のなかから30人ほどに絞られて いた入団候補者が、そこでさらに半分に減らされます。養成してみて素質がないと思ったら落とす、ということです。
 私はまだ女子美術大学に通う学生でしたし、多くの候補者もそうでしたから、養成のための講座は夜に開かれました。
 そこでの「授業科目」が、とにかく圧巻でした。古典や語学などのさまざまな教養講座のほか、実技としては、声楽、バレエ、そして日本舞踊まで 習ったのです。それぞれが一流の講師で、まさにこれは一流大学のレベル。NHKが、私たちをいかに大切に育てようとしていたかがわかります。
 私の家では、とくに父親に入団を反対されていたのですけれど、一人前の大人になるための教養講座みたいなものだからといって、通わせて もらっていました。
 けっきよく、合格したのは18人。正式入団の直後から、あらためて研修のための、さまざまな講座が開かれました。もちろんこんどは朝から晩まで、 一日中です。
 正式入団前後のこうした授業では、青山杉作先生、山本安英先生など、錚々(そうそう) たる方々にお教えを受けました。
 入団前の養成講座にしろ、入団後の研修にしろ、本当にめったにお目にかかれないようなありがたい方たちばかりに出会い、とても感謝して います。さらに基本的な教養のために、クラシックの演奏会、オペラや、能、廷言、歌舞伎、新劇などの実演にも連れて行かれ、そのたびにレポートを 書かされました。
 なんとぜいたくな時問だったことでしょう。私の知識やものの考え方の基礎は、このときに多くのものが形づくられたと思います。