私のお客さま

 私の会でのお客さまには、本当に恵まれていると思います。リサイタルのあとで、顔なじみのお客さまに感想をおたずねしたり すると、「何日目のお昼はこうで、夜はあそこが良かった、悪かった」などと教えてくださいます。
 すべてちゃんと、わかっていただいているわけです。これは演じる側にとって、かなり恐ろしいことでもあります。つねに気合い を入れ、しかも会ごとに新しい工夫を取り入れねばなりません。しかしそのことが、また私の大きなはげみにもなるのです。
 お客さまの集中に関しては、とんでもない逸話があります。あるとき、あまりの集中と興奮のあまり、ある方の心臓のぺース メー力ーがぴーぴーと鳴り出してしまったのです…。
 本当に、どれもこれもありがたいことばかりです。私の歩んできた道について、私は感謝の念とともに、さまざまなことを思い返 します。
 朗読が、ただ本を読めばいいということなら、そういうふうには考えなかったかもしれません。しかし私の場合は、ここまでやって こられたのも、お客さま、そしてさまざまなすばらしいスタッフ、そしてお教えを受けた先生方との、共同作業のおかげなのです。
 しかし歳月は巡っていきます。私も大病をし、お世話になったたくさんの先生も、あちらの世界に旅立たれました。
 ここでは、大いなる教えをいただいた中村真一郎先生への、私の追悼の文章と、私自身の病気の記録をそえて、この章を とじさせていただきたいと思います。