閉校
エンカレッジスクールという高校があります。エンカレッジ(encourage)とは英語で勇気づけるという意味になります。比較的新しい学校です。その学校では、可能性をもちながらも力を発揮できないでいる生徒の力を伸ばそうという目的で開設されたということです。
具体的には、入学者選抜では学力検査はおこなわないで、面接を重視した選考をおこないます。また、定期考査はおこなわないそうです。授業時間は30分で、国語、数学、英語は少人数による習熟度別の授業を実施するということです。また、生活指導には力を入れるということです。
こういう試みからは生徒の能力を引き出したいという意欲が伝わってきます。勉強が思うようにいかないとか、高校生活に馴染めないとかで苦しんでいる生徒は少なくありません。また、学校もそのことに苦慮していると思います。
私たちは、“高校はこうあるべきもの”と決めつけてはいないでしょうか。高校には入学学力試験や定期考査は必ずあると思い込んではいないでしょうか。この学校には自由な発想が感じられました。既存の観念にとらわれない柔らかな発想が感じられました。このような学校が定着するのが待たれます。このような新しい試みはどしどし進められるべきだと思います。
さらにはチャレンジスクールとか、トライネットスクールなどの試みも生まれています。チャレンジスクールとは既存の夜間定時制を拡張する形で単位制などを取り入れ、また、選択科目を多く取り入れた教育を目指します。カウンセリング体制の充実なども図るということです。
トライネットスクールとは、通学が困難とか不登校で苦しんでいる生徒のためにインターネットを取り入れた教育を目指すということです。調べてみたら、都立高校の改革にはこのようなさまざまな試みがなされていました。生徒の学習を大切にあつかうゆきとどいた配慮が窺えます。これらの試みが実をむすんでほしいと誰もが思うのではないでしょうか。このように都立高校の改革・再編は都民の支持を背景にすすめられていると思いました。
ところで、「君の母校への姿勢は納得できない。“閉校は避けられない、校名にもこだこだわらない”とは、どういうことか。いったい、何を考えているのか。君はそれでも卒業生か。君の姿勢は裏切りに等しい。母校が閉校されてもよいのか。君が学んだところではないか。許せない!なぜ、再編に反対しないのか!」と問われるかもしれません。
なによりも、現在、求められている教育の困難性をどのように解決するかが優先されます。そのために校名の維持にはこだわりません。・・・校名には何の意味もありません。このように思います。
おそらく、都立高校の再編に反対している人たちは、建前は別にすると、心の中では再編を是認していると思われます。それらの人は“たしかに、現状でよいと思っているわけではない。何かしなくてはならない。反対だけれど、反対したってどうにもならない。先が見えない。時代の流れだから再編や閉校もやむをえないだろう。それらは、住民の支持の下になされているのだから。反対から賛成に変わるつもりはないが、再編はよい結果をもたらすはずだ。これで学校もよくなっていくと思う。これまでの反対一辺倒には限界があった。ただ、反対を叫んでも住民の共感を得られない。住民の意思から離れていくように感じる。再編反対とは現状維持をはかること、改革や再編に背を向けたことはどうだったのだろう。・・・”と思っているのではないでしょうか。・・・これは私の推測です。
私は、以前に、両国高校定時制が閉校になると聞いたときはとても残念な気がしました。なんとか、閉校にならない道はないものかと思いました。
考えてみると、私たちがかなり以前に学んだ頃と現在とでは時代がまったく変わってしまいました。豊かな社会になりました。でも、貧困に苦しむ人は少なくありません。豊かさを享受する人たちがいる一方で、貧しさにあえぐ人たちがいます。非正規の労働に従事する人たちは社会保障等の適用も十分に受けられないといわれます。もちろん、これらは早期に解決されなくてはならないことです。働く意思があり、技能もあるのに働く場がなく苦しんでいます。このような状態が放置されているのは許されません。政府の施策により早急に解決されるべきです。
・・・また、豊かになるにつれて、人びとの考え方が多様になり、社会も驚くほど多様なものになっていて、身のまわりには多様な価値があふれ、携帯電話やインターネットなどをとおしてさまざまな情報が飛び交っていて、そのなかで自分の道を探さなければなりません。それは容易ではないでしょう。さまざまな問題も起こってくるし、それらは学校にも波及します。そんななかで、いくつかの学校では学力の不振とか中途退学などの問題に苦慮しています。
もはや、以前に学んだ頃の学校の姿がそのまま維持されるとは思えません。そのときの社会に適応した改革は避けることができないでしょう。
学校の門はすでに閉じられました。いろいろ考えても、閉校は避けられないことだったし、けっきょくは、これしか道はなかったのだと思っています。・・・(2009.3.12)
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都立両国高校定時制